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<PCゲームノベル・櫻ノ夢>


鴇色サーカス


どぅ…ん  どぅ…ん

遠くから太鼓の音が響く
他にもラッパや歌 賑やかしい音楽が 暗闇から近づいてくる

華々しい光を纏った少女たちが

ひらり ひら ひら


手元へと来る 此れは何の花びらだろう

とても懐かしい



ピンク色の燕尾服と シルクハットを被った太っちょのおじさんが大手を振るう。



「さあさ、皆さんお待ちかね。鴇色のサーカス団が、貴方を夢の世界へと誘いましょう」


降り注ぐ花びらは とても綺麗な鴇色をしている

目の前は 次第に  鴇色へと   霞み  …




鴇色が目の端から消え去れば、そこに在るのは大きなテントの内部。
お客は満員御礼、何故だかみなもがいるのは前列まん前の席。わあわあ、ざわざわ、客たちがサーカスが始まる興奮に身を任せて騒いでいる。
まあるく取られた大きな舞台には…先ほどのおじさん。
大きく手を振るおじさんは、大きなお腹を揺らしながら歩いている。そして大きく手を振り大仰なお辞儀。
おじさんはふうーと深呼吸。それでも出っ張ったお腹はちっともへこまない。

「良くぞいらっしゃいました、鴇色サーカスへ!」

大きく張り上げた声はテント中に響く、みなもの髪もふわりと軽く音響にそよいだ。
みなもは期待と興奮で、心拍音が上がっていくのがわかる。将来の事を悶々と、考えていた自分を段々と忘れていく。みなもの青い瞳には海中を思わせる光が宿った。

…ドキドキする、久しぶりだなあ。いつ振りだろう、この感覚。

そうしている内に、おじさんは大きな身体を揺らしながらテントへと引っ込んでいく。
続くは華やかなファンファーレ、トランペットの音は気高く響いて客たちを圧倒する。テントの幕が開けばそこには薄紅色の華やかな衣装を纏った少女たち。
薄いスカートはひらひらと揺れた、思わずみなもはじいっと見つめてしまう。ふと少女の一人と目が合い、少女はにこりと微笑んできた。
みなもも少し照れながらも笑い返す。少女たちが軽やかなステップでラインダンスを踊る、踊る、踊る。さながら櫻の精の様に美しく。
手を繋ぎ、足を上げ、しなやかな身体をくねらせれば、空を舞う花びらのよう。少女たちは何時しか左右へと別れ、舞台の縁へと駆けてゆく。
真ん中の開いた舞台から、今度は何が登場するのだろうとじっと目を向けていれば、少女たちが現れたときのように幕が開く。

「うわあ!何で染めたのかな、凄い色…」

思わず声に出してしまう、現れたのは鮮やか過ぎるほどの黒とピンクの毛をなびかせる虎。そして、同じくピンクの鬣を悠然と揺らすライオン。
威風堂々としたメロディーと、ピンク色にも関わらず、依然王者のような振る舞いを見せる虎とライオン。その姿と色合いのコンビネーションに、猛獣たちも何故だか愛くるしく見えてしまう。
そして演技が始まる。虎は玉乗り、それもかなりお見事な。全く揺れる事もなく、調教師の人が鞭を振るわなくとも、虎は客に愛嬌を振りまき、前足を上げて手を振る仕草までして見せた。お次は縄跳び。ぴょんぴょんと軽やかに跳ねて…無論それだけで終わることは無く、空中でくるんと宙返り。
ライオンは自分の出番を今か今かと待っている。調教師の顔へと顔を近づけて、何やらひそひそ話でもしているかの様な風景。
虎の見事な演技は終わり、拍手喝采、何処と無く満足そうな表情で虎は幕の中へと胸を張ったまま消えていく。
みなもも他の観客と同じくパチパチと拍手をして虎を見送る。夢の中だからだろうか。他の客ともいやに話が合い笑ってしまう、そうしていれば…派手なファンファーレが再度鳴り響く。
己が主役だといわんばかりに胸を大きく張ったライオンは、高台の上だ。二メートルはあるだろう、そこには綱引き用ほどの太い綱…けれど、ライオンが渡れるとは思えはしない。

