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櫻闇
「あなたと共闘だなんて最悪です」
「俺も最悪だ、同じだな」
「喜ばれたら困ります、先生の言いつけでなかったら絶対ありえませんこんなこと」
ぎっと二人の視線はばちばちと火花を散らせている。
「一分以上レキハと一緒にいるなんて耐えられません」
「俺もだ、零時ぴったりだぞ、とろとろすんなよお前!」
「一本櫻の木の下、あなたがヘマしなければ間に合います」
キィンと高い音が響く。
張り巡らされた硬質の糸、そして四方八方から飛んでくる暗記。
空海レキハと凪風シハル。
それぞれの得物を振り上げなぎ払う。
任務に妨害があるのは慣れっこだった。
けれども今日のそれは中々にしつこい。
「おい、多くないか!?」
「うるさいです」
シハルの言葉にレキハが何か言い返そうとした瞬間。
死角から飛ぶ暗記。
反応が一瞬遅れてあたる、と思った。
だけれどもそれは、一つの影が舞い、そして何かに弾かれたような音と共に地に落ちる。
「危なかったな、大丈夫か?」
「え、ああ、誰か知らねーけどあんがとな!」
気にするな、と現れた人物は良い、二人の手助けをする。
バンダナを硬質化させ飛んでくる武器を弾き飛ばしたりとその腕は中々で、二人も興味深そうに視線を送る。
あらかた、妨害を排除するとおのずと三人は互いを見合った。
「妨害を受けていたようだから助けたんだが……邪魔だったか? 俺は阿佐人悠輔」
「いえ、ありがとうございます。レキハと一緒では正直辛かったので。私は凪風シハルと言います」
ぺこりと頭を下げて名乗ったのは銀髪の女。見た目は悠輔と同じくらいだった。片目を眼帯で覆っている。
「んだよその言い方。俺は空海レキハ。呼び捨てでいーぜ」
シハルの言葉に不服そうな表情。ばさばさの金髪をかきあげながらレキハは言った。
「ああ、レキハにシハルだな、よろしく」
「……あなたも……一本櫻の元へ? ここ、一本道で先には櫻しかありませんよ?」
「櫻……ああ、そうだな。ちょっと気になることがあって。お前達もそうなのか?」
「俺たちは零時に人と会う約束があるんだ。お前……とじゃないよな」
それはない、と悠輔は言う。
悠輔は夜闇の中、花を咲かせている大きな櫻の木、そしてその前に立つ巫女の夢が強く印象に残っていた。
それがひっかり、櫻を確認しに行こうとしている途中だった。
「目的地が一緒……みたいですね」
「みたいだな……またさっきみたいな妨害はあるのか?」
「それはわかんねーよ」
手に持った刀を肩でとん、としてからからとレキハは笑う。
と、その隣でシハルが大きく溜息をついた。
「まったく……お気楽ですね……危ないですから、帰られた方が良いですよ」
「そう言われても、行くって決めてある」
「一緒に行っちまえばいーだろ、協力ってやつ」
「あくまで同じ目的地に向かうために協力する、か。お前たちの用事には俺は一切関わらない。これならそう問題にはならないんじゃないか?」
悠輔はそう少し納得できないような風のシハルに言う。
シハルは、少し考えてからわかりました、と答えた。
「よろしくな」
悠輔は表情を少し和らげながら言う。
「じゃあ行くか、あと三十分もない」
「そうですね、足を引っ張る人がいますからね」
「それ俺のことかシハル」
あなた以外に誰がいますか。
そんな視線をシハルはレキハに投げつける。
びりびりと今にも二人、いがみ合いそうな雰囲気。
これはまずいと悠輔は感じる。
「まぁまぁ、急ぐんだろ? 揉めてちゃ間に合わなくなる」
ここは二人とも抑えて、と苦笑しながら宥め、悠輔は先に歩き始める。
悠輔の言うことはもっともで、レキハとシハルは一瞬目を合わせ、そして悠輔の後ろを付いていく。
自分の後ろでばちばちと火花が散っているのを感じながら悠輔は苦笑した。
「あ、お前何笑ってんだよ!」
「や、なんでもない、なんでもない」
「何かある、何かあるぞ」
つかつかと歩く速度を速めてやってくるレキハから顔を隠して笑いを押し殺す。
「おふざけしてる場合じゃありませんよ。ほら」
と、後ろから静かにシハルの声がかかる。
その言葉に緊張した空気が漂う。
「おい、後ろ任せたぞ」
「彼女じゃなくて俺に?」
