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残花の灯火
■オープニング
ただ、櫻の木だけがそこにあった。古木。染井吉野のような華やかな枝振り淡い色合いな定番の花とは少し違い。赤みが強い、山櫻。それ以上の風景は視界に入らない。あったのかどうかさえわからない。ただ、闇だけがあったように思える。明るくは無かった。陽の光からは遠かった。月の光さえもあったように思えない。周りにあるべき緑すらも感じない。なのにその古木の残花だけが、灯火のようにただ、映えている。
その木の、下に。
一人、無造作に腰を下ろして古木を見上げている姿があった。和装の男。書生のような風体とでも言えば良いのか、まだ若い。後頭部高い位置で括った長い黒の髪。黒壇の瞳――否、瞳はよくよく見れば紅い。深い深い紅。黒と見紛う紅。光の加減でしかそうとわからぬ程、深い紅。
――…既に流されこびり付いた、古びて饐えた血の如く。
和装の男はただ黙して、古木の残花を見上げている。
何の言葉も無いまま、静止している。
ふと、瞼を閉じた。
そして。
唇だけを、開く。
「…貴方も、この櫻を?」
静かに、声が響く。
頭の中に。
周囲に反響は無い。ただ直接響く。
「もしそうであるならこれも何かの縁。少し、私の話し相手になっては下さいませぬか」
無理にとは、申しませぬが。
控え目な頼みが、耳を打つ。
和装の男はそれ以上は、何も言わない。
ふと、その男の手に目が行った。
――…瞳の色とは違い、もっと鮮やかな紅に、濡れていた。右も左も、両の手共に。
気付いた事に気付いたか、和装の男は静かに笑う。
何処か、諦念を感じさせる笑み。
男は再び瞼を開けていた。
今度は古木の残花では無く、そこに来訪した姿を、ただ、真っ直ぐに見据えて来る。
視線のその前。紅い色が、つと落ちる。
一滴――否、花弁。本物の小さな櫻の花弁が、そこにはらりと落ちている。
目の前。
息吹ある大地とも思えぬ、闇の中。
…否。
貴方の目の前にある、現実に。
■夢現――ゆめ、うつつ
…その濃い紅の花弁は何処から紛れ込んで来たものなのだろうか。
ふと考え込んだところで、四宮杞槙は我に返る。今の自分の居場所。暗い訳ではない。いつものように自宅の庭を散歩している。空の青さが目に映る――映っていた筈、そうだった。今日も素敵な空の色。いつものように笑顔で空を見上げている。…空を見ている。ならば今の櫻は何だったのだろう。白昼夢でも見てしまっていたのだろうか。
今の小さな櫻の花弁、何処から降って来たのだろう?
この庭にある木ではない。ならこの近くの何処かにある木? …いや、あんな木は今まで見た事は無かった。花弁が紛れ込んで来た事も無い。先程の暗い暗い闇の中にぽつんとあった綺麗な櫻。あの櫻は何なのだろう。考える。自分は何を見ていたのだろうか。…あの古木の根元に、座る人。
杞槙はふと、今佇んでいる自分の足許を見た。
今、目の前ではらりと落ちた筈の濃い紅の花弁が、ない。
ならば今見えた景色は――夢か幻のようなものなのだろうか。
そうは、思った。
それでも。
ただそれだけでは無いような、気もした。
少し考えてから、瞼を閉じる。
今見た景色を瞼の裏に映す。
一面の闇、その中にある見事な櫻の木。ただ、花の見頃は疾うに過ぎ、疎らに残花あるのみで。
その根元に座る、何もかも諦めたような目をした、和装のお兄さん。
紅に濡れた両の手が力無く。…でも、彼はその両手に怪我をして――傷を作っている訳では、なさそうで。
…いったい、何を、諦めていらっしゃるのでしょうか。
良くはわかりません。ですが、何か――とても悲しい事のように思えます。
私で宜しいのでしたら。
どうぞあなたのお話、聞かせて下さい。
現世で言葉に出す事はせず、頭の中でだけそう告げ、杞槙は再び瞼を開く。
そして。
杞槙は改めて濃い紅色の櫻が降って来た――その筈の――空を見上げる。
そしていつもの通りのその笑顔を――人懐っこい笑みを見せている。
闇の中で向けられた、控え目な頼みへの答えの代わり。あの和装のお兄さんに見せようとでも――安心させようとでも言うように。
途端。
■
