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オーパーツ!
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アンティークショップ・レンで目に留まったのは、奇妙な物体「オーパーツ」。
正体が何かも知らぬまま、それに何故か引き付けられた。
それが、世界を破壊する鍵だとも知らずに…。
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「これは…?」
海原・みその(うなばら・みその)は、落とした照明の下で奇妙な輝きを放つ、その物体をそっと取り上げた。
久々に地上で過ごしたその日の終わりに立ち寄ったのは、およそ平凡な物など置いてあった試しの無い「アンティークショップ・レン」だった。
『御方への、お土産に』
本当に、それだけの理由だった、のだが。
相変わらずその店内には、曰く付き、と表現するも愚かしい程の、怪しげな代物が唸っていた。
だが。
みそのの目を引き付けたのは、何かが憑いているであろう人形でも、薄黒い霊気を漂わせる異国の剣でも無く、「アンティーク」という言葉からは、いささかの距離を感じるその物体だった。
金属なのか石なのか、判然としない手触り。
表面には、奇妙な法則に則った紋様が刻まれ、透明な七色に光る線状の何かが、まるで何かの配線のように縦横に走っている。
大きさは、みそののほっそりした掌よりもほんの少し大きいくらい。
まるでやたら大きなパズルの一片のように、その周囲は不規則な曲線で切り取られている。
全体の印象としては、何か大きな機械か何かから、無理矢理外して持って来た、という感じだ。
みそのは、その形や材質に、どことなく見覚えがあった。
『御方の…夢の中で…』
旧い時代の、現在の文明とは異なる原理の元に構築されていた文明によって、生み出された機械類。
彼女が“御方”と呼ぶその神の眠る「深淵」には、似たような感じのものが幾つもあり、その主である“御方”の夢の中では、より頻繁に見かける。
ある意味、彼女にとっては懐かしい…見慣れた、とさえ言えるフォルムだ。
『でも…深淵で見かけるのとは、少し違うような…御方から見れば、異国(とつくに)の機械なのでしょうか…?』
御方の元へ持っていけば、きっと教えてくれるのだろう。
そう、みそのは思った。
「店主様。こちらは、おいくらなのですか?」
「ああ、その『オーパーツ』を買うのかい?」
店主である碧摩・蓮(へきま・れん)の発した言葉に、みそのは首を傾げた。
「『おーぱーつ』? これは、『おーぱーつ』というものなのですか?」
この時代では、古代の機械の事はそう呼ぶのだろうか?
「オーパーツっていうのは、その時代には存在するはずの無い、時代を超越した物品の事さ。現代の技術でも作れない工芸品だとか、そういうモンだね」
確かに、旧い時代の物は、この時代の人間の皆様には、そう見えるのでしょうね。みそのはあっさり納得する。
「それは、一体何で出来ているのかも分からないシロモノなんだ。石なのか金属なのか、そもそも何に使うものなのかも、ね」
…やはり、御方の下へ持っていくしか、正体を知る方法は無いようだ。
みそのは、申し訳程度の金額でそれを買い取り、そのまま店を後にした。
海へ向かう。
川沿いに、ゆっくり下る。
本来なら先端を引き摺ってしまう程長いみそのの黒髪は、まるで海流にゆらめく玉藻のように、ゆうらりゆらりと宙に踊り、決して汚れることが無い。
それもまた、かの大いなる海神の加護であるのだろうか。
ビルの連なりを吹き過ぎる夜風に潮の香りが混じり始める頃。
みそのは、背後に荒っぽいエンジン音を聞いた。
『まあ、乱暴な運転ですわ。いけませんね。引っ掛けられたりしないように、端っこに寄っておきましょう…』
みそのが、人気の無い道の片側に身を寄せた瞬間、排気ガスと塵を巻き上げながら、黒塗りの車がみそのの進路を塞いだ。
「オーパーツを買ったというのは、君かね?」
車から降りてきた、いかにも胡散臭げな二人組のうち一人が、驚く程横柄な口調で話しかけてきた。
