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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


最後のサクラ 2006

 午後の授業も終わり、人も疎らな教室の机につっぷしていた葛城ともえは、目を擦りながら身体を起こした。
「うぅぅー、眠いよー。昨日も早く眠ったのにぃ」
 このまま教室で眠って寮の門限に間に合わなくなるのは二度と御免――前科者――なので、ともえは取り合えず教室を後にした。
(このまま帰ってもやることないし、どっか喫茶店にでも寄っていこうかな?)
 寮に向けていた足並みをぐるりと回転させ、サッカー部や陸上部など運動部の練習を横目に正門を目指す。
 郷里に居た頃は剣道をやっていたが、今は都会の誘惑に負け帰宅部になってしまった。この神聖都学園へ入学したが、剣道部へは入部しなかったことを祖母に告げると『残念だ』と電話口で少し悲しそうに答えたのを覚えている。それまで十年近く剣道をやってきたのでずっと続けて欲しかったらしいのだが、ともえとしては他のこともやってみたいと祖母を押し通した。最初の頃は他の部活を見学していたが、結局一年間部活には入らず仕舞いになってしまった。のどかな地方からやって来たともえにとって、この街は刺激的なことが多すぎたのだ。
「葛城くん」
 突然声を掛けられ、ともえは立ち止まる。すぐ横には同じ神聖都学園の三年・井上洸が立ち、ともえを覗き込んでいた。
「あ、井上センパイ。こんにち‥‥イタ!」
 会釈をしようとして頭を下げると、衝撃があった。鼻先を何かにぶつけたようだ。
「‥‥門にぶつかる、と言いたかったんだが。すまない‥‥」
「あはは、大丈夫ですー。鼻はもとからそんなに高くないので」
 ちょっと考え事してました、と門の格子に片手を掛けともえは鼻を擦った。

「キミ、確か寮生だったよな。どこか出掛けるのか?」
 洸は中心街にある自宅のマンションから神聖都学園へ通っている自宅通学組だ。初めて会ったのは学校内ではなく、草間武彦の事務所だった。草間と彼のバイト先の上司が知り合いらしく、とある事件を通じそこで鉢合わせたのだ。
「どこかカフェでも行こうかな、と思って。井上センパイはあそこへ寄ってくんですか?」
 『あそこ』とは洸のバイト先、ネットカフェ・ノクターンのことだ。
「あの人、放っておくと仕事しないから‥‥」
「あー‥‥草間さんからイロイロ聞いてますよ」
 ダメな大人たちの様子を話し込んでいると、あっという間にノクターンのある一角に近付きつつあった。
「コーヒーはちょっと苦手だけど雷火さんの淹れてくれたカフェオレ美味しいから、あたしも一緒に寄っていこうかな?」
 サクラは何人居てもいいからねと洸は言い、引いてきた自転車を入り口近くの駐輪場にとめた。
「いらっしゃい、ともえちゃん」
 モニタの横から顔を出し、ノクターンの店主・雷火が「やぁ」と手を挙げる。
「こんにちは、雷火さん。カフェオレ頂きに来ましたー」
「じゃぁ、お茶の時間にしようかね。」
 おもむろに立ち上がって店の奥にあるキッチンへ姿を消した。

 雷火の淹れた珈琲を囲み談笑していると、軽快な流行の曲が鳴る。ともえはブレザーのポケットをゴソゴソまさぐり、同時に雷火もボトムの後ろポケットに手をやった。
 画面を確認し、顔を上げると雷火と目が合った。
「差出人、一緒みたいだね。ついでだから、オレたちも行くって言っておいてくれる?」
「ハイ! 了解です!」

    ■   ■   ■

「こんにちはー! 草間さん、居らっしゃいますかー?」
 入り口近くに立っていた草間零に声を掛けたあと、奥にいたジェームズ・ブラックマン、シュライン・エマと草間武彦を見付け、ともえは再び大きな声で挨拶をした。
「シュラインさんとジェームズさんもいらっしゃったんですね、こんにちは! お花見のメール、見ましたよ。近くに居たんで直接来ちゃいましたv」
 携帯の画面を向け「お花見、楽しみ」と笑った。
「お弁当とか必要ですかね? どうします、シュラインさん」
「出来合い物もいいけれど、とりあえずいろいろ作って持っていこうかと思ってるわ」
「じゃぁ、お手伝いしますね。おばあちゃん子なので、こう見えても和食は得意なんですよー」
「食べるのが、かい?」
「作るのが!です」
 カップを洗いながらそんな四人の様子を見ていた零は、窓の外から差し込んでくる光りに目を細め空を仰ぎ見た。
 ――――春ですねー。
 そんな遣り取りの中、草間の携帯電話にはぞくぞくとメールの返信が届いていた。

