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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


ペピュー育成 〜紫


*オープニング*

アンティークショップ・レン。


都会にひっそりと佇むこのお店、曰く付のシロモノばかりのせいか
よほどの通か、よほどの好奇心旺盛な輩しか訪れない。

ドアが開くと、椅子に腰掛けたまま気だるげにキセルをふかした碧摩・蓮 (へきま・れん)が
視線を向ける。



「見慣れない顔だねぇ。
 ねぇ、面白い商品を入荷したんだけど、見てかないかい??」

そう言うと、蓮は何やらゴソゴソと、袋を漁り、何色もの手の平大の卵を取り出した。


*紫の卵と、黒羽・陽月*

ペピュー。
それはいまだかつてこの世界で見た者がいない、特殊な存在。
ペピュー。
昔々、あるところ、ある場所で、ある旅人が時空の狭間に挟まれ、異世界へと飛ばされた。
旅人はそこで出会った、なんとも形容もしがたい奇妙な存在に声をかけられた。
人語を解せたのか、それとも、旅人の意識下に話しかけられたのか。
今となってはわからないが、その旅人は様々な色の卵を託された。
ペピュー。
人間界にある「卵」。それを、この世界の者達は「ペピュー」と呼ぶのかもしれない。
人間界にある卵にも、ニワトリの卵を初め、鳥の種類は勿論、魚など、様々な卵がある。
この色とりどりのペピューの卵もそういった類なのかもしれない。
ペピュー。
『持ち歩かん。さすれば、卵は孵りよう』
なんとも形容しがたいその存在は、そう言うとまた、旅人を元の世界へと戻した。

ペピューの卵と共に…


「…これが、一緒に入ってたマニュアル。んーー…ま、小難しく書いてあるけれど、
 何が生まれるかわかりませんよ、って話みたいだねぇ。
 んでもって、約七日程度で孵化し、ペピューはペピューの国へと帰ります、と…
 あたしもまた、なんだかわからないもんを仕入れちまったもんだねぇ」

キセルの煙を吹きながら、碧摩・蓮が黒羽・陽月にマニュアルを手渡す。

黒羽・陽月。
高校二年生。透き通るような白い肌に、茶色い髪、青い瞳。
その髪も、瞳も、光の加減によっては見るものの印象を変える。
否、変えるのではない、「変わる」のであろう。
第一印象としては、普通の高校生だ。友達とダベったり、カラオケに行ったり、ゲームセンターに行ったり…
ただただ普通に青春を謳歌する高校生。
しかし、友達らは知っているのだろか?本当の彼の姿を。
きっと友人らはこう答えるだろう。
「陽月?あぁ、あいつ、すっげぇ運動神経いいんだよ!」
「あ、あと手品も得意だよな!!俺、全然タネ見破れないし」
「得意って言うか、休日はマジックショーとかやってるらしいぜ?頭もキレるし、凄いよな」
勿論、それらは正解である。だが、それだけではないのが、黒羽・陽月だ。

今日は、休日。
マジックショーの帰り、フラリと立ち寄ったアンティークショップ・レン。
店主の碧摩・蓮に声をかけられたのがきっかけで、半ば強引に残り少ない『ペピューの卵』を勧められた。

「へぇ、面白そうじゃん」

陽月は蓮から『ペピューマニュアル』を受け取り、説明を聞きながら、卵を物色した。
数色の種類の色を持つ手の平大の卵達。
その一つ一つを手に取り、見比べ、陽月は紫色の卵を選んだ。

濃紺に見えなくもない、深い深い紫色をした卵。
その卵を見つめる陽月の瞳も紫色に見えたのは気のせいか。
そう思いながら、蓮が陽月に言う。

「まぁ、ほっといても側に置いておけば孵化する。適当に構ってやっておくれ。」
「あぁ。んーー、ペピュー使って何かいいマジックできないかな〜」
早速や、陽月はマジックのことで頭がいっぱいのようだ。
そんな陽月に蓮はフフ、と笑う。
「ま、ペピューに色んなもんみせてやりな。きっと喜ぶさ」

