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上手なカニの食いつぶし方。
------<オープニング>--------------------------------------
興信所には蟹がいっぱい動いていた。
「蟹も良いが、流石にこの量は食べきれない」
と草間は言う。
事件のお礼として送られて生きたのがカニ。1杯云万円もするともいわれる高級カニ。しかも生きている。
なにせ、クーラーボックスから這い出して草間の髪の毛を挟んでいたり、ところ構わずワサワサ動いては泡を吹いて動いていたりするのだ。
蟹臭いのに耐えかねた、五月と焔は何処かに逃げている。
いまでも冷蔵庫にも倉庫から引っ張り出したクーラーボックスにも入りきらない状態で、応接間で蟹が泡を出しており、まさしく蟹蟹ランドとなってしまった。
それから数時間後……。
かわうそ?から蟹を飼育するのに十分な水槽を借り受けて、なんとか収まっている。
活きがよい蟹。
さて、生で食えるのか? いや、活きが良いので大丈夫だろう。
ヤッパリこの熱いときにも鍋で蟹なのか?
草間兄妹は考えていた……。
《わさわさ》
「と、集まってくれたわけだが……いたい、いたい」
あふれ出た蟹が草間の身体を使って登る。逃げる蟹もいるが、周りが蟹臭い。
「まずは、1杯ずつ、紐で縛って動けないようにしましょう。武彦さん」
シュライン・エマが蟹を縛るためにかなりたくさんの量の紐を持って出てきた。
「蟹ねぇ……。一度に余り大量に食すものじゃないわよね」
と、やや苦笑気味。
シュラインは、この惨状を目の当たりにして、急遽コンビニやスーパーに紐を買いに行っていた。あふれ出す蟹を前に既に被害に遭っていられるお方第1号。これだけ沢山居るというのはある意味嫌がらせなのかとか思う。
そして被害者残り2名という分けだけではないらしい。
ジェームズ・ブラックマンは無表情でわさわさ動く蟹を掴んでいる。もちろん軍手をはめている。蟹の甲羅はかなり痛いのだ。
「これだけあると食い尽くすモノではないし、ありがたみがなくなるというモノだろう」
と、クールにコメント。
交渉人だとか何だとかという謎の男であるが、まあ、今回の役職には関係がない。
ちなみに小麦色は怯えている。否、ジェームズにではなく、施祇刹利の視線に。その目は「非常食?」とか描かれている模様。
「美味いのかな?」
「蟹はおいしいが?」
ジェームズは真顔で言う。
「いや、あの隅に隠れているかわうそのようなもの」
刹利は隠れているかわうそ?を指さした。
|Д゚) かわうそ? うまくない!
|Д゚) 食うなら蟹を!
「たしかに、カワウソは食用にされていたということがあったが? さて、あの喋るものは……いかがなものか」
真剣に考えるジェームズだが、いまは蟹をどうするかが優先事項だ。
ちなみに今回は沢山の軍手を持ってきているために、刹利の能力もかなり抑えられる。実際手袋がたえられる時間が分からないのが難点だが。そのために沢山用意しているともいってよい。
「おまえらかわうそ?に構ってないで、って、作業だけはして居るんだなって、ジェームズ! 俺に蟹を頭の上に置くな! 痛い! 痛い!」
「はっはっは、Mr.の手が止まっているじゃないか」
「止めているのは誰だよ!?」
草間が蟹まみれになっているのは実はジェームズの所為。いや、1杯ずつ素早く締めている彼だが、其れだけでは詰まらないと草間いじりも忘れない男。
刹利の方は元から自分の生い立ちからの事情から様々な作業にたいして、要領が良く、素早いのだ。
水槽やらクーラーボックスに重ねされる蟹。一寸したどころか大宴会でも出来るのではないかと思われる。
「さて、何杯かは周りの方達に配りましょう」
シュラインさんが言う。
元気よく返事するモノやら、静かに頷くモノ、隅の方で怯えるナマモノなど様々な返事がした。
食いつぶせるモノではないし、これはしばらく飽きる。
「カニかま……」
施祇が呟く。
「ふむ、かにかまぼこを作るのか。それも良い案だが」
ジェームズなにげに草間を見る。
草間は嫌な予感がするが無視しようと考えた。
「山の中で育ったから、其れがおおかったんだけど。作り方分かる? ボクの家では聞いたら『秘密だ』って目を逸らすんだよ……」
と、周りをみるが、
「その蟹かまぼこってどんなモノ? こういうモノ?」
シュラインが冷蔵庫の中から一つのかにかまぼこが。
「あ、それ、それ!」
頷く施祇。
「これね、魚肉かまぼこに蟹風味を付けただけのモノなのよ。誤解されていることもあるのだけど、蟹の肉みたいに下だけのかまぼこなのよ。かにかまは」
苦笑するシュラインさん。
かにかまは、よく見かけるモノとして、普通のかまぼこを蟹の肉に見せかけたものが多い。一部では蟹の肉を入れているモノもあるが。
「え? そ、そうなんですか!? 蟹とは思えない不思議なアジを……」
悄気る施祇。
「これで本当に蟹かまぼこが作れるとおもえばいいかなぁ」