どこぞのSPのようなダークスーツに、街燈も乏しい夜道と言うのにサングラスのようなゴーグルで目元を覆っている。
「…左様でございますが…それが、どうかいたしましたか?」
不躾な態度にも、みそのはまるで揺らがなかった。相変わらず穏やかで暖かな微笑みを浮かべたまま、驚いた気振りも見せない。
人間が出来ている、と言うよりも、彼女にとって「人間の態度」など、どうでも良い事だったから。人の世に起こる事全て、彼女にとっては、寄せてはまた引いていく波の如く、ただ通り過ぎて行くだけのもの。
「申し訳無いが、それは、我々にとって必要なものなのだ。それに、それはただのガラクタではない。一般の人間が持っているべきものではないのだよ…」
話しかけて来た黒服が、背後にいたもう一人に合図を送る。
いささか若めに見えるそちらの男は、何か書き付けた物を、みそのの目の前に差し出した。
小切手だ。
そこに記されていたのは…七桁の数字。
「この金額で買取りたい。文句はあるまい?」
『あらまあ。人間には価値ある物ではないと思っておりましたが、そうでもなかったようですわ…』
みそのは、その傲慢無礼な態度の裏にあるものをいぶかしんだ。
『やはり、これは御方へのお土産にするに相応しいものなのですわ。早く深淵に帰って、御方にお見せせねば!』
ハナから、みそのは「オーパーツ」を渡す事など考えてもいない。
この人間どもが、何故これを欲しがるのかは少し気になったが、深淵に帰れば御方がこれの正体について教えてくれるだろう。そうである以上、その辺の人間の思惑など、みそのにとっては海面に浮かぶ海草の切れ端程の価値も無かった。
「申し訳ありませんが…お渡しする事はできません」
微笑みながら、だがきっぱりと、みそのはそう告げた。
「これは、我が主たる方にお渡しすべきもの。あなた様方にはお渡し出来ません…ああ、でも、こちらを置いていたアンティークショップには、色々と面白いものがございました。そちらではいかがですか?」
「…渡せと行っているんだよ、お嬢さん」
何時の間にか、みそのの鼻先に奇妙な形の銃が突きつけられていた。
横から手を伸ばしたもう一人が、綺麗にラッピングされた「オーパーツ」を奪い取ろうとした。
何か黒い物が、とんでもない速度で飛来したのはその時だった。
車にでも撥ね飛ばされたかのように、二人組が放物線を描いて吹っ飛んだ。
路上から転げ落ち、川べりの草の上にまとめて転がる。
にこにこと典雅な笑みを浮かべるみそのを守るように、ゆらゆらとその周囲で揺れているのは、黒々とぬめる皮膚を持つ蛇のような何か。
よく見るならば、それは「蛇」などではなく、すぐ側の川の流れから伸び上がって来た「水」そのものだと分かるだろう。表面がぬめぬめとうねるのは、その「水」そのものが未だ流れ続けているためだ。
「…皆さん。このお二方を、水の底へ」
笑みを浮かべたまま、みそのは「水の蛇」に命じた。
無数の首を持つ多頭蛇のような水は、真っ黒な滝のように二人に殺到する。
「おい、行けっ!!」
鋭い声と共に、何かが水の蛇の攻撃を遮った。
滅多に無い事に、みそのが微かな驚きを整った顔に浮かべた。
転がった二人組を守るように姿を見せたのは、まるで巨大な金属の塊のような輝きを帯びた、異様な生き物だった。
全体の形状は、節足動物…昆虫や、蟹などの甲殻類に似ている。
だが、その体躯が大型トレーラー程もあるのでは、最早生物学の常識を遥か彼方へ放り投げていると言えよう。
『まぁ…初めて見る生き物ですわ。ちょっとだけ、シャコに似ていますが、食べられるのでしょうか?』
思わず寿司ネタを連想するみそのに向かって、その巨大な生き物は、金属の軋みを数百倍にもしたような吼え声を上げ、長く伸びた前肢を振り上げた。その先端には、まるで金属の長大な刃物のような爪が伸びている。
地響きを轟かせる巨大生物に向けて、水の蛇が弾丸のように突き刺さった。
頭部の殻を砕くはずだった水流は、だが弾かれて飛び散っただけに終わった。
同時に、別の水の蛇に絡め取られるようにして背後に逃れたみそのを、緑色に輝く弾丸が襲った。みそのは、自らの「流れを支配する」力でその弾道を反らす。