そう言うと、蓮は陽月にお代の100円を請求した。蓮の「毎度ありっ」の声と共に、陽月は店を出る。
そして、帰り道を歩きながら、陽月は早速ペピューへと話しかけた。

「俺の名前は黒羽・陽月。今は高校二年生っ。
 特技はマジック…ってとこかな?他にもまぁ、色々あるけど…
 ま、一週間よろしくな、ペピュー!」

そう、紫の卵に語りながら、陽月は自宅へと戻った。


*紫の卵 初日*

オイラはペピュー!!紫色の卵だっ。ちゃんとした名前はまだ無いのだっ。
オイラがわかってるのは、自分がペピューっていう卵で、紫色をしていて、人間界で誰かに持っててもらうと
7日ぐらいでこの殻から出られる、ってこと。あと、ちょっとした人間界の常識、とかだなっ。
んーーー、でも正直、常識については自信ないなー。
でもまぁ!殻に籠ってるだけだし、常識無くても大丈夫だよな?な?

そんなこんなで、オイラは今、ある人物の手の中にいるんだ。
歩きながら自己紹介してくれたから、名前はもうわかってるのだ☆
黒羽陽月っていう兄ちゃん。特技はマジック…マジック?マジックってなんだろーって思ってたら、
この兄ちゃん、何も持ってないほうの手のひらからポンッ!と小さな花を出したんだっ。スゲー!!!
「ペピュー、今の見れた?」って笑顔で言うから「見えた!!すげーや、兄ちゃん!!」って大声で言ったんだけど、
俺の声は届かないみたい…ちょっとションボリ。
でも、兄ちゃんは「孵化したら、もっと凄いの見せるからね」って不敵に笑ってたんだ。
んーーーー、今から孵化するのが待ちどおしいー!!

でもって、兄ちゃんは帰宅するや否や、オイラを机の上に置く。
「これからよろしくね、ペピュー」と、凄く綺麗な笑顔で声をかけてくれたんだ。
そして、陽月兄ちゃんはトランプを取り出し、軽快にシャッフルし始めた。
その手さばきにオイラは思わず見入っている。でも、気づいたんだ。
陽月兄ちゃん、トランプをイジりながらも、別のことを考えてる、って。表情は、斜め上を向き、何か考えてる模様。
手トランプをシャッフルし、その一番上をめくる。見れば、スペードのエース。
そのスペードのエースをトランプの真ん中あたりに入れ、またシャッフル。
そして、一番上のカードをめくると…また、スペードのエース。ええっ!?
更にそれを繰り返す陽月兄ちゃん。偶然…じゃないよな?しかも、何か考え事をしながらマジックするだなんて…
器用だ。器用だ、陽月兄ちゃん。
最後に、〆なのか、ジョーカーのカードをめくると、何かを決心したかのように、陽月兄ちゃんはトランプをしまった。

「今日はもう寝ることにするよ、ペピュー。明日は学校だしね。
 あ、学校にはバレないように持って行くから!
 …ぁ。宿題あったんだっけ。…ま、いっか。明日学校ついてからでも間に合うだろうし」

そんな感じで、オイラに明日の予定を報告すると、陽月兄ちゃんはベッドに入った。
「おやすみ、ペピュー」
そう言って、電気を消す。

ちなみに。オイラ達ペピューには「食べる」とか「寝る」とかの概念はないのだ。
卵の間だけだけど。
だから、オイラはずっと陽月兄ちゃんの寝顔を見て過ごした。
時折、苦しそうな、切なそうな表情をしていたのは…気のせい、かな…?


