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<東京怪談・PCゲームノベル>


覚醒前夜祭 二の宴


●回顧録

「ほら、着いたぞ」
 ゆるく肩を揺さぶられたことで、桐生・暁の意識がふわりと現実へと浮上する。
 果たしていったいどんな夢を見ていたのか――それとも彩りのない深い安らぎだったのか――既に眠りの記憶は曖昧に霞み始め、しきりに繰り返される瞬きの合間に赤い瞳は何かの予兆を感じさせる窓の外へと視線を馳せた。
「おーい、起きたか?」
「んー、起きてる。っていうか、どこの森?」
「……どこって、どこってどこってー」
「鉄太さーん、なんか変なエコーかかってるよ。この車、特殊仕様?」
 かすかなまどろみを残していた思考が、ガンっと何か硬いもの同士がぶつかり合う衝撃音に完全覚醒を果たす。
 ちなみに音の正体は、天城・鉄太がハンドルに思いっきり頭突きを喰らわせた結果で、それが暁の笑いのツボを刺激したのは言うまでもない。
「しくしくしく。唐突な呼び出しにも喜んで馳せ参じたのにー」
「車付きってのがまた気が利いてるよね」
「そうそう。こないだ洗車しといて良かった〜とか思ったのはどうでもいいけど。そんな俺に向かって開口一番」
「「『森に向かって!』」」
 二人の声が見事にハモる。
 たまらず吹き出す暁に、鉄太はハンドルに肘をついて、辛うじて夜陰に沈む鬱蒼とした木々の間に目を向けた。
「ごめんごめん、でもほら、何だかんだで目的地に辿り着いたっぽいじゃん。さすがは鉄太さん、頼りになるー」
「心がこもってないぃぃ」
 拗ねた風情を装っているが、鉄太が心底そんなことを思っているわけではないことを暁は分っている。
 火月の依頼を受け、京師・紫という人物の覚醒を促す為の「御霊」を探す事を電話で鉄太に告げたのは数時間前のこと。電話口の向こうで僅かな逡巡があるのを察しはしたものの、『手伝って』と言葉にした直後に戻ってきた力強い肯定の返事に迷いがなかったのは暁の過信ではないはずだ。
 この時点ではまだ、暁は鉄太が主と崇める西斎院美和と火月の間――正しくは両者の家――にある確執を知ることはなかった。もちろん、知っていたとしても鉄太に協力を仰ごうとする気持ちに変わりはなかっただろうけれど。
 久方ぶりの再会を祝す夕餉は幹線道路沿いのファミリーレストラン。すかさず「お子様ランチ2つで!」とお約束をかましてきた鉄太だったが、目論見は暁の視線よりなお冷たいウェイトレスの眼差しの前に敢え無く潰えた。
「鉄太さんは相変わらずだなぁ」
 くくっと喉の奥で笑えば、頬にかかる金の髪も揺れる。対面に座し目を細める男はテーブル越しに手を伸ばし、それを遠慮なくかき混ぜて破顔した。
「俺はいつだって相変わらずなの。なので暁が元気そうで嬉しいわけ」
 弾む会話に冗談の応酬。予想外に活気付いてしまった結果、仕事の話を持ち出すことに成功したのは、夕食の払いを済ませた後の車内。
 街中でよく見かける比較的小柄なサイズのそれは、あくまで一般的な外見とは裏腹な内装で、助手席に滑り込んだ暁の体を柔らかく包み込む。
 電話では掻い摘んでしか話さなかった依頼の内容を暁が喋り続ける間、鉄太はそれまでの雰囲気が嘘のように難しい顔をして押し黙り続けた。
 やがて落ちる沈黙の帳。
 重苦しい空気を振り切るように、鉄太がイグニッションキーを回す。そうして緩やかに走り出した車と共に口を開いた。
 語られたのは西と東の因縁。