再び視界が暗転した――闇の中にぽつんと佇んでいる自分が居た。私は庭にいた筈なのに。やはりこれは――ただの夢や幻では無いのだろうと思う。目の前には先程見た闇の中と同じ風景が広がっている。一面の闇、濃い紅色の花を付ける櫻の古木。その下に座る人が私を見ている。
その瞳に浮かぶ色が、何処か縋るように見えたのは、私の気のせい…なのでしょうか。
櫻の木に――和装の男に歩み寄っても足音は立つ事がない。ただ静寂がそこにある。杞槙は考えるより先に行動を起こしている。そうするべきだと思った。私がそうしてあげたかった。…だから。
彼のすぐ前にまで来られた。屈む。杞槙は自分のハンカチを服のポケットから取り出すと、古木の下で座っている彼の手を取り、そっと丁寧に拭っている。その行為に途惑う和装の男。反射的に手が引っ込められ――かけたが、大丈夫ですか? と、思わず口を衝いて出たとしか聞こえない心配げな声が杞槙の唇から零れ出ると、和装の男は途惑いを見せながらもそれ以上の行為での抵抗は見せなかった。
「…汚れます」
「構いません」
あっさり言う杞槙に、言葉以上の抵抗手段が思い付かず、和装の男はそのままでいる。少し居心地が悪そうだったのは――言葉の通りの事。…汚してしまう。そう思ったから。それも相手がたった今初めて会ったばかりの可憐な花のような少女となれば、余計に。彼女にはこの紅、怪我ではないとわかっているようだったのも、居心地が悪かった理由の一つ。己に傷が無い以上、その紅の意味は彼女もまたある程度察している筈。
なのに何も詮索しようとせず、紅の汚れを粗方拭き取り終えると――杞槙は改めて和装の男の顔を見る。
「…私、四宮杞槙と申します。あなたのお名前を聞いても宜しいですか?」
「それは――…」
名乗れるような名は持っていない。少なくとも今の自分は、名などあってもなくても同じ事。…名乗る程の者ではないなどと格好を付けている訳じゃない。ただ自分が、その名前を持ったままでいて良いのかすら迷っているからこそ、杞槙の問いを拒否したかった。
だが。
その気持ちのままに和装の男は杞槙の問いを拒否し掛けるが、真っ直ぐ自分を見つめて来る杞槙を見ると――やっぱりまた拒否する言葉の続きが出て来ない。
結局、拒否の言葉を飲み込み、和装の男は杞槙に訊かれるままに、名乗るのならば己が名乗れる唯一の名を答えている。…本当は、今の自分はこの名を名乗って良いのかわからないのに。
「…――龍樹と申します。佐々木、龍樹」
「龍樹様ですね。初めまして」
「…こちらこそ。それとすみません、その布巾」
「いえ。本当にお気になさらないで下さい。…――この櫻、とても綺麗ですね」
微笑みながら言うと、杞槙は櫻の古木を見上げる。見頃は過ぎた残花、けれどこのくらいの方が、寂しく儚げな櫻としての趣があるとも言え。…一面に咲く満開の櫻と違い、花の一つ一つが、確りと見えるのもこのくらいの時期。
この櫻、杞槙の知る、庭にある櫻とは、違う。木の幹や枝振りもそうだが花もそう。紅色がとても濃い。ここまで濃い色の櫻の花は見た事があっただろうか。いや、無い。
「…こんな櫻…今まで見た事が無いけれど、何と言うお名前なのかしら」
お母さまなら御存知だったかしら…? 家のみんなにも見せてあげたいわ。
ひとり呟きながら、杞槙は目を奪われたように櫻の古木を見上げている。満開時のような華やかさはないが、闇の中ぽつんと映える一つ一つの残花には、確かに惹き込まれるものがある。
龍樹も杞槙につられるようにして、再び櫻を見上げた。
「この櫻の名前、ですか」
闇の中、灯火の如く頼りなく揺れるこの櫻の。
それは昔、自分も同じ事を――訊いた事があったような。
「…この櫻は、山に咲く櫻の一種――紅山櫻の系統になると思われます。…ですが紅山櫻と言われる品種は本来ここまで花の色が濃くありません。濃くても淡紅色…もっとずっと白に近い色の筈。ですがこの櫻は――もう紅では無く緋の名を冠しても良いかもしれないくらい、花の色が濃いんですよね。…ですから、もう紅山櫻とも言えないような気がします」
それに山の櫻は自然交雑が進むものですから、一本一本が皆違う品種の――違う名を持つべき櫻であるとも言えますし。
これは――特に決まった名は、これと言う名が無い、櫻なんです。
「そうなんですか? …この櫻は、ここにあるものだけしかないんですか…でしたら、見せたい人に見せたいと思っても、残念ですが無理かも知れませんね。探すのが大変です。…でも」