*紫の卵 二日目*

陽月兄ちゃんの部屋で迎える初めての朝。
「うぅん…」と軽く背筋を伸ばし、起き上がる陽月兄ちゃん。そして、即座にオイラに声をかける。
「おはよー、ペピュー。起きてるー?」
ずーっと起きてたぞー!と言ってみるも、やっぱり声は届かない。
それでも、陽月兄ちゃんはニコニコとたくさん話しかけてくれる。オイラ、凄く嬉しかった。

陽月兄ちゃんは朝の身支度を整えると、学生服に着替え家を出た。
学校鞄の中に入れられたオイラ。
こういった鞄や袋に入れられちゃうと視界が遮られて、真っ暗で…声しか聞こえないんだよな。
外の景色を見るチャンス、あればいいんだけどなー、って思いながらオイラは鞄の中で揺れていた。

「おはよー、陽月っ」
「おー、おはよー!」

そんな声が聞こえてくる。陽月兄ちゃんのお友達だろうか?
「今日は遅刻してないんだなっ」
ニヤリ、と笑ってそうな友人の声に、
「なんだよ、俺ってば遅刻キャラ?」
と答える陽月兄ちゃん。
「そんなの、決まってるじゃん。ついでに言うと、遅刻魔兼、早退魔」
「あーもー、好きなように言ってくれ」
呆れ口調の陽月兄ちゃんに、なおも友人は話し続ける。オイラは黙って(喋ることできないから当たり前だけど)、会話を聞く。
「いつも、いっつのまにかいなくなっちゃうんだよなー。アレみたい。」
「アレ?」
「ほら、最近頻繁にニュースになる……怪盗。」
「ははっ、怪盗は遅刻なんてしないだろ、フツー」
笑いながら陽月兄ちゃんが答えると、そーだよなー!と友人も笑いながら答える。
そうこう喋ってるうちに、キーンコーンカーンコーーーン、と学校のチャイムが鳴った。

オイラはほとんど鞄の中にいたけれど…に、人間って大変だな。すーがく?こぶん?えーご?全然話聞いてもわかんなかった。
授業の合間には、陽月兄ちゃんに、さっきの授業のわからない所を聞きに来る友達とかいたあたり、陽月兄ちゃんは頭がいいらしい。
手先が器用で、頭が良くてんで、かっこよくて。オイラにとって、陽月兄ちゃんは憧れの人だな、って思った。

放課後は、友達に誘われてゲームセンターって所に。鞄の中のオイラも当然ついていく。
相変わらず、外の景色は見れないけれど、こうやって言葉だけってのも結構楽しいもんだな、ってオイラは思った。

「ちょ、陽月、手加減しろよー!」
「男の真剣勝負で手加減だなんて、される方が屈辱だろっ?」

『YOU WIN!』
そんな機械音が聞こえた。

友達と別れ、陽月兄ちゃんは一人家に向かう。そこで、オイラは鞄から手のひらに取り出された。
「今日、行った所が学校。あと、ゲーセン。カラオケとかにもよく行ったりするんだよ?」
そう、オイラに笑顔で話しかける陽月兄ちゃん。
フと、陽月兄ちゃんが立ち止まる。立ち止まった先は電気屋のテレビの前。
「…もうすぐ、決行かな」
ポツリと、さっきとはガラリと変わった口調で陽月兄ちゃんは呟いた。

こうして、陽月兄ちゃんは家に着くと、今日も自室でトランプをいじくりつつ、何かを思案していた。
そして、昨日のように眠りにつく。
「おやすみ、ペピュー」
と、優しく、オイラに声をかけて。
聞こえないとはわかっていても、オイラも「おやすみ」と答える。
『明後日あたし、決行』…いったい、何があるんだろう…。