 遠い遠い昔は一つの家であったはずのそれは、人の記憶だけでは頼りないほどの昔に二つに別れ、今は同じ道の上にありながら異なる場所を歩いているということ。
 それはつまり、互いが決して相容れぬ立場にあるという事実。
「別にな、憎みあってるとかそーゆーんじゃないんだけどな。何っていうかさ……微妙なわけよ、立場っていうかお互いの存在そのものが」
 少し悲しげに歪められた鉄太の口の端、それだけで根底にある複雑さを暁は理解した。それと同時に、何故? という疑問も頭をもたげる。鉄太と火月は親しげな雰囲気にあったはずだが?
 まっすぐに前方に向けられていた鉄太の視線がチラリと動き、暁の表情を盗み見る。どこか納得行かな気なそれに、鉄太は軽く肩を竦めた。
「俺自身は『西』の直系じゃないしな――それに仕事柄火月とは幼い頃から顔を合わせてたし。周囲の……っつか古い因習が俺に染み付く前に、火月を『東』として見るより以前に『火月』として見る癖がついちまったんだな」
 緑子だとこうはいかんぞ。あいつは思いっきり毛嫌いしてる節があるから。
 そう冗談めかし付け加えた鉄太だったが、再び表情は重く沈む。
「こっから先は俺が言って良いことなのかわかんねぇけど。でも火月の依頼を受けた暁なら知る権利はあるだろうし、知っておいたほうがいいことだと思うから」
 一拍置いてから続けられたのは、火月の『夫』である人物――つまり暁が目覚めさせようとしている人物の事だった。
「人、じゃない?」
「そう――っつっても半分、だけどな。俺らが監視してる歴史に干渉しようとしてる紫鬼っていう妖怪みたいな連中の親玉の息子……なんだよな。だから、半人半妖ってのが正解かもなんだが。最初は敵同士として出会った二人だったんだが――気が付いた時にはくっついてた」
 そりゃもう、お互いの命を狙いあうような仲だったんだぞ? と鉄太が笑いながら語尾を茶化すが、それが決して揶揄ではないことを暁は言葉の端々から感じ取る。
 いつの間にか握り締めていた手の平の内側には、ずっとりと冷たい汗が染み出していた。
「存在自体が『歪』のようなヤツだから――正直な話、俺はあいつが目覚めるのが正しい事なのか分らない。でも、もう一人のヤツがこちらに居座ってしまってる以上、その存在をどうにかしなきゃいけないのも事実で……って、ホントはこの辺は俺らの領域なんだがな」
 ぶつぶつと呟くように消えていく言葉達は、鉄太が己の思考の中に飛び込んだ証か。暁に細かい部分を説明するのをやめ、目元に剣呑な光を浮かべてまっすぐにどこかを見つめていた。
「っと、悪い。俺は暫く目的地を考えてみるから、だから暁は寝てろ。多分、俺は最後まで手伝ってやれないから」
 時間にしたら、きっと一瞬。それでも暁の存在を忘れていた事を詫びるように、鉄太の左手が暁の頭の上で軽く弾む。そして何をどう操作したのか、車内に心地よいヒーリングミュージックが響き始めた。
「鉄太さん? 俺、別に一晩くらい寝なくても平気」
「平気、でもだ。休める人間は休めるうちに休んでおいたほうがいい――そうしないと生き残れないのが世の慣わしだからな」
 頭を撫でていた手が、暁の視野を優しく奪う。
 意趣返しに瞬きを繰り返すと、睫毛で手の平を擦られるのがくすぐったいのか、鉄太が笑う声が暁の鼓膜を震わす。
「ほーれ、遊んでないでさっさと寝とけって」
 やがて暁の意識は途切れる――次に気が付いた時には、いつも通りの鉄太と鬱蒼とした森が暁を出迎えた、というわけだ。


