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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


男には一生に一度ワッフルしなきゃならない時がある


 草間興信所と書いてルビにへいわと書く。本来ならそれは、妖怪さんのポスト並に機能しているこの場所であるから、JAROに訴えた方がいいJAROなのであるが、例えば一時、興信所の主が義妹から勧められた煙草が禁煙出来る本に一切目を通さず、ニコチンを肺にこびり付かせながら一服して、尚且つ、ブラックのコーヒーを飲み干しているこのタイムは、実に、穏やかな川の流れのようにだった。
 しかし、平和というのは下駄箱へのラブレター、何時だって突然なんだよ草間。
「……零、何か言ったか?」
「いえ何も、でも声は聞こえ」
 掃除の手を止めていた零、声が止まった原因は、
「どうし」
 ガシャピーン、と、
 草間の背後の窓、その窓を慇懃無礼にぶち破って登場した。舞散るガラス片、一瞬で伏せて身を守る草間、掃除したのに、と悲鳴をあげそうになる零、そして、
 現れたのは筋肉隆々、燃えるような赤いマスクを付けた男、そう、プロレスラー、職業は紛う事なきだった、何故ならいでたちがそうなのだ。身に付けるのはパンツ、オープングローブ、リングシューズ、そして前述したマスクのみ、その鍛え上げられた鋼の肉体には先ほどのガラスがチョコレートにデコレーションするチップのようにグサグサしてて血もピューと出て目が眩み倒れかけ「何自爆してるんだお前は」
 色々つっこみたい事があったが、とりあえずそこを指摘します机の下から。すると怪しいマスクマンは、何処からか、いや場所は解っているのだけど敢えて口には出さず、零が居る事だし、何処からかマイクを取り出して、
「プロレスファンの皆さん! 目を覚まして下さい!」
 目を覚まして欲しいのはそっちの方なんですが。
「えーあの異界はすっかり駄目になりました!」「おい、異界って界鏡現象」「という訳で、皆さんにはちょっとプロレスしてもらいます!」「いや話をていうかモノマネが違」「ファッキンシャンプーぐらい解るよばかやろう」「それ映画違う」
「えーと話をまとめると、元々自分の異界でプロレスの興行をしてたんですけど、その異界が消滅してここに流れてきて屋上でイベントをやりたいという事なんでしょうか?」
「……いや零、なんでお前今の会話だけでそこまで把握出来るんだ」
 何度も怪奇な事件に巻き込まれていると、人(人じゃないけど)は認識能力が向上する、という理屈であろうか。
 その後、そういう事ですからお願いしますと普通に頭を下げてきたので、とりあえずガラスの修理代と掃除、プラスアルファを報酬に、仕方なく屋上を提供する事にした草間興信所。チラシ作ってつてを探して、異界経由で運んできたリングでリハーサルするマスクメン。
「それでは行きましょうお前等ぁッ! それー、すりー、つー、わん! ワッフル!ワッフル!」
 焼きたてのワッフルは蜂蜜やベリージャムをかけて頂くのが美味です。(その熱々を両手にもってするのがワッフルポーズ


◇◆◇


 なんだこれ?
「よーし、お前ら盛り上がってるかーいッ!」
 ……なんだこれ?
「盛り上がってるンかーいッ!?」
 なんだ、これ?
「盛り上がってるンデスかーいっ!」
「何よこれ」
 合鍵を作りに外出していたシュライン・エマが、興信所を素通りし、屋上へと先に向かったのには訳がある。そう、単純に騒がしかったからである。まぁどんちゃん騒ぎ、屋上を舞台には何度か有った事なので、溜息半分、さて、今度はどんな事と来たら、もう、
 なんだこれ? なのである。人間は感情を一言で表す動物なのだ、だっていちいち、
 屋上の中心にはどこぞからプロレスのリングがでどんと置かれ周囲には既にハイテンションな観客達二百人ほど(屋上の広さとの矛盾点を指摘とかする場合は“だって草間興信所”だからという言葉の意味はよく解らんがとにかく凄いフレーズを使う事にする)がスタンディングで尚且つその客達を更に沸騰させるようにあの何処からは判りすぎるほどに判る何処からか取り出したマイクでパフォーマンスする怪しげなマスクマンが居るって、なんだこれ? といちいちに説明しながら感情を表す事など貴方にあるであろうか? いや、無い。反語。
 どうしたものだろうか、とか考えていたら、リングの傍に興信所の草間姉弟を発見する。
 とりあえず人込みぐいぐいん掻き分け、武彦の背中つっつきーの、そして三人で人並みを脱出べいびー、置かれていた長机をリングから離れた場所である屋上扉の上によいこらしょー、パイプ椅子がちゃん、三人で着席すとっ、台本をペラペラりする、シュラインに、
「……実況か?」
「そう、零ちゃんには解説を、武彦さんには……まぁ、つっこみを頼むわ」
「なんでまた急に……」
「……だって、何かしておかないと、あのリングに立たされそうじゃない」
 まぁ確かに巻き込まれ体質ではあるけれど、色々な面々。
