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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


家族ゲーム3

 気がついたときには闇の中だった。
 息苦しいこの空間が辛かったが、草間武彦はなぜか怖いと感じなかった。
 精一杯の抵抗を見せ、挑んだ今の武彦には先程ほどの狂気を、不思議とその空間に感じることは無い。
 異様なあの感覚は、化け物の姿から感じたものだったのだろう。しかし、長くこの場所に留まれば、今度は違った狂気に冒されるかもしれないことは想像に難くない。
 たった一つの光も感じない中で、武彦はそっと身を起こす。
 手を伸ばすと、一緒にこの神隠しの世界にやってきた詩織の手に触れる事が出来た。
 恐ろしくないと言えば嘘になる。
 どうにかなるだろうという安易な考えにもなれない。
 だが、自分がやらなければ、一体誰がこの子を助けるというのだろう。
 策も無ければ、人外でもない。
 恵まれた戦闘力もあるわけではないし、調査員達のような超常的な力も持ってはいない。
 でも、でも――自分はやらなければならなかった。
「……大人だからな」
 武彦は苦笑した。
 大人だから、諦めずに子供達を助けるのが義務というものだ。
 音が篭って、すぐ自分の耳に音が還ってきた。
 その音で、ここがとても狭いことを知った。
 とりあえず、武彦は詩織の体を引き寄せ、少しは動けそうな闇の中を探索することにした。

●無形の街
 綾和泉汐耶は入り込んだ世界の図書館に向かって歩いていた。
 一番近い場所は自分の仕事場であり、この事件を最初に知った場所である図書館だ。
 汐耶は交差点を渡ると、アイスクリーム屋の前を通って一本目の道を曲がる。
 作られた世界ならある程度の傾向はあるかもしれないと、図書館に向かっていた。新聞の事件をチェックし、図書館の蔵書の傾向と地図を見ておこうかと思っていた。
 考えに集中していたが、無意識に足が図書館へと向かう。
 見知った光景ゆえに何の気なしに歩いていたが、次の瞬間思ってもみなかった光景に汐耶は絶句した。
「……な、なに――これは?」
 そこにあるはずの図書館は無く、巨大な建物がゆらゆらと蜃気楼のように蠢いていた。
 子供が粘土細工でそれらしきものを創り上げているかのような、そんな感じがする。
 引っ込んだり、横に伸びたり、出口が小さかったり、図書館の名前が中途半端であったりした。
 明らかに作りかけの図書館だ。
「図書館を……作っているつもり?」
 タイルの色も違う、立派な扉もない、出来損なった図書館を見た汐耶は一瞬何が起こっているかわからなかったが、その図書館もどきが汐耶の知っている形になった途端にそれは動きを止めた。
「ま、まさか……作ってたの? そう、図書館を知らなかったのね、【この世界】は」
 汐耶の呟きは誰にも聞かれることなく消える。
 そして、何かを思い出したかのように図書館には利用者が集まりだした。
 どう見ても、汐耶にとってこの図書館は【この世界】にとってはじめての存在であり、やっと出来上がった街の機能のようにも見えた。
 きっとこの街に来た子供達は図書館というものを利用しようと思わなかったのだろう。
 最近の活字離れを思わせるような事件だが、多分それも憂慮であって、この街に関わるような子供達はあまり勉強をしたがらず、安易に結果を望むという傾向にあるのだろうと思われた。
 中に入るのが躊躇われたが、ここで立っているだけでは解決にならないと思い、汐耶は図書館の中へと入ってゆく。
 そこは相も変わらず、汐耶の好む書籍独特の香りがした。
 整頓された戸棚に並べられる新刊は自分の知っているものとは違う。
 そっと手にとって開けてみると、それは白紙の本だった。
「やっぱり……」
 汐耶は最近の新刊をいくつか思い出したが、内容までも克明に思い出すのはやめた。
「新刊の内容を思い出して、もしくは内容を考えて、初めて本になると言うことね。って言うと、多分ここに無い本の内容を考えたら……」
 ふと、汐耶は眉を顰める。
 思いついた考えに、少し嫌な気分になった。
 自分はそんなことはしないが、子供達ならなんとなくやってしまうであろうことだ。
 誰も知らないなら、知っている本の内容を思い出して本にし、作者の名前を自分にして作家気分に浸る。
 夢に見た作家の気分になるのなら、なんと手っ取り早く、確実な方法だろう。
 汐耶にとってそれは全く意味が無く、それよりも冒涜としか思えないようなものだが、そこに【それ】がなくて自分がはじめての人間になるのなら、道徳観念の低い子供は確実にやるだろう。
「図書館にあった本……全部思い出そうかしら」
 半ば真剣に検討し始めたが、その量の膨大さにさすがの汐耶もやめることにした。
 第一、時間が無さ過ぎる。
 一体何のために子供達を甘い誘惑で集めたのか、汐耶にはわからない。
「そうねぇ……贄は、もしかしたら入り込んだ子供達自身かもしれないわね」
 強い願いは呪に匹敵することを思い出し、ますますその考えを確実なものとした。
 方向性をつけて開ける鍵さえあれば、この世界に入り込めると想定するならば、贄を集めるのには丁度良い場所だ。
 あらかじめこの世界という場を用意して、後は入る方法を広めればいいし、人の弱い部分を突くようなやり方なら広まる速度は加速していくばかりだ。
「子供なら疑う心も少ないでしょうし、願いの純度は上がる。まったく、最低ね」
 巧妙なやり口に、普段は冷静な汐耶の胸が怒りに騒いだ。
 何はともあれ、早くこの世界から出ること、もしくは世界自体を壊す事を考えた方がいいかもしれないと、そこは冷静になって考える。
 後は現実世界で、同じ時間にあった大きな変化の関連性を調べると絞れるかもしれないと考えて携帯電話を手に取った。