●そして朝へ

「寝る前に言ったと思うけど、こっから先は俺はいけないから」
 行っても構わないかもしれないけど、悪い影響及ぼすといけないから。
 少し残念そうに言葉尻を場尻を濁しながら、鉄太は暁の背中をそっと押し出した。
 先ほどまでは夜闇に沈んでいた一帯だったが、車内で軽い朝食を済ませている間に陽が昇ったらしい。
 立ち込める朝靄の中、まだどこか遠慮がちな陽光が薄明るく世界を照らし出す。
「んー、了解。別段迷子になるような場所でもないと思うし♪ 何かあったら大声出すから、その時は助けに来てね」
「りょーかい。ぬかるんでるとことかあると思うから、転ぶんじゃないぞー」
 必要以上に軽やかに告げられるのは、不安を伝播させないための鉄太の配慮だったのだろう――何となく、そんな事を感じながら暁は夜明けの森に一歩足を踏み入れた。
 恐れは感じない。
 この程度のこと――と考えているのが半分、そして「ここだから」という気持ち半分。
 一晩かけて鉄太が導き出した『森』の答え。それはまさに灯台下暗し、火月の自宅近辺だった。
「『朝』は優しい気質だからな。一人で誰も見つけられないような遠くに行くはずはないし、きっと誰よりも近くで『主』を守ろうとするはずだ」
 はっきりとした確信を得ているわけではない、けれども間違いじゃないはずだ。そう力強く言い切った鉄太の言葉を、道なき道を分け入りながら暁は深く噛み締める。
 分る気がするのだ――この場所にいると。
 差し込む光は優しいのに、新緑に萌える木々の姿は一段と眩しく感じる。
 遠く近くに聞こえる美しい鳥たちの囀りは、ここの靄が晴れてしまえば都心を一望できるほど喧騒から場所を隔てていないということを忘れさせるに十分で。
 柔らかな土は暁の足跡を残しはするものの、存在を周囲に知らしめるような無粋な音は懐に抱きこんでしまう。まるで愛しい誰かの腕の中に在るような安心感が世界に満ち溢れているようだ。
 ふっと暁は足を止めた。
 見渡す一帯は不可思議なミルク色に染まり、その中に命の歌を謳う木々が空へ向けて緑を広げている。時折、靄の薄くなった狭間から降りてくる陽光は、宗教画にある一条の輝き。
 どれほど歩いたのか定かではない。
 四方同じ情景で、くるりと頭を回しただけで元来た方角が分らなくなりそうだ。そうならないのは、自分が刻んできた足跡がずっと続いているおかげ。
「でも、こうして俺が踏み付けてきた場所にも沢山の命はあるんだよな」
 目線を足元に落とし、ぽつぽつと残る靴底が描き出す紋様に一人呟く。
 血のように赤い瞳に宿るのは憂いの色。
「……沢山、とか。簡単に一纏めにしちまったけど。だけど、それは無数の『一つ』だったってこと、だよな」
 目に見えないから。日頃認識することがないから。だから見落として――いや、敢えて聞こえないフリをしているのかもしれないそれらの悲鳴にグっと胸が熱くなる。
 自分さえ気付かず、両手を固く握り締めた。それはまるで祈るときのような形を作り出す。
 もし、自分が奪い去る命の一つ一つの声が聞こえてしまっていたら。おそらく誰も生きてはいけないだろう。己が生きようとする前に、絶望の淵へと引き擦り込まれて狂気という名の終焉へと踏み出すに違いない。
 あらゆる命を育む気配に溢れる場所に立ち、暁は瞼の奥から何か熱いモノがこみ上げてくるのを感じ、たまらず目を閉じた。
 深い呼吸を繰り返すと、心の内側で世界が果てしなく広がる。
 踏み台にする命がある。それと同時に生まれてくる命もある。繋がっていく命もある。目に見えなかったものの連鎖がつながり、やがて形を成して誰の目にも明らかになっていく。
 犠牲にして良いものがあるとは思わない。
 だがそれら全てを受け止めて、命は芽吹くことを繰り返していくのだ――それを壮大なまでの強さと呼ばずして何と言うのだろう。
 胸をつく想いに従い、暁は両手を空へと向けて掲げた。
 まるで緑の葉たちが、太陽からの恩恵を一身に受けようとするかのように。
 日常の中に在り続けると見失いそうになること、自然の偉大さ。自分たちがそこから生まれ、やがてはそこへ還るだろうという事実。星が産声を上げた時から紡がれ続けた変わらぬ歴史。
「スゴイ、よな。ホントに。凄い」
 ゆっくりと視界が広がる。
 五感の全てが周囲と一体化したように、ありとあらゆる声が聞こえる気がした。
 朝靄の作り出した小さな水滴が暁の髪を飾り、まっすぐに落ちてくる光の束が金の髪の上に光の王冠を描き出す。
 考えるのではなく、そうあることが当たり前のように唇が言葉を紡ぎ出す。
「朝を告げる、声」
 それは鳥の囀りであったり、流れる水の音であったり。
「草木が芽ぐむ音。美しく繊細で、澄み切るそれは心に響き、沁みこんでいく」
 何かが張り詰めていく。胸の内側に自分の意識ではない何かが芽生えるのを感じながら、その熱さに促されるように暁は背筋を伸ばして天を仰ぐ。
 宿った熱に、羽化する――何かが。
「残酷な程のそれは、忘れたくないものさえも薄れさせてしまうかもしれない。けれど、それは大切な事。癒される事で……新たな希望を持つ事が、きっと」
 火月が求める人物を目覚めさせる事が正しい事なのかは分らない。けれど目覚めることで何かが繋がっていくのだという絶対的な想いが暁の胸を突く。
 癒される事が希望を生み出し、希望があるから癒されることもできる。
 消せぬ過去があり、それを誤魔化すように笑顔で生きる暁。常人ではない能力を持つ暁。あまり楽な生き方が出来ているとは決して言えないけれど。それでも彼が『今』に在るのは、未だ見ぬ世界へ導かれているからかもしれないから。
 ツンっとした痛みが目頭に走る。堪えきれず溢れ出す透明な雫が、白く滑らかな頬を伝い地に染む。
 その瞬間、光が弾けた。

「お疲れさん」
 どうやって鉄太の元まで戻ったかは定かではない。
 人々の目覚めの気配がざわつく中、相変わらず不要なエンジン音さえ響かせない車が下界へ向けて疾走する。
 その助手席で昏々とした眠りについた暁の胸元には、鮮やかな緑色の石が飾り付けられたシルバーのチェーン。
「拉致っちゃうようで悪いけど、このままもう一件ご一緒されてな。多分、それの力が必要になると思うからさ」
 頬に深い笑みを刻み、鉄太は意識のない暁の頭を二度、三度と撫でた。
 ――今日はきっと長い一日になる。