みそのの身長ほどもある爪が、アスファルトをざくりと切断する。
水流に守られながら、みそのは後退した。
『困りましたわ。これは厳しいですわね』
あの二人だけならどうということも無かったかも知れないが、この生き物は一筋縄ではいかない。
水の中に逃れ、水流を操って一気に海まで下り、深みに逃れようか。
みそのがそう思った、その時。
上空が眩く輝き、光の塊が巨大生物の背に炸裂した。
殆ど見えていないみそのの目にも、突き刺さる光の中で、誰かが怪物の背に下り立った。
長い刃が甲殻を貫き、一瞬でその頭を落とす。
倒れた怪物の巨体に逃げ遅れた黒服が押し潰され、逃れたもう一人の上半身が、飛来したエネルギー弾に砕かれた。
「遅れてすまない! 怪我は無いか!?」
近付いてきたのは、ラバーコートに顔の上半分を奇妙なゴーグルで覆った女、だった。
その背後に、まるで機械の飛竜のような、メカニカルな外見の生物が下りてくる。
「大丈夫ですわ。助けていただいてありがとうございます」
みそのは、水の蛇を川に戻すと、その女にぺこりと頭を下げた。
「いや。礼なんか言わないでくれ。私が君に謝らなくてはいけない…。そんな物騒な物が、無関係な人の手に渡る破目になったのも、全て私の手抜かりからなんだ」
女の気配に苦悩の色が混じった。
ふと、みそのは持ったままのオーパーツに目を落とした。
「こちらの…『おーぱーつ』は、そんなに大変なものなのですか? 我が御方のお土産にしようと思ったのですが」
「…“御方”? 貴女は…ああっ!!」
その女は何かに気付いたようだった。
「はい。私は御方に仕える深淵の巫女の一人でございます。名を、海原みそのと申します」
「!! し、深淵の巫女殿!?」
女はいずまいを正し、変わったやり方で礼を返した。
左手を心臓の上に当てるそのやり方は、遠い昔に滅びた王国の礼の取り方だ。
「誠に失礼を…。私は、かつてムーと呼ばれた王国の生き残り。この時代の名は九頭神・零(くずかみ・れい)と申す。大いなる海の御方の巫女殿、此度の非礼、王族の一員として、重ねてお詫び申し上げる…」
「まあ、それでは貴女が?」
みそのは、その話を御方から聞かされたことがあった。
古に滅び去った、九つ頭の龍を主神とし、旧き龍の神々を崇める王国の遺跡が、東京湾の遥か海底下に存在する、と。
そこには、ムー最後の女王の娘が、封印されて眠っていたのだ。いつか来る、ムーの神の目覚めと王国の復活に備える為に。
眠れる旧き神である御方と、やはり旧き龍の神々を崇めるムーの者とは、古の時代には交流があったと聞いている。
少なくとも、同じ旧い時代に生きていた存在。友軍、と言える存在かも知れない。そこの王族であるならば、深淵の巫女たるみそのに親しみと敬意を持つのは当然だと言えた。
「お会いできて光栄ですわ、ムーの皇女。結局、わたくしは無傷だったのですから、あまりお気になさらずに…。それより、この『おーぱーつ』とは、一体何なのですか?」
ムーの生き残りが求めていたらしい物体。みそのの中で好奇心が蠢いた。
「実は…それは、ある古代の超破壊兵器を動かすための、キーパーツなのだ」
ゴーグルの下で、微かに顔を顰める気配。
「最近、古代文明の遺物を手に入れて、世界を支配下に収めようと本気で考えている組織が、活発に動き出した。連中はその古代の超破壊兵器を起動させる鍵である、そのキーパーツを手に入れようとしている」
「世界征服、ですか?」
本気で、そのような事をお考えになるとは。さぞ、勤勉な方々なのでしょうね…。
みそのは妙な部分で感心した。
「馬鹿馬鹿しいようだが…連中は本気だ、巫女殿。その超破壊兵器で世界を脅し、全人類を従わせようとしている。ムーの生き残りとして、そのような事は阻止せなばならない」
ふう、と溜息と共に零は説明を加える。
「それより、巫女殿…」
「みそので結構ですわ」
古の王族の方に、そんなに下手に出られても心苦しいものですわ。
にっこりと笑う。
「では…みその君。ここにいつまでもいると、先程の者たちの仲間が来るやも知れない。我が遺跡で詳しい説明もしたいのだが…」
