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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


藍玉 +出会い+



◇■◇


 4月も残すところ後わずかと言う時、1人の転入生が神聖都学園にやって来た。
 銀色の長い髪と、淡い青色の瞳をした美少女で・・・
 大人しそうに伏せられた瞳が儚気だったのを、よく覚えている。
 彼女の名前は沖坂 鏡花(おきさか・きょうか)
 家庭の事情でこんな時期の転校になってしまったようだ。

「は・・・初め・・・まして・・・。沖坂、鏡花・・・と、申し・・・ます。よ・・・宜しく・・・お願い・・・いたします・・・。」

 顔を真っ赤にしながらそう言って・・・
 彼女は有名になった。
 異常なまでに人見知りな彼女は、クラスの友人とさえ打ち解けずにいるらしい。
 最初はその容姿に惹かれて声をかける人は沢山いたのだが、直ぐにそれもパタリと止んだ。
 口篭っていて何を喋っているのか分からない、目すらも合わない。
 会話にならない・・・
 教室の隅で1人、ポツンと座っている彼女の表情は、いつも虚ろで―――


* * * * *


 陽が傾き、廊下を淡いオレンジ色に染め上げる。
 放課後の校内はどこか幻想的で、物悲しい雰囲気が漂っていた。

「あっ・・・きゃぁっ・・・!?」

 廊下に響く、か細い女の子の叫び声に足を止めてみれば、真っ白な紙が廊下を舞っていた。
 開け放たれた窓から吹き込む風に攫われて、プリントがバラバラの方向へと飛んで行く。
 その中心には、鏡花の姿。
 必死に散らばったプリントを集めるものの、風がそれを許さない。
 通り過ぎる生徒達は誰も足を止めてくれない。
 時にプリントを上履きで踏みつけ、時に談笑のために鏡花にぶつかり・・・
 それでも必死にプリントを集める鏡花。
 今にも泣き出しそうなその表情を見て・・・・・・??


