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<東京怪談・PCゲームノベル>


惚れ薬 またたび




 久しぶりに足を運ぶ。それはちょっとした気分転換のつもり。
 そしてまた、海原みなもはもうおなじみとなりつつあるあの薬の試薬をお願いされていた。
「……惚れ薬? いいですよ、試薬しても」
「本当ですか? ありがとうございます」
 にこにこと笑顔で言うのは薬を作った奈津ノ介だ。二つの薬をどうぞ、とみなもに差し出す。
 白い白い、錠剤を二つ。
「一個ずつ、お相手と飲むんです。お相手はどうします?」
「ええと……今いらっしゃらないけど、蝶子さんでもいいですか? ちょっと体験したい事とご相談したいことがありまして……」
「蝶子さんですか? はい、ちょっと出てますけどすぐ戻ってきますよ」
「そうですか」
 奈津ノ介の言葉にみなもはにこりと柔らかく笑う。
 と、そんな話をしているとからりと扉の開く音。そちらを見るとそこには蝶子がいる。
 奈津ノ介の言ったとおりだった。
「あ、みなも君ー!!」
 たかたかとみなもの姿を見つけて嬉しそうに彼女は走りよってくる。そしてはいている下駄も乱暴に脱ぎ捨てて和室へと上がる。
 もちろん当然のようにみなもの隣へと腰を下ろした。
「こんにちは、お久しぶりです蝶子さん」
「うんうん、お久しぶりなのじゃ」
 にこにこと出会って嬉しいと手をとって笑う蝶子にみなもの笑って答えた。
「あの……蝶子さんにお願いがあるんですけど……」
「お願い? 何なのじゃ?」
「僕が作った惚れ薬の試薬です」
 みなものかわりに奈津ノ介が答えると蝶子は一度目を瞬いてもちろん良いのじゃ、と明るく答える。
「奈津はどこかに行くのじゃ! こういうのは他人がいては駄目なのじゃ!」
「……らしいので僕はひっこんでますね」
 奈津ノ介は苦笑しながら立ち上がり、ごゆっくりどうぞ、という言葉を残して階段を上がっていく。
 そして残されたのはみなもと蝶子。
「実は……ちょっと、体験したい事とご相談したい事がありまして。体験したいのは……ゆりとかれずとか……ご存知ですか?」
「うん、なんとなくはわかるのじゃ」
「うちのお姉様がそうらしいんですけど、よくわからなくて。辞書とかネットで調べては見ましたが理解は出来ても納得ができなくて……蝶子さんとなら、そういうのがわかるかなって」
「体験してみるのは、一番早く知る良い方法なのじゃ。薬、飲むのじゃ」
 にこりと笑んで言われる。
 そこには拒絶を感じるようなものは何もなく、みなもは少し安心した。
「はい、ええと……これです」
 ぽろっと先ほど奈津ノ介からもらった薬と一つ、みなもは蝶子に渡す。
 そして二人は顔を見合わせてから一緒にこくりと飲み込んだ。