    ■   ■   ■

 花見当日、朝。
 草間興信所の入っているビルの一階で、ともえは荷物番をしていた。花見の荷物はすでに何人分か分からない食料と飲み物で山のようだった。草間は事務所に出入りしている人間だけでなく、ご近所さんにも声を掛けていたらしい。結局、雷火の運転するワゴンだけでは乗り切れず、バスを手配するほどの大所帯となっていた。差し詰め『草間観光 遅咲きサクラバスツアー』と言ったところだろうか。
 事務所の戸締りをし残りの荷物を持った、シュライン、ヴィヴィアン、草間、零たちが階段を下りてきた。
「おー、そろそろバスが来るかな? 雷火もさっきクロ拾ったって電話あったし」
 大きなクーラーボックスを置きながら、草間はともえに「ご苦労さん」と声を掛けた。
「ねぇ、シュライン。オハナミって、サクラの木を下から見るのよね」
「日本の春は初めてだったっけ? ヴィヴィアンはお花見したこと、ない?」
「上からは良く見るんだけれどね、どう違うのかな‥‥」
 シュラインが怪訝そうに「上‥‥?」と聞き返すと「なんでもないよー」と言いながらどこかへ行ってしまった。
「あ、雷火さんたち来たみたいですよ」
 ともえが白い――正しくはダイヤモンドシルバー――ワゴンに気付き、手を振った。草間たちの前で車は止まり、中からブラックマン、雷火、洸が降りてきた。
 天気が持って良かっただのなんだの世間話をしていると、バスはまもなくやってきた。
「バスも着たみたいだし、そろそろ出発しようか」
 路地へ入ってきたバスを肩越しに指し、雷火はにっこり笑った。

 ワゴンは3列シート・8人乗りだっがクーラーなどの荷物が思いのほか多くなってしまったので、洸はご近所さんたちのバスへ、他のメンバーは雷火の運転する車へ乗り込んだ。
「気になってることがあるのよね」
 最後列、草間の隣に座っていたシュラインが確認するように呟く。
「依頼人、『最後のサクラ』って、ね。次の日零ちゃんから聞いたんだけど、彼女の座ってたところに落ちてたって云うのよ」
「な、なにが落ちてたんですか?」
 ゴキュッと喉を鳴らして、前に座っていたともえが振り向く。
「サクラの花び‥‥」
「あーっ もうどうでもいい、みなまで云うなシュライン!今日は花見!以上、終了!」
 ハードボイルドもへったくれもあったもんじゃない、シュラインの声に重なるように草間が大声を上げた。
「あの、何かあったんですか? 草間さん」
 恐る恐るともえは草間を見る。
「‥‥春。春なのよ、ともえちゃん。このあいだからこの調子なの」
「ヴィヴィアンから見れば、シュラインもジューブン春なんだけどネ」
 助手席から立ち上がり、ヘッドレストに頬杖を付いたヴィヴィアンがしれっと云った。
「‥‥なんていうか、春だねー」
 ハンドルを握りながら、雷火もいつにもまして目を細めた。

 数日後、草間が「今考えると、あの時から‥‥」と頭を抱えて云ったとか云わなかったとか。
 零は「兄さんはいつもそうです」と笑いながらいつもと変わらずコーヒーを差し出した。


 「東京に住んでいる」といえば響きは良いが。
 いつもは遠くにしか見えない山並みがすぐ傍までせまっている、所謂そんな場所だった。道幅はどんどん狭くなっていき、最終的に依頼人の自宅までバスはたどり着けなくなってしまった。程よい花見のポイントが近場にあったので、バス一行とは一度そこで別れ、草間たちは塚守家へやってきた。
 広い平屋の大きな屋敷。白塗りの壁がその周りをぐるりと囲み、奥には蔵もある。そして、敷内地には屋敷に見合う大きな見事なサクラの木が数本立っていた。花の房は壁から大きく垂れ下がり、屋敷の外でも充分花見ができそうだった。
「お待ちしておりました」
 依頼に来たときと同じように、塚守は草間に深々と頭を下げた。
「本当はもう少し人数が居たんですが、バスが‥‥」
「存じ上げております。あちらの皆さまにも喜んでいただければ本望です」
 にっこり笑って、塚守は草間一行を招き入れた。