「なに、少年。これだけ有れば草間が蟹かまぼこを作ってくれる。安心するんだ」
「そんな技術俺にはない」
やはり反応してしまう草間。
そんなやりとりをしながらも、4人は沢山の蟹を持って(零はお留守番)、ご近所や知り合いに蟹を差し入れに向かったのだった。それで、大体自分たちで食べる量は残っている。
そこが、あやかし荘だったり、瀬名雫の家だったり、碧摩蓮の店だったり、高峰研究所だったりと様々なところに配った。それぐらい配っても、問題ない。それに、
「迷惑をかけていますからね。お兄さん」
と、零ちゃんが言うぐらいだし。
《蟹尽くし》
「で、生で活きの良いカニというならやはり刺身だろう」
ジェームズは真面目に言っている。
「其れだけでは勿体ない気がするわ。ここはやっぱり」
「かにしゃぶ……」
シュラインと刹利が言う。
「いや、蟹尽くしなんだ、どんなモノでも良いだろう」
「かにかま?」
「否、其れは作れないって……」
草間はため息をつく。
「さっそく、しゃぶしゃぶに刺身を作りますか」
シュラインとジェームズが台所の方に向かった。
「武彦さん、野菜が足りないから、買ってきてくれる?」
と、シュラインさんが言う。
「ああ、わかった。行くぞ、刹利」
「……あの非常食は?」
刹利はまだ小麦色が気になっているようだ。
「アレは放っておけ!」
「非常食だからか」
「だからアレは食い物と違う!」
と、メモを渡された二人は出て行った。
「やはり食い物なんだな……」
ジェームズはかわうそ?を見ている。
「いいえ、ちがうわ……」
シュラインさんは苦笑した。
かにしゃぶ用の野菜や、ポン酢、刺身セット、お酒も買ってきた。一寸した宴会になる。
「蟹味噌酒とかはどうだ?」
草間が言う。
「おお、忘れていた」
ジェームズがぽんと手を叩いた。
蟹味噌酒はうまそうだ。
「お酒か、いいなぁ」
刹利君は飲めません。
二人が買ってきているときに甲羅から身を捌くのはジェームズとシュラインで行っていた。ジェームズは、かなり器用で1杯を簡単に刺身にする。素早く甲羅から身を取り出し、冷水につけるその手際の良さは目を見張る。
「上手ね」
「なに、なれているモノで」
主夫にむいているのかしら? と思うシュラインさんであった。
しゃぶしゃぶ用(鍋)野菜をざくざく切り、刺身の肴などもジェームズは丁寧に繊細に切っていく。男にしてはかなり繊細な料理を作る感じだ。
「板前修業していたのか?」
と、草間が訊くが、ジェームズは目だけで草間を見るだけであった。其処が一寸怖い。
蟹の身体の一部を、ボイル焼きに集中する施祇に零。蟹の香ばしさが興信所を包む。大人はお酒が欲しくなってきた。
そして、昆布だしの鍋が温まってきた頃。
「さて食べよう!」
ということになった。
今日の蟹尽くしのメニュー
蟹の刺身、ボイル焼き、しゃぶしゃぶ、水炊き。後に蟹雑炊が待っている。蟹しゃぶと蟹鍋の両方があるのは、今年の春は気温の差が激しいことからシュラインが提案したのだ。
「ま、酒がうまく飲めるなら」
と、かなりこっている刺身をつまむ草間。綺麗な芸術品を惜しげもなく食う。ジェームズ作の刺身だ。
「ホント繊細よね」
感心するシュライン。
刹利はかにしゃぶに集中している。かにかまのなぞに名特が入ったので後は食うだけだ。一寸残念だけど、と。
ご飯を水で洗って待っている零。当然、ほくほくと蟹を食べている草間兄妹。シュラインもおさんどんをしながらもしっかり食べている。
これといって、大きなトラブルもなく、夜は更けていったのだ。
《先のこと》
草間の家にある冷凍庫には1杯程度の蟹が捌かれて凍っている。後に蟹のパスタや蟹あんかけ等に使えるからと言うことだ。
それでも草間達は必死に、掃除している。
其れは何故か?
蟹がうごめいていた蟹臭さがまだ取れないのだ。絨毯やら色々……。ちなみにシュラインもジェームズも刹利も服などに付いたかに臭さを取るのに苦労したとか言われている。
何でもかんでも一杯になるのはほどほどだよなぁ……とか思う人は多かったとおもう出来事だった。
美味かったから良いのだが……。
END
■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【5128 ジェームズ・ブラックマン 666 男 交渉人&??】
【5307 施祇・刹利 18 男 過剰付与師】
■ライター通信
滝照直樹です。
『上手なカニの食いつぶし方』に参加して頂きありがとうございます。
ジェームズ・ブラックマン様、初参加ありがとうございます。
やはり季節柄に、カニしゃぶしゃぶがメインなのでしょうか。
書きながら「ああ、蟹を食べたいなぁ」とか思っていました。でも、カニは何時の季節も高いなぁと想いながらスーパーのカニを見ております。
では、又の機会が有ればお会いしましょう。
滝照直樹拝
20060507
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