コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


真昼の月



 雑踏の中。
 歩くとしゃらしゃらと銀の首飾りが弾きあって音をだすそんな中。
 ふと、瞳に金色が鮮やかに映った。
 視線をそちらに動かすと、どことなく、見たことのある者。
 ああ、とユア・ノエルは思う。
 あれは最近遭遇したやつだ、確か名前は空海レキハ。
 今日も突っかかってくるのだろうか、それは面倒だ。
 そんなことを思う。
 このまま逃げようか、絡まれればきっと面倒なことになる。
 だけれどもそんな心配は要らなかった。
 彼は自分のことが見えていないかのように通り過ぎていく。
 ノエルが一瞬捉えた表情は、不安そうで、そして悔しそうな、そんな感じだ。
 今までの彼の行動から、悔しそうはともかく不安そうは、想像できない。
「……?」
 立ち止まり、そして彼に消えた方向をしばらくの間見詰める。
 気になる。けれども、追うのは何故だか躊躇われる。
 実際、面倒だと思ってしまうのが彼を追わない最大の理由だ。
 まぁ、いいか。
 そう思いノエルはまた歩み始めた。
 人の波をすっと通り抜けていく。
 その足取りは軽い。人の波を避けることは苦ではない。そんな印象だ。
「ああ、ユア・ノエルさんじゃないですか」
 と、そんな人の波の中、自分の腕をがしっと捕まれる感触。
 この声には、聞き覚えがある。
 振り向くと、そこには片成シメイの姿。
 ノエルが自分の方を向いたことでするりと捕まえていた腕を、彼は放す。
「偶然ですね、こんなところでお会いするなんて」
「……」
 そうなのだろうか。
 思うけれども口にはしない。
「あなたは……僕との約束を守ってくれましたね、ありがとうございます」
 それはレキハを追わなかったことだろうか。
 気にはなったのだが、面倒事になりそうな気も少ししたから追わなかった。
「何のことだかわかってらっしゃらないんですか? さっき、レキハを見たでしょう?」
「……見たな」
「放っておいてくれたじゃないですか」
 ありがとうございますの対象はそれであっていたのか、とノエルは思う。
「様子がおかしかったがいいのか?」
「いいんです、ああなっているのは僕のせいですから」
 何故か知りたいですか、とシメイは言う。
 気にはなる、けれどもそれを聞くのは面倒だと思ってしまう。
「……それを聞いて今後大きな面倒事を回避できるようになるのなら、聞こう」
「それじゃあ聞いてください、大きな面倒事を回避できるかはわかりませんが」
 シメイはノエルの言葉にくすっと笑う。
 何がおかしいんだ、とノエルは思うが口にはしない。
「ちょっとばかり叱ってやったんです。きつく、言葉で。それで相当へこんだみたいで。僕も鬼ではないから少しだけ気になって後を追ったんですけど……あなたを見かけたのでそれをやめました」
「それだけか」
「はい」
 話を聞いても聞かなくても、何も変わらないような気がする。
 よくよく考えれば、わかるようなことだ。
「追わなくて良いのか、本当に」
「レキハが心配なんですか?」
「気にはなった……が追うことは面倒だった」
 そうですか、とまたシメイは笑う。
 ノエルは何故なのかわからず眉を少し顰める。
 そして、何故こんなに今日はしゃべっているのか、思いを言葉にしているのか、それが不思議だった。
「どうかしました?」
 と、ふとそんな自分に気が付いたのかシメイが顔を覗き込むようにしてくる。
 ノエルの表情はいつもと同じだ。
 光を伴わない瞳に映る自分の姿にシメイは笑いかけた。
「なんでもないようですね」
 満足そうに言い、距離をとる。
 この男のテンポは、きっと自分中心なんだろう。
 そうノエルは感じた。
「僕はあなたが、結構好きです」
 男に好きだと言われても、後々面倒になりそうだ。
「ああ、人として、ですよ。あなたはきっと僕の邪魔をしない人だから」
 その言葉が何を意味するのか。
 ノエルは思う。
 きっとこのシメイは、少し破綻している。
 自己中心的な、人間。
 関わらなければ面倒でない。関わると、時には面倒だろう。
「俺は面倒事は嫌なんだ」
「僕が面倒事だとでも?」
「いや……きっとシメイは面倒事を持ってくるやつだ」
 ノエルは溜息をつきつつ、言う。
 一瞬、シメイは驚き、だけれどもすぐにそうかもしれないと言う。
「出来るだけ、あなたに面倒事を運ばないようにします」
 そうしてくれ、と心の底から思う。
 このシメイはそれをわかるだろう。
 ノエルはあえて言葉にしない。
「さて、あなたはどこへ行くんですか?」
 行く先が決まっていることはない。
 ただ思うままに足を進めていただけだ。
 ノエルはどこかだ、とそっけなく答える。
 その答えにシメイはやっぱりそう答えた、と笑う。
 ノエルは着いてくるも来ないも、好きにすればいいと思う。
 そう思って、立ち止まっていた足をまた進め始める。
 シメイはノエルの後を何もしゃべらずただしばらく、付いてきていたのだがいつの間にか、気が付くとその姿は無い。
「……」
 どこへ行ったのか、気になるが追おうとは思わない。見つかるとも、思えない。
 それ以前に、そうするのは面倒だ。
 ノエルは思う。
 どうせまた、そのうち出会うだろう。
 そのうちに。
 それもきっと、近いうちに出会うだろう。
 そんな気がした。
 ノエルの持つ感が、そう告げていた。
 そしてそれを、ノエルはなんとなくそうなるだろうと受け止めていた。




 ユア・ノエル。
 空海レキハ、凪風シハル。
 そして片成シメイ。
 レキハよりも、シハルよりも。
 ノエルとシメイの関係の方が深く、濃く。
 それは少しの出会いでも、確実に刻まれて繋がれて紡がれていく。
 これがノエルにとって良いことか、悪いことか。
 はたまた面倒なことになるのか。
 それはまだわからない。
 次にシメイと出会う時。
 出会う時の二人の関係は?
 それはまだ、わからない。
 それはまだ、作っていくもの。



<END>



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6254/ユア・ノエル/男性/31歳/封印士】

【NPC/片成シメイ/男性/36歳/元何でも屋】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ユア・ノエルさま

 無限関係性四話目、真昼の月に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 半分です、折り返し地点です。どうやらノエルさまはシメイ先生ルート(何その表現)に入られた模様で……親密度がぐんぐん上がっております!(どこの恋愛ゲーですか)まだ一個分岐(?)になりそうな事が待っております。頑張ってください…!面倒くさがらず…!(ぇー 
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!