「私も、武彦さんも零ちゃんも。そうなったならあの何処からは判りすぎるほどに判る何処からか取り出したマイクを握らされる事になるかもしれないのよ? もしそうだとしたら、あのマスクマンを屋上から叩き落したくなるじゃない」
 そして進行予定に目を通してから、すっと一つ息を吸い、プロじゃないのにプロの顔になって、「全周辺住民のプロレスファンの皆様方お待たせしましたッ、草間興信所屋上より、ワッフルプロレス、特別興行を行います! もうなんというかその、なんでこんなに盛り上がっているか理解しがたいわ」
 客たちのモチベーションを下げるような本音を思わずぽつり、そう言って頭を悩ますシュライン。人間、ノリって大事かもしれない。
「えーと、本日の試合は無制限一本勝負のみ、けれど……選手のデーターが一切無いのよねぇ、そこらあたりリングに居るマスクマンに聞いてみた、い、けど」
 増えていた。何かが。
 といっても、増えるわかめに水をかけてという風な、増殖の類ではない。そもそもあのマスクマンがリングから溢れかえるほどにわんさかわんさとなったのなら、今すぐにこの屋上を閉鎖しなければいけない。増えていた、というのは、追加という意味である。明らかに異分子、少なくとも、シュライン・エマにはそう見て取れた、
 果たしてそれは――
「おせんにキャラメルー、うぐいす餡のワッフルなどはいかがっすかー」
 普通の男子高生、である。んで、草間興信所面々には馴染みがあって、「えーと、何してるのよ穂積君」
 マスクメンと同じリング、ロープごしに近寄る客達に、焼き立てのを紙で包装したワッフルにうぐいす入ってないうぐいす餡を共にしたオリジナルトッピングとして売り渡してるのは確実、彼であった。彼、葉室穂積。
 HODUMI HAMURO(ローマ字
 髪はつんつん元気の印、公立進学校に在学し、尚且つ成績は上々気分。なのだけど、本当にそうなのかしらと思わせるくらいの天然ボッケーだったりしたり、アメーバー並に単純、の割りに頭の回転は扇風機並という何処にでも居るわけでもない男の子17歳である。あとどうでもいいけどサイコメトラー、いや、どうでもいいと思う、だってビールから発泡酒に購入対象を切り替える苦しみに比べればきっとそんな事は些細な問題なんだ、些細な問題なんだ! さ、些細な、問題、なんだ……。
 とりあえずシュラインのお姉さん、実況席の彼方から、リングの上から客席へと明らかに間違った売り方をしている少年に声をかけてみれば、
「あ、エマさんどうもー、ワッフル入浴剤マスクマンの汗とかいかがっすか?」「それ本気で欲しいと思う?」
 でもこの手のジョークアイテムって結構売り上げいいんですよーといって、例のワッフルポーズをワッフルワッフルと。つられてやるリングサイドの子供達の様子を眺めながら、シュラインさん溜息一つ。
「まぁ、あいつは何時も金に困ってるからな」
 主呟く。興信所にふらりと偶に来て、何か仕事ないかと請う彼の理由は明白、彼の趣味は映画で、普段のバイト代もそれにつぎ込んでいる。実際今月の彼は厳しく、財布はさながらアイスエイジなのだ、2が見たいのにいけない。
 まぁそれにイカがやったりお父さんがバックドロップ決めたりなのは銀幕で見たけど、生でプロレス見た事ないのだもの、ですからマスクマンに直談判、彼と親指たてて笑いあい、バイトで金稼げて、プロレスも楽しめるなんて一石二鳥ここは極楽、
 しかし、実際は地獄へのスライダーだった。ちゃーん、「……ん?」
 HODUMI HAMURO(ローマ字)だけでなく、観客も屋上異変に気付き、「何かし、じゃなかった、何が起きてるんでしょうか?」素の口調をコホンと咳でスイッチのように切り替えて、マイクを使い、「突然青空広がる屋上にそぐわない、なめかましいBGMが流れ始めました」
 そう、そうである。響き渡るのは今にもハゲヅラかぶったチョビヒゲのお方がストリップ始めそうな音楽、異変というのはだいたい何かの前触れでもあるけれど、このBGMからの展開は察せられにくく、せいぜい、
 選手の入場テーマ曲だとか、
 ――アイノラブキャプチャーという擬音語があろうか、いや、ない。
 でも実際そんな音が響き渡りながら、マスクマンは遥か上空に吹っ飛んで、そして、
 葉室穂積は、潰れていた。
 正確には、倒されていた。
 何、が、
 何が起きていた等、目で見れば解るのだ、けれど千間分のその確認能力も、うまく機能しないのは、
 認めたくないから、
「ア・イ・ノ・ラ・ブ・キャ・プ・茶あぁぁぁぁあぁッ!」
 ピーターパンになりたいから、
「ア・イ・ノ・ラ・ブ・キャ・プ・ちゃぁぁぁぁぁあぁんッ!」
 ティンカーベルになりたいから、
「ア・イ・ノ・ラ・ブ・キャ・プ・CHACHAあぁぁああ!」
 ネヴァーランドの住人に、
 けれどけれど、シュラインさんと武彦さんには解っていたのです。さっきから擬音語、じゃなく奇怪な言葉を、緑茶ブームでも絶対うれねぇverと後ははーいという言葉しか喋れないverと昔のアイドルかよverで叫んでいるその影が、いや、
 それを影と呼ぶには桃色過ぎた、