 現実っていうのは良いものだ。
 その男はそう思っていた。
 思い起こせば腹立たしい人生でしかなかったが、今までの成果を考えれば充分におつりがくる。
 誰もが一夜にして金持ちになり、次の一瞬にして夜露に消える世界――株式市場。
 米国債券インカム オープン・インデックスファンド225・チャイナオープンなどたくさんの商品の中で、自社の株が有力なのは誰もが知る事実だった。
 ガラスの仕切りの向こうでモニターに映し出される無数の数字を眺めやり、今日の勝利を噛み締める。
 反射光を受けてガラスは鏡の役割をした。
 金を生み出す可愛い子供達とも言えるその数字に、男はふと笑みを浮かべた。
 ずんぐりと太った小さな体の上には、丸い顔があった。細い目の奥には小狡猾そうな意思を感じさせるものがある。
 かなり高い学歴を持つ人間という印象があったが、その洗練させていない姿はどこか冴えない近所の兄ちゃんといった雰囲気さえある。
 それを思わせるのはノーネクタイの姿にあるのだろう。最近流行りのクールビズというものだが、残念ながら恰好良いとは言えない。
 男は思った。
 あくせくと働くことに何の意味があるだろう。
 結果が見えない仕事など仕事ではない。金持ちだけが新しい価値と秩序を創造りだすことができるのだ。
 ヌルい老人達が唱える不文律などには興味が無い。
 儲けたものが世界を制する。
 それが男の考えだった。
 そして、もう一度ガラスの方に視線を向け、モニターとその横に設置された機械をいとおしげに眺める。
 唸りをあげてフル回転するその機械からはいくつものパイプが触手のように伸び、時々生き物のようにドクドクと脈打っていた。
 真っ黒な溶鉱炉に似たその機械の奥で、夢と渇望と闇とが反応しあっている。
 子供達の夢はいつか自分の願いを叶える時の絶対的な力になろう。金はその時の大事な支柱となるはずだ。
 だから、男は今まで全てを捧げて金儲けに走っていたのだった。
「あぁ、これだけ貯まったか……あともう少し集まったら、【これ】を納税しなきゃならないな。しかたないか、これだけのものを揃えてもらったんだし」
 力を貸すと言って置いていった奴等が、幾ばくかの資金と【このエネルギー】を貰い受けに来る日も近い。
 そうなったら自分の夢も近づいてくるのだ。
 男はテーブルの上に乗っている黒い鳥居とおみくじの箱、そして狛犬の置物に目をやる。そして視線を外した。
「新しい呪法はまだかな♪」
 男は窓の外で瞬く東京の夜景を眺め、そう言って笑った。

●事務所にて
「どうしたのかしら……」
 繋がらない電話を手にシュライン・エマは武彦への思いを募らせた。
 昼食と夕食はどうするのか訊こうと思って電話したのだが、何度かけても一向に繋がらない。
 携帯GPS機能から位置把握すれば、それほど遠くない場所にいることはわかる。
 だが、こうも電話が繋がらないのはおかしかった。