「っ、あれ渡るの?」
「…うん、このサーカスでも結構メインなんだよ。」

隣にいた少年が笑いながら教えてくれる、そうして小さな手を伸ばして縄のもう少し上へと指先を向けた。その先、執着地点の少し傍、大きいとも小さいとも言えない火の輪が見える。
みなもは思わずうろたえてしまう。そんな間にライオンはゆっくりと、踏みしめるように綱渡りを始める。ゆっくりと、一歩一歩確実に…。みなもは見ていられなくなり思わず手で顔を覆い隠してしまった。
ライオンの足元は少し綱に振られて、ゆらゆら、だが目はまっすぐと前へ。段々とライオンは火の輪へと近づいていくが、ライオンは毅然とした態度。王者の冠のようなピンクの鬣を揺らしながらゆっくりと歩む。
指の間から覗ぞくその光景に、微かにみなもは息を飲んだ。ゆっくりと手を下ろしライオンをじっと見つめる。ライオンは火の輪へと後1メートル。印だって付けられていない場所にぴたりと止まった。
距離を測るようにぐっと輪を睨みつけて、前足に力を入れれば綱がたゆむ。ぐんぐん、ライオンは落ちそうなほど身体を揺らしてばねを利かせ。
みなもが息を飲む、無論、他の客たちも食い入るようにライオンを見つめている…。
ライオンは、しなやかに前足を伸ばし、少し頭を下げる、尻尾は風に靡いて一直線に。…ライオンが音を立てて着地したのは終着点。
テントの中は割れるような完成と拍手で大盛り上がり、ライオンは得意げに観客たちの拍手を浴びている。鬣は王者の風格を現し、荘厳に揺れていた。

「…すごいっ、あんな所でジャンプなんて!」
「一杯練習したんだろうね、お姉ちゃんの拍手を思ってきっと練習したんだ」
「…あたしの?」

少年はこくんと頷く…少年の顔は、少しばかり照れくさそうに揺らいだ。みなももまた、つられたように照れくさく笑ってしまう。

その後も、観客たちの驚きと拍手は絶え間ない。続くは熊とピエロのジャグリング。その後も様々な催しが行われていく。
今度はマジシャンだろう、シルクハットに燕尾服と言ったいでたち、面長で長身の痩せっぽちな男。この男の衣装もまた、目に眩しいピンク色だ。男はシルクハットを右手で脱げば、腹の出ていたおじさんと同じように大仰に腕を振ってのお辞儀。
ふとすれば、辺りのライトは落ちて行く、ひとつ、ふたつ、みっつ、段々と、夜が更けるように暗くなるテント。気付けば、マジシャンの男に当たるスポットライトのみ。何処からか音楽が聞こえてくる、ライオンたちのファンファーレとは違い、何処となく神秘的な曲。

「今宵に来られたお客様は運が良い、飛び切りのミラージュをお見せいたしましょう」

紳士の声音は低く威厳が在る、あんな痩せた体躯の何処からそんな声音が出るのやら…。そんな事を思っていれば、ピンクの衣装を着た女性が二人、舞台の両端から掛けてくる。紳士の背後には何時の間にやら大きな箱…。
助手らしい女性たちはピンク色の花びらが入った篭を手に取り大きな箱の中へと入れている。…今気付けば、うっすら見える箱には綺麗な櫻の木が描かれていた、満開だが散りかけの…櫻吹雪が背景に舞っている。