 ピンク色のコートを羽織り、風船のようなかぼパンを身に付ける以外には何もいらずと、
 ダンディズム、男らし過ぎる胸毛とギャランドゥにイッツスネ毛を惜しげなく晒し、
 けれどその雄雄しき肉体と反比例して、お顔だちはとっても乙女チック、髪は亜麻色ウェーブロングで貴族の香り、ハットも、ショッキングピンク。
 神の気まぐれか人の奇跡か、男女の美その融合体、ああもしや貴方アフロディーテの化身、
「二人だけの組織ネヴァーランド総帥、リュウイチハットリさん」
 空を仰ぎ現実からエスケープするシュラインと、頭を抱えて世の成り立ちを考える草間武彦の代わり、頼れる義妹、
「義兄さんの仕事を何度か受けている、自称愛の狩人、他称は電波入った変人さんですね」

「異議有りだね美しいフロイライン!」ドイツ語、「リュウちゃんはぁ、変態さんなんかじゃないごく普通の路地裏とかに暮らしてるアイドルだってばぁん♪」
 そう主張されても、こちらは気絶したけど目覚めたがあまりの光景にまた気絶したがってる穂積君をまたいで、ソニックブームが生じるんではないかって速度で腰を振っているので説得力は皆無ですともかくそうやってシェイクしていく度、「ふ、服が外れてく!?」
「そういえば聞いた事がありますシュラインさん、とあるサイボーグは音速を超える際、身に着ける服が全て摩擦で燃え消えてしまうんですって」「武彦さん、零ちゃんになんか漫画読ませた?」
 それはオレの管轄外だと手をぱたぱたと振る武彦、ともかく、微妙な解説を終えた頃には、
「トランスフォーム! 完了ですわお姉さま!」
「かぼパン一丁になっただけじゃ」
 ヘラクレスのような肉体にびっしり茂る、体毛が晒されてよりひどい事になってしまいました。あ、観客に投げられたコート誰も取ろうとしない。
「To You Wake Day! 愛のノーマルダンディ☆リューイチ、可憐な少年と添い遂げる為今推参なのかなまなかな!」
「か、可憐な少年!?」
 今更ながら、自分がどうやら蜘蛛の糸にかかった蝶である事に気付き抜け出そうとするが、足一本、巧みなシフトウェイトで逃してくれないピンク無駄毛。
「いや、待て、リュウイチ、なんでそんな展開に」
「武彦ったら、運命の出会いを知らないのね? ロマン忘れた大人なのね? けれど目を開いて、そう、ディステニーカムズヒアよ!」
 いくら目をこらしても、変態がいたいけな少年をいただきますからごちそうさままでみつめようとしてる図にしか見えんとです。胸毛煌いてるよ胸毛。
 とにもかくにも、やな意味でのビフォーアフター決行五秒前、「という訳で穂積君! 今から船旅にヨーソーロだ!」四秒前、「え、いやちょっと、何が!?」三秒前、「運転手はオレだ! 乗り物はキミだ!」二秒前、「ちょ、ちょっと観客子供も多いのよ!? そんな禁じられた遊び!」一秒前、「でもシュラインさん、リューイチさんってときめきと萌を求める方ですから、一線は越えないかと、多分」「多分なのか」零の分析武彦の合いの手、の後、
 0.1秒前、「たぁすぅけぇ!?」「助けてあげる恋のラビリンスから!」
 人の数だけ、救いの道がある事が、そして全ての人間が救われる訳じゃない事が、白いリングの上で実証しようとした時、
 ハットリの首が、鞭できゅっと縛られて、さながらカツオの一本釣りのようにセコンドへと。
「あ、まだら色の象さん、象さんの中村さんが見えるぅぅ」
 とかのたまいながら口から何かエクトプラズム出ている、五つで五色(戦隊カラー)のハート型エクトプラズム出ている、マゾなんかこの人。
 さて、「打ち合わせの、試合相手が違うでしょこの馬鹿」と、
 ハットリに対しては至高の喜びにしかならない痛めつけ、首をギリギリ締め上げている人は、「あら、麗香さん」と、アトラス編集部の女帝に実況じゃなく普通に会話するシュライン、んで、実況席から三人揃って一言、
「「「なんで?」」」
 結局は、この一言で集約されるのであった。とりあえず、ハットリさんは痛みが快楽に変換されるとはいえ、実際に死ぬダメージを与えると逝ってしまうので、首絞めをやめてハイヒールでキレイな顔をグリグリと、「アァン、エルドラドカムズヒア、ガンダーラヨイトコイチドコイー☆」
「ネタ、不足なのよ、うちの雑誌」
 ため息交じりでつらつらと、「そうしたらここで界鏡現象が起こったって聞いたからそれで行こうって、でも、試合がなかなか行われそうにないって。……記事にはならないから試合をセッティングしてあげたのよ、感謝して」
 あ、マスクマンが滅茶苦茶揉み手だ。ところでハットリは鼻がそろそろもげそうだ。
 ところで、
「試合をセッティング、という事は、相手もでしょうか?」
 シュラインの静かな一言に、観客は一斉、編集部の女帝に注目した。彼女、威風堂々とした侭、指を一つパチリと鳴らすと、
 それは空からやって来る――
(う、うう)
 一体何時からが()内のを人間の思考だという表現として使うようになったかは定かでは無いが、ともかく間一髪、食われる事無くなった彼の思い、
(お、おれは避難した方がいいよね)
 いち早く気付けば大の字をやめ、
(なんだか偉い事になってきたなぁ、やっぱ、プロレスは参加するものじゃなくて)
 屈み、移動、
(映画みたいに見るだけで充分)
 リングの外へー、

 上空から落ちてきたのは、けして穂積の上ではない。流石にそんなディープインパクトかましたら、人間である高校生はあの世旅である、つまり、
 一度、それがコーナーポストに華麗に着地しようとして、
 けれどコーナーポストの着地面積は当然少なく、両足で立つも当然バランスを崩し、あわわ、あわわと、
 前のめりで倒れて、
「え?」
 ちょうど屈んでいる穂積君へ向かって、ああ、
 ダイビングヘッド――
 ぼごり。と、鈍い音が響いて、上半身がのけぞる穂積、ああ、これだけならまだダメージは少ないのだが、ヘッドバッドかました者は更にバランスを崩し前へのけずる事によりあらわになった首に偶然に腕が絡んでそのまま、
 ぼぎょおん!「うぎゃあ!?」
「ネ、ネックブリーカーが決まりました! 売り子に!? ああ、白目向いてます、泡ふいて、急に現れた者は焦った様子で起こそうと、あ、つまづきました思わず相手の足首をとり立ち上がりこけてくるくる、か、片手でジャイアントスイング!」
 んで、びゅおうと。葉室穂積は槍投げのようによく飛んで、観客たちに受け止められる事もなく、ただパイプイスに塗れるように激突した。きっと頭上、ひよこがメリーゴーランドのように開店。なんだろう、某編集部の某駄目男の霊でも乗り移ったのだろうか、どんな目にあってもOKだとか変な誓約書でも書かせられたのだろうか? だったら書くよ。
 しかし、そんな彼よりも、客達の視線は突如来たニューカマーに。うっかり、そうマジでうっかり頭突きかまして首を狩りあげくリング外へと投げ飛ばしてしもうた、とんでもない野郎に、頬をかりかりとかくそれに、果たして、それは、「う、」「さ、」「……ぎ?」
 シュライン、零、草間武彦の順番で、一字ずつ呼ばれたのは、

 うさぎ、の着ぐるみ。ただし頭部のみ。
 それ以外は、高身長の体躯を第二ボタンまで開けた清潔な白いシャツで包んだ上に、形のいい黒いスーツ。首も覆われているが、どうやら銀のネックレスも見える。ともかくそれは奇妙だった、そもそも頬をかいてるけど、「いや、その部分着ぐるみだろ」と、武彦はつっこみたかった。つっこんだけど。
 マスクマンよりも尚一層神秘のベールで顔を包む戦士、その正体は――

「……いや、左手に箸もってるよなあいつ、だったらシオン・レ・ハ」
「武彦さん!」
「え?」
「……いい、これはプロレスなの、解っているでしょう?」
 カチカチと、何を食べてる訳でもないお箸を操る奴なんて、ネットで検索しなくても誰だか解る、解るかもしれないけれど、
「中の人など居ません」
「……いやでも、あいつはシオ」
「さぁいきなり現れました謎のうさぎ頭! あ、ワ、ワッフルポーズをやっています。お箸を右手に、繰り返している! 繰り返している! 気に入ったんでしょうか、なんで!?」
「あいつ、シオンで」
「シュラインさん、今マスクマンさん経由で碇さんからデーター渡されたんですが、リングネームはうっさん。うさぎのおっさん、という意味でしょうか? 泣く子も黙るヒールって設定なんですけど、その割りにはあのぬいぐるみ、ほのぼのしてますよね」
「シオン・レ・」
「でも、もこもこっていいわよねぇ、もこもこだから。さぁ東北の某球団のマスコットみたいな、イタズラな戦いぶりを見せるんでしょうか! 注目です!」
「シオ」
「尚本人が夜なべして手作りの、うっさんプロマイドやうっさんブロマイド、運んでくる途中でおとしたせいで最早バラバラ死体のうっさんクッキー等は、売り子さんから買ってくださいとの事です」
「……」
 武彦、ちょっと拗ねる。あと売り子さんは未だ意識が無い。
 ともかく、ワッフルプロレス、碇女史プロデュースの試合、ワンダフル痛みから解放された桃色はのそりと立ち上がり、流石に微妙に腕が痛くなってきたうっさんも、立ち上がる彼に対峙し、リング中央、
「赤コーナー、愛のノーマルダンディ☆リュウイチ! 青コーナー、狩られてたまるか狩るほうだなうっさん!」
 リュウイチは、流し目をしながら、M字開脚をした。
 負けじとうっさんは、インド人もびっくりに、珍妙に踊った。
 リュウイチVERSUSうっさん――そう思うのだ、観客たちは、一様に思うのだ、実況はその心の声をマイクに込めて、
「何なのかしらこの、人外魔境」
 その頃やっと意識が覚醒する穂積、あ、みんな勝手に売り物を奪っていって。(バイト代が、バイト代が


