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蒼天恋歌 １ 序曲
あなたは、夜おそく帰宅しているときだった。
遠くでサイレンの音や、繁華街からの活気が聞こえ、向かう先は静かな闇。つまり、街と寝るところの境界線に立っているといっても良いだろう。
あなたはいつもの通りに生活している。しかし、今日だけは違っていたようだ。
ゴミ置き場のゴミが転げ落ちて音を立てる。あなたは重さで落ちたのかと振り向いてみると、
女性が気を失って倒れていた。
あなたは驚いた。
きらめくような金髪に整った綺麗な顔立ちに。
はっと我に返る。けがもしている。警察と救急車？ いや、何か足音が近づいてくる。
銃声？ いや剣戟？
このまま悠長なことはしていられない。あなたは、女性を担ぎ、その場を離れた。
運良く、境界線とも言える闇はあなたを助けてくれたようだ。
自宅にて、簡単にけがの手当と、汚れた身体を簡単に拭いて看病する。
「……」
気づいたようだ。しかし、驚いてびくびくしている。
あなたは「ここは無事だ」と話し気を失っていた事も話していく。しばらくして彼女が落ち着いたとき、あなたは更に驚くことになる。
「私はレノア……でも、それ以外……思い出せないのです」
がくがく震える彼女。
一方、路地裏では、やくざ風の男が、舌打ちをしていた。
「こいつらじゃねぇな。あれを拾ったのは……誰だ？」
と、塵になっていく“敵だったモノ”に唾吐く。
「虚無の境界の連中は逃げた……無駄足だったな」
コートを羽織った男が闇から現れた。闇の中に赤い光〜煙草の火〜が灯っている
やくざ風の男は舌打ちをする。
「なあ、あの女は、いったいなんだ？」
「わからん。ただ超常のたぐいの人物は分かるだろう」
と、二人は……その場所を去った。
その二人を遠くで見るように、何者かが立っていた。
「アレはディテクターと鬼鮫……か。贄を抹消するつもりなのか？ さて、あの贄をどうするべきか……どこに逃げた？」
あの戦いの音は何だったのか？ 彼女はいったい何者なのか？
しかし、彼女の美しさは天使のようだ。
いきなり現れた非日常が、今狂詩曲とともに幕を開ける。
〈引っ越しの後〉
結城・二三矢は神聖都の学生寮で暮らしていたが、ある時を境にマンションに引っ越すことにした。殆ど一人でやることになったため（業者の手続き等色々）、かなり遅くなってしまった。
春。何か心に穴が開いている虚空感に襲われながらも、彼は先の事を平和に考えていた。
「ふう、手間取ったなぁ」
二三矢は荷解きが一段落付いた時、外は暗かった。
「あちゃあ、物そんなに無いのになぁ」
と、ごちる。
「しかたない、近くのファミレスで何か食べよう」
今の世の中、２４時間営業のファミレスなどがあるので便利だ。
つくづくそう思う。
はがきやメールで住所変更などを引っ越す前には済ませているし、後はゆっくり片づけていく事にしよう。
「日本で……桜を眺めるのはいいなぁ」
彼は良く海外に行く。家族の仕事の関係だ。
しかし、何を思ったのか神聖都に編入し、居続けることにした。何故そうしたのか自分でも分からない。ただ、高校間近なのでしっかり地に足をつけておきたかったのだろうと思ったのだろうと、彼は振り返る。もっとも彼には其れが十分な理由ではないとうすうす感じているが。まあ、日本の綺麗な式を堪能して生活できるのは根っからの日本人だと言うことを改めて感じさせるので、結果オーライだ、と結論にたっしった。
彼の住むマンションから出て、しばらく歩いている。
何か違和感を覚える。
「？ なんだろう？」
街灯が点滅する道。
その先にあるのは、光りで眩しいだろう繁華街。
二三矢が居るマンションと、向かおうとしている繁華街は近くて遠い。
夜の道に何となくハッキリと境界線が引かれている様に見える。
光りと闇。静と動。
その、境界線は倒れている女性だった。ゴミ置き場のコンテナがはみ出している。
「！ だ、大丈夫ですか？」
二三矢は駆け寄る。
そこで、ドキッとした。
その女性。いや、見た目は少女か？
彼女の美しさに時が止まったように感じた。
綺麗な金色の髪。整った顔。この世と思えない美。
二三矢は本当に、“美しい”と思った。
「気を失っているだけか……」
しかし、安心している場合ではない。
足音や、銃声が聞こえるのだ。二三矢は、彼女が何かに追われているのであろうと考える。
少女を置いて逃げるわけにはいかない。
近づいてくる。
人か？
「ここは……『見えない』」
二三矢は呟いた。
そして、彼女を抱きしめて、その場でじっとしている。
「『俺たち』は『見えない』。『全て』に対して『隠れている』」