――何も無ければいいけど……無事でいて……

 何故か嫌な思いが駆け巡って、シュラインの心を捉えて離さない。
 嫌な予感ほど良く当たるというが、そんな予感なら当たらなければ良いのにと思った。
 塔乃院にどう思うか、また蟻ぐらいの大きさの極小の式神が作成可能か確認たいとも思っていた。
 携帯電話を手に取った時、ふいにそれが鳴りはじめた。
 シュラインは震える手でボタンを押し、小さな声で誰何を問う。
「も、もしもし?」
『あぁ、よかった。私よ、綾和泉です』
「汐耶さん!? あー、誰かと思ったわ。ちょっと聞いて欲しいの、武彦さんが電話に出なくって」
『え? 電話に出ない?』
「そうなのよ……なんか、嫌な感じがして」
『じゃあ早く見つけなくっちゃいけないわね。そうそう、こっちも収穫ありよ』
「何か見つけたの?」
「図書館よ。しかも、曰く付きの」
「曰く付きって? 呪いとかかかってるようなものなの?」
 何かありそうな汐耶の発言に、シュラインはおっかなさそうに首を竦めて見せる。
『説明しづらいのだけど……多分、何も無かったところに私が『図書館』って言うものを想像したら、現れたのよ』
「あ、現れたの?? どうやって?」
『そうねぇ、最初はビルの……粘土細工みたいな感じで。『こういう図書館』って言う風に私が考えたらその通りの図書館になったのよ。本だって、開けたら白紙でね。私が『こんな内容の本』って考えたら、その通りの本になったと思うわ』
 そして汐耶は自分が考えた仮設をシュラインに話して見せた。
 しばらくシュラインは黙っていたが、深い溜息を吐いて言った。
「私が翻訳した本も図書館にあったのに〜〜」
『まあまあ、気落ちしないで。この世界は多分、箱庭みたいなものだと思うのよ。どこもかしこもが中途半端なんだと思うわ。現実じゃないのよ』
「そう願うわよ〜」
 あの苦しかった徹夜のことを思うと涙も出ない。
 シュラインは武彦を見つけ出し、子供たちのためにも早く事件を解決して現実社会に帰ろうと思うのだった。
『ところで、草間さんは何処に行ったと思う?』
「そうねぇ……神社。そう、詩織yたんが巫女さん姿だったから、そこに行ってるかも。六丁目辺りの地図が出てるから、その辺で神社があったら――そこね。たぶんだけど、この事件の首謀者は子供丸め込むのに長けた相手の様だし。知らずに望みをすり替えられたり、上手く使われてる可能性があるかもしれないわね」
『形の無いところを子供の願望で補ってるようだから、不完全で未熟な世界をご希望のようだわ』
「やっぱり……生贄なのかしら?」
『こんな世界を創り上げるぐらいだから、その筋は大いにありだと思うわ』
「閉じた世界での捕獲……それを捕食と受け取ると、現実世界の貯蔵庫と繋がってるかも。うわぁ〜〜〜、その考えって自分の考えながら怖いわ」
 ぶるりと背を震わせると、机に入っていた工具箱の中からテグスを取り出した。
 あらかじめ持ってきていた聖水にテグスを浸し、ビニール袋に入れてポケットにしまう。持ってきていた護符をポケットにあるか確認し、シュラインは覚悟を決める。
「じゃぁ、汐耶さん。六丁目の神社で会いましょ」
『えぇ、わかったわ。じゃあ……』
 そう言うと汐耶は電話を切った。
 シュラインも電話を切り、事務所を出ながら塔乃院に携帯で電話をかけた。

●考える猫
 セレスティー・カーニンガムは猫に姿を変え、この仮想世界に存在していた。現在は首輪に発信器を付けている。
 発信機は塔乃院に渡してある。
 不明なところは多いが、かなり強い能力者と前々から思っていたので、彼に渡しておくのが妥当だと思われたのである。
 何かあった時に自分では心許無い。
 故に安全策と思えた。
 理想の世界で行方不明になった人は、知り合いの記憶から居なかった事になっているのではないかとセレスティーは思っていた。
 居たことは戸籍等には残っていると思っていたのだった。