◇◆◇


 カァン!
「さぁ今、零ちゃんの手で試合開始のゴングが鳴り響きました! うっさん選手とリューイチ選手のにらみ合いが、ああっと! ここで! リューイチ選手が頬を染めてはにかみ笑顔です! 気持ち悪い!」
 暫く膠着していたが、最初仕掛けたのはうっさん。ちなみに中の人など居ないからいってもしょうがないんだけど中の人、格闘術等身に着けているのだけれども、よほどの緊迫した状況で無い限りその才能は開花しないので、このキックもバレバレのよれよれって具合、単に前へ突き出しただけ、だったの、だが、
 バキャァン!「爪先が、爪先がリューイチ選手の頬を貫きました、……い、いえ違います。リューイチ、自ら当たりにいった!?」
 それもかなりの全速力で。顔が歪んでいるのは蹴りだけでなく、歓喜の所為なのだらう。それ程リューちゃんってば天然マゾなのであった。
「さぁ、吹っ飛ばされるリューイチにうっさん追撃、ってなんかフラフラしています! 寧ろ見失っているようです! これは一体」
「いや、着ぐるみだから視界が狭いせいだろシオ」
「しかし、明後日の方向に放ったパンチに、またも自ら当たりに行くリュウイチィ!」
 その後も、シオンが前方に放つ手足は、ことごとくリュウイチを痛めつけていくのである。プロレスラーは、技から逃げない。例えそれがどんな危険な技でも受けきってみせる。お互いの必殺をぶちあて続けていく――秒殺なんて軟弱な事は、プロレスラーには許されないのだ。「って、少し昔に読んだ漫画にありました」
 零の解説の通り、リューイチ略して無駄毛は全ての打撃を受けきってみせて、笑っている、恍惚な表情で。
 しかし今、口から漂う五色のエクトプラズムと本体の線が細くなっている事から解る通り、「……あの人、痛みが気持ちいいってだけで、致死量のダメージ受けたら死んじゃうわよねぇ」とシュライン。実際足腰はガクガクしているし、瞳もこの現実でなく新世界を写しちゃってるっぽく、そして、
「あーっと! ここでうっさん選手、思いっきり振りかぶってチョップを、そしてそれに顔面をつっこむリューイチ!」
 これで決まりか、と全員が思った、が、
 バキッ、と、
「っと、こ、これは、これはどうした事でしょう! うずくまったのは、……うっさんの方です!」
 今まで優勢だったうっさんが突如、チョップに使った右手を抑えうずくまる、着ぐるみ越しに汗を掻いている様、中の人などいないけど。
「プロレスラーは、耐える事」零、
「プロレスラー程過酷な戦士は存在しません。仮に、流れにツクリが合ったとしても、お互いに繰り出す技は全て、鍛え上げられた“本気”の物。練習で、気絶してもバケツの水をかけられて、無理矢理起こされて、来る日も来る日も泥臭い汗を流しながら、そんな痛い事を繰り返しているんです。気絶した方がよっぽど楽なのに、全ては客の為に、、見てくれる人の為に、強さを見せる為に、プロレスラーは立ち続けるんです。……きっとリューイチ選手の毛の鎧を纏った肌は、大きな巌をぎゅっと固めた、そう、金剛石よりも堅い物になってるはずです」
「待て零、あいつ別にプロレスラーじゃない」
 責めを自ら雨のように浴びていたのは確かだけども。
「お、恐るべしはノーマルダンディ☆リューイチ! まさかこの事を見越して、碇セコンドは相手に好き勝手に攻めさせたのでしょうか!」
 眼鏡を指であげて不適に微笑む碇だったが、単にかっこつけてるだけだと草間は思った。さぁ、状況は一変、
「ああ今度はじりじりと寄ります、ハァハァとして瞳を少女漫画のようにキラキラさせて、うっさんを追い詰めていきますリューイチ! 対してうっさんは、ああ! 何か小動物みたいに可愛そうな感じに、とってもファンシー」「でも中は42歳の」「でもこんな御伽噺は夢を壊すだけぇ!」
「ソレ違いマースマドモアゼェル、これコーソガ、今の大人達が忘れてしまったネヴァーランドなのデース」「何かブツブツ呟いてる、呟いていますリューイチ選手!」
 歓声に掻き消されながらも内容は聞こえたけど、なんか怖いので聞かなかった事にするシュライン。というか、どれだけ口調の引き出しがあるんだこの人。「あ、ああ、ポストに追い詰められたうっさん、窮鼠猫を噛むのが鼠、そして、兎は」
 毛むくじゃらへ、手でもなく足でもない、頭突きを――しかし、
「愛の」リューイチ、「もう戻らないこの夏の日を忘れない為に二人は強く強く抱きしめあうのぉアタック!」
「ベ、ベアーハッグゥ!」お互い抱きしめてないじゃん。
 ともかくリューイチが繰り出しているのは、日本名で鯖折である。世の中地味な技の方が効果があるのは定説なのだが、
 リューイチの技に関しては、背骨が折れるとかが問題では無かった。
「あ、ああ!? うっさんの顔が青ざめて苦悶でガタガタと震えています!」「いやあの頭被りも」
 説明しよう! ノーマルダンディ☆リューイチの肉体は、前述した通り有刺鉄線よりも強力な無駄毛で覆われ、最早それは無駄無駄毛などで無くオラオラ毛なのである! ようは単純に感触がキショイ!
 スーツ越しとはいえ、生暖かい息は直接かからないとはいえ、黒い密林をゾリゾリ押し付けられるのは精神的にきっつく、うっさんは凍りついた。対してリューイチはさながら風呂上がりのような笑みで、身体をこすり付けていた。
 逃げようとして、もがけばもがく程、体毛の感触はよく伝わり、結局固まるのだ。
「両者動きません! 両者動きません! 両者動きません! 両者、」
 ……という実況を、五分続けても、何一つ解決する様子は無く、
「……えーと、と」更に五分くらい経過、した所で、
「……皆様ここでお知らせです、試合が再び動き出すまでの間、いったん休憩という事にします」
 うっさん、え、水入りだとか仕切りなおしじゃないの!? という表情をしたっぽいが、中の人など居ないので、シュラインは告げ、
「では、そういう事で!」
 中の人にとっては死刑執行と同じ言葉が響いたけど、中の人なんか居ない。