「信用できないんですよ、私が」
「してたまるかっての!」
その言葉を皮切りに三方に分かれる。
現れたのはいかにも怪しげな黒服たち。
数は相手のほうが圧倒的に有利だ。
「勝負だな、俺の方が多く倒す」
「ありえません」
「おいおい……」
こんな時まで競争か。こんな時だからこそ競争なのか、と悠輔は思う。
悠輔はさっとバンダナを取り出して振る。
飛んでくる弾丸をそれで弾き飛ばして懐へ入り急所へ一撃。
その後ろでシハルが大鎌で薙ぎ、レキハは刀で一閃。
ばたばたと倒れていく黒服たちに連携と強さは見られずあっという間に終わってしまう。
「四人」
「四人です」
「悪いな、俺は五人」
同数のレキハとシハルを悠輔は上回る。
二人とも瞳をパチクリとさせたあと、ちょっとばかり悔しそうだった。
「俺が勝っちゃって悪いな」
「いえ、私の力不足ですから」
「すっげ悔しい」
こうしてひと悶着ありつつも、三人は櫻の木へと向かう。
「零時まであと五分だぞ、間に合うのか?」
「危なさそうだからこうして走ってるんじゃないですか悠輔さん」
「それもそうだな」
全力疾走。悠輔は付き合わなくても良いと言われたのだけれどもなんとなくこの二人と一緒だと面白そうだと思い共に走る。
息が切れそうだ、そう思った頃その櫻の姿が見えてくる。
ぼうっと、灯りも無いのにその櫻は、光っている。
それは櫻の花弁だった。
「と、零時ぴったり……」
だん、と櫻の幹に手をつきながらレキハは言う。
ちょっと乱れた息をそれぞれ整えて、櫻を見上げた。
はらはらと落ちる桜の花弁。
「あ」
「先生、なんでここに……」
と、櫻の木の枝の上。悠々と座って三人を見下ろすもの。
二人の口ぶりからどうも知り合いらしく悠輔は誰だ、と思う。
「はい、試験終了。とりあえず合格ということにしておきます」
「え」
「試験……だったんですか……」
脱力、というのかレキハとシハルはぺたりと地面に座り込んで盛大な溜息をつく。
その傍に、軽やかに木から飛び降りたものは立つ。
「見てましたよ。二人がお世話になったようで。そして巻き込んでしまったようですみません」
「いえ、ここへ来るのが俺の目的だったんで……」
苦笑しながら言われ悠輔も笑う。
「俺の方こそ、試験を邪魔したみたいですみません」
「ああ、いいんですよ。試験なんてまたすればいいんですから」
「お前達の用事は……なくなったみたいだな。俺も、何かあるかと思ったんだが何もなさそうだ」
悠輔はあたりを見回す。
巫女、それに値するような人物はここにはいない。
あの夢はなんだったのか、それはわからないままだ。
そのうちまた、何かあれば夢は見るはずだ。
そんな気がしている。
「さ、帰りますか。二人のどちらがスタート地点に先につくか競争です。あなたもやりますか?」
「俺も? そうだな……楽しそうだな」
「はい、決まりのですね。二人とも立ちなさい」
レキハとシハルはそう言われて立ち上がる。
悠輔、レキハ、シハルは真横に並びいつでもスタートできる体制をとった。
「それじゃ、よーい、どん!」
ちょっとばかり間の抜けた合図で三人は一斉に走り出す。
もと来た道を走り抜けて。
それを後ろから見守るのは二人の先生と、櫻の木。
そして少し離れて微笑ましくそれを見る、陽炎の様な巫女の姿だった。
<END>
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【5973/阿佐人・悠輔/男性/17歳/高校生】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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阿佐人・悠輔さま
お久しぶりです、どうもありがとうございました、ライターの志摩です。
でこぼこ二人組みとのひと時いかがでしたでしょうか? 櫻の夢OPとも微妙に絡めつつ書かせて頂きました。悠輔さまにとって楽しいひと時であれば幸いです。
それではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!
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