みそのは承知した。
零がまたがっていた、飛翔する竜型の生物兵器――ハイユラというらしい――にタンデムで乗り込み、東京湾の一角、岩礁に偽装した零の遺跡の入口より、内部に進入する。
「みその君、これを」
遺跡に入る前、零が差し出したのは、オーパーツと似た材質で作られ、奇妙な美術様式で装飾された、漆黒のサークレットのような物だった。今日のみそのは巫女装束ではなくプレーンなスリップドレス姿でが、もし巫女装束と共に身に着ければさぞかし映えるだろうという色と形だ。
「これは、『装着型思考機械』というものでね。ムーの機械を操作できるようになるもの。遺跡に入るパスコードをお送りしておこう」
みそのは、御方から聞かされた、超古代文明ので使用されていたという様々な魔法科学技術を思い出した。こうした物を通じて、ムーの民は思っただけで様々な機器を自分の肉体の一部のように扱った、という。
『面白そうですわ…この件が終わったら色々と試させてもらいましょうかしら。きっといいお土産話に…』
ついでに「あの子」に使えそうなものでも一つ二つもらって帰りましょうか…。
世界が危ない状況なのに、みそのの考えは普段と全くと言って良い程違わなかった。
幅が百mくらいはありそうな巨大な通路をハイユラに乗って通り過ぎ、みそのと零は、立体映像機器が置かれた部屋に入った。
みそのに椅子を勧め、零は巨大な機械を作動させる。
光る円柱の中に、何とも奇妙な、船か建造物のようなものが浮かび上がった。
見た限りでは、とんでもなく高い空に浮いているらしい。
「これが、超破壊兵器…。何の誇張でもなく、実際の大きさは、地上最大の山ほどもあると来てる」
零が、ぐるぐると視点を動かしながら説明する。
「本来、我々がいるようなこの対流圏ではなく、成層圏以上で浮遊しながら、地表や対流圏に存在する敵を攻撃するという凶悪なシロモノ。こいつが、私の故郷を滅ぼした…」
零の気が、一瞬刃物のように鋭くなり、すぐ元に戻る。
映像が、再び角度を変える。
まるで殻を持つ海生物のような有機的な形状、表面には攻撃に使用されると思しい物は何も無い。ついでに、出入口らしき部分も見当たらない。
「鍵と仰るからには、中に人が入って動かすのではないかと思ったのですけれども…一体誰が、どうやって動かすのですか?」
わたくしには、大きな船のように見えますが、どこに「超破壊兵器」が?
みそのは質問を重ねた。
「見ていてくれ」
零が何か操作すると、その奇妙な船の表面が水のように揺らぎ、巨大な砲台のような物が、内部から浮き上がるかのように姿を現した。
「敵の攻撃に備えて、こうした砲台などの武装は分子操作技術と空間操作技術を駆使して船内に『沈めて』ある。出入り口も、搭乗者が出入りする時だけに現れる仕組みなんだよ。外から攻撃して破壊するのは至難の業って訳だ」
凝ってるでしょう? というように零は肩を竦めた。
「この船は、言うなれば無数の破壊兵器の集合体のようなものなんだ。連鎖的核融合爆発を起こす物だの、地球の核を刺激して、巨大なマントル上昇流を発生させて地上を焼き尽くす物だの…」
「…」
みそのは、微かに眉を顰めた。
彼女の脳裏にあるのは、人類滅亡の危機などではなく。
『そのような事になったら…御方がお目覚めになってしまいますわ』
地面の奥底が火を吹き上げてひっくり返れば、どんな深い眠りにある神でも跳び起きるであろう。
「深淵の巫女」たる者の、存在意義は、ただ一つ。
御方と呼ばれる、かの海神の眠りを守る事。
自らの全てを捧げ尽くして、彼女たちはその永久の眠りを守るために必要なの様々な行為を行う。人類全ての命さえも、彼女にとっては御方と比べるべくも無い、路傍の石に過ぎない。
深淵の巫女とは、そもそもが、そういうもの。
そして、旧い時代の子である零には、それは自然な信仰の一つの形と映り…従って、みそのの心持は、何ら非難に当たらないものだった。
「…九頭神様。でも、これが無ければ、この『超破壊兵器』は動かないのですね?」
みそのは、船を起動する鍵となるキーパーツを示した。