●理由

 空は果てしなくどこまでも澄んでいる。
 春霞――なんて言葉を聞いたのは、まるで遠い昔のよう。海の色に近くなったその青は、じめじめとした季節の合間に、偶然のタイミングで飛来した奇跡。
「武彦さん、渋滞は避けてね」
「避けられるもんならとっくに避けてるに決まってる」
 東京は気が付いたら案外近いところに海が広がっているという街だ。
 日頃は矢鱈と乱立するビル郡にばかり目を奪われがちだが、ほんの僅かばかりの距離を電車で走れば、あっという間に水面が広がる――決して「美しい」と形容するわけにはいかないけれど。
 ちょっと広めのワンボックスカー、座席は三列タイプ。
 運転席に座すのは草間・武彦。助手席に座るのはシュライン・エマ。今日巡ろうと思っている場所場所を地図上の点に置き換えながら、二人は「うーん」と短い唸りを上げていた。
 キーワードは「青」。それから司るもの。
 推察の域は出ないものの、シュラインの頭に浮かんだのは『海』だった。だからそれに関係する箇所を「夕」の導きで回ってみよう、というのが本日の発端。
 曖昧ながら、どうやら針が『東』方向を指しているのには気付いていたので、間違っても山間部に探しに行こうという気が起きなかったのは一つの救い。
 その上で東京近郊の港や市場、それから水族館などを目標に定めてはみたのだが――狭いながら、車での移動だと案外時間がかかってしまうのが東京という都市でもあって。
「ずばりカーナビ付き、しかもオペレーターサービスがセットになった車を借りればよかっただけの話ですよね」
 にこりと微笑。言葉にふわりと艶やかな花が咲き、苦悩の声を一蹴する。
 しかし優雅さの中に潜んでいるのは紛れもない氷の刃。二列目のシートを一人で陣取っている某財閥の総帥――つまりはセレスティ・カーニンガムの台詞に、前列二人の背中がぐぅっと丸まる。
「だって、もったいないじゃない。経費は節約するためにあるのよっ」
「そうだそうだー! というかアンタが車を貸してくれれば一番手っ取り早かったと思うぞっ」
「それはそうと、お二人とも前を見てくださいね。多分、このままだったら数秒後には中央分離帯に激突しますよ」
「!!!」
「武彦さん、前っ、前っ!!」
 まったく、長年連れ添っているとどうして人というのは変な所で似てくるのだろう?
 シュラインや武彦からは想像だにできない悠久の年月を駆けてきたセレスティは、心の内側だけでほくそ笑む。それから思い出したように武彦の言葉を反芻してみた。
 確かに彼の弁には一理ある。想定外の人数になったからと言って急遽レンタカーを借りる事になった段階で、自分名義で所有する車――いっそヘリコプターでも良かった気がするが――を持ち出した方が何かと楽だったかもしれない。
 ここは草間興信所の流儀で、と「郷に入っては郷に従え」を実行してしまった自分をほんの少し呪いながら――残りの大半は事態を楽しんでいる――セレスティは最後尾席に座る二人の気配に意識を切り替えた。
 途端、目があったわけでもないのに、二人のうちの片割れが人差し指を自身の唇に当てて「しー」と静寂を促すジェスチャーをしてみせた。
「……朝からお忙しかったようで――大丈夫ですか?」
「んー、俺は平気。でも暁はこっち目覚めさせるのにちょっとばかし疲労しちゃったかな?」
 声を極限まで潜めての会話は、セレスティの気遣いを表したもの。そのことに頬を緩めながら、鉄太は隣のシートで安らかな寝息をたてている暁の胸元を指差した。
 きらりと輝くのはエメラルドによく似た涙型の小さなペンダントトップ。『朝』の化身であるそれを暁が手に入れたのは、ほんの数時間前。
 偶然被ってしまった日程は、暁と鉄太にとっては酷だったかもしれない――が、セレスティの呼び出しに二人は揃って応じた。正確には、セレスティと暁が微妙な時間差で鉄太に同行を求めた結果が、全員集合に繋がった、というわけなのだが。
「でも彼が朝を目覚めさせてくれていた、というのは我々にとっては非常な幸運でしたね」
 彼らが現在進行形で目指しているのは昼の御霊の欠片。
 シュラインの手には夕の欠片が姿を転じた方位磁石が既にある。互いに呼応するという御霊たち――だから、おそらく。きっと昼の御霊はそう遠からず存在を仄めかすことになるに違いない。
「そうだな――なぁ、俺そっち行ってもいいか?」
 ひたひたと満ち行く確信の帳をつくように、鉄太がセレスティの隣を指差す。
「えぇ、どうぞ。大したおもてなしもここではできませんが」
 車中では「おもてなし」も何もあったものではないのだが。洒落て嘯くセレスティの言葉に、鉄太が詰めていた息を吐き出す。
