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<東京怪談・PCゲームノベル>


真昼の月



 おや、と思う。
 視界に金色が見えた気がした。
 と、肩がとん、と触れ合う。
 それは軽い衝突であったもののデリク・オーロフの気を向けるには十分だった。
 ぶつかった相手は、知っている。
 空海レキハだった。
 デリクは声を掛けようとしたが、踏みとどまった。
 そういつもなら先にレキハのほうが突っかかってくるだろうがそれがない。
 それどころか自分に気が付かず通り過ぎて行った。
「……変ですネ」
 気になる、普段の姿から想像できずとても。
 これは何かあったに違いない。
 人ごみにまぎれそうなレキハを、デリクは追った。
 ある程度の距離を置いて付いていく。
 それにも気が付きそうに無い。
「まったく……しょうがナイ」
 しょうがないのはレキハなのか自分なのか。
 デリクは少しばかり、苦笑した。
 そして、歩む速度を速める。
 ぱっとレキハの腕を掴み、すぐ脇に会った路地へと。
「!」
「やっと気が付きましたカ、心ここに在らずだったようデ」
「なっ……っ……」
 一瞬声を荒げたレキハ、だけれどもすぐに、苦い表情を浮かべデリクから視線を反らせた。
 突っ掛かられないのは、寂しい。
「どうかしたんですカ? アナタらしくない」
「るせーな、たまにはそんな時も……あんだよ」
 ぼそりとレキハは呟く。
 何かあったのは一目瞭然、しかもそれはきっと、レキハにとってとても響くことだったのだろう。
 口先だけの励ましは、したくない。
「言ってみれバ楽になる事もありマス、溜め込むのはよくナイ」
「言えば……?」
 ふと、視線を上げる。
 おろおろと不安そうな目線に、デリクはええ、と笑った。
 そしてレキハはしばらく、考え込んだ。
「…………怒られた、先生に」
「そうですカ」
「それは、いい。でもシハルと比較された」
「お嬢サンと? お嬢サンは……中々強い方ですからネ」
 力なく、レキハは頷く。
「俺、あいつと競ってるから、それはよくわかる……どっちが……」
 言葉を途中で切った。そんな印象。
 デリクはその言葉の先に興味を抱きつつも聞きはしない。
 代わりに言葉をつむぐ。
「悪い所を指摘するのは、決して楽しい事ではありまセン。アナタに近しい人ならなおさらデス」
「そうなのか?」
「ハイ、フツウは黙って見捨てたり切り捨てますヨ」
 デリクは穏やかな視線を送る。まぁたまにはいいか、と思いながら。
「……その方、アナタの先生はレキハさんを大切に思って下さってるンではないでショウか。応えるかドウかはアナタしだい。今後どうしたいですカ?」
 問われて、レキハは黙り込む。
 そして一時の空白。
「…………俺がしたいことは……まだ固まらねぇ……それが良いのか悪いのかもよくわからねー」
「レキハさんも安易にアナタのその道へ進むと決めた訳では無いのでショウ?」
 すっと、瞳を細めて、鋭い眼光と共にデリクは言う。
 その冷たさは、一瞬レキハを黙り込ませた。
「そう……だな。俺のためにも、先生のためにも……」
 そう呟くものの、声色は安定していない。
「決めるのは、レキハさんですからネ」
「だな、俺だけだ。俺はまだ、甘い」
「自分の至らない点をわかっているなら、ダイジョウブのようデス」
 にこりと、デリクは笑いかけた。
 それに力なく、まだ力なく、ぎこちない笑みをレキハは返す。
「……ありがとな」
「オヤ、お礼を言ってもらえるとは思ってなかったのですガ……」
「なんだそれ」
 素直に受け取れよ、とレキハは笑う。
 デリクはそうします、と同じように笑って返した。
 それでもまだ、笑っていても彼の不安はぬぐえていない様だった。
 ちょっとした違和感をデリクは感じる。
「ん、まだ少し……考えてみる。ちょっとだけ、助かった」
「チョット、ですカ?」
「……スゲー助かった、これでいーだろ」
 ハイ、とデリクは満面の笑みを浮かべる。
 満足です、と。
 レキハは調子が狂うのか合わせられているのか、と苦笑した。
 彼は一度前髪を掻き揚げる。そしてその目、片目に巻いている布をとった。
 そこには銀色の瞳がちゃんと、ある。
 顔に、目の周りに傷があるわけでもない。
 見えているのではないか、と思わせる輝きを持っている。
 しかしまた、そこを隠すように布を巻いている。
「なんだ?」
「いやぁ、何でもないデス」
 ただ巻き直しただけか、とデリクは思う。
 けれども何か、引っかかる。
「んじゃ、俺行くわ、またどっかでな」
 会えるかどうかはわかんねーけど。
 そう付けたして、レキハはその姿を路地から雑踏の中へと戻す。
 デリクはそんな彼を、ただただ静かに見送った。
「まぁ、ご機嫌もそのうち直り、これからはマタ面白い反応、返してくれるデショウ」
 デリクはそれ想像して笑う。
 けれどもそれは心からでなくて、まだ何か一波乱ありそうな気がしているのを誤魔化すような、ものだった。



 デリク・オーロフ。
 空海レキハ、凪風シハル。
 そして片成シメイ。
 シハルよりも、シメイよりも。
 デリクとレキハの関係の方が深く、濃く。
 最初の出会いから少しずつ、近くなるソレ。
 これがデリクにとって良いことか、悪いことか。
 はたまた新たな波紋を広げることか。
 それはまだわからない。
 次にレキハと出会う時。
 出会う時の二人の関係は?
 それはまだ、わからない。
 それはまだ、作っていくもの。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【3432/デリク・オーロフ/男性/31歳/魔術師】

【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 デリク・オーロフさま

 無限関係性四話目、真昼の月に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 半分です、折り返し地点です。デリクさまはレキハルートに入られましたー!(…)ばら撒かれている色々をつないでいくと一点でピシッと今後はまってくる…はずです!(ぉぃ)あと一度、分岐(?)となりそうなところがあります。頑張ってくださいませ…!
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!