と、そこで一度言葉を切り、杞槙は眩しそうに目を細める。
「…考えてみれば、名前なんて…小さなものなのかもしれませんね。櫻の側にしてみれば初めからどうでも良い事なんだろうと思いますし。細かい品種や色の程度なんか、どうでも良い事。外から何を言ったって、見た通りの木は花はそこにあるんですから。今目の前にあるこの姿だけでもう充分。わざわざ言葉を与えて固定しなくたって全然構わない。いえ、固定しない方が、固定しないからこそ、名前と言う枠に縛られていないからこそ――この櫻みたいに綺麗な花を咲かせてくれるのかも…。そんな気がしてきます。
あ、さっきから私ばかり話してますね。これでは私の話し相手になって頂いているみたい。…ごめんなさい、あなたのお話も聞かせて下さい」
あなたの事、教えて頂けると嬉しいです。
杞槙はそう言いながら、龍樹にふわりと笑いかける。
また、その笑顔につられるように、龍樹の方にも微かな笑みが浮かんだ。
「貴方のお話を伺う事も、私の方は一向に構いませんよ。先程、貴方に話し相手をと求めたのは――言葉通り、他者と言葉を交わしたかった、それだけなんですから」
それ以上の願いは、何も。
「…龍樹様、どなたとも、暫くお話なさっていなかったんでしょうか?」
杞槙は小首を傾げ、問うて来る。
頷いた。
「ええ。現世での私は、他者とまともな言葉が交わせる状態にありませんからね」
「…」
その龍樹の発言に、杞槙は少し考え込むよう沈黙する。ふと気が付けば、その細い指が先程拭った龍樹の手を取り、自分の両手で包んでいた。つい今し方まで紅に汚れていたその手を。仄かな温もりが伝わってくる。杞槙は無防備に瞼を閉じている。何か、祈りを捧げているようにも見える、姿。
…龍樹はまた驚いた。
けれど、今もまた、手を引っ込める事は出来なくて。
杞槙の方も、意識しての行動と言うより、無意識のままのようでもあって。先程まで龍樹の手にあった紅の意味を既に察していながらのその行動。小さな手指からの温もりと共に、まるで真っ直ぐで真っ白な心が流れ込んで来るようでもあり。
お互い、暫くそのまま黙っていたが――杞槙のその温もりが伝わるにつれ、龍樹は何かを諦めたように小さく息を吐く。
もう、降参だ。
この少女に――四宮杞槙に自分が逆らえない理由が、わかった。
大切な人と、何処か、似ていたから。
きっと、初めから――無意識の内に重ねて見ていた。
きっと私が彼女を呼んだ。
この場に。
「…杞槙さんと仰いましたね。私に、貴方の方から手を離させるだけの上手い理由が付けられる甲斐性があれば良いんですが、それはどうやら無理のようです。…きっと、これを聞いても貴方の態度は変わりませんから」
「?」
「この手を濡らしていた紅の色――血の理由を聞いても、現世の私の所業を知ってもきっと貴方は私を恐れない。…だから私は、この場に貴方を呼んでしまったんでしょうね」
この櫻の下に。
残花の古木一本をよすがの灯火とする闇の中に。
――…現世から逃れ安らぐ為の、私の夢の中に。
私は人殺しなんですよ。
いえ、人だけではない。生きとし生けるもの、もうどれだけ屠ったかわからないくらいです。
魔物――化物のようなものです。
現世の私は、きっと貴方の事も躊躇う事無く殺めてしまえると思います。
紅く染まっていた手は、その証――忘れる為の夢の中でさえ、消える事の無い、烙印です。
…ですから。
どうか、恐ろしいと思って下さい。
そしてこの手を離して、貴方の世界へ、貴方を待つ人が居る世界へとどうぞお戻り下さい。
私の迷い故、そのお心を煩わしてしまいまして…申し訳ありませんでした。
謝る。
が。
龍樹のその言葉に、杞槙はゆっくり頭を振った。
当然のように、手は、離していないまま。
「申し訳無くなんかないです。私なんかを頼りにして下さった事が嬉しいです。今日ここで、この櫻の下で初めてお会いした時から――あなたの瞳の色は何処か悲しそうに見えました。辛そうに見えました。きっと優しい人なのだと、思いました。…恐ろしい人なんて、思えません」
それに。
あなたは現世では恐ろしい事をしてしまっていると、仰いましたよね。その為に今、手が紅で濡れていたと。
でも。
それなら――それこそ『どうして今、その手が紅く濡れていた』のですか?