「凄いですね。ウチの家にもサクラが植わっているんですけど、まだまだ若い樹なんです」
 広げられたシートの上でコップや取り皿を準備しながら、ともえはサクラを見上げる。
「俺にしてみれば、こっちの弁当の方が凄いけどな」
 桜ご飯のおにぎり、煮っ転がし、蕗の煮物、茄子田楽、ツナそぼろ煮、山菜サラダ、卯の花ハンバーグ、チーズ春巻きはお酒の肴。デザートは珈琲餡の桜餅、苺と桃のゼリー、エトセトラ・エトセトラ。
 シュラインとともえの作った重箱が並ぶ。
「夕飯、必要なさそうですね」
 クーラーボックスを持ってきたブラックマンがにっこり笑う。そうですね、と傍らのともえは小さく笑った。
「夜も綺麗なんですよ、特に今夜は満月ですし。お時間があればぜひ見ていってください」
「私たちだけでもお邪魔しましょうか。ね、武彦さん? レンタルの時間があるので、バスは先に失礼しますけれど」
 屋敷の縁側に座った塚守にシュラインは答えた。
「花がいっぱいで空が見えないねー」
「ソメイヨシノっていうんですヨ。日本で一番ポピュラーなサクラだと思います」
 芝生に寝転んでサクラを見上げたヴィヴィアンの隣りで、ともえは小さく呟く。そんなともえをじーっと見つめ、ヴィヴィアンは身を起こして肩をすくめ、ともえの顔を覗き込んだ。
「フフッ ヴィヴィアンに教えてくれるの? ともえ、優しいね」
 長い銀髪、真紅の瞳、奇抜な服を身に纏う長身の女。普通だったら近寄りがたいであろう自分に興味を持ったともえが可愛らしく、嬉しかった。
 何故なら、【魅了】を使っていないから。
「きゃあぁっ」
「ありがと、ともえ」
「ほらそこー、怖がらせないのー」
 ヴィヴィアンがギュッと抱き締めると、ともえは悲鳴を上げる。彼女の悲鳴に、シュラインは助け舟を出した。


