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<東京怪談・PCゲームノベル>


トラップでどん!

「…………」
 彼女は無言だった。
 とはいっても、すらっとした細身の体を黒いシャツで覆った姿は、どちらかというと凛々しさをも感じさせる。
 だが、その大きめの目はひどく楽しそうにくるくると辺りを見回していた。

 彼女…法条・風槻が見回しているのはとある骨董品店の店内だった。
 物が散乱しているせいで、正確な広さがまったく掴めない。
「何か気に入る物でも有りましたかね」
 不意に風槻の傍から声をかけてきたのは、この店で店主を務める、鷹崎という名前の男だ。
 楽しげに、風槻の言葉を待っている。
「うーん、軽くリサーチに…と思って入ったんだけど」
「はあ」
 店主は言葉の先を促すように、なんとなく気の抜けた声で頷いた。風槻はそれに目をやらずに、棚の先に有る物を凝視したまま続ける。
「…蓮の所の曰く付き満載よりマシかなって感じかな」
 知らない物はあまりいないであろう、アンティークショップの店主の名前を出されて、鷹崎は軽く吹きだした。
「え、……や、ち、ちょっと待って下さい、俺もさすがにあそこと同列扱いされるのは心外ですッ」
 珍しく慌てたように弁解してみせる。
 だが風槻は、それを気にすることなく更に言葉を続けた。
「この店ジャンル幅広いといった方が正解っぽいね…。骨董品屋なのに、何でMOがあるの?」
 先程から彼女が凝視している先、そこには無造作に、一枚のMOが置かれていた。
「……あー。……んー、知り合いに、明日の食事にも困ってるから買い取ってくれって泣き落とされちゃいまして」
「中身は?ちょっと気になるなあ」
「えーと、何だったかな…買い取ったのは覚えてるんですが、義理も良いところだったんでいまいち覚えてないんですよね」
 店主が記憶を探るように呟いた言葉に、風槻は苦笑する。
「いいや、これは買ってみるしかないよね」
 彼女は楽しそうに微笑む。だってこんな、妙な物ばかり転がっている骨董品店、そんなところに置いてあるMOがそもそも、普通の物で有るはずがない。
 しかも職業柄、「情報」という物は有っても損をすることは無いものだ。
「うちに帰って、新しく組んだ子試すのにちょうどいいかなぁ。それとも翁がいいかな?店主これいくら?」
 風槻は既に、脳裏でMOの解析をする所まで考えて、楽しそうに店主に問いかけた。
「そうですねえ…。ちょっと俺、内容脳裏からすっとばしちゃったんで、……この位で如何ですか」
 着物の袂から算盤…とみせかけて、算盤型の電卓を取り出して店主は弾いて見せた。
 その表示部分を眺めて、風槻は眉を寄せる。
「高い。だって、コレが何かという、一番大事な情報部分が無いのに、この値段は高いよね」
 言われた店主は困ったように後頭部を掻いた。
「やー、痛いところをつきますねえ。ですが、これでも大分安くしてるんですよ?」
「でも、高い物は高いよね。MOなんて新品でも一枚、小遣いで買えちゃう様なものだし、中身の分からない中古なんて、ねえ」
「………な、何でしょう明らかに屁理屈なのに反撃がしづらいですね…」


 かなり安く…それこそ、小学生の小遣い並に安く例のMOを手に入れて、風槻がほくほくと店を出ていく。
 その後ろ姿を見送っていた鷹崎は、やおら、ぽん、と手を打った。
「……あ、そう言えば」
 彼は店の扉を開けて、思いだした内容を既に遠のいている風槻に伝えようとして、その動きを唐突に止めた。
「…まあ、良いですか。あの値段ですしね…」
 自己完結すると店主は、再び骨董品店に引っ込んでいった…。



 ◆ ◇ ◆


 一方、超特急で家に帰った風槻はと言えば。

 [PASS?]

 MOを起動してみた瞬間に表示された文字に、心底楽しそうな笑みを見せていた。
「やっぱりそう来なくちゃねー」
 うきうきと、あちこちいじって、パスワードを入れることなく先へと進む。
 と、唐突に、彼女の大事なPCの動作がおかしくなった。
「……ウィルス攻撃…?」
 とりあえずそのウィルスを一瞬で綺麗に片付けて、再び作業に戻ろうとすると、今度は画面がちかちか点滅する。非常に鬱陶しい。
 そんなこんなで、先回りしてウィルスを駆除し、その隙に新たなウィルスが進出しようとするのをまた駆除し、たまには一つ駆除している間にいきなり五種類のウィルスが…とかいうハメ的なコンボをも躱し………。
 風槻は途中で席を外すわけにも行かないゲームに、時間を忘れて没頭していた。

 まだ朝のうちに骨董屋からMOを買ってきて、そして昼前に開き始めて。
 大したことのないウィルスばかりなのだが、質より量。
 このMOを用意した人間はよほどの馬鹿か暇人か、と疑いたくなる程のウィルスのパレード。
 全て解除した、と確信した時にはすっかり日も暮れて、どこからかカラスの鳴き声が聞こえてきていた。
 食事すら摂ることを忘れていた風槻だが、その顔には疲れよりも達成感が目に付く。
 彼女はいそいそと、一つだけ無造作に表示されたフォルダを選択して、開く。

 それは、なんだか唐突だった。
 いきなり、画面が真っ暗になる。

 確かに、もうウィルスの類は無いと確認したはずなのに、と一瞬だけ風槻の背筋が冷えた。

 だが。

 だが、それは唐突に流れた軽快なメロディーに打ち消される。

 そして、真っ黒い背景の画面に、カラフルに表示されていくメッセージ。





『クリア おめでとう ございます!!
 もういちど あそびますか?』



 紙吹雪のアニメーションと共に、踊る文字に風槻は脱力した。
 ご丁寧に、その下には[Yes/No]の選択ボタンまで出現している。


 問答無用でNoを選択してから、風槻は骨董品店に突き返しに行こうと心に決めた。



 その後、骨董品屋の店主に、「あれだけ買いたたいたんですし」とか「買い取りでしたら、ご相談に乗りますよ?」などとにこやかに告げられて、風槻がどんな感想を抱いたか…などはまあ、別の話である。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6235 / 法条・風槻 / 女性 / 25歳 / 情報請負人】

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■         ライター通信          ■
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 法条・風槻様

はじめまして。新米ライターの日生 寒河と申します。
この度は骨董品店にてのお買い物、誠に有り難う御座いました。
なんだか格好良いお嬢さんで、書かせて頂いてる間中、とても楽しかったです。
口調等、不備が無いと良いのですが…。
ではでは、またのご来店、骨董屋一同楽しみにお待ちしておりますね。

 日生 寒河