 『幸運』という言葉が発せられた瞬間、鉄太の身に緊張が走ったのは分った。そして彼の座席移動が、それの種明かしになるだろうということも。
 こんな彼は珍しい――きっと。
「なぁ、アンタたちはどうしてアイツを目覚めさせたいんだ? 火月が望むからか?」
 長身の体を器用に丸め移動を終えた鉄太は、「あら、いつの間に?」とシュラインが振り返ろうとした瞬間には、そう切り出していた。
 不意に緊迫する車内。
 そう、本来の役割を担う彼の姿をあまり目にしないので忘れてしまいがちだが。
 天城・鉄太。
 彼は『並相転移世界』に干渉しようとするモノを排除すべく存在する者。つまりはGKの敵。つきつめていけば、彼と紫は決して相容れないという結論に容易に到達することができる。
 それほどに、根は深い。
「もう、知っているんだろ。アイツはけっして『人』ではない。異形と人の間に生まれた禁忌そのものだ。確かに、アイツの不在で綻びかけているものがあるのも事実だが、それでも――」
「もうやめて。それ以上はあまり言葉にして聞いていたいものじゃないわね――京師さんにとっても、鉄太さんにとっても」
 紡ぎ続けられるはずだった言葉は、シュラインの声で断ち切られる。我を取り戻し、隣を見やれば、セレスティも同じように静かに視線を膝へと落とすのみ。
「まー……何だ。事情ってのは山のようにあるって事なんだろうけど。そういうのなんざ大小多少の差はあれ、生きてる以上誰だって抱えてるわけだ」
 低い、声。
 それはハンドルを握り、まっすぐ前をみつめたままの武彦の口から零れたものだった。
 シュラインもセレスティも、そして武彦も。もちろん眠っている暁だって。命という輝きを奇しくもこの星に授かってからの年月に差はあれど、経験してきたことは深く重い。
 彼らだけが『特別』というわけではない。無論、声を大にして叫ぶ事が叶わぬ能力を有してしまった段階で、確かにある種の異端なのかもしれないけれど。
 だから、そう。誰もが――
「理由とか、訳とか。そういうのは後からついてくる、でいいじゃないか。お前にはお前の理由があってそんな事を言うんだろうが、今んとこ俺らにそれが関係あるわけじゃないんだ。もしも間違っていたのなら、その時に考えればいい――友人を助けてやりたいってのはそういう気持ちだろ?」
 カーオーディオなどかけていない車内に、どこか苛立たしげにハンドルを弾く音が響く。
 その様子を横目で見ながら、シュラインは深く笑んだ。
「そうね。ちょっと傍迷惑なところもあるけど。京師さんは友人だし、奥さんの火月さんだって友達だし。そんな人たちが困ってたら助けてあげたくなるのが『心』ってものでしょ?」
「そうそう、それにあんな面白い人をこのまま眠ったままなんかにさせてたら、つまらないじゃないですか」
 夢の中で出会ったことのあるGKより一回り大人な彼の姿を脳裏に描き出しつつ、セレスティもくつくつと喉を鳴らして笑う。
 じんわりと広がる優しい空気――それこそが、理由なのだろうか。
 『敵』と等しく教え込まれて育ったようなものである鉄太には、溶けない氷のようにわだかまるものが確かにあるのだけれど。けれど武彦たち三人が醸し出す気配が、『彼』が自分の知る限りの彼ではないことを悟る。
「だってねぇ、鉄太さんの初恋って火月さんだったんだもんねぇ。その人の旦那さんってのは複雑だよね」
 予想していなかった声が、最後部座席から上がった。同時に、『複雑な事情』とやらが盛大に瓦解する。
「え? えぇっ!? そうなのっ!? そうだったのっ!?」
「はぁっ!? 暁、何を唐突にっ!!!」
 気色ばむ大人たちをよそに、ようやく目覚めた暁は、のんきに大きな欠伸をしながら、しなやかな猫のように背を伸ばす。
「そりゃー興味深い話じゃないか。おい坊主、もっと詳しくだな……」
「だ・か・らっ!」
「えー、違ったの? なんとなーくそんな雰囲気かなぁって思ったのに。もちろん今じゃ俺にめろめろんだけどねー♪」
 どこまで本気か冗談なのか捕まえきれない暁に、セレスティの隣に座る鉄太の肩ががっくりと落ちる。
 どこから見てもおもちゃにされてしまっている鉄太に、セレスティが目線だけで憐憫の情を送ったが――それはそれで、何だか物悲しい。
 気がつけば、先程までの空気はどこへやら。一人だけ浮きかけていた鉄太が、しっくりと周囲に馴染んでいる。
 それが作戦だったか否かは当人しか知らぬことだが、続けて暁は一撃必殺な爆弾を投下した。
「ところで、ねぇ。なんかコレが反応してるんだけど……いいの?」
 指差されたのは胸元の緑色。