 草間は片っ端から重箱を突き、かなりのペースで呑んでいた。まるですべて夢だったのだ!と済ませるがごとく、早々に潰れてしまおうと思ったのだ。依頼が『花見』など、どう考えたって怪しい、おかしいのだ。そう心に言い聞かせて、草間はひたすら箸とコップを動かした。
「武彦さん、ペース速いわよ」
「お前も呑め、シュライン!」
「そうだよ。呑まないと、シュライン」
「‥‥雷火さん、あなたまで。帰りは一体誰が運転するんですか!」
「車? 洸が運転免許持ってるから、彼に運転させるよー?」
 すでに草間と雷火は出来上がっており、バス一行の花見場所から歩いてやってきた洸といえばシートの片隅で「400万‥‥400万‥オプションカラー‥‥」と謎の言葉をブツブツ呟いていた。間に入っているブラックマンも結構呑んでいるはずなのに、顔色一つ変えずに草間の隣りでビールを注いでいた。
 ――――あの車を、この若葉マークに運転させろ、と?
 残念だが、お酒は呑めそうになかった。ウーロン茶をちびりちびりと飲みながら、シュラインは他の者たちの様子をうかがう。
 蓮華の花輪を作って戻ってきた零、そしてともえとヴィヴィアンは小さな輪になって重箱を突いている。依頼人の塚守は、こちらの様子を縁側から見て相変わらず微笑んでいた。心做か彼女は依頼に来たときより頬は赤みを帯び、元気そうだ。あの時はすれ違っただけだったが、顔面蒼白に見えた塚守にシュラインは心がざわついたのだ。
『最後の、か。サクラの寿命か、もしくは何処かに引っ越すのかしら‥‥?』
 サクラを見てほしいと云っていたと零から聞き、ぼんやりと考えていた。
 だが今、この満開のサクラの樹々を見てシュラインは「取越し苦労だったかも」と肩をすくめた。
「シューライーンさーんv 呑んでますかーーー?」
 ぐわば、と背後から抱きつかれ、間延びした声が響く。
「ちょっ‥‥ともえちゃん! あなた」
「あはははは〜、独りでマジメなんてダメですよ〜v ハイ、これドーゾ」
 ともえがシュラインに差し出したのは、赤い液体がなみなみと注がれたグラスだった。
「これワインじゃない! ともえちゃん、呑んじゃったの? ‥‥ていうか、ヴィヴィアン!」
「えー、だってェー。オハナミはみんなでお酒呑むんでショ?」
 ぺろりと舌を出して、ヴィヴィアンはシートの片隅に座っている洸にもグラスを渡そうとしていた。
「未成年は呑んじゃダメなの!」
「ヴィヴィアンも子供だよー?」
「嘘云いなさい」
 自分よりかなり年下に見えるヴィヴィアンだが、少なくとも成人はしているだろうと――年齢を聞いたことはないが――シュラインはピシャリと云った。
「だってヴィヴィアンは‥‥123歳だもん」
 もごもごと語尾を小さくしながら、ヴィヴィアンは答える。
 シュラインが「なに?」と聞き返そうとした、そのときだった。
「ウフフ、塚守さーン。塚守さんもドーゾv」
 片手にボトルを持ち、フラフラと中心のひと際大きなサクラの木に近付いてともえが云った。
 みな一斉にともえを見る。
「‥‥なに、云って‥るの? ともえちゃん」
 ともえはさらに笑い、千鳥足で樹の周りをクルクル回りながらグラスにワインを注ぐ。シュライン、雷火、洸、草間、零はその様子をあっけに取られながら見守った。ヴィヴィアンもともえにつられてフフッと微笑んだ。
 ブラックマン独りだけが、塚守が居るはずの縁側へ歩み寄る。
「レディ、もう大丈夫ですよ」
 安心して、と掌を差し出す。びっくりした表情でともえを見ていた塚守だったが、ブラックマンを見、彼の思いを汲んだように微笑んでその手を取った。
「貴女には到底適いませんが、これでも少しは長生きでしてね。失礼ながら、気付いておりましたよ」
 塚守の耳元で囁く。
 ブラックマン―若造―が自分に気付いているということは、それ以上年長である塚守自身も彼の素性に気付いた訳で。
「お任せ下さい、すべてとはいきませんが。私たちで貴女の希望を叶えますよ」
「‥‥ありがとう」
 僅かに瞳を揺らす。
 ブラックマンが再び「安心して」と囁くと、塚守は「はい」と小さく頷いた。
 次の瞬間、強い風が屋敷を吹き抜ける。
 サクラの花びらが舞い、あたりが一瞬薄紅色に染まった。
「‥‥塚守さん?」
 風が収まるとシュラインは立ち上がり、ブラックマンの傍らへやってくる。大きな彼の背に隠れているのかと思い、シュラインは覗き込んだ。しかし、そこに塚守の姿はなく、差し伸べた手の形のままブラックマンは目を閉じていた。
「――ジェームズ」
「‥‥逝って、しまったようですね」
「違いますー! 塚守さんは、ココに居ますーっ」
 樹に抱き付いて、ともえがグスンと肩を揺らした。そんなともえの頭を優しく撫でて、ヴィヴィアンも。
「そうだよ。まだ居るよ、ここに」
 僅かに残るサクラの花びらの舞を見たあと、ヴィヴィアンはともえとサクラの木を抱き締めた。
「やっぱり。サクラの樹、だったのね」
 ブラックマンの掌に落ちた花びらを見、シュラインは確認するように問う。
「やはり、気付いていたのですね。貴女の鋭さには、いつも感服しますよ」
 武彦と同じ、人間なのにね。ブラックマンはゆっくりと瞳を開いてシュラインを見る。と、シュラインは驚いたようにブラックマンから顔を背けた。
「‥‥ミス・シュライン?」
「ん、もう! 急にこっち見ないで」
「な、なんだ。一体なんなんだ!」
 やっと状況を掴めたのか、草間はオロオロとともえたちとシュラインたちを交互に見る。
「あれ、塚守さんは? どっか行っちゃったの?」
 雷火も立ちあがってブラックマンの方へ歩み寄る。
「ええ。もう、逝きましたよ。さぁ、片付けをして今日は帰りましょう」
「武彦さん、はい! ゴミ袋持ってきたから、みんなもちゃんと片付けてね」
 顔を背けたまま、シュラインは草間にゴミ袋を押し付けた。何事?と草間はシュラインの背を目で追うが、ブラックマンと目が合う。ブラックマンは人差し指を立てて、口元に当てる。草間も同じ動作をするが、どうにも彼には意味が伝わらなかったらしい。
「ほら、ともえ。もうおウチに帰るよ」
 ヴィヴィアンはともえの頭を撫でながら、すっかり陽の落ちた闇とさくらを仰ぎ見た。