「では、わたくしがこれを御方に差し上げれば、問題無いのではありませんか? あちらはただの人間でしょう? 御方の夢に入り込んで、盗み出せるとも思えません」
だが、零は苦々しく首を横に振った。
「いや。例えそうしても、あと十年以内に、あの組織は『超破壊兵器』を起動させるだろう…」
「何故です?」
もしや、キーパーツとやらの予備でもあるのか。
「乱暴な言い方をしてしまえば『合鍵』を作るんだよ。キーパーツの模造品を作成する訳だ。難しいのだが、出来ない訳じゃない」
本当に…勤勉な方々だこと。
みそのは更に感心した。
「では、『超破壊兵器』の方を壊すしかないのですね?」
「そういう事。しかし、外側からでは事実上不可能だ」
みそのは首を傾げる。
厄介な事になっているという自覚はあるが、それ以上に彼女は面白がってもいた。
『御方になんと愉快なお土産話が出来る事でしょうか。話の先をせがむ様が目に見えるようですわ…』
だが。
お土産話で喜ばせるには、まず先に、あの五月蝿そうな船を壊さねば。
「では、内側から?」
「そういう事だ。このキーパーツがあれば、船のマスターと見做され、内部に侵入出来る…」
零は、映像装置で超破壊兵器の内部を再現して見せた。
何かに飲み込まれるように船の内部に『沈んだ』後は、何度か空間転移を繰り返し、コントロールルームに辿り着く。
「コントロールルームにキーパーツを収め、自壊するよう命令するんだ。そうすると、自壊プログラムが作動し、超破壊兵器は大破した後、時空の狭間に消え去る、という寸法なんだがね」
しかし、みそのは困ったような表情を見せた。
「まあ、それでは、御方へのお土産がなくなってしまいますわ…」
きっと、御方は旧い時代の遺物を懐かしがり、喜んでくれると思ったのに。
お土産が話だけでは、少々寂しい…。
「いや、自壊命令を下す際に、キーパーツは手元に残す、と宣言すれば問題無いはずだよ。ひとりでに外れるのでね」
零のその言葉を聞いて、みそのはにこりと微笑んだ。
「…では、問題ありませんね。要は、キーパーツを持って忍び込んで、壊れるように言えば良いのですね?」
「それが、また問題でねぇ…」
また機械を操る。新しく現れた映像は、どこか海のど真ん中の小島だ。
「? これは?」
ここに、超破壊兵器が隠されているのだろうか?
だが、零の答えは意外なものだった。
「いや。この『島』そのものが、超破壊兵器なんだ。かつて旧文明が滅びた際に、機能停止した状態で海に沈み、その上に珊瑚が積もり植物が生い茂り、このような姿になったという次第」
しかも、と零は付け加えた。
「お話した『組織』の連中は、この島に基地を構えている。超破壊兵器の上にお住まいという訳だ。超破壊兵器と言うより、敵対する組織のド真ん中に忍び込む事になる」
あら、とみそのは呟いた。
「では、超破壊兵器の大部分は、海に沈んでいる、のですね?」
「…そう…だが…」
言いかけて、瞬時に零は、みそのの言わんとする事を理解した。
「そうだ。海だ、みその君。海なんだよ!!」
にやっと、古代の皇女が笑う。
深淵の巫女は、艶然と微笑んだ。
暖流に温められる太平洋、東京の沖合いに、その名も無い島はあった。
潮の関係で、一番近い島の漁民も近寄らないこの場所に、突然近代的なビルがにょっきり生えている。まるで、何かの研究施設みたいに見えない事も無い。
だが。
今日は、いささかいつもと様子が違ったのだ。
「敵襲! 北北西より、大型生命体の飛来を確認!! 竜型生体兵器、騎乗者あり、『ハイユラ』と確認!」
つんざくようなサイレンの合間に、そんな言葉が轟き渡った。
空を渡り、威嚇するように低空飛行しながら、巨大な竜型の生体兵器が巧みに飛行する生体兵器の攻撃をかいくぐる。島の一角に置かれていた、発掘したての反重力船が竜の光弾で爆破された。
「くっ…あの旧人類の小娘!! キーパーツの意趣返しのつもりか!!」
髪を振り乱して叫んだのは、司令室に陣取った、白衣を着た男だった。彼がここのリーダーなのだろう。
「マスター!! 東側ドッグの水空両用重力艇が撃沈されました! 同時に監視塔も大破! 現在八人が行方不明です!」
