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<東京怪談・PCゲームノベル>


真昼の月



 あら、と思う。
 視界に金色が見えた気がした。
 と、肩がとん、と触れ合う。
 ふいにその相手を目で追った。
 そのぶつかった相手を、小坂佑紀知っている。
 空海レキハだった。
 いつもと様子があからさまに違う彼。
 声をかけるのを一瞬躊躇する。
 でも、放っておくことは出来ない。
「……何かあったのかしら」
 少しの、心配。
 佑紀はレキハを追い、その肩を叩く。
 レキハは振り向き、少しびっくりしたようだが都合悪そうな、決まりの悪そうな表情を浮かべた。
「なんだ、お前か……」
「なんだとは何よ」
「あー……悪ぃ…………」
 本当に困ったような表情。いつもならきっとここは苦笑するところだ。
 おかしい、と思い佑紀はレキハの腕を掴んで雑踏から少し静かなところへと出る。
「な、なんだよ、どうしたんだよ……俺、ほっといてほしー……」
「できないわよ、そんなこと」
 くるっと向き直り、真直ぐ視線を受け止める。
 その真直ぐさに、レキハは少したじろいでいた。
 佑紀はそんなこと気にせず、じっとレキハを見上げる。
「とりあえず、そんな風になってる理由を聞きたいんだけど。何かあったんでしょ? 言いたくなくても言わせるわよ」
「な……自分勝手だな」
 うるさいわよ、と佑紀はその言葉を跳ね除け、びしっと人差し指をレキハの鼻の前に突きつける。
「そんな様子見ちゃったらほっとけないもの。さ、言っちゃった方が楽になるわよ」
「う……わかった、わかったよ……」
 お前には叶わない、とレキハは言う。
 そして一呼吸おいて話し始める。
「……怒られた。それは、いいんだ」
「じゃあ何が駄目なの?」
「比較されたこと、だ。シハルと……俺駄目だな、ほんっとうに……」
 くしゃりと前髪を掴んでレキハはかきあげる。
 弱音を吐いているのは丸わかりだ。佑紀はそれに少し、むかっとする。
「軟弱よ!」
「痛っ!」
 ぎゅむ、とレキハの頬をつねる。
 痛いと訴えるレキハだけれどもそんなことはお構いなしだ。
「情けないわよ、とっても。いつものあんたじゃないみたい。しっかりしなさいよ」
 言いたいことを一通りいって、佑紀はその手を放す。
「馬鹿力……」
「何か言った?」
 レキハの小声も聞き逃さず、佑紀はきっと睨む。
「何も……」
「へこんでるけどあえて叱ってるの、あんたのことが心配だからよ」
「ん……あんがと……」
 弱弱しい言葉と笑顔。それが今の精一杯らしい。
「ほら、もっとしっかりしないと」
「いきなり言われてもできねーよ!」
「あ、今のはいつものあんたらしいわ」
「お、そうか?」
 ええ、と佑紀は頷く。そしてくすっと笑った。
「ま、今日はデートしないであげるわ」
「デート!?」
「あら、ちゃんとあんたの先生から伝言、聞いたでしょう?」
 あ、と声を漏らしてからレキハは思い出したと呟く。
 どうやらしっかり忘れていたようだ。
「忘れてたのね?」
「うあ、悪い悪い、思い出したからいーじゃねーかよ!」
「ちゃんと覚えておきなさいよ」
「わかった……」
 忘れてたら後がコエーよ、という呟きが聞こえて佑紀はまた、にっこりと笑顔を向ける。
 その笑顔の意味を感じ取ってレキハは黙り込んだ。
 そして一つ、長い息を吐いた。
「どうしたの?」
「ん、なんか……お前のおかげで色々と考える気になった」
「そう、考えることがあったのね。ちょっと意外」
「あるっての!」
 少し大きな声で笑いながら言い、レキハはいつも巻いている布を外す。
 そこには銀色の瞳。
 見えているのではないかと思うほど普通の瞳。
 そこに視線がいってしまう。
 だけれどもすぐにまた、レキハはそこを隠してしまう。
 なんだか少し、もったいない。
「また弱音はいたりしたら、容赦なく……」
「しない、しねぇって! 多分……」
「多分って……自信ないの?」
「何があるかわからないだろーが」
 確かに、と佑紀も納得する。
 そしてレキハを見て、笑いかけた。
「まぁ、あんたのやりたいようにすればいいけど、息抜きとかも必要よ?」
「おう、わかってる」
「本当にそうならいいんだけどね」
「信用しろよなー、じゃ……俺行くわ、なんか……ありがとうな、ホント」
 ひらひらと手を振り、レキハは歩みだす。
 その背を佑紀は見送る。
「ま……大丈夫かしらね」
 まだ少し、心配だけれども。
 佑紀はレキハが見えなくなるまで、その姿を見送っていた。


 小坂 佑紀。
 空海レキハ、凪風シハル。
 そして片成シメイ。
 シハルよりも、シメイよりも。
 佑紀とシハルの関係の方が深く、濃く。
 最初の出会いから少しずつ、近くなるソレ。
 これが佑紀にとって良いことか、悪いことか。
 その関係に少しずつ変化があるのか、ないのか。
 次にレキハと出会う時。
 出会う時の二人の関係は?
 それはまだ、わからない。
 それはまだ、作っていくもの。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】

【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 小坂・佑紀さま

 無限関係性四話目、真昼の月に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 半分です、折り返し地点です。佑紀さまはレキハルートに入られた模様です…!このままレキハを尻にしいたまま進んでくださいませ…!(何)あと一度、分岐となるようなところがございます…!そこをまた私も楽しみにしております!
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!