 じわりじわりと身体の奥が、心の奥が熱くなる。
 かぁっと顔が熱くなって、鼓動は早くなる。
 不思議な、不思議な感覚。
 とくんとくんと、しみこんでいく様な。


「みなも君」
「はい、ええと……」
 かぁっと顔が熱くなる。
 蝶子の頬もほのかに染まっていた。
 距離が近くて心臓が張り裂けそうだ。
「もうちょっとそっちに寄りたいのじゃが……」
「はい、はいどうぞ」
 ありがとう、と今まで見たこともない柔らかな表情に自分も照れる。
「あ、そういえば相談したい事って何なのじゃ? 言ってみるのじゃ」
「未来とか将来……それって不安になりませんか。今それで悩んでいて、ちょっと鬱っちゃって……」
 ふわりと、頭をなでられる感触にみなもは顔をあげる。
 控えめに優しく、蝶子が頭を撫ぜていた。
「不安にならないわけがないのじゃ。でもそれでいいのじゃ」
「気持ち後ろ向き未満中でも?」
「うん、良いのじゃ。私もちょっと、最近そうだったのじゃが……」
「蝶子さんも?」
 曖昧な笑顔で蝶子は誤魔化して、言葉を紡ぐ。
「うん、ずーっと追いかけてることが進展しなくてもやもやしたりとか……でも自分がするって決めたことだからやりぬくのじゃ。そう結論を自分で出したのじゃ」
 でも急ぐことはないのじゃ、と付け足す。
 みなもはその言葉を受け取って少し、思案する。
「蝶子さん、長く生きて色々な事柄に詳しいそうなので、アドバイスがほしいなぁ、って思ってたんだけども……でも、自分で自分なりの答えを出さないと納得できないのもわかってはいるんです」
「うん、それでいいのじゃ。最後はやっぱり、自分なのじゃ」
 ふと伸びた腕にぎゅっと抱きしめられる。
 蝶子からふわりと匂う麝香にみなもはなんとなく、心安らぐ感覚を得る。
 背中をぽんぽんと叩かれて子供をあやす様な、そんな感じだった。
「みなも君はちゃんとわかっているからいくら迷っても大丈夫なのじゃ。それに困ったらちゃんと私が助けるのじゃ」
「本当に、ですか?」
「うん、だって恋人じゃろう? 当然なのじゃ」
 ぎゅうっと抱きしめられる腕に力が入る。
 みなもも少し控えめにきゅっとその腕を握る。
「ただ……誰かに吹聴したかっただけかもしれませんね」
「うん? そんなの気にしないのじゃ。私はみなも君のことが知れて嬉しいのじゃ」
 自己陶酔の一種かもしれない、と思っていたけれどもその言葉はやはり嬉しい。
 みなもは苦笑しながらもありがとうと笑う。
「家族には心配をかけたくないから言えなくて……ちょっとすっきりしました」
「家族には……心配かけるのは辛いものじゃ。みなも君、偉い」
 抱きしめられた腕が解かれる。その瞬間が少しさびしいけれどもすぐ目の前に蝶子の顔がある。
 こつん、と額と額が合わさる。
「ぜーんぶ、ゆっくり考えたらいいのじゃ。時間はたくさんあるじゃろう?」
「はい」
 ふふ、と二人で笑い合う。
 と、ぱちりと心の中で、自分の中で何かがはじける感覚。
 二人は互いに瞳をぱちくり、としてどちらからともなく笑い始める。
 くすくすと漏れ始める声。
「あはは……恋人同士だったのじゃ」
「そうですね、そうでしたね。ちょっとだけ……わかったかもしれません」
 イタズラをし終わったような笑顔を双方向け合って。
 ちょっと楽しかったねと言い合う。
 恋人になって、でもそれはやっぱりひと時の幻。
 それでも、あったことに変わりはなく。
 蝶子は優しい眼差しをみなもに向ける。
「恋人じゃなくても、困ったことがあったら言うのじゃ」
「いいんですか……?」
 少し控えめな声でみなもは問い返す。
 もちろん、と言葉を笑顔が返ってきて、みなもも笑顔を返す。
 女同士だからわかることもあるのだからと。
「それにしても、奈津は惚れ薬を作るの好きじゃなー」
「そうですね。でもそのおかげで……こうした体験できるし」
 楽しいからいいんじゃないですか、というみなもの言葉に蝶子も苦笑しながら頷く。
 その笑い声はしばらくの間、続いていた。



 このひと時は、ずっとずっと残っていく。
 惚れ薬の力でも。
 楽しかったことには変わりない。




<END>




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】


【NPC/蝶子/女性/461/暇つぶしが本業の情報屋】
【NPC/奈津ノ介/男性/332/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 海原・みなもさま

 お久しぶりです、惚れ薬またたびにご参加、ありがとうございましたー!
 ほんわかとのろのろとしているもののあまーい雰囲気を目指しました!みなもさまに楽しんでいただければ幸いです。無印再びまたたび含めて惚れ薬シリーズにすべてご参加いただき志摩はとても嬉しく思っております…!また惚れ薬シリーズをするときには是非…!(ぇー!)このノベルで少しでもみなもさまらしさがでて、感じていただければ嬉しいです。
 ではではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!