と。
そのあと、二三矢は見た。
獣の様な人型が匂いをかいでいる。しかし、駆けてきた男二人。
どこかで見た男が銃を撃つ、なにやらやくざ風の男が、“獣人”らしき物を斬り殺した。
物は塵となった。
「……いねえな。こいつら……じゃない」
「遠くには逃げては居ないはずだが……」
二三矢は知っているかもしれない男はあたりを見る。
「連中も逃げた。戻ろう」
と、二人は闇の中に消えていった。
実はその男の５ｍ先に二三矢と少女が居た。
二三矢と少女はそこにいても、見えないのだ。
言葉を紡ぐだけで物理法則の範囲内で起動させる、二三矢の力。言霊使い。絶対言語使い。
息を殺し、じっと“隠れる”。
足音、呟き何もかもが消える迄……。
「このままじゃ……」
二三矢は思った。
「『此処』『俺の家の玄関』『繋げる』」
彼は言う。
すると、彼の目の前に別の空間がつながった。彼の住まいの玄関である。
二三矢は少女を抱きかかえて、玄関に入り。『閉じる』と言うと空間が閉じた。
〈痛み〉
少女を自分のベッドに寝かして、風呂を沸かす。
汚れや怪我はあるが、たいしたことはなさそうだ。
「冷蔵庫の中には何もないし……コンビニまでいくか……」
と、テーブルに紙に「お風呂使ってください」と書き置きして、二三矢は出かけていった。
ドアはしっかり閉めて、近くのコンビニまで向かう。
いったい彼女は誰なのか？ どうして其処にいたのか気になる。
レンジで出来る簡単なレトルト食品を買い、適当な飲料も買う。絆創膏や包帯などコンビニでも買える物も。
そして戻ることにした。
あたりに異様な気配はない。
確実に捲いたはず、そう思いたい。
しかし、あのサングラスの男のうち一人は誰だっけ？ 見た覚え有るんだけどなぁと、二三矢は考えていた。
少女は目を覚ました。
「……ここは……」
傷が痛む。
しかし、それほどひどいわけではない。
段ボールの山、散らかっているようだが、生活するには差し支えない所だ。
一人暮らしをするには少し贅沢な場所だが、まだ朦朧としている彼女が其処まで分かるはずもない。
「？？ どうして……ここに？」
少女は把握し切れていない。
怖かった。何もかも。
テーブルに紙が置いている。彼女は其れを見た。
「お、おふろ？」
首をかしげる少女。
「あ、汚れている……体中痛い…………こわい」
と、彼女はおろおろする。
紙には風呂を使えと言っても彼女には此処がどこなのか、安全なのか分かっていない。
彼女は、廊下の隅でどうするかおろおろしていた。
そして、玄関の扉が開いて……。
「きゃああ！」
「！？」
少女は男の姿を見て叫んでしまった。
「あああ！ ごめん！ ごめんなさい！」
あやまる少年はドアを閉め出て行った。
少年、二三矢は、思い出したように。
「部屋間違ったっけ？ あ、合ってるよな？」
苦笑して、ドアを開けた。
「気が付いていたんだ」
と、ほっとする。
忘れていた訳じゃないが、いきなり叫び声を上げられると、部屋を間違えたと思うだろう。
こういう時周りとの関係が希薄な社会が幸いしている事が複雑な気持ちにさせる。
少女は、二三矢を見て、壁に隠れて怯えている。子犬を連想するかのような怯え方だ。
「気が付いたんだね」
「……あの、わたし……えっと」
おどおどして、少女が言う。
「途中で、君が倒れていたから、うん。何かに追われていたから助けたんだ。此処は大丈夫だよ」
「……え？ 倒れて？」
と、二三矢の笑顔を見て少女は、力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
急いで二三矢が駆け寄って抱き留めた。
「！！」
とてもさわり心地の良い肌をしているし、少女の香りにドキドキしてしまう。
「……ご飯たべる？ レトルトだけど」
〈見知った顔〉
「何か知っている顔が居たような気がしたが……」
煙草をくわえた男が呟いた。
しかし、その煙草に火をつけようとすると、その日は瞬く間に消えた。
「俺の前で吸うな。ディテクター」
「そういうな、鬼鮫」
ディテクターは苦笑する。
一瞬、角を曲がった時に知っている顔が座っていたように居たが、確認できるまでには居なかった。もっとも今の仕事の姿は見られたくないのは本音だ。
「こうして探しても、みあたらん。他当たるぞ」
ディテクターに鬼鮫と言われたやくざ風の男は闇の中に進んでいく。
「……ああ、俺は一度零の所に戻ってやらんと」
「……っち。何か有れば連絡するからな。放っておけばいいじゃねぇか？」
「バカ、約束しちまったんだよ」
「……」
男は別々の中に紛れていった。
――何か気が付いたのか？ ＩＯ２の狗……？
と、闇で声がしていた。