◇◆◇


 食事時だったので、昼食をとろう。折角だしこの屋上、太陽の下で頂こうと、
「梅おにぎりに玉子焼き、それと、コンビーフのグリーンリーフサラダ」
 屋上への入り口の上にビニールシートを敷いた所に広げるのは、草間興信所ズと、碇麗華、あとは葉室穂積の面々に加え、弁当箱じゃない、お盆に乗せてもってきた、料理のお皿。梅おにぎりは、種をとった梅干をごはんを炊く前にあらかじめいれその侭炊飯器のスイッチをいれ、炊き上がった所にちりめんじゃこをふりかけてかき混ぜ、アツアツの内におにぎりにした物である。塩を振る必要は無い。
「炊き立てのごはんおにぎりを握るこつはね、手を塗らした後、両手をパンパンと何度か強く拍手するの。痛みで掌が軽くマヒして、熱さが和らぐわ」
 口の中で解けるのが理想、握り飯は硬く握りすぎてはいけない、それこそ皿においたなら、崩れてしまいそうなくらいがちょうどいい。このおにぎりはお昼の定番であった、が、
「これは初めてですね」
 そう零が箸を伸ばすのは、グリーンリーフの。
「何にしようかしらって冷蔵庫覗いたんだけど、あったものが少なくて……。グリーンリーフはレタスよりも安いから買ってきたんだけど。どうしようかなぁって缶詰の棚見たら、コンビーフがあってね」
 ここからは作り方の説明となる。
 まず、フライパンを熱し、そこにコンビーフを投入。軽くほぐれたらマヨネーズを一回しして炒め、荒めに刻んだ玉葱の微塵切りを加える。玉葱はそう炒める必要もなく、甘みが出て透き通るくらいになったら火を止める。
 次にボールにグリーンリーフをたっぷりと千切り、そこにいためたコンビーフをくわえざっくりと混ぜ、仕上げに黒コショウをかければ出来上がりだ。
「何かを参考にした訳ではないけど、割りと美味しくできたわ」
 マヨネーズとコンビーフの味の濃さを、グリーンリーフの新鮮さがちょうどいい塩梅にしてくれて、荒挽きの故障が味を引き立てる。「ビールのつまみだな」「駄目よ武彦さん、まだお昼なんだから、……って麗華さん」
 何処から用意したのか、キンキンに冷えた缶ビールを既に開けている編集長。その侭笑顔で草間に、それにシュラインに渡して、と、
 昼酒というのは確かに贅沢ではあるのだけども、一応この後実況が控えている。……それでも、一本だけならと口つける。外でのごはん。こんな手軽の幸せを人は何時でも行使出来るのになかなかしない、もったいない話だけど、偶にだからこそいいのだろうか、なんにしろ、
 心弾む楽しい時間、
「……ごちそうさま」
 あれ、と、
「穂積君、元気ないわね」
 梅おにぎりを二つだけ食べると、彼は立ち上がり、挨拶を軽くしてその場を後に。このような雰囲気は彼の本調子では無い、
 といっても、その理由は明らか、
「……売れないんだよなぁ」
 張り切って始めたワッフルプロレスグッズの販売、意識が回復してからの序盤こそ、ある意味かわいいうっさん人形やうぐいす餡のワッフルなど好調だったのだけど、後になるにつれ売り上げ乏しく、お昼時の今でさえ、肝心のワッフルが大して捌けないのだ。
「……ワッフル、ワッフル」
 商品を下げてから、ワッフルポーズをやってみるけど、もう子供は集まらない。実際葉室穂積は困っていた。元気が無い理由は単純、歩合制なので、このままじゃあんまりお金が入らないのよ。
 大切な人を失っただとかに比べると軽いのだが、学生にとっては死活問題であった。それは溜息も出るものである。
「……そもそもうっさんシリーズが売れても、ワッフルプロレスの利益じゃないんだよね。あくまでワッフルグッズが売れないとなぁ」かといって、「どうやったらいいか――」
 その時、
「!」
 その時、葉室穂積に圧倒的閃き! 賭博的に!
「そ、そうだよ! これだよ!」
 客に売る悪魔的奇手! 黙示録的に!
「マスクマーン!」
 想像を具現化する為にすぐ様、いつもの調子で彼は行動を開始し、そして、
 ――十分後くらい
「ごちそうさま」
 きちんと手を合わせて食事を、デザートには小豆のワッフルを頂いてから、食後、シュライン・エマ、リングの方に目を向け、
「……相変わらずあの姿勢の侭ね。どう実況したものかしら」
 そうやって、いい加減限界に近づいているっぽいうっさんと、別の意味で限界を突破するんではないかというリューイチを見て、一人ごちた時、
「待ていぃ!」
 なんか、声がした。え、と思い、すぐに実況席へ戻り始める間にも、
「このワッフルプロレスで、おれの存在を忘れちゃ困るぜ!」とかなんとか、
「え、えっと、いきなり屋上のはしっこに怪しい影が現れました!」
 着席したシュライン、のろのろと同じく席につく草間義兄妹。碇麗華もセコンドに戻る頃には、突然、怪しい影はリングに向かって走り出して、
「とう!」
 ロープを飛び越え、るには脚力が足りないみたいで、普通にロープの舌を潜って、リングの上へ立って、
 不適な笑みを零しながら、

「ワッフルマン参上!」

 現れたのは、口をワッフルバンダナで覆い、マント(ビッグタオル)を靡かせる謎の戦士――
 ……、
「というか、穂積君よねぇ」
「中の人は居ないんじゃなかったのか?」
 と言ってもバレバレである、空気を読めるはずもない子供が、あー売り子のお兄ちゃんだーとか言ってる、けれど聞こえない振りをして、口元をバンダナで覆っているというのに、それでも解るくらい不適に微笑み、彼は、
「そうさ、このリングには今、正義が無い!」
 まぁ確かに片方は悪役だし、片方は変態っぽいし。
「正義の無い戦いなんてやめるんだ! 今おれが、正義の鉄槌を下してやる!」
「あーっといきなりの参戦表明です! 理由はシンプル、全ては、正義を示す為に!」「何処の国だお前は」
 ぼそりと武彦が呟いた時に、彼は未だ一方的に抱きしめている、リューイチにまず狙いを定め、「食らえ! ワッフルは! ただ今! 一個120円!」
 ワッフルマンが戦う理由、それは、
「四個セットで買うとうっさんフィギュア付いてくるからお土産にみんな買っていけパーンチ!」
 露骨過ぎる販促活動! そう、そして、
 今身に着けている物全て、売り子から買えるんです――

 ワッフルTシャツは、普通の記事にワッフルポーズのやり方をプリントしただけで、防御力など無く、
 ワッフルリストバンドは手首をオシャレに演出するが、別にそれ以上じゃ無く、
 ワッフルバンダナはワッフルマスクの顔が中央にプリントされていて、魔除けの効果は期待できなく、
 ワッフルタオルをマント代わりにしたけどこれは汗を吸う為のもので空は飛べず、
 そして今彼が繰り出すパンチ、その手に握られているワッフルは、メリケンサックみたいに硬度が無く単に美味しいだけ、そう、
 葉室穂積の戦闘能力はビタ一文アップしてない!