「今宵のお客様方には散り際のフィナーレに相応しい櫻をお見せします、此れ一度きり。確り見ておかないと損をしますぞ。」

紳士は軽快に笑って箱の中へと、女性たちが入れる花びらと共にするりと姿を消した。スポットライトは箱へと切り替わり、綺麗に描かれた箱の絵柄は更にはっきりと目に見えた。周りには小鳥が飛んでいる、根の辺りには狐やウサギ。…あのマジシャン、そういえば何処と無く狐顔だった。
そうしてお馴染みのドラムロールが耳に聞こえてくる、最初は漣のようだった其れも徐々に大きくなり今では嵐のように大きな音。テントの布天井は波打ち揺れる、男が入った箱は微塵の変化も見せない。だんっ、ドラムロールが終わると同時に女性たちが両側からはこの金具を外し全部の壁を一気に倒す!
箱から現れたのは男でも何でもない、箱に入りきらぬほどの大きな櫻が枝を広げテントへと満開の花が盛る。根元からはひょいと顔出す狐やウサギ、ぴょんぴょん駆けては箱の絵のような華々しい風景が広がり、櫻が根付く場所には草が生い茂り草原となって…頭上から小鳥のさえずる声、鶯の声まで聞こえて来る。
テントの中は春満開、マジックどころの話ではない、まるで本の中のような光景にみなもは思わず目を擦った。
何とか此れは現実ではないと思い出そうと、ふるふると頭を確りさせるように何度も振っても幻影は消えはしない。むしろ更に華々しく変化してゆく、兄弟の狐だろうか、仲睦まじげに頬擦り合わせ追いかけっこをしている。
花びらは散り、櫻吹雪もまた見事なもの。桜色の嵐は止む事無くテント中へと吹き荒れている。箱へと入った男の事も忘れたようにみなもは、目の前の景色に釘付けのまま。…夢中になっていればトントン、肩に軽い感触が伝わってきた。ふと後ろを向けば先ほどのマジシャン、格好は何時の間に着替えたのか目立たぬ黒いスーツだ。

「あ、さっきの…何時の間にいたんです…っきゃあ!」
「しっ!次の舞台を手伝ってくれないかな、とっても気に入ってしまったみたいで」

みなもは思わず声を上げた、しっかりとみなもの手首には男の手が在り。男はなにやら相談のようにみなもへと話しかけてくる。き、気に入られたって、誰にだろう。…その疑問の答えにはたどり着くまもなくぐっと腕を引かれる感覚。
返事も聞かずに突然にみなもの手を引っ張り歩き出した男、意味が解らず目を回しながらついてくるみなもを引きつれ、客を掻き分け、何とかたどり着くは舞台袖…。少し捲れば、団員たちの慌しい様子が目に見えて分かった。みんな、舞台の緊張感に浮き足立ってしまっている。
そして…、待っていたのはピンクの鬣のライオン。みなもをじっと見つめる眼差し、其れはそらされる事無く紛れもなくみなもへと向けられている。みなもはさすがに近くで見ると怖いのか、相手は猛獣、無理も無い。連れてきた男の背へと隠れるように猛獣の目線から逃れようと身体を隠した。

「ほうら、お嬢ちゃん…ちゃんと撫でて遣ってくれないか?そうしないと、こいつ、へそを曲げちゃうって言うんだ」
「えっ、で、でも、ライオンですよ…?」

怯えた目線をマジシャンの男へと向けるも、男はからからと笑ってみなもの背を叩く。それは勇気付けるようにして、力強く暖かく。マジシャンは優しげに笑い、みなもの耳元へと内緒話をするように口を寄せて。

「あいつはね、どうやら君に気があるらしい。撫でてやる位してもらえると助かるんだが…」

…ん?と、言うことは…。

「き、気に入ったって、ライオンがだったんですか?!」

思わず声を上げてしまう、その声にライオンもピクリと耳をそばだてた。そして、しょんぼりと肩を落とすように項垂れて、調教師が彼の失恋の痛みを和らげるように軽く肩を叩いている。

「あっ、そ、そういうことじゃなくってね…ううん、解りました…。撫でる位なら…。」

そう言ってそろそろとみなもはライオンへと近づき、遠慮がちに、撫でると言うよりは指先で触れるといった感じ。少し毛並みに触れば恐怖に指先が強張ってしまう…が、らいおんはごろごろと喉を鳴らす。まるで大きな猫のよう。
目を細めて気持ち良さそうにしているのを、みなもは目を細めたまま見ていれば、段々恐怖心も薄まってきた…。ライオンの見事なピンクの鬣を撫で付けて、少し笑って。