〈落ち着かせても……一波乱〉
二三矢は、少女を椅子に座らせる。
「あ、ごめんなさい。あの私此処がどこなのか……大丈夫ときいて、その」
少女は泣きそうに言う。
「ここは、俺の家。散らかっているのは此処に引っ越ししたばかり何だ」
と、二三矢が言う。
怖い時は一緒に居てやること通いと思っている。彼は無意識に震えている彼女の手を握ってあげた。優しく。しかし強く。しかしながら無意識にというのがくせ者だ。
「……あ」
彼女が顔をあげて二三矢を見る。
「ご飯食べようか。話はそのときに聞くよ」
「あ、はい……ありがとうございます。あの……」
「何？」
「手……」
「あ！ ごめん」
「いえ、暖かい……」
と、笑う少女。
二三矢はどきりとする。
とても美人で可愛い。自分の顔が赤面していくことを覚えて、
「じゃ、用意してくる」
と、ゆっくり手を離し、彼女に顔を見えないようにキッチンに向かった。
「あの、済みませんお風呂お借りします」
少女が尋ねる。
「あ……うん、いいよ。時間かかるし」
――５分程度で終わっちゃうレトルトだけど。と、彼は心の中で突っ込む。
彼女が脱衣所に入ってから３分ほど経った。
「きゃああ！」
彼女は悲鳴を上げた。
「ど、どうしたんですか！？」
「お湯が！ お湯が勝手に！」
と、少女はシャワーからお湯が出るのを見て驚いている。
しかし、其れだけではないようだ。
取っ手が、取れていた。
「あわ！ 壊れてる！」
入居した手で壊れるなんて！ 否、それどころじゃない。二三矢は彼女が握っている取っ手を奪うように取り、くっつけた。
幸い彼女がひねりすぎて、取れていただけのようだ。
おかげで、二三矢もびしょびしょに濡れてしまった。
「はい、大丈……ぶ」
「ありがとうございます……余り扱い方が分からないので……どうかしましたか？」
二三矢は硬直してしまった。
無理もない。
少女は全く布をつけていない。裸のままだった。
「ああ、お、俺は大丈夫だから、ゆっくり浸かって……」
と、二三矢はぎくしゃくして風呂場を去っていった。
「は、はあ」
少女は首をかしげるばかりである。
落ち着きを取り戻したのは、それほどかからなかった。
男物の着替えがないので、少女は彼のＴシャツ一枚のみでいる。ちょうどだぼだぼのようなので、問題なさそう。
二三矢も着替えおわっている。
ミルクココアとレトルトリゾット。コンビニのおでん。を食べる少女と二三矢。
「俺、結城二三矢。君は？」
「レノア、でもそれ以外分からないんです」
「……わからない……記憶が……ないんだ……」
二三矢は、ショックを受けた。
どんどん辛そうに、不安そうになっていく少女、レノア。
「大丈夫だよ。行く当てがないなら、当分此処にいても良いから。ね？」
「あ、ありがとうございます……。お世話になります……。私、怖い。怖くて、怖くて……」
レノアは嬉しそうに涙を流しながら泣いた。
二三矢は彼女の頭を撫でてあげた。
彼は心の中に何か一つ、埋まっていく感じがした。
〈招かれざる客〉
――居た。贄が居た。
影が“目標”の気配を感じ有るマンションを睨む。
手にはなにやら宝石の付いた首飾りが一つ。
――あのガキは、“絶対言語”使いなのか……厄介だな。む？
やくざ風の男が、こちらを睨んでいた。
「さっきは逃げたな？ ケリをつけてやる」
――まあよい！ 鬼鮫、おまえは、これの相手をしていろ！
影は鬼鮫に向かって、影の下部を作り出し襲わせた。
「ち！ こんなんじゃ物足りねぇんだよ！」
刀で切り捨て居る鬼鮫。
影はそのままマンションのベランダに飛び移った。
「きゃああ！」
悲鳴、ガラスの割れる音。
「ちい！ 堅気も巻き込むつもりか！？」
鬼鮫は舌打ちをして、雑魚を切り倒していく。
影が入ったマンションは二三矢の家だった。
「小僧、おとなしくしておけ……そうすれば何もしない」
「なに！？」
マンションに侵入した影は近づく。
震えるレノアを庇いながら二三矢は後ずさる。
非日常の幕開け……。狂詩曲が奏でられる。
２話に続く
■登場人物
【1247 結城・二三矢 15 男 神聖都学園高等部学生】
■ライター通信
滝照直樹です。
「蒼天恋歌 １ 序曲」に参加してくださりありがとうございます。
新しい門出にレノアと出会い、事件に巻き込まれていきました。彼女とどういう関係になっていくかが見物です。あと、様々な人との関わりも。
２話はいきなり戦闘になります。その後にレノアの情報を探す話になります。さて、謎の影の正体は？ レノアは？
では、次に機会に
滝照直樹
20060423
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