――鳥居を世界へと入り込む儀式で、願望を取り込み、その後、黒い物に取り込まれて使いやすい様に変換、現実の方に戻る。そう考えると丁度良いですねぇ……

 何やらエネルギーに変換させている様に思えて仕方が無かった。
 実体を中で取り込んでいるので、現実において存在が稀薄なのではないかと思うのだが、一人で行動していてはその考えを話す相手がいなく、考えるに留まるだけであった。
 ふと草間武彦の携帯は現実で何処にあるのか気になったセレスティーは、発信器を町内にばらまいて、現実において何処にあたるのか調べてみようとした。
 あらかじめ用意しておいた発信機を一個一個ばら撒いていく。
 十個ほどばら撒いたところで、塔乃院が不意に現れた。
「にゃーん♪」
 セレスティーは丈高いその姿を発見すると嬉しそうに啼いた。
「お、お前……何をしている」
「にゃ?」
 小首を傾げるような動作をすると、セレスティーは塔乃院を見上げた。

――発信機をばら撒いているのです♪

「ばっ、ばかやろう! 俺が混乱するだろうがっ!!」

――あ〜……

 受信機を手にした塔乃院を見るや、困ったようにセレスティーはうろうろした。

――でも〜、犯人は手の届く範囲で実験をしていると思って……

「わかったわかった……しかたないな。俺はお前が攫われたかと思ったぞ」
「にゃぁ〜ん……」
「あまり心配させるな」
 そう言うと、塔乃院は猫になったセレスティーに軽くキスをした。