「ありがとね」

みなもは照れくさそうに笑う、ライオンは喉を鳴らし頷くように目を閉じた。ひとしきり撫で終われば、よし、席へ戻ろうと歩みだした瞬間。呼び止められる声がみなもの背へと降りかかる。

「そっちじゃないわよ、こっち!」
「…えっ?」

何が何やら、今度は腕を引っ張るのは少女。何処と無く快活な雰囲気を見せる。みなもとしては、お次は虎だったりして…なんて考えているうちに連れて行かれるのは衣裳部屋。華やかなドレスやレオタードが吊るされて…、大きな鏡が何枚も張られてあり化粧水の匂いが鼻腔をくすぐる。
きょとんとしたままのみなもに、連れてきた少女はにっこりと最上級の笑み。

「さあ、お嬢様。更にお綺麗になりましょうかっ」
「え、えええ?!」

…慌てふためく間も一瞬のよう、マジシャンのイリュージョンショーは無事に終わり、照明が落ちた。全くの暗闇がテントを覆う。
暫く場内アナウンスが続いた、アナウンス嬢の爽やかな弁舌が観客たちの耳を潤し良い休憩と言った所…。すれば、パッ、スポットライトがある一点へと集中した。結構な高台の場所…何があるかと目を凝らせば、見えるはず。薄桃の綺麗な装飾のされたレオタードを着たみなもの姿。レオタードには金魚のような尾が付いており、それはピンクや白、薄桃色の薄絹が重ねられているものだった。
視線はみなもにいっせいに集まる、みなもの鼓動は興奮と緊張ではちきれんばかりに脈打っている。それでも、みなもには何故だが嬉しさがあった。

観客の目は期待を掛ける目そのもの、時折痛いものがあるがこの時ばかりはみなものやる気を増徴させる糧となる。大きくみなもは自信たっぷりに右手を掲げて、何処にいるかと言えば…空中ブランコのブランコの上。すいっと大きく身体を揺らし、ブランコを前へと漕いだ。みなもの揺れる姿は桜の花弁のように空舞った。
みなもの手がするっとブランコから離れれば、しなやかに手足をしならせ身体を回転させる。レオタードの尾が靡き、本当にみなもは櫻の花弁のように舞った。一回転、二回転…そして、三回転。
向かい側のブランコを握れば、割れんばかりの拍手、みなもは言い知れぬ高揚感に酔いしれながら片手を大きく振るって客たちに答える。


しかし、観客の声は漣のように近づいては遠ざかる…段々と遠くなるにつれ、目の前を鴇色の櫻吹雪が覆ってゆく…。
その中にぽつん、人影が見えた。ようく目を凝らしていれば、そう、あれはサーカスの太っちょのおじさん。

「楽しんでいただけましたかな?そろそろ私たちは行かねばならないのです…。また、来年のお越しをお待ちしております。」

来た時と同じく大仰に腕を振るって深々としたお辞儀…。みなもはにこりと笑って、櫻吹雪が去って行くのを見守っているうちに意識が遠退く…。
ふと目を覚ましたとき、目の前にあるのは見慣れた天井。いつもの朝と変わらぬ風景、ただ一つ、違うのは胸の内にある暖かいもの。
上体を起こし、そっと胸に手をあてて、あの気持ちを思い出す。

…良い夢、見れたかも。

ふと目の端に映ったのは、布団の上の一片の薄桃色の花弁。






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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 1252/ PC名 海原・みなも/ 性別 女性/ 年齢 13/ 職業 中学生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、左です。このたびは、私の書いたシナリオを注文していただいて有難う御座います!
サーカスを思い切り楽しんでいただけれていれば嬉しいかなと思います。
みなもさんの可愛らしい表現が出来ていれば幸いです。最後の空中ブランコ乗り、お気に召していただけると尚嬉しいです。
機会があれば、また何卒、精進いたしますので宜しくお願いいたします。