◆□◆


 今日も高い空を見上げながら、オールド スマグラーはブラブラと町を歩いていた。
 時折吹く風が、春から夏に移り変わる時独特の香りを纏い・・・
 ふっと、目の前を何か白いものが過ぎった。
 紙・・・だろうか・・・?
 風に舞い踊らされ、足元に流れ着いたそれを拾い上げると、ペラリと表に返した。
 歌のコンクールのお知らせ・・・
 顔を上げれば神聖都学園の直ぐ前で、学校の中から1人の少女がパタパタと走って来ていた。
 銀色の長い髪を風に靡かせ、胸の前でプリントを抱きしめた少女がオールドの前でピタリと止まると手に持ったプリントを見詰めた。
 そして、シドロモドロになりながら言葉を紡いだ。
 「あ・・・あの・・・」
 「あぁ、これあんたのか?」
 「え・・・えっと、そ・・・そうです・・・。あ、あの、そうです・・・と言うか・・・その・・・、わ・・・私・・・のと言うか・・・あの・・・学校の・・・でして・・・あの、あの・・・」
 オロオロと言いながら顔を赤くする少女。
 「私の・・・ふ・・・不注意で・・・その・・・プリントを・・・ばら撒いて・・・しまいまして・・・」
 「そっか。」
 ふぅんと軽く頷くと、プリントを少女に差し出す。
 「あ・・・あ・・・あ・・・ありがとう・・・ご・・・ございます・・・」
 「や、別に。」
 顔を真っ赤にしながらプリントを受け取った少女。
 透けるように白い肌と、華奢な手足。
 きっと、美少女の部類に分けられるであろう少女を見ながら、オールドはふとある事に気がついた。
 少女の背中に何かついている・・・
 細い腰の向こう、風ではためく何か。
 「ちょっと・・・」
 「へ!?あ・・・え・・・えっと・・・」
 急に声をかけられて、少女が驚きに肩を上下させる。
 ・・・何だか凄くやりにくい少女だ・・・。
 「ちょっと後ろ向いてくれるか?」
 「え・・・」
 少女の瞳が不安げに揺れるが、直ぐに意を決したようにクルリと振り向いた。
 長い髪が大きく弧を描き ―――――
 ノートの切れ端に書かれた『沖坂 鏡花っていいまーす!』と言う黒い油性ペンの文字。
 セロテープで貼り付けられたソレは、明らかに悪意が含まれているように思える。
 「あんた、沖坂 鏡花っつーのか?」
 「・・・え・・・?あの・・・な・・・何で・・・」
 怯えるように鏡花がそう言って・・・オールドは鏡花の背中からピっと紙をはがした。
 「あっ・・・」
 決して内容は見せていないにも関わらず、鏡花は全てが分かったように視線を落とした。
 「イジメか?」
 「そんなんじゃ・・・ないです・・・。」
 「でも・・・」
 「わ・・・私、最近転校して来た・・・ばっかりで・・・だから・・・だから・・・」
 どう言ったら良いのか分からないと言うように、鏡花が唇を噛んだ。
 瞳が今にも泣き出しそうなほどに潤み、細い肩が小刻みに震える。
 ・・・きっと、イジメられているのだろう。
 オールドはそう思うと、小さく溜息をついた。
 まぁ、これだけオドオドとしていれば、イジメの標的にされないほうがおかしい。
 合わない視線が鏡花の心を代弁しているようで、きっと・・・人によってはイライラするのだろう。
 「あんたさ、もっと自信を持って喋った方が・・・」
 「・・・貴方に・・・何が分かるんですか・・・。」
 ポツリ、呟いた言葉に一番驚いたのは鏡花だった。
 「あ・・・あの、ご・・・ごめんなさい・・・あの、そんな事、言うつもりなくって・・・その・・・あの・・・。」
 オロオロと取り乱しながら、口元に手を当てて目を伏せる。
 「や、別に構わないぜ?」
 「はい・・・すみません・・・」
 どんよりと落ち込む鏡花の肩をポンと叩こうとして・・・
 その手を鏡花が振り払った。
 「あ・・・」
 驚きに染まる瞳が、初めてオールドの視線と合わさる。
 淡い青色の瞳は、哀しみと儚さを含んでおり・・・それでも、その中に宿る色は強いものだった。
 「ごめんなさ・・・っ・・・」
 「別に大丈夫だから。」
 「あの・・・、折角プリント拾ってくださって・・・それなのに、それなのに・・・私・・・。」
 小さくなって謝るその姿を見て、オールドはどうして良いのか分からなくなった。
 どんな言葉をかけても、鏡花には伝わらないだろう。
 「俺、オールド スマグラーっつーんだ。」
 「へ?」
 急に名乗り出したオールドを不思議に思ったのか、ポカンと言う表情で顔を上げる鏡花。
 ・・・視線は未だに合わないけれども・・・
 それでも、小さく丸まって謝罪の言葉を繰り返す彼女よりは断然良い。
 「あの・・・??」
 「あんた、沖坂 鏡花っつーんだろ?なんかさ、名乗らないのがフェアじゃない気がしてな。」
 「・・・そんな・・・」
 ブンブンと首を振る。
 その度に、細い肩からサラサラと髪が流れ落ち、甘いシャンプーの香りが漂う。
 暫く恥ずかしそうに俯いていた鏡花だったが、意を決したようにペコリと頭を下げた。
 銀色の細く長い髪が風に撫ぜられ大きく広がる。
 オールドの腕にも微かに髪が絡み・・・
 顔を上げると、踵を返した。
 パタパタと走って行って・・・立ち止まり、振り返る。
 「あの・・・プリント、拾ってくださって・・・ありがとう・・・ございました・・・あと、あと・・・紙・・・も、はがしてくださって・・・有難う、御座いました・・・」
 ペコンともう一度大きく頭を下げると、そのまま学校の中へと入って行ってしまった。
 「どういたしまして。」
 小さな声でそう呟くと、オールドは暫く鏡花の入って行った学校を見詰めていた。
 手に持った紙をクシャリと丸め・・・
 ほんの少し考えた後でそれを開いた。
 綺麗に皺を伸ばし、書かれた文字を指でなぞる。
 沖・坂・鏡・花・・・・・・・・・・・・
 太い油性ペンで書かれた文字は、本来の漢字の美しさを損なっているように思えてならなかった。
 鏡の花なんて、綺麗な印象なのに・・・残念ながら乱雑に書かれたその文字からは少しもその美しさを窺い知る事が出来ない。
 「沖坂 鏡花・・・か・・・。」
 そう呟いて目を閉じれば、浮かんでくる・・・華奢な少女。
 随分と危うい印象の少女だった。
 どこか不思議な雰囲気を纏った彼女は、それでも・・・きっと、芯の強い人間なのだと思う。
 瞳の奥に潜む、強い輝きを思い描きながらオールドはそっとその場を後にした・・・。



               ≪ E N D ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6082 / オールド スマグラー / 男性 / 999歳 / 炭焼き職人 / ラベルデザイナー


  NPC / 沖坂 鏡花

 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『藍玉 +出会い+ 』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座います。(ペコリ)
 藍玉の1話目、如何でしたでしょうか?
 オドオドとしていて、キチンと喋れていないようにも思いますが・・・。
 オールド様は、プリントを拾ってくれ、紙を取ってくれた不思議な人と言う印象を鏡花は持っております。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。