*紫の卵 三日目*

陽月兄ちゃんと過ごす三日目。オイラは今日も陽月兄ちゃんの寝顔を見つめる。
朝になり、ピピピピピ…と目覚まし時計が鳴る。
あぁ、今日も陽月兄ちゃんは学校なんだなー…って思っていると、『バンッ』と勢いよく目覚まし時計をストップさせる。
そして、ガバッ!と兄ちゃんは起きた。
「おはよっ、ペピュー!」
ニッコリと、オイラに向かって微笑む。全然遅刻なんてしないじゃん、ってオイラは思ったよ。
朝の身支度を整え、陽月兄ちゃんは朝食を食べつつ新聞に目を通していた。
その表情は凄く真剣だった。
そして不意に、オイラに声をかけてきた。
「ねぇ、ペピュー。警察にショーを楽しんでもらう、いい案ない?」
…ショー?警察??
オイラの頭にはハテナマークばかりが浮かんだ。
オイラから返答が無いことを知ってるからか、陽月兄ちゃんはフ、と笑い…
「さぁて、まずは学校行かないと、なっ」
と、オイラを鞄に入れた。そして、昨日のように登校する。

友人達との時間を過ごし、昨日一緒にゲームセンターに行った友人とはまた別な友人に陽月兄ちゃんは声をかけられていた。
「なっ、急で悪いんだけどさ、どーしても出てくれねっ?一人、骨折しちゃってよー。
 今日だけでいいからっ!」
友人さんは陽月兄ちゃんに何かを頼んでる模様。その言葉に
「ああ、いいよ。でも、あんまり遅くまではいられないけど、それでもいい?」
「助かるぜ〜!!ありがとっ、陽月っ!!」
そんなやり取りを耳にする。

友人が去った後、陽月兄ちゃんは今のやり取りをオイラに伝えるように、こっそり話しかけてくれた。
「俺、たまに誘われてダンスパフォーマンスもやってんだよね。今日はちっと予定外だったけど」
へぇ〜…陽月兄ちゃんは何でもできるんだなぁ、とオイラは感心しちゃったよ。

学校が終わり、陽月兄ちゃんは一旦家へと帰って私服に着替える。
ダンスパフォーマンス用なのか、非常にラフな格好。そして、大荷物。
オイラもその大荷物と一緒につれてってもらったんだ☆

「おーー!陽月ぃー!待ってたぜー!」
そう言う昼間の友人と、顔なじみらしき者たちの声。そしてギャラリーの声援。
大荷物の袋の中に入ってたから、実際のパフォーマンスは見れなかったけど…それでも、陽月兄ちゃんが評価されてる!って思うと
なんだかオイラまでが誇らしい気持ちになった。

どの位時間がたっただろう?
「あ、ゴメン、そろそろ時間」
そう言う陽月兄ちゃんの声がした
「そっか…残念だけど、仕方ないな。ありがと、陽月!助かった!」
そう言う友人と別れ、家に帰宅する陽月兄ちゃん…と思ったら、アレ?
次に、オイラの目に入ってきたのは、綺麗な姉ちゃんだった。
確かに、大荷物で衣服が入ってるような感触、そして着替えだしたのは感じたけど…
妖艶に、陽月兄ちゃん…姉ちゃん?はオイラに微笑んだ。
微かに陽月兄ちゃんの面影を残した美女。あれ?陽月兄ちゃんの…お姉ちゃん?
「どう?ペピュー?あたし…綺麗?」
そう声をかけてきた、綺麗な姉ちゃん。声も、陽月とは別人の声。
でも、ペピューってことを知ってるのは…
「なぁんちゃって!さてと、これからちょこっとオシゴトして来るから…ペピューはちょっと待っててね。
 すぐ帰ってくるから、さ。」
声が、いつもの陽月兄ちゃんの声に戻る。じょ、女装!?お仕事!?
謎だよ、ますます謎だよ…陽月兄ちゃん。

その後、オイラは鞄の中に入ったまま、駅のロッカーの中に預けられた。
どの位時間がたっただろう?しばらく色々考えていると、また光が差した。
綺麗な姉ちゃん…じゃなくて、女装した陽月兄ちゃんの笑顔。
「へっへー♪いー情報ゲットできたぜ、ペピュー!」

そう、ご機嫌に陽月兄ちゃんは話し、女装を解く。
そして、今日も自宅へと帰っていった。陽月兄ちゃんの鼻歌を聴きながら、オイラは考えていた。
情報?女装?
…陽月兄ちゃんって、何者???