 人間の、鍛えていない拳は、クッキーみたいに脆い。
 よってリューイチが、新たな刺激を求めて、一度ハグを解除して自分の顔面をワッフルパンチに向けて突っ込んできた所為で、手の骨は握っていたワッフルのように崩れたんじゃないかってくらい痛くなって、んでもって悲鳴をあげるよりも前に、
 本当はうっさん、手を傷めたらいけないとワッフルマンが殴る前に手首を掴もうとしたんだけど、生憎時既に遅い時にその手首を取ってしまい、んで、お約束どおり、
 うっかり投げ飛ばしていた。
 うっかり投げ飛ばされながら、ワッフルマンは思った。あ、おれ、空飛んでいる、ヒーロー、
「ぽいぃっ!?」ぽくない。
 ずごぉん、と、ワイヤーを付けていない身体は、結局またパイプ椅子に激突。白目を向いた彼の頭上、ひよこメリーゴラウンド二回目。思わず実況も忘れてしまうくらいの、鮮やかな負けっぷり。一体何しに来たんだワッフルマン、また子供たちが勝手に商品を持っていってるぞワッフルマン、
「し、しかしそれでも、膠着した状態が終わりました! 今! うっさんとリューイチの第二ラウンドです!」
 しかし一方は地獄を過ごし疲弊して、一方は天国を謳歌しリフレッシュである、日本シリーズで例えるならピンク色の方が三連勝で王手状態なのだ。
 しかも、試合が始まってから今まで黙していた彼が、
 衝撃的な語り、
「見えた、見えてきたわよぉ貴方の正体がぁ……☆」
「!?」
 何かの都合上喋れないうっさんだったが、感情をボディランゲージで。「こ、ここでリューイチ選手から謎の発言! うっさんに正体、どういう事なんでしょうか!?」「だからシオン・レ・」「先程までの抱きつきは、探る効果もあったんでしょうか義兄さん」
 探るも何も中身は100パーセント、中身ともかく見た目だけはチョイ悪オヤジなあの人なのだけれども。おっさん同好会には堪らない。
「私ぐらい、愛の修羅場を生き抜くと、肌と肌を合わすだけで相手の事が解ってしまうんですよ。……けぇれぇどぉ、リューちゃんはまだ貴方の事知りたいから、からから!」
 異様な態度に思わず一歩引くうっさん、後観客。冷たい視線を物とせず、否、寧ろそれをスポットライトを浴びるように快感として、「あたし、がんばっちゃう! うっさんの為に、とっておきの技使っちゃう!」
 既にうっさんはコーナーポストにうずくまってプルプル震えていた。身体は人間なのに本物のうさぎらしく妙に可愛い。それがまた彼の琴線に触れたのか、何かパロメーターがMAXとなった様子で、くるくるとその場で回りだし、そして、
「愛の、貴方と私のアイランドサーチ!」
「リュ、リューイチ選手! 一体どんな技を繰り出すのか!」
 彼は、ノーマルダンディ☆リューイチは、その場で息を思いっきり吐き、そして目を見開き、
 、
 鼻から思いっきり吸い込んだ。
「匂い嗅いでる!?」
 思わず素に戻ってツッコミをするシュライン・エマ。観客だとか碇セコンドだとか、傍から見てる方では唖然とするだけだが、嗅がれている方は混乱する。え、いや、なんで、
「ふむ、この高貴かつ、何処と無く苦労人な匂い。若々しさとは違った熟成された感じ」
「な、何かワインを評するような事を言っています、口もモゴモゴしてますけどティスティングなの!?」
 人間の味覚は、実に嗅覚がその半分以上を締める。鼻をつまんで食べると物の味が解らなくなるのだ、真にうまい物は鼻で味わえ、別に思いつきで格言では無い。そして、リューイチの瞳がキラリッキー、
「年齢はズバリ四十歳前後!」「ズバリ言ってない!?」「でも当たっていますね」
「それも、そうよ、このフローラルさは私が求めてやまない、ステキなオジ様、ナイスミドル級なナイスミドル、アァァぁぁあぁぁぁああぁぁぁあぁンッ!」
 ぷるぷる震えながら、空を仰ぎ、
 両手を上げて叫ぶ、
「今既に、ワタクシとオジ様のラブストーリーが始まっているぅう!」
 思いっきり吼える! 思いっきり周囲が引く! だけどもう、36歳の恋する乙女は止められない! 本当今更の話だが、リューイチがかわいい少年少女やダンディな男性にキツ目な女性に求めているのは、実は、性的興奮等では無い、あくまで愛しい人とのアバンチュール、サイダーみたいな青春、カルピスみたいな恋なのである! 傍から見たら嘘つけと突っ込みたいけど! 突っ込みたいけど!
 さぁ、そして、狩人は今、
「愛の、リューちゃんを甲子園に連れてってアタァックー!」
 問答無用のフライングボディアタックを、絶体絶命のその瞬間、その時、
「待てぇい!」
「!?」
 我々は、この声を聞いた事がある。それも遥か昔じゃない、
 ほんの少し前に、この無根拠な自信溢れる声を!「あ、あれは! 既にコーナーポストに立っているのは」
 口につけていたバンダナを、今度は普通にツンツン頭に巻いて、まるでラーメン屋の店員みたいに、そう、君は、ヒーローの名前は、
「か、帰ってきた、ワッフルマン!」
「穂積だろ」「義兄さん中の人は」「いやもう、素顔晒しているし」
 今度は片手でなく両手にワッフル、そしてワッフルポーズ。そう一転び一起き、バイト代確保の為ならば、何度でも立ち上がる、それがヒーロー! このTシャツで、このタオルで、このバンダナで、このワッフルで、
「今度こそ売り上げに繋がるような活躍を見せてやる!」
「そ、そんな、リューちゃんとオジ様の恋に嫉妬して来るだなんて!」
 いや、それは無い。と言おうと思ったけど、そしたらなんか泥沼になりそうになったので、ただ無言でコーナポストに立ち続け、さてそろそろリングに降りようとした帰ってきたワッフルマン、だったが、「しかし、ワッフルマン、一度敗れたのに再び舞い戻ってきたという事は」「え?」
「きっと何か凄い技を持って帰ってきたはずです!」
 ……、
「え?」
「そうです、例えばそのコーナポストから三角飛びをして、四回転半のひねりを加えたドロップキックだとか」
「……え?」
「はたまた、相手に触れた瞬間冥王星の彼方まで投げ飛ばすような驚愕の技とか!」
 え、え〜?
「ちょ、ちょっと待ってエマさんおれそんな技!」
 弁解するにはもう手遅れだった。ワッフルマンは見回して知る。
 瞳は時に、口よりも雄弁であると。(なんか物凄く期待されてる!?)
 果たしてそれは、リング上にいるピンクとうさぎでもある。特にリューちゃんってば両手を神様に祈るよう握って、フラワーロックみたいくねくね振りながら瞳はキラキラスター。うっさんは普通にワクワク。いやていうか、技かけられる方だ君ら。
 葉室穂積は、高校生である。異能はサイコメトリー、達人の域であるならば、“触れた瞬間相手の過去とこれからの未来への思考全て読み取りその身体の流れに合わせて投げ飛ばす”っぽい技とか出来るかもしれないけど、そんな都合よい技を使うには、少々少年には経験が足りなかった。少々少年、しょうが三連続、関係ない、
 関係ない事に視線をやって逃避出来る程また、少年には余裕が無く、しかし、
 ワッフルマン! と声が聞こえる、
 振り返れば奴が居る――
 アイコンタクト、という技術がある。これは何もサッカーだけの専売特許では無い。寧ろタッグという形であるならばこそ、そう、タッグ、
「マスクメン!」
 名前呼べば走ってくる、このプロレスの仕掛け人、マスクでも隠していない瞳、帰ってきたワッフルマンへ、そう、リングを見ろ、リングへ構えろ、
 帰ってきたワッフルマンはそう、言われる侭に、
 決意を、この決意を、
 二人で勝ちあがり、そして、
 ワッフルグッズ完売――
「来てくれ、マスクメン!」
 穂積のすぐ下まで来た彼は跳ね上がり、今、今!

