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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


秘密の絵画鑑賞

 ここは街はずれの魔法薬店。
 カランと店の扉が開く。
「いらっしゃい」
 店長のシリューナ・リュクテイアが馴染みの客に声をかけた。
「今日は何をお探し?」
「ああ、ええと――」
 言いかけた客はふと店内の壁に数点の絵画が飾られているのを見た。
「いい絵ばかりだね」
 と注文の前にひとつずつ絵を見ていった客は――
 あるひとつの絵の前で硬直した。
「こ、この絵は――」
「ああ、それか?」
 シリューナは何でもないことのように言った。
「ただのお仕置きだ、気にするな」
 ――気にならないはずがないというのに。

     **********

「ティレイラ! この絵を壁にかけるぞ……!」
 ある朝、店長のシリューナ・リュクテイアは弟子のファルス・ティレイラに声をかけていた。
「はーい、おねえさま〜」
 ティレイラは元気に返事をした。

 シリューナはいくつもの絵画を用意していた。
 それぞれに美しい場面が描かれ、細工も細やかな額縁に飾られ。
「わ〜、綺麗な絵ですねっ!」
 ティレイラは喜んで仕事を引き受けた。
 二人は手分けして、ひとつひとつを店の壁にかけていく。
 どこから手に入れたのか、有名な画家の描いた絵もあれば、無名の画家の素晴らしい絵もある。
 風景画もあれば、自画像もある。中には動物画もあった。――オオカミだろうか。
 それを、絵画をかけるのによさそうな場所をみつくろって壁にかけていく。
「よいしょっと……」
 絵画は重い。額縁が重いんだなあ、と思いながらティレイラはひとつひとつを持ち上げて壁に飾っていた。
 シリューナが丁寧に自分の分を壁にかけ終わり、
「こっちは終わったな。そっちも……あとひとつだ、ティレイラ」
「はい」
 ティレイラは最後のひとつに手をかけた。
「ああ、もう疲れた〜」
 少し乱暴気味にがっと額縁をつかんで。
 と――
 額縁が、ぼろっと取れた。

 その瞬間に。
 絵が、
 しゅわっと、
 ――きれいさっぱり、消えてしまった。

「きゃー! おねえさま〜!」
 ティレイラが悲鳴をあげる。
 シリューナがはっと振り向く。
 そこにあったのは絵が消えたただのカンバス……
「何だこれは……?」
 シリューナはカンバスと額縁を調べる。
「この絵には……何が書かれていた?」
「ええとぉ……何か、オオカミさんみたいなものが……」
「―――」
 シリューナははっと気づいた。額縁に残っていたわずかな魔力の波動――
「ティレ。これは特殊な魔力でものを絵として封じ込めていたものだ」
「え? ええ??」
「それが額縁が外れたことで解放されて、絵が消えてしまった……! ティレ、何てことをしてくれたんだ!」
「えーーーー!?」
 ティレイラが仰天する。
 シリューナははあとため息をつき、
「これは……お仕置きが必要だな」
 とつぶやいた。
「え、ええ、待って、待ってくださいよう。だって知らなかったんですよ。額縁が外れるとは思ってなかったんですよ」
「そんなに簡単に外れる額縁じゃなかったはずだ。扱いが乱暴だったんだろう」
「………っ!」
 身に覚えがあったティレイラは身をすくませた。
「さて、お仕置きは簡単だな」
「な、何する気ですか?」
「決まっているだろう」
 シリューナはにっこりと笑った。
 そして、額縁とカンバスに手をかけながら、ティレイラに向かって魔力を放った――

     **********

「絵にしてもなかなかかわいい弟子だ。そう思わないか?」
 シリューナは客に向かって誇らしげにそう言った。「文字通り、絵になるやつ、だな」
「………」
 客はなんとも答えようがなかった。
 客の視線の先で――
 カンバスと額縁、そしてシリューナの魔力で絵にされてしまったティレイラが、泣きそうな顔をして壁に飾られていた。

 客が帰ってしまってから、シリューナは改めてティレイラ画を眺めた。
 ティレイラは魔力から逃げるような逃げ腰の格好でそこにいる。
「ふむ……もう少し、こう、違った格好で封じ込めればよかったな」
 『おねえさま〜』とどこからかすがるような声がする気がするが、無視。
 ティレイラをオブジェにして飾るのが大好きなシリューナにしてみれば、今はかっこうの時間だ。
「ティレ、中で動けないか? こう、もっと楽しげに」
 『楽しげにできるわけがありません〜』と声がした気がするが、無視。
「しかし……声が聞こえるのか……。私の魔力不足だったかな? かけ直すのもいいが、しゃべる絵画もよかろう」
 『それより解除してください〜』と声がした気がするが、無視。
「もっとまっすぐにこっちを向いて……明るく、両手を広げるような感じで封じ込めればよかったな」
 『ひどいです〜』と声がした気がするが、とことん無視。
「ふむ。今日はお前を眺めながらティータイムと行こう」
 『おねえさま〜』と後ろから追いかけてくる呼び声を無視しながら、シリューナはティータイムセットを持ってくる。
 椅子と簡易テーブルを用意して、そこに腰かけコップに茶を注いで。
『おねえさまっ!』
「何だ、ティレ」
『ひどいです! 早く解除してください!」
「私の大切な絵画を台無しにしてくれたのは誰だったかな、ティレ」
『それにしたってこれはひどいですっ!』
「いいじゃないか、お前は絵になるぞ。文字通り」
 ――長い黒髪に一房だけ走る紫の髪。それをリボンで飾っているティレイラは、確かに美少女だ。もしも絵師に肖像画を描かせたらさぞかし、だろうが、今は本人が絵画になってくれている。
「肖像画よりよほど価値がある。お前は生き生きとしているのが一番いい」
 にっこりとシリューナは言った。
 もし絵画の中でティレイラが動けたなら、バンバンと絵画の扉のような場所を叩きたがるだろうが――残念ながら動くことはできないらしい。
「残念だな。動けたらよかったんだが」
 シリューナはつぶやいた。「しかし、オブジェ代わりとしては丁度いいか。ティレ、もう少しそのままでいろ」
『おねえさま〜!』
 どこまでも悲痛なティレイラの声がする。
 ――無視。
 シリューナは薄情なまでの態度で、そのまま楽しくティータイムを過ごした。
 弟子が絵画の中でわめくのを聞きながら……

 その後、シリューナが飽きて額縁をはずすまで、ティレイラはずっと絵画のままだったという。
 たくさんの客の目を引いた。
 中には売ってくれと頼んでくる客もいたが、シリューナはさらりとかわしたという。
「あれは、私専用の絵だ」
 と言って……。


 ―Fin―