●都会の青

「大学の……キャンパス?」
「そのようですね」
 鼻腔を擽るのは潮の香り――都心から程近いだけあって、決して爽やかなものではないけれど。
 先程から微塵もぶれることなく大学構内の奥を指し続ける方位磁石の針を眺めながら、シュラインは肩をすがめた。倣うわけではないが、ふむっとセレスティも首を傾げる。
 暁のペンダントの反応を頼りに周囲を車で走ってみたのだが、どうやら目的地はこの学校の内部にあるらしい。
 少し離れた所で「大学のキャンパスって広いー!」と感動の叫びを上げている暁の胸元では、特殊加工されたかのようにペンダントトップが相変わらず淡い光を放ち続けているようだ。奇異の目を向けられずに済んでいるのは、すれ違う人々がそれを玩具と勘違いしているからだろう。
 時に便利な、人の勝手な思い違い。他人に無関心であることと表裏一体ではあるけれど。
「おい、見学許可おりたぞ――つっても、今日は公開なんとかがある日で、一般人も普通に入れるそうだが」
 守衛に話をつけに行っていた武彦が、シュラインたちの元に戻る。手には入校許可証らしきタグが五枚。
「自由に出入りするにはこっちがあったほうが良さそうだったからな、念のため」
「何を口実に使ったの?」
「来年ここを受験する子供と、その保護者複数。もちろん話術は必須」
 ニカっと自分の成果に満足気な笑いを頬に刻んだ武彦に、シュラインが『過保護な集団ね』とさらに小さな笑いを添える。
 この面子だから用意できた嘘だが、その不自然さをするっと誤魔化してしまえたのは武彦の技量に他ならない。
「ところでその『何とか』って何です?」
 夏まではまだ間があるとは言え、この季節の陽光は一年を通して一番の毒を孕んでいる。タグを受け取ると、すいっと日陰へ身を泳がせたセレスティは、考え込むように華奢な手を唇に寄せた。
 形容しがたい違和がここにはある。強靭な生命力に抱かれたかのような、それ。静謐でありながら凛とし、軽やかに舞い踊るような。
「えーっと、文化講習とかで何とかって言う……えーっと、何だったっけな」
「日本舞踊かしら? あっちから笛の音が聞こえてくるのよ」
 一般的な「大学」というイメージからは連想されにくい和の響き。耳ざとく聞きつけたシュラインのフォローに、武彦が我が意を得たりと手を打ち鳴らす。
「そうそう、それそれ。大学の研究室の発表会を兼ねているらしいんだが、毎年ちゃんとした人を呼んで――」
「なるほど。では、行きましょうか。ほら、鉄太さんに桐生くんも」
 守衛の受け売り話に繋がりそうだったところを、すかさず遮りセレスティは暁たちに声をかける。
「そういえば、日本では人生を最も謳歌する頃合を青き春と書くのでしたね」
 純粋な日本人であったのならば、恥ずかしくて口にできないような台詞。けれど、それは揺るがぬ確信となってセレスティの推測の中に根付いていた。
 間違いない、ここに『彼女』はいる。
 天に広がるのは無限の青。
 近くに広がるのは、水の青。
 そしてここには人の内面に宿る青が溢れている。
 そして最後の決め手がもう一つ。それらを固く結びつけて形に成すだけの方向性を持ったエネルギーが、この瞬間、この場所には息衝いているのだ。


