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<PCゲームノベル・櫻ノ夢>


櫻ノ夢【幻想華】


「集めなければ」

 夢を……大きく枝を広げた櫻の樹の下で彼女は呟いた。
 この広い世界で……誰かが紡ぐ夢の欠片を集めなければ……
 彼らが見るその夢を集めなければ。
 彼女は巫女であった……櫻の樹を守りし櫻の巫女……
「願わくば、集う夢が良き夢ででありますように……」
 舞い散る櫻の花弁に乗った夢を集めよう。
 そして、この現よと常しえの狭間にある神木に戻し、その夢を再び眠らせる。
 次の世界のために。

 桜吹雪舞う夜闇の中、巫女の姿は掻き消えていった。
 薄闇の中、舞い散る花弁がただ幻想的に静かに降り積もっていた……

「……うん……」
 少し春にしては寝苦しい夜………久良木・アゲハは何かを振り払うように、寝返りをうった。
 その頬に開け放した窓から入り込んだのか、はらりと淡い色の花弁が落ちる。
 櫻の花が織り成した、幻……櫻紡ぐパラドクス……
 if……もしかしたら……一つ選ぶ路を違えたら、現実だったかもしれない可能性。




 気が付いた其処は何かの研究所の様な場所であった。見たこともない機会が乱雑に並び、その大半が機能していない。
 電光が落とされているのは、自分が潜入するときに配電盤を操作してショートさせたからだ。
 何をやるべきか……本能が知っていた。
 此処にいる全てのものを殲滅し、一族に敵対する組織を壊滅させる。それが今回の任務であった。
 視界が覚えているものよりも若干高くなっているのは、気のせいか?
 機能性と隠密製を兼ねた黒いスーツに身を包みアゲハは油断なくあたりを見回した。
「次は?」
「この先に、司令室があるはずだ」
 名前も知らない黒いコートの男の言葉に無言でうなずく。彼が誰だか気にしない、自分の足を引っ張らなければそれでいい。
 手にした鉈は鮮血に濡れ、アゲハの手首までも真紅に染まっていた。そう……彼女は腕利きの暗殺者であった。
「思ったよりも多いな」
 罪悪感などは微塵も感じない。そう、教え込まれていたから……
 魂の根底から、彼女は暗殺者であった。
 その場にいる者を全て殺せと命じられたらそれは完遂しなければならない。
 完璧に、相手がどんなに幼い子供であろうとも……迅速に……その行動に疑問を抱くことはない。
「それだけの装備で大丈夫なのか?」
「別に……相手の息の根を止めるのに、武器を選ぶ必要があるのか?」
 こんな狭い室内で、飛び道具を出すよりも手にした無骨な刃の方がどれだけ頼りになることか。
 スーツの裾で、返り血でぬれた手を拭い、改めて馴染んだ柄を構えなおす。
 黒はいい……どれだけ返り血を浴びても目立つことがない。アゲハの身に着けていたスーツの一部は返り血が乾き、所所黒い染みを作っていた。
 ふと、何かの実験で使うための隔離用の部屋を通りかかったとき。暗い室内を反射したガラスに映った自分の顔を見てアゲハは軽く首を傾げた。
 映っていたのは、20代半ばといった無表情な女の顔。
 ……さて? 自分はこんな顔だったであろうか……? 映された顔に違和感を感じる。
「アゲハ!!」
 警告の声が、かかる前に体が動いていた。それは、幼いころから叩き込まれた暗殺のための技術がなせる業。
 隠れていた敵に、手にした鉈を投げつけすかさず間合いを詰める。
 鉈は過たず、相手の頭部に深く刺さっていた。相手の虫垂に拳を叩き込むまでもなく絶命していた。
 飛び散る脳漿と血飛沫。慣れている筈の血臭に少し眉をひそめる。
 己の瞳の色よりもなお濃い、赤黒いそれに軽い不快感を感じた。
「もう少し綺麗に殺せればいいのか……」
 そうすれば、このもやもや感を感じることはないかもしれない。
 ならば次は、一息に首を落としてしまおうか?
 対峙する全ては的に過ぎない。仕事を行ううえで罪悪は失われていた。
 そう感じること自体が不毛であると教え込まれていた。
 どれくらいの、相手を躯にかえ。どれくらいの、血をながしただろうか……
 気が付けば、アゲハは一人、静寂に包まれたくらい部屋の中に立っていた。
「あ……」
 目の前に一人の少女がいた……それは幼いころの自分に良く似ていた。ここに収容されていた子供の一人だろうか?
「…………」
 色白の肌に銀色の髪の間から覗く瞳はアゲハの両手を染めた血と同じ色にぬれていた。
「助けて……」
「……………」
 助ける? それはどういったことなのであろうか……目の前にいる者は全てが敵である。敵の殲滅、それが今回のミッション。それは、年齢を問わない。何故なら自力で歩ける子供は、凶手になりえるから……
 少女の懇願にぴくりとも、表情を変えず。アゲハは手にした刃を振り下ろした。
 子供だったからだろうか、いとも簡単に肩から一気に深く体の中ほどまで刃が刺さる。
「……どうして……」
 何で助けてくれないの……ごぼりと、血を吐きながら少女の瞳からぽろりと雫が落ちた。
「それは、あなたが私の敵だったから……」
 敵……それの定義は何……? ふと疑問が、脳裏を掠める。
 それをかき消すように、足で少女の体を乱暴に蹴り、鉈を引き抜く。反動で血飛沫が柱のように天井まで吹き上がった。
「終わった……の……かな?」
 急激に眠気が襲ってくる。
 なじみのある感覚、能力をつかいすぎたであろうか……?
 今日だけでどれだけの人の命をうばったであろうか……?
 今まで心を押さえつけていた反動だろうか、途端に罪の意識にさいなまれアゲハは愕然とする。
 あたり一面が鮮血にぬれていた。
 その中に一人立ち尽くし、自分のなしたことに恐怖を覚える。感情が抑えきれず、がくがくと体が震える。
「……私は……」
 もう、こんなことはしたくなかったのに……どうして自分の手はこんなにも血塗られているのだろう……
 自責の念にかられ、思わず悲鳴を飲み込むように口元を押さえる。
「……こんな私は……」
 ……い……や……
 アゲハの意識は深淵の中に沈むように、薄れていった。