ここが、あなたが安らぐ為の、忘れる為の夢であるなら、無かった事にだって出来て当然の筈なのに。
なのにあなたのその手は憶えている。忘れる事を良しとしない。
その上で、そんな瞳をなさっているのなら。
その色は…貴方の後悔の表れではないのでしょうか。
心にある罪悪感故、その手が染まったままでいたのではないのでしょうか。
――…本当に恐ろしい人であるなら、そんな事は思いもよらないんじゃ、ないでしょうか。
本当に恐ろしい人であるなら、あなたの手を拭く私に対して、汚れるなんて注意、きっと、言いません。
そこまで、考えが及ばないと思います。
あなたは櫻みたいな人なんだと思います。
櫻も、ふと――怖いくらいに見える事が、ありますから。
一つ一つは、優しげで可憐な花なのに。
日の光の下では、見事で華やかな姿を見せるのに。
その根が、力強く大地に張っているのに――何処か死の匂いも、纏わり付いている。
――…私は櫻の花程潔くありません。
杞槙の言葉に対し、龍樹はそう、返そうとしたのだが。
言葉に出す直前、気が付いた。
すとんと腑に落ちた。
きっと、杞槙の言う通り。
「…ああ、それで」
何故、残花だったのか。
この櫻、故郷で自分がいつも見る時は、花咲く見頃のその時だった筈。
ならば何故、今は残花の灯火のみなのか。
まだ落ちていない花。
季節を外れ僅かに咲き残っている。
名残惜しいと。
まだ散らぬと。
まだ散れぬと。
櫻は櫻でも…残花であるなら、潔い花とは、程遠いか。
散り際を逃がした幾つかの小さな灯火。
もう季節は過ぎたのに。理は疾うに決しているのに――未練がましくいつまでも仄かな光を灯したままでいる。
…私と、同じじゃないか。
「龍樹様?」
「いえ。貴方の仰る通りなのかも知れないと、思ったまでです」
…故郷にあった古木が、今この場では残花の姿を見せるのは――私のせいなのかもしれません。
私の心を映しているが故に、今の姿であるのかも。
「龍樹様の心を映してこの櫻なんでしたら、やっぱり龍樹様は恐ろしい方じゃないです」
見事な木ですし、一つ一つの花も、こんなに綺麗に咲いていてくれるんですから。
「…私は、貴方のようなお嬢さんに優しくされる資格があるような者じゃないんですけどね」
「? …優しくされる事には何か資格が必要なのですか?」
きょとん。
不思議そうな杞槙の若緑の瞳が、そのまま龍樹に問い返している。
別に資格なんて要りませんよね? 当然の如くそう言われてしまえば、何も言い返せない。
龍樹の顔に思わず、苦笑が浮かぶ。
「…私の大切な人にも、同じ事を言われそうな気がします」
もう長い事、逢っていませんが。
…そして、もう二度と逢えないだろうと、思いますが。
「っ、逢えないなんて、どうしてそう思うんですか」
「それは。理由は――言えばまた貴方には否定されてしまいます。否定される為に――否定してもらう為にわざわざ言うのも、自分を甘やかしているような気がしてしまうので…」
どうぞ、聞き流してやって下さい。
「じゃあそれは、自分は人殺しだから逢えない、と言う事ですか」
「………………まぁ、そんなところです」
「そんな風に思うのは、悲しいです」
「…でも、私はもう、彼女の前に居た――昔の自分には戻れませんから」
「どうして、戻れないと思うんですか」
それも、さっきの『資格』や『理由』と、同じですか。
「…」
「なら、戻れないなんて、思わないで下さい」
「…そうでしょうか」
「はい。…あなたが、そう願い続けてさえいれば、戻れる筈です。逢う事だって…」
「そう、かもしれませんね」
「はい」
にっこりと笑い、頷く杞槙。躊躇いながらも同意した龍樹に、櫻ではないが、それこそぱあっと花の咲くような笑顔を見せて来る。見ている方が癒されるような、明るい笑顔。