●葵

「見事なものね」
 零れた溜息は、言葉にならない感動に引き出されたもの。
 おそらく日頃は変哲のない講堂なのだろうそこには、即席とは思えない立派な能舞台が設えられていた。
 魅入られる、魂を。
 泥眼の面を被り紅入唐織を纏ったシテが、舞台正先に折りたたまれて置いてある小袖でに向かって舞う姿は、胸の奥をかきむしられるような感情を呼び覚ます。
「……葵上、だな」
 講堂内は溢れかえらんばかりの人で満ちているのに、余計な雑音は一切混ざってこない。
「葵の上って、源氏物語の?」
 武彦の呟きに現役高校生の暁が小さく反応する。どうやらそれが今、目の前で繰り広げられている演目らしい。
「あおい?」
「――っ!?」
 それは予兆など全くなかった。
 否、ここまで辿り着く道筋が全てそうだったのかもしれないが。
 つくづく「青」に縁がある日だと、青い瞳と銀の髪の持ち主が口の中でその名を反芻した瞬間、シュラインの手の中の夕の欠片と、暁の胸の上の朝の欠片がまばゆい光を発したのだ。
 有無を言わさぬまま、光の本流が辺り一帯を飲み込んでいく。
「ちょっと、何よこれ」
 視神経を焼き尽くさんばかりの烈光は、シュラインはもちろんのこと視力の弱いセレスティの視力さえ封じ込んでしまう。
 だがしかし渦を巻いた輝きは、やがて終息の時を迎える。
『焦る必要はない』
 鼓膜を揺らしたのは、落ち着きを伴った少女の声。
『二人、目を開けてみれば良い』
 どこか傲慢さを帯びたその声は、二人にむかってそう促した――そう、二人に。
「……ここ、は?」
『ここは、ここ。同じ場であり、本質を同じくする場。汝ら二人が私を強く欲したから、舞台が成った』
 一時的に奪われていた視力が、ゆっくりと彼らの中に戻ってくる。それと同時にシュラインとセレスティは、互いの置かれた立場を感覚で悟った。
 武彦や暁、そして鉄太の姿はない。けれど彼らが何処かへ消えたわけではないはずだ、少女の言葉通りなら。
 落ち着いたとはいえ、それでもまだ強烈な白光の世界に軽い頭痛を覚えながら、シュラインはそれらを跳ね抜けるように頭を振った。
『では、問う。汝ら、私を如何に思う』
 聞こえるのは声、だけ。視線で姿を探そうとも、それは叶わぬらしい。ただ気配の揺れる音がシュラインに、強く溢れる生命力がセレスティに、この場に自分たち以外の何かが存在する事を教えていた。
 彼女こそが昼の御霊。
 夕とは異なる威圧的にも感じられる出現の仕方は、おそらくそれが本質だから。
 信念と裁き――心弱いものではみる間に挫かれ、決して手の届かぬもの。
「あなたをどう思うかってのとは……ちょっと違うかもだけど」
 シュラインがゆっくりと口火を切った。固く拳を握り、負けぬ瞳でじっと前だけを見据える。どこからか吹き込んだ風が、漆黒の髪を微かに揺らす。
「思い込みかもだけど京師さんが憧れてるっていうか……惹かれるものってこんな感じなのかな――と思うの」
 飄々とした青年の姿を心の中に描き出し、思い起こす。
 そして昼への呼びかけだったはずの言葉は、やがてその奥で繋がっているはずの彼へと向けられていく。
「私自身いつも迷ってるし結果を恐れてもいるけれど。でも、それでも半歩ずつだっていいから自分が決めた方向へ進んで行きたいと思ってる。そうして結論から目をそらさず、バネにしてまた進んで行きたいって」
 一度、言葉を区切る。シュラインの胸に満ちるのは、自分のものだけではない勇気。きっとこの場にいない皆が、何かを祈るように願い信じている。
 様々に交錯する心。
 決して誰も、何にも負けない強さなど持ち合わせてはいないけれど。
「京師さんも色々と不安定な頃があったけど、でも心ではちゃんとした指針があるように感じてたわ。彼の中にも確かに貴方がいる――だから、京師さんが今よりほんの少しだけでいいから強くなれるよう貴方の迷いのない強さ、厳しさを貸して欲しいの」
 蘇る、現実世界から消える直前の紫の姿。
 幼い自分をシュラインに預け、悲しげな表情で瞳を揺らした。きっと彼自身が迷っていたのだ、自分自身の過去だから。全てが手に取るように分ってしまえるから。
 たまらずこみ上げてきた熱い涙を、ぐいっと手の甲でシュラインが拭い去る。その様子に昼が仄かに笑った気がした。
『……汝は?』
 それまで黙ってシュラインの言葉を聞いていたセレスティに矛先が向けられる。その声に滲むのは、明らかな興味の色。
 さきほどより強さを増す命の波動に、セレスティは昼の気持ちが半分以上固まりかけていることを感じていた。ならば、自分はその背中を押せば良い。
 柔らかな意思に抱かれ、セレスティは己の銀の髪に指を絡めた。しかし、するりと逃げたそれは水のように穏やかに波打つ。
「私は、皆さんが頑張って起こそうとしている愉快な方とゆっくりお話がしてみたいんです」
 にこやかに笑む。その言葉に嘘がないことを示すように。
「GK君でありながら、まったくの別人の様な京師さんが何を持って信念を持ち、導くのか。何をどう、生きていきたいのか」
 全てが晒される昼の光の中、自分を表現するのは想いが強くなくてはいけない。彼がそれを成せるのか、またその先には何があるのか見てみたい。長い命の中でも、そう簡単にはお目にかかれない事の果てにあるものを。
「あなたは謂わば『強さ』の象徴のようなものでしょう。道を誤らずまっすぐに生きて行くための――しかし、それだけでは生きていけない。いいえ、それでは本当に生きているとはいえないと思いますから」
 形を取らない少女へ向けて、セレスティは舞うように右手を差し伸べた。それからもう一つ、全くの興味で付け加えてみる。
「ところで、ちょっと思ったんですけど。貴方たち御霊はまるでご兄弟かご家族ようですね。司るもの一つ一つが綿密に関連して、でもそれで一つの玉になるような」
『まさにそれが我らの真』
 再びの激変の刻。
 耳ならぬ音をたて、大気が一点に向けて凝集していく。小波が大いなるうねりへと姿を変えていくように。
 そしてセレスティは感じていた。自分の指先に熱い何かが口付けたのを。
 そしてシュラインは見た。セレスティの前に一人の少女の形が成っていくのを。
「全ては混沌である黄昏より生まれ落ち、闇夜に抱かれ育まれ、やがて眩しき朝に目を覚まし、輝く昼に真の己となる――……名を」
 長い長い純白の髪、それを翼のようにはためかせ。空のように海のように深い青の双眸がセレスティをみつめ微笑んだ。
「葵」
 とっさに口にしたのは、先ほど見ていた舞の演目から。
 それでも、何故だかその名が彼女にはしっくり行くような気がした。
 高貴な身であるがために、なかなか素直になれなかった、気の強い――けれど根は優しい女性だった葵の上。むろん、昼の本質が全く重なるものだとは思わないけれど。
「諾。私は汝らの望みを受け入れよう――兄と姉に倣い」