「……っ!?」
 思わず跳ね起きる。その拍子に頬にかかっていた花弁が落ちた。
「……ゆめ……?」
 今よりも成長した自分は、何の罪悪感も持たず人の命を奪っていた。
 額に浮いた汗をぬぐいアゲハがほっと一息つく。
「…夢だったんだ……」
 良かった。でも、それはもしかしたら、家業を継ぐ事を選んでいたら現実になりえた事実。
 悪夢に近いそれの動悸を抑えるように、胸の辺りを強く抑える。
「そうか……夢……」
 心を落ち着かせようと、何度も深呼吸する。
「何でいまさら……」
 痛いのはいや…誰かが傷つくところをみるのはもっといや……アゲハの呟きはシーツに落ちた櫻の花弁だけが聞いていた。




「もしかしたら……ありえたかもしれない未来を映した夢……これも、眠らせてしまいましょう……」
 手のひらに受け止めた一枚の花弁に頬を緩ませると巫女は櫻の樹に重なるように姿をけした。




【 Fin 】



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3806 / 久良木・アゲハ  / 女性 / 16歳 / 高校生】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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久良木・アゲハ様

はじめましてライターのはると申します。
もしかしたら……というシチュエーションで書かせていただきましたがいかがでしたでしょうか?

イメージと違う!というようなことが御座いましたら、次回のご参考にさせて頂きますので遠慮なくお申し付けくださいませ。