 数日後。
 樹を移植したい!と愚図ったヴィヴィアンとともえを連れ、草間はまた塚守の屋敷へとやってきた。
「‥‥やっぱり、アッチ系なんだよなぁ‥‥」
 屋敷は見る影もなく――というか、廃墟――荒れ果てていた。花びらは落ち、既に葉桜となっていた。幹も前回来たときのような隆々しさはなく、根元から割れ腐りかけているような樹もある。塚守は精一杯の気力を振り絞って、最後の花を咲かせたのだろう。見る者が居なくなった屋敷を最後まで守り、散った。
「ここ、もうすぐダムに沈んじゃうんだそうです」
 ともえがぽつりと呟く。
 近隣の家々も既に退去済み、だからここへ来るまでの店などが開いていなかったのだ。
 白塗りの壁であった瓦礫を乗り越え、ヴィヴィアンは庭へと入る。丁度、ブラックマンと塚守が立っていたあたりに、小さなサクラの苗木が育っていた。フフフと微笑み、ヴィヴィアンが振り向く。
「タケヒコー、これ掘って!」
「あぁー、小さいのあってよかった。デカい樹しかなかったら、ショベルカーでも持ってこないと掘れないしな」
 大きなショベルを担いだ草間も、ともえの手を取り瓦礫の山を越えた。

 屋敷跡が望める丘の上で、シュラインとブラックマンが三人の様子を見ていた。
「ここならダム底に沈まないし、日当たりもいいから良く育ちそうね」
 地主さんの許可も頂いたし、と強い日差しに手をかざして瞳を細める。
「美しかったですが、なんだか哀しいですね。誰も居なくなったあの屋敷で、塚守は何年守っていたんでしょうか」
 あの屋敷は、かなり以前から無人だったらしい。年配の住民に聞いてみたが、その人が物心付いたときには既に人は住んでいなかったという。
 今の私だったら、とてもじゃないがもう独りでは過ごせそうにないな。
「‥‥なにか云った?」
「いいえ。こちらも準備を始めましょうか」
 傍らに立て掛けてあったショベルを持ち、ブラックマンはシュラインにウィンクをした。


fin.


_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 登場人物 _/_/_/_/_/_/_/_/_/

【 番号 】 PC名 | 性別 | 年齢 | 職業 |
【 0086 】 シュライン・エマ | 女性 | 26歳 | 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
【 4170 】 葛城・ともえ | 女性 | 16歳 | 高校生 兼 近々新妻?
【 4916 】 ヴィヴィアン・ヴィヴィアン | 女性 | 123歳 | サキュバス
【 5128 】 ジェームズ・ブラックマン | 男性 | 666歳 | 交渉人 & ??

 ※PC整理番号順

【 NPC 】  雷火 | 男性 | 28歳 | 情報屋
【 NPC 】  井上・洸 | 男性 | 18歳 | 高校生ハッカー(犯罪はしません)
【 NPC 】  草間・武彦 | 男性 | 30歳 | 草間興信所所長、探偵
【 NPC 】  草間・零 | 女性 | ? | 草間興信所の探偵見習い


_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ひとこと _/_/_/_/_/_/_/_/_/

こんにちは&初めまして、または前回は大変ご迷惑をお掛け致しました。
担当WRの四月一日。(ワタヌキ)と申します。

ちょっと遅めのお花見&オフィシャル企画と被り気味で冷や冷や致しました。
この度は、ご参加誠にありがとうございました。


細かい私信など → 【四月一日。の日常】blog http://wtnk.blog64.fc2.com/

2006-05-08 四月一日。