組織のリーダーというより、研究者風の男が、ぎりりっ、と唇を噛む。
「とうとう、この組織を潰すつもりか…だが! そう簡単に我らが…ッ!?」
突然、足下がぐらりと揺れる感覚を、彼は味わった。
「!?」
上空でハイユラに撃墜された大型生体兵器が、海面に落下したせいではない。明らかに、足下が揺れているのだ。
「マスター!! 空間の歪曲が発生していま…」
通信は、そこで途絶えた。
足下から吹き上がった真っ黒な穴のような歪みが、一気に島全体を飲み込んだ。
大量の海水と、海底地形を巻き込みながら、わずか数秒の間に超破壊兵器はこの世から消滅した。
その日東京で観測された、震度三程度の地震が、それらの名残の全てだった。
「…ふう。上手くいきましたわね」
キーパーツを手にしたまま、みそのが上空で待機していたハイユラに近付いて来た。彼女が乗っているのは、まるで翼のようなヒレを持つ、巨大な空飛ぶ魚、といった外見の生き物だ。零の遺跡に保管されていた、水空両用の生体兵器である。
「みその君、改めて礼を言わせてもらうよ。有り難う。まさかこんなにカンタンとは思わなかった…」
あはは、と何だか乾いた笑いの零が見下ろすのは、渦を巻いた海の水。
零が組織を上空から襲撃し撹乱している間に、水空両用タイプの生体兵器に騎乗したみそのが、超破壊兵器の海中に存在する部分より侵入したのだ。
一旦内部に入ってしまえば、破壊するのは馬鹿馬鹿しいくらいに容易かった。
コントロールルームで自壊命令を出し、キーパーツを回収した後は、自動的に外に出され、再び生体兵器を駆って退避。
空間の歪みに巻き込まれないよう、すぐに上空に飛び出し…
彼女の眼下で、超破壊兵器は跡形もなく消滅したのだ。
「…では、わたくしはこれで失礼いたします。ありがとうございました」
ムーの独特の様式の箱に納められた「お土産」を抱えて、みそのは優雅に別れの挨拶を述べた。
巫女である人物を巻き込んだお詫びとにと、零が遺跡から掻き集めたムーの様々な物品が、御方への「お土産」に上乗せされていた。
みその自身にも、幾つかの心尽くしの品が手渡され、いささか遅れたが、彼女は深淵へ、愛しい御方の元へと帰る。
…今回の騒動は、結構面白かったですわ。
お土産もお土産話も、しっかり確保いたしましたし。
後で甘味処でおごっていただく約束も…うふふ。
目的を達した満足感と共に。
輝ける闇の美を持つ巫女は、その属するべき深淵の腕の中へと、帰って行った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
PC
【1388/海原・みその(うなばら・みその)/女性/13歳/深淵の巫女】
NPC
【NPC3820/九頭神・零(くずかみ・れい)/女性/15000歳以上(?)/復活を託された王族】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、ライターの愛宕山ゆかりです。「オーパーツ!」は楽しんでいただけましたでしょうか?
九頭神零からのお土産として、「生体兵器(水空両用型)」「装着型思考機械」「【零の遺跡】パスコード・レベル3」をお贈りします。
生体兵器は海中での足、或いは海の幸を調達する(笑)等に。
思考機械とパスコードで、ムーの各種記録にアクセス出来ますので、御方へのお話のネタ探し等にお使い下さい。
さて、今回お預かりしたPC、海原みそのさんは、人間とは異質な思考形態を持つ、旧き神に仕える巫女様、ということで、私にとっては泣ける程にツボな方でした。
その異質さ、神に仕える者としての、ある意味透徹した価値観といったものを、ある程度は表現出来たかな、と思っております。お陰様で黒服二名の脅しがカラ回りしまくって、書いてて楽しかったです(笑)。
最後、あまりにもあっさり超破壊兵器が撃沈してしまいましたが、みそのさんの作戦勝ち、という事でお願いします(更に笑)。
では、またお会いできる日を楽しみにしております。
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