 ワッフルマンキャノン!
「え、何そげぼはわぁああっ!?」
 思いっきり穂積を相手に向かって投げ飛ばす!。

「ワ、ワッフル二刀流! いつもの二倍の勢い、そして三倍の回転! これは1200万パワーとなって光の矢となり!」
 で、外れた。明後日の方向に。
 ロープ(実は凄く硬い)に当たったおかげで、うまい事リング中央遥か高く舞う穂積、空中浮遊しながら穂積は思う。ああ、これで売り上げ伸びるかな、無理だろうな、
 そしてその侭リングへ叩きつけられようとした時、「……え?」
 あれーなんでマスクメンがリングにあがって、下から飛んで手足をとり関節を決めながらちょ、ちょっと待ってマスク、
「メェェン!?」
 どごばしぎゃみょぉ、と。
 とても人語には表現しきれない凄まじい音をたてて、キャンバスに、何やら凄い技「何か筋肉が自慢の超人さんが決めるような技ですね」で突き刺さるワッフルマン、
 アイコンタクト、という技術がある。
 なので、リングでピクピクしながら穂積は最後の力を振り絞り問うた。なんで、って、
 親指をグッとあげてマスクマン、
 ――血が騒いじゃって
 ……、
(この野郎)
 そしてワッフルマンは、微笑みながら旅立っちまったのさ、あの真っ白な世界の向こうへ。単純に気絶。
「……な、何か壮絶な仲間割れが終わりましたが」ワッフルマンを抱え、リングを降りるマスクマン。「あー何事も無かったかのように、さっきの構図が再現されています!」
「今既に、ワタクシとオジ様のラブストーリーが始まっているぅう!」「リテイクしている!?」
 吹けよ萌、叫べ萌、私の恋は既成概念に縛られない!
「愛の、リューちゃんを国立に連れてってアタァックー!」「サッカーに変わったぁ!?」
 今度こそ、今度こそリューイチが、うっさんに向かってボディアタックを――
 走馬灯の正体とは!
 人間が! 危機的状態に陥った時! 今までの自分の経験から何か助かる手段を検索するゆえに起こる現象だと一説に! そしてうっさんの脳内に巡る己の過去! そして、
 危機的状況に陥ったうっさんが、繰り出した反撃は、
「……そ」
「え? そ?」
「そぉい!」

 ――、
 ……、
「……と、とんでもない、隠し技を持っていました。うっさん」
「多分、プロレス史上でも類を見ないフェイバリットホールドだと思います義兄さん」
「とんでもないというか、あれ反則にならないのか?」
 実況席、そして観客達は言葉を失った、よもや、
 よもやこんな技が見られるとは、「う、うっさん、突然自分の頭を手にし」
 そして、

「自分の頭を脱いで、それを逆向きにリューイチに被せましたぁ!?」
 前が見えずに機敏なゾンビのように彷徨うリューイチ。

 リングの上では、かぼぱん一丁の胸毛うばけの、……頭が逆のうさぎ、
 、
 何やねん、このクリーチャー。
「あぁん、これって新しいプレイ? 闇の中でもLOVE確かめあうのねぇ」
 とか言っている人を前にした、うっさんの選択した解決策、自分がラーメンを頼んだ時うっかりつまずいて誰かさんの頭に思いっきりぶちまけてしまった事。(物凄く怒られた
「それにしてもうっさんの今の姿は、誰に変身したんでしょうか?」「いや変身したというかシオン・レ・ハ」「うっさん2、と呼ぶべきでしょうか」
 それでもあくまで中の人は居ないらしくて、で、そのうっさん2なんですが、
「ああ逃げました!?」
 リングの上から降り立って、言われなくてもすたこらさっさだぜ。
「まぁ、目隠ししただけだからな。あの侭試合続けてもどうせ餌食になるだけだし」
 しかし、その実況を聞いて黙っていられないのはリューイチである、「そんな馬鹿なオジ様、私をほって何処へ旅立つんですか! 私は貴方についていきます!」
 そう言ってうさぎの頭を逆向きにつけた侭、カボパンも手探りでリングを降りる。観客を割る貴方はモーゼ、そして愛のアイランドサーチを使い、そして、
「今こそ拙者、馳せ参じる!」「え、今更苗字に沿ったキャラにならなくても!?」今回苗字はリングネームに使われていない、だけどだけどダッシュダッシュ! GOGOリューちゃんナイスミドル追って、目の前が闇だろうとさ、
「リューちゃんには光が見えてるのよ、そう、LOVEというのねぇ!」
 そしてセコンド碇のムチも届かず、彼は、全速力で、
 屋上から落ちた。「リューイチ選手ぅ!?」
 思わず皆、実況も近寄る屋上際。しかし集団で一気に駆け寄るのは危険極まりないのでけして真似しないて下さい。
 さて、落ちた人を見ると、未だうさぎの頭は外れていないが、
「あ、エクトプラズム出てるわね。五つ」
「……細い線だが一応繋がってるし、まだ息はあるか」
 身体が痙攣しているのはやっぱりエクスタシーなんだろうか、というか、本当今まで良く死ななかったものだ、
「……で、シュライン、この勝敗はどうなるんだ?」
「え、そ、そうね。……先に逃げ出したのはうっさんだし、といっても、残っていたリュウイチさんがあの状態だし、でも無効試合にしても」
 その時、である。
「ん? ……誰か走って来て、……あ」
 それは二人組み、の男であり、二人とも同じ服であり、
「た、辿り着いたんだ僕は、この世界に、天国ってこんな身近に、……ってアラ誰私を立ち上がらせてくれるジェントルメンは」
 ガシャン!
「え、そ、そしてこれは指輪、どころか腕輪!? この重い感触、三か月分以上の重み、そんな、こんな所で新たなロードへ、でも駄目ですオレには愛すべき人が」
 グイグイ、
「つ、連れられていってしまう、……いいでしょう望むところだ! 貴方の愛と! 私の愛! コーヒーとミルクのように混ぜ合わせて、そしてトキメキを記念碑に」
 、
 ピーポーピーポー。
「うわーいぱとかーだー」
 リューイチ・ハットリの特殊能力、それは、カボパン一丁でも“余りにも自然すぎる”為に逮捕されないという事、だったが、
 今うさぎの頭を被ってるもので、
 ……、
「リューイチー!」
 屋上の誰かに響き渡る、勇者へ向けてのレクイエム、
 ああなんか、皆の心に、大空にあいつの姿が浮かんで、

