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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


あるはれたひ

●ある晴れた日に
「は?」
 書類に勤しむ草間武彦は顔を上げ、相手の言葉を探った。
「ですから」
 相手‐上品な身なりの老婆‐が、優雅に揺らぐ。
「名探偵を探していただきたいのです」

「んで、あの状態な訳か」 「ええ、まあ」
 苦笑を返しつつ草間零は、ちらりと書類に突っ伏す兄を見た。
「となると、紹介したうちの阿呆の責任でもあるし」
 一つ頷いた五色が懐から一升瓶を取り出す。
「朝まで付き合うしかないわな。つまみ、よろしく♪」
「あの、そうではなくて」
 どうやら相談相手を間違えたらしい。
 鼻歌交じりの五色を見つつ、零は小さくため息をついた。

●踊る事件
 コチコチと柱時計の振り子が揺れていた。
 息の音さえ聞こえない静まり返った室内。
 緊張と疑惑が舞わせる幾多の視線。
 震える手。ごわつく指。
 そして。
 彼女は小さく呟くように言った。
「さて、皆さん‥‥」
 表情のないその顔を見つめ、一同が唾を飲み込んだ。 

 ここに『某資産家内家族連続殺人未遂事件』は、幕を迎える。
 しかし。
 その発端となった数日前の出来事が世に出ることは、ないだろう。
 例え、その事件がどこでどう取り扱われようとも。多分。

●沈む探偵
「‥‥状況は大体分かったわ」
 シュライン・エマは、腕組みをしたまま男二人を見下ろした。
「つうか、この扱いの差はなんなんすか?」
 五色が、正座の自分と所長席に座ったままヤサグレ中の草間とを指差す。
「愛の差、とかでは」
「納得しました」
 なぜか同じように正座している零の言葉に頷く五色。
「そもそも」
「放置ですわよ、奥様」
「奥様?」
「勝手に正座したんでしょうが。 だいたい、そこでお酒を飲む必要はないし、
武彦さんが目指してるの、ポアロやホームズ、金田一等ではないわけだし」
「でも俺は探偵なんだ」
 もごもごと草間が呟く。
「そうね。この草間興信所の所長」
 シュラインは頷きながら、草間の頭を撫でた。
「‥‥探偵なんだ」
「ええ。探偵、よ」
「探‥‥偵‥‥」
 ずぶずぶと投げ出した腕の中に沈みゆく草間。
「ふむ。さすがはこの町の霊連盟でも有数の破壊力の速射砲」
 腕組みの五色が二度三度頷く。
「ウチの所長でさえ、やられただけのことはある」
「やられたんですか」
「傷は浅そうやったけどな。ま、そんなのを紹介した反省がてら、と」
 飲む仕草。
「‥‥あのねえ」
「えっと」
 シュラインのパンツの裾を零が引く。
「それより兄さんが」
 慌てて省みた草間は。
 机だけでは足り無かったらしく、机の下へと潜りこんでいた。

●ため息をつく
「はい。しっかり探し出して探偵らしい所をみせましょ?」
「‥‥ううう」
「お返事は、武彦さん?」
「‥‥う、う。うあああああああっ!」

「つうか、あれで反応がああやからさらにとは‥‥恐るべし」
「勉強になりました」
「まったくや。何に使うんかは、別としてやけど」
「なによ?」
「いえいえ、なんでもないっす。な?」
「はい。なんでもないです」

「さて。まずは詳細よね」
 一同を見回し、パンパンと、シュラインは手を打った。
「武彦さんは詳しくは伺っていないってことだけど」
「正確には『覚えてない』やろ?」
「もしかしたら『お名前が名さん』なのかもしれないわ。ね、零ちゃん?」
「ああ、なるほど」
 自分を指差しアピールする五色に苦笑しつつ、零が頷く。と。
「ふっ、笑止なり!」
 声は。
「どっから出てくるか、お前は」
「どうせなら、華々しくとか思ったんだけど?」
 五色のスーツの合わせから顔を出すミケ猫所長が首を傾げた。
「丁度良かったわ。依頼主の方にお話があるの」
「無理じゃない?」
 引っかかったらしい。後ろ足が抜けずもがく猫。
「呪いとか伝承とか怨念とかの専門家紹介してくれって言ってたはずだし」
「紹介したのね」
 ため息が同調した。
「でも、何があるんでしょう?」
「う〜んと、相続がどうとか‥‥言ってた記憶が‥‥振り回すなああっ!」
 猫キック。空振り。猫キック。
「呪い、伝承、怨念」
「身なりのいい依頼人、探偵、相続」
 猫を振り回す五色と、再びため息の同調。
「笑えん話になってますな」
「急いだ方がいいみたいね」