●日差しの影

「もー、めっちゃ心配したんだぞ。二人そろってぴくりとも動かなくなるからさっ!」
 陽はすでに大きく傾きかけている。
 茜色に染まる空の下、長く伸びる大人たちの影をひょいひょいっと避けながら、暁はシュラインとセレスティの顔を交互に眺めた。
 夕と朝の欠片の強い発光――あれは、昼に招かれた二人だけが視たものだったらしい。
「私の気配を察し、朝と夕が汝らを私の元へと送り込んだのだろう。ならば影響を受けるのは対象者のみだ」
 まるで糸の切れた人形のように動かなくなった二人を、残った三人で抱えるように講堂から出たらしい。時間にしてほんの数分のことだったそうだが。
 そして動いたと思ったら、新たな人員が増えていた。
 事態の説明らしきものをしてくれるのは葵。しかし朝の欠片の所有者だと挨拶した暁には、拗ねたように頬を膨らませた。
「朝にも姿を与えてやればよかったものを」
 ほぼ八つ当たりと言って間違いないそれは、単純に同族を傍らに置きたかったという願いからか――案外、子供のような性格のようだ。
「そーだなぁ、きっと朝だったらもっと優しげなかわいー娘だったろうに」
 密かな棘を含ませあった会話は、二人の間にぴりぴりとした空気を生み出していた。が、周囲の目には微笑ましく映るようだ。なぜなら葵の外見は、暁の目からも十分に子供に見えるほど幼いものだったから。
 まるで兄妹のような年頃の少年少女が、少々仲を抉らせている風情というのは、どこか心を和ませる。そこに邪気がまったく含まれていないなら、なおのこと。
「さて、これで残るは夜の御霊だけになりましたね」
「そうね、あと一息ってところかしら」
 今日の成果に満足気に笑むセレスティとシュラインに、武彦が、また騒がしくなるのかー、と嘯く。もちろん、それも新たな笑いを誘う一つの種。
「ところで、彼女はこれからどうするんだ?」
 少し離れた所を歩きながら、鉄太は葵を視線だけで追いかけた。
 名を与えた人物に似せようとした意識があったのか、セレスティとよく似たスーツのような服を着た彼女は、外見のせいもあるがひどく目立つ。
「そうね……やっぱり火月さんの所に行ってるのが一番いいんじゃないかしら?」
「そうでしょうね。京師さんの魂と連結されているそうですし、お互い何かとそのほうが好影響でしょう」
「私はあの男のことはあまり好きじゃないぞ――無論、嫌いではないが」
 大人たちの一方的な取り決めを聞きつけた葵が、軽く眉根を寄せて抗議の声を上げた。どうやらそれも我侭の領域を出ない事らしい。くるくると変わる表情からは、彼女が人でないことを忘れてしまいそうなほど、簡単に感情が読み取れる。
「いつでも遊びに行ってあげるし。あそこには小さいお子さんもいるから楽しいわよ?」
「そうです。よかったらお好きなものをお送りしましょう」
 シュラインとセレスティは、葵のことをすっかり小さい子供扱いである。しかしそれも仕方のないことだろう。あれほどまでに圧倒的だった彼女の存在感が、人智の及ぶ範囲内にまで落ち着いてしまうと、その落差から生み出されるのは『可愛らしさ』でしかない。
「……汝ら、私を人の子だと思うてはいまいか?」
 葵の瞳が剣呑な光を帯びる――が、青い瞳の大人二人は全く動じない。
「そうだ、火月さんに早めに連絡いれとかなきゃ」
「では私も夕飯の手配をしましょう。せっかくだから今日は皆でいかがですか? それから葵は何か好物とかありますか?」
「だから! 人の子ではないと申しておるのにっ!」
 夜の闇が静かに降りてくる。
 昼の輝きが鮮烈であればあるほど、その漆黒は深さを増して。
「光と影は表裏一帯……って、ね」
「あれ? 鉄太さん、どうしたのー? ほらほら、早く行かないと晩御飯食いっぱぐれちゃうよ」
「いや、何でもない――暁も今日はお疲れ様」

 夜が来る。
 全てを飲み込む長い永い時間が。
 闇は在る――どこにでも、誰の胸の内にも。
 安らぎが訪れるのを願えば、願うほど。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名】
  ≫≫性別 / 年齢 / 職業
   ≫≫≫【関係者相関度 / 構成レベル】

【0086 / シュライン・エマ】
  ≫≫女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
   ≫≫≫【鉄太+1 緑子+2 アッシュ+2 GK+4 紫胤+2/ S】

【1883 / セレスティ・カーニンガム】
  ≫≫男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い
   ≫≫≫【アッシュ+1 GK+3 / B】

【4782 / 桐生・暁 (きりゅう・あき)】
  ≫≫男 / 17 / 学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員
   ≫≫≫【 鉄太+4 / D】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。毎度お世話になっておりますライターの観空ハツキです。
 この度は『覚醒前夜祭 二の宴』にご参加下さいましてありがとうございました(礼)。
 
 覚醒前夜祭、その2ということで。今回はどれか一つの覚醒と、もういっちょ半覚醒くらいいけばいいかな〜と目論んでいたのですが、蓋を開けたら二つ丸っと覚醒してしまいました。
 皆さまの感性に感謝しつつ……そして毎度の遅筆っぷりで申し訳ございませんっ(平謝)

 桐生・暁さま
 覚醒前夜祭への参戦、ありがとうございます!
 鉄太ともどもお久し振りの再会に喜びを覚えつつ――あっという間に朝まで覚醒させて頂きありがとうございました。やー、ツボのつきっぷりに感動でした。
 なお物の形を取りました朝ですが、アイテムとして配布させて頂いております。あまり役立つものではないですが(汗)宜しかったら暁くんのアクセサリーの一つに加えてやってくださいませ。

 誤字脱字等には注意はしておりますが、お目汚しの部分残っておりましたら申し訳ございません。
 ご意見、ご要望などございましたらクリエーターズルームやテラコンからお気軽にお送り頂けますと幸いです。
 それでは今回は本当にありがとうございました。
 そして宜しければ、三の宴もお付き合い頂けますと幸いです。