人殺しであると告白した初対面の男に対して、良くそんな顔が出来ると思う。…皮肉では無く龍樹は本心からそう思う。杞槙にとってはきっと人殺しだの何だのと、縁遠い話であるだろう事は本人の雰囲気からして何となくわかる。理解出来るような環境の素地は無いのだとも思う。そんな話を聞かせるだけで汚してしまう事になるような、そんな育ちの少女なのだとも、思っている。
それでも、そんな龍樹の事情を――杞槙は確かに、感覚的な部分で理解していた。
だから、綺麗事のようでも、白々しくは聞こえなかった。
龍樹が話した事が、どれくらい酷い事であるのか。具体的にはわからずとも、充分過ぎるくらい気持ちの方で察してくれた上で――考えて。
それで、杞槙が、魂からくれた言葉だったから。
「では、彼女が私を待っていてくれる事を――期待しておきますか」
図々しいとは、自覚していますけれど。
それでも、貴方の仰って下さったように、諦めないで願い続けてみようと思います。
「…杞槙さん」
「はい」
「…貴方にも、現世で待ってくれている人が居る」
私の方はもう、充分ですから。
長らくお付き合い下さいまして、本当に、有難う御座いました。
静かに笑うその表情。
杞槙の耳には、少しだけ軽くなって聞こえた気がした、声。
その声が、何故かやけに遠く感じる。
目の前に居る筈の、龍樹の声なのに。
その声が次第に遠く小さくなるにつれ――何故か聞き覚えのある大切な人たちの声とその声が、重なって聞こえ始めた、気がした。
■
…呼ぶ声が聞こえる。
幼い頃から聞き慣れた、大切な人たちの声。
ぱちりと目が開くと、自分を覗き込んでいる家の皆の顔が視界に入った。彼らのその向こうには、澄んだ青い空まで見える。
自分が、散歩の途中倒れてしまっていたらしいと、杞槙はその時初めて気付いた。
心配をさせてしまって、ごめんなさい。
素直に謝る。
ただ。
同時に思う。
龍樹様――あの人もきっと、今の私みたいに、あの人の本当の世界で誰かに心配をさせてしまっている。
もうこれ以上は、私には何も出来ないだろうけれど。
それでも。
いつの日か、あの人にも本当に安らげる日が来ますように。
そして、あの人の大切な人ととも、再会できますように。
――…そう、心の奥底で、祈る。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■整理番号/PC名
性別/年齢/職業
━━東京怪談 Second Revolution
■0294/四宮・杞槙(しぐう・こまき)
女/15歳/カゴの中のお嬢さま
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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シチュエーションノベルでは御世話になっております(礼)。…その際には勿体無いお言葉も頂きまして。
今回は突発なところに発注有難う御座いました。
結果として個別になりました。
…で、何だか良くわからない話だったらすみません…。他タイアップゲーム含め、他の当方櫻ノ夢参加者様の物も見てみると、和装の男や櫻の古木についてまた色々と違った事が語られていたりもします。ノベルによっては正反対の事、全然違う事を言っているような描写に見える場合もあるかと思われますが、別にこちらの手違いと言う訳ではありません。こちらの意志でそう書いてます。
プレイング拝見しますに、PC様には色々と献身的に気遣って頂き有難う御座います、と言う以前に現実世界の状況が何やらとっても心配な感じなのですが(汗)。ってそれは櫻の下の和装の男がPC様をこの櫻ノ夢に連れ込んでしまった故なのかもしれませんけども。
和装の男が想いを寄せている相手と杞槙様、少しですが、似てらっしゃいますので。
儚げなのに優しくて芯の通った強いお嬢さま、家の方々と平穏に過ごせます事を。
少なくとも対価分は満足して頂けていれば幸いです。
では、またの機会がありましたらその時は。
深海残月 拝
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