 ああそうだ、青春って奴は
 夕日の中に消えてっちまう
 お母さん、創意工夫は大切だけど
 握り飯の具にガムは不意打ちすぎる

 キシリトール、キシリトール
 恋にきかないキシリトール
 キシリトール、キシリトール
 キシリトール入りチョコレート

 キシリトール入りチョコレート

「このお馬鹿野郎ぉぉぉ!」
 それは誰の叫びだったか、歴史には記されない事なのだけど、ただ一つ、たった一つ、
 警察に連衡されながらその桃色マンは、二十七回ほどトキメキ覚えていた。ギャルゲーでもそんなに恋出来ねぇよ。


◇◆◇


 その後、マスクマンもリングごとまた何処かへと撤収し、いつもの平穏が戻った草間興信所、その後尋ねてきたシオン・レ・ハイが、え、うっさんって誰それ? ともかくシオンが、シュラインから小豆をのせたワッフルを、MYお箸で頂きながら、一言、
「国家権力だけはガチ、でしょうか」
 余りにも適切な発言に、シュラインは思わず目頭を抑えた。

 尚、ワッフルプロレスのニューヒーローワッフルマンが、気絶てたのでリングごと連れ去れた場所で、どのような活躍をしてから日常生活に戻れたかは「ちょ、ちょっと待ってマスクマンどうやったってこの技オレがダメージ受け、痛い痛いバックブリーカー痛い投げるなぁ!?」誰も知らない事である。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
 3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん(食住)+α
 4188/葉室・穂積/男性/17/高校生
 4310/リュウイチ・ハットリ/男/36/『ネバーランド』総帥

◇◆ ライター通信 ◆
 一週間遅れてごめんなさい_| ̄|○(またか
 い、いや、四人くらいの少人数の依頼やったら楽に仕上げられるかなぁと思ったら、結局その、いつもどおりでした_| ̄|○(死んできた方がいい)寧ろ余裕があるゆえに慢心が生まれ(死になさい
 ……とりあえず、約一年半振りのギャグ物依頼でしたが、なんとかかんとかこなせる事に、寧ろ絶望感を覚えたりしました。んじゃ早めですが個別に返信NOW、あ、変身NOWとかやったら某ヒーローサラリーマン漫画っぽく、どうでもいいので次行きます。
 → リュウイチ・ハットリのPL様
 えっと、その、あの、……いや落ち着いて聞いてください。初めてハットリと出会いましたが、リューちゃんに酷似したキャラ、昔小説で書いたりしました。(えー)いやあの、色がピンクだとか露出狂だとかあと容姿とか、こっちの場合変態を公然としているので、根本的に違いますが、いやはやビックリしてヤバイ、無意識にパクってしまっていると。(えー
 ともかくそういう事もあったさかいに、プレイングのキレっぷりも良く一番書きやすいでした。MVPです。ただ、実は変態じゃないって設定で結構苦しみましたが、うまく表現できているか大分不安です;

 → シオン・レハイのPL様
 何度かお世話になってます。うっさんを沈黙キャラにしちゃった所為で、おしゃべりできなくあんまり目立たせる事出来ずすいまへん。_| ̄|○ ああでもなんかこういう、スーツ姿のうさぎってのは心トキメキディスティニーです、普通にフィギュア欲しいです。
 なんか色々被害あいかけましたが、何事もなく良かったです。多分、
 どうでもいい話ですが、シオン・レ・ハイは案外焼肉が似合うのではと、一人前200円くらいの激安のかわりあまりにも硬い肉の。本当どうでもいい。
 → 葉室穂積のPL様
 >プレイング無視や恥ずかしい事になるの歓迎、他の参加者様に合うように使っていただければ(原文を改稿して抜粋
 なんという――なんという事を言うのだろうか。モニターの前で彼は唸った。
 無視、何をしてもOK、しかしそれはキャラに寄る。いくらそう言われても、それにそぐわないキャラはなかなかそう出来ない、アイドルに無茶をさせる訳にはいかない、しかし、
 突如、男は破顔した。そうか、望むのか、望むというのか、
 好きにしていいのだな? 醜悪な笑みを浮かべ、遂に――
 という訳で色々な意味で犠牲者にうわごめんなさいいやだって過去作品つらつら眺める限り明らかに間違ってるような扱いでプレイングにワッフルマンとか無かったのに無理矢理作って痛い痛いごめんなさいごめんなさいうぐいす餡は美味しいけど武器じゃない! 武器じゃない!
 → シュライン・エマのPL様
 なんかもう今更ですが、実況というポジションが確定的に。(なんてこった)本当毎度ありがとうございます。とりあえず、リングの外での戦いを担当する形で。
 後何か料理を紹介、とあったので、とりあえず書いてる時点で試しに作ってみた料理を捻じ込みました。作中にもありまっけど、シャッキリレタスよりもグリーンリーフの方が。サニーレタスでもいけるでしょうか? とりあえずブログに写真に掲載しておきますんで、よろしければ参考に。(料理を作ったのが何日かというツッコミはご遠慮ください)後お弁当とありましたが、キッチンも近いしお皿にしました。
 あとなんか、零ちゃんを解説役にとあったものの、何時も通りの零だとまともに解説できないだろうなぁと、OPのキャラ付け引っ張りました。

 ご参加おおきにでした、また何か機会あればよろしくお願い致します。
 追伸:ワッフルポーズってそんなに楽しいのだろうか。(プレイングにやった事報告する人が居てびっくり