●幽霊を集めて
「大変だったんですね」
 ゆらゆらと朧な影に鉛筆片手の零が頷く。
「ああ、あんとときはししんだかろ」

「いや、死んでるし」
「霊だもの」
 生前は話し好きなご婦人だった。それだけに誰かが話を聞いているかもしれない。
 と、集めたご近所の幽霊。そう、ご近所と一口に括っては見たものの。
「どれだけ居るのよ」
 見えるだけでもずらり。猫所長の配慮で加減して透過中の方々もおいでだが、
すで興信所内の容量では微妙な状況らしい。
 なお、配慮第二弾として猫とシュライン、引っ張り込んだ草間は給湯室にいる。
「う〜んと、ここ数年増えたり減ったりで大変みたいでさ。
あと、動物霊も居るけど、どうする?」
「話、聞けるの?」
「零ちゃん次第、かな」
「パスね」

「ほほのお、ほのお、めらめらあああっ」
「そうですか」
 メモに『めらめら』と書き、零が頷いた。

●探偵は?
「条件などの情報を統合してみると」
 こほん、と咳払い。
「‥‥麗香さん?」
「おおう、なるほど。付け髭さえつけてくれたら申し分なしだ♪」
「引き受けて下さるでしょうか?」
「‥‥う」

 話を聞いた、もとい聞かされていた霊は、かなりの数に上った。
「自身が巻き込まれた事件の探偵があまりにも‥‥過ぎたってことか」
「だからって、と言いたいところだけど」
 孫の遺産相続にはしっかりとした探偵が事件を解決してほしい。
 最後にはいつもそう呟いていた、と。
「やる気だろうねえ」
「そうね‥‥って、紹介したのはあなたでしょうが」
「うう、まだ記憶が混乱してるううう」
「振り回せばいいのね」
 猫つかみ。
「断られました」
 丁寧に一礼した後、電話の受話器を置いた零が首を振る。
「ただ、後で事件のあらましを記事にしてほしい、と」
「逆に依頼されてどうする!」
「麗香さんだもの」
 ちらりと草間を見る。机でどうにか止まっている。
「ぬう。となると‥‥」
 猫がシュラインを見上げた。シュラインも猫を見返した。
「ボク、ただの猫だよ?」
「私はただの事務員よ?」

●夕暮れと探偵
「ふぅ。一段落ね」
「ま、様になってたし良かったんちゃうか?」
 屋敷からの帰り道。フクロウを肩に乗せた五色がへらりと笑う。
「しもた。助手やのに『解決して何よりです』とか言うの忘れとった」
「誰が助手よ。れっきとした第一容疑者のくせに」
「トリックをこしらえたりしてたしね」
 フクロウが頭をつつく。
「ええやん。誰も死なんかった訳やし」
「そこだけは評価してあげる。助手として、ね」
 零から缶のお茶を受け取り、シュラインは苦笑した。
「それにしても、あらためて探偵の大変さがよぉく分かった」
「付け髭忘れたくせに〜」
「うるさい」
「でも、本当に本物の名探偵みたいでした」
 零が小さく笑うと、目を伏せた。
「多分、兄さんより。ずっと」
 影が伸びていた。赤い夕日の光の中に。

「いい? 零ちゃん、それ武彦さんの前で、言っちゃ駄目よ」
「‥‥は、はあ?」
 結局、フクロウが言って、興信所の休みがさらに延びることになった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 年齢 / 性別 / 職業】
0086 シュライン・エマ (しゅらいん・えま) 26歳 女性 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

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■         ライター通信          ■
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 どうも平林です。この度は参加いただきありがとうございました。
 そして、ひたすらに『すみません』と言うしか。

 話し変わって。増えてますね、名探偵。
 もし今、世論調査とかしたら‥‥応じてくださる方の人数の方が興味深いですが。
 
 では、ここいらで。  (新緑の頃/平林康助)