●六丁目
「私はこの世界を把握したら、『閉じ込められてる』と言うことを『封じられてる』と解釈出来るのかもしれないと思っているの」
 汐耶はシュラインと合流した時にそう言った。
「まあ、そうなれば何とかなりそうよね……って言う考えから来ているだけど」
「それもアリだと思うわ。だって、意外と現実ってシンプルだったりするもの。閉じて出さないのは封じられてるのと同じだわね」
 シュラインは同調して言った。
 鳥居の先は社。
 最も怪しい場所へと二人は向かった。
 鳥居くぐる前、適度な場所に聖水に浸したテグスを括り付けた。
「さて、行きましょうか……」
「シュラインさん!」
「あ、亜真知さん……」
 聞き覚えのある声に呼ばれ、二人は振り返る。
 そこには巫女姿の榊船亜真知が立っていた。
 単独で探査を続けていた亜真知は二人の波動が六丁目に向かって移動していたのに気がついてやってきたのだった。
 無論、弟子(仮)の詩織が自分と同じ巫女姿だったのもあって神社にやってきたのだったが。
「よくわかったわね」
「えぇ、GPS機能付きの携帯をわたくしも持ってますし、お二人が合流しているのにも気がついてましたから」
 そして、探索中の一息の際、興信所に連絡を取り草間の行方不明を知ったのである。
 神社の庭で武彦の携帯を見つけた。
「あった、武彦さんの携帯だわ」
「ビンゴ……ね」
「えぇ」
「そう言えば……わたくし、探索を進める中で『理想の世界』は首謀者が何かを得る為の一種の箱庭の様なものではないかと考えましたの」
「え?」
「独自の呪法を広めて神隠しを引き起こし、理想の世界で取り込む事で何らかの力を搾取する為のものではないのかと……極めて簡単ですわ。でも、それだけの大掛かりな仕掛けを作るのも、呪法を編み出すのも手間でありますし、単独犯ではないような気が……」
「そ、そうね」
 『単独ではない』との亜真知の言葉に、シュラインたちに緊張が走った。
 貯めたエネルギーの大きさはわからないが、それを貯蔵し運用しようとなればかなりの人数になるのかもしれない。
 犯人は子供の姿になることができるとの考えもあって、底知れぬ恐怖を感じていた。
 無形から有形に。
 未熟な世界を未知のものに。
 あの図書館が変わっていく姿を思い出して、汐耶は眉を顰めた。
「私たちで大丈夫かしら」
「お手伝いさせていただきますわ」
 亜真知は優雅に微笑んだ。
「じゃあ、迷っていても仕方がないわね。行きましょ……」
 シュラインは社まで歩いていくと社扉を途中閉まらない様に外してしまった。
「シュラインさん……やるわね」
「だって、閉じ込められるの……怖いんだもの」
 シュラインは苦笑した。
「待ってくださいませ!」
 亜真知の声に二人は振り返った。
「な、何?」
 例の痕跡を感じ、亜真知は草間達を飲み込んだ闇が奥のほうで蹲っているのを感じていた。
「離れてくださいませ……」
「あ、え……あぁっ!」
 社一面に広がった闇が、獲物を入れた大きなズタ袋のように蠢いている。
 緩慢な動きに相手を騙そうとしているのだろうが、亜真知はそのようなことに騙されはしなかった。
 闇が――哄笑った。
 声無き声が嘲笑う。
 にたりと笑う闇からは、てんでバラバラな方向に人間の手足が突き出し、それが揺ら揺らと揺れている。
 たくさんの目とたくさんの口が、目隠ししたまま子供が貼り付けたかのように散らばっている。
 奇怪な……と形容するのも言葉に対する冒涜のようにも思える姿だった。
 それが美味しそうな獲物を見つけ、機嫌よく笑っていた……ように見えた。
「きゃぁああああッ!!!」
 いきなりシュラインはテグスを持った腕を振り回して叫びだした。
「来ないで、来ないでッ!」
「ど、どうしたの!?」
「いやああああッ!」
 まともに見てしまったシュラインは、その化け物に配置された、目や口が何を意味するのか考えてしまい、その考えに一時的に発狂してしまったのだった。
「しっかりして!!」
「しかたありませんわ……」
 亜真知はシュラインを気絶させると、後方に引き摺り、怪我をしないように横たえた。
 狂気としか思えない化け物の姿に、至極真っ当な精神と理性を持ったシュラインは我を失ったのである。
 亜真知は超高位次元知的生命体ゆえにそうしたことは起こらず、汐耶もある程度、封印を得意とし、要申請特別閲覧図書である曰く付の本や魔術書の管理を一手に引き受けているために正気を失うことは無かったのだった。
 亜真知は理力全開で飛び込み、救出に尽くした。
 汐耶も遅ればせながら飛び込んでいく。
 封印できるものであれば恐るるに足らず。怖いと思う気持ちは自然と起こらなかった。
「草間さん! 詩織ちゃん!!」
 詩織を抱え、闇の中を必死で這いずる武彦を汐耶は発見した。
 亜真知は2人を確認すると神気で包み、思いっきり引っ張った。
 理力を全開にした亜真知の前では、化け物は無防備に腹の中を見せているようなもので、、無論、亜真知は容赦無く化け物を内側からひっくり返し始めた。
 腹の身をひっくり返され、奇妙な悲鳴を上げて蠢いていた化け物は、汐耶の封印によって捕縛されていく。
 同時に、落ちたシュラインの髪飾りとGPS機能付き携帯電話がその化け物と一緒に封印され、その胎動を化け物は止めることなく今でも動いていた。
「この闇は首謀者に繋がっていると思うのですけれども……」
 亜真知は言った。
 直接、その首謀者のもとに跳ぼうと思っていたのだが、裏返った化け物の力はこの世界にある種の異常事態を引き起こしていた。
 元々歪んだ世界が更に捩れ、理力の作用も加わって『この世界』と『もう一つの世界』を壊し始めている。
「まさか……」
 それに気がついた亜真知は、珍しくも深く眉を顰めていた。
 徐々に暗くなっていく世界の中で、シュラインが持っていた護符だけが明けの明星のように輝いていた。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ / 26 / 女 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1449/綾和泉・汐耶 / 女 / 23歳 /司書
1593/榊船・亜真知 / 女 / 999歳/超高位次元生命体:アマチ…神さま!?
1883/セレスティ・カーニンガム/男/725歳/ 財閥総帥・占い師・水霊使い


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■         ライター通信          ■
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 お久しぶりです、朧月幻尉でございます。
 半年ぶりとなりましたが、皆様、ご健勝でおられましたでしょうか。
 私は元気……とも言い難い今年前半を過ごし、やっと筆を持つ(キーを打つ?)ことができるようになりました。
 お待ちくださったお客さまには大変申し訳なく、そして、感謝しております。
 私が書く作品で楽しんでいただけましたならば幸いでございます。
 今回は『閉じられた世界がひっくり返ってしまって、ついでに世界ごと封印しちゃった』と言う結果になりました。
 二つある世界の内の一つの、偽物でエネルギーを吸い取る為に作られた、言わば海鼠の腹の中みたいな世界がひっくり返ったらどうなるかお考え頂きますと、今後の事件が大きなものになると想像できるかと思います(笑)
 どうしてこのような化け物がいるのかは、語る機会がありましたら執筆させていただきます(タイミングによっては書けなかったり;)
 それでは機会がありましたらば、次回作でお会いいたしましょう。

 朧月幻尉 拝