こうして、今日も夜は更けていった。
なんだか、陽月兄ちゃんはいつもよりも夜更かしして、なんだか色んな雑誌や本を読んでいた。


*紫の卵 四日目*

ピピピピピピピピピピピピ…と目覚まし時計の音が鳴るも、陽月兄ちゃんは一向に起きる気配がない。
ようやっと、のそりと布団の中から手が伸びると、『ポムッ』と目覚まし時計のアラームを止め、起き上がる…
かと思いきや、また腕が布団の中に引っ込む。
ここでオイラはやっと思い出した。友達が言ってた『遅刻魔』の言葉を。

明らかに、いつもだったら家を出る時間になって、ようやく陽月兄ちゃんは起き出した。
「ふぁぁぁぁ…」と、明らかに気だるげ。
「おふぁよぉ、ペピュー…」
眠そうな目をこすりつつ、ノソノソと支度を始める。

そして、学校に到着する。すでに授業の始まっている教室内に、音も立てずに進入する。
教師も気づいてない模様だが、隣の席の友人は小声で「おはよ、遅刻魔」とニヤリと笑う。

今日も、そんな学生生活を送る陽月兄ちゃん。今日の放課後はどこか出かけるのかなー?とオイラが思っていると
午後の授業も早々に、陽月兄ちゃんは学校を抜け出した。
毎度のことなのか、友人も「後は任せておけ」とばかりに快く送り出す。

朝と同じく、こっそりと学校を抜け出す陽月兄ちゃん。
オイラに声をかける。
「決行は、二日後。今日は予行練習みたいなもん」

陽月兄ちゃんが一旦家に帰る。そして、夜を待つ。
陽月兄ちゃんはウキウキとした表情だった。

そして、夜。
陽月兄ちゃんが、動いた。いや、オイラがいつも知っている陽月兄ちゃんではない。
真っ白なスーツ、シルクハット。
そして、向かった先は、美術館。
『世界の名画・名品展』と大々的に広告し、開催していることはついていたテレビを見てオイラも知っていた。
何気なく、陽月兄ちゃんも見ていた、と思ったら…。

そこから先は、ポケットの中に入っていたオイラには言葉しか聞こえてこなかった。

『現れたな!Feathery!貴様なら絶対現れると思っていたぞ!今日こそとっ捕まえてやる!』
『ふふ、誘いに乗ってあげたんだよ。普通なら、こんな大々的な展覧会に、世界に一組しかないトランプを展示するなんて…
 明らかに僕に奪ってくれ、と言わんばかりじゃないか』
『ふん!今日はいつもの十倍もの警備員が集まっている!逃げられると思うなよっ』
『人数って問題じゃないと思うな』

ふわりと、オイラが浮く。や、浮いているのはFeatheryこと、陽月兄ちゃんだ。
そして上空からバラバラと音がする。
『そんな、トランプをばらまいた所で…あ、あれっ?どれが、本物っ!?』
警察であろう男の声。
『あーもー、やっぱりあんたじゃ手ごたえ無いっ。これぐらい見抜けるでしょ?』
クスリ、と笑い、そのまま天窓から外に出るFeathery。
オイラに、金色に輝くトランプを見せた。
『これ、欲しかったんだよね。わざわざ持ってきてくれるなんて、警察も市民の味方だね』
そう言って笑った。
陽月兄ちゃんの背中には、半透明の羽。…陽月兄ちゃんって、いったい…?
オイラの頭が混乱していた時だった。不意にヒュン!っと鋭い何かが陽月兄ちゃんを狙った。
それを察知していたのか、上空を半透明の羽で舞っていた陽月兄ちゃんは一瞬その羽をしまう。
陽月兄ちゃんを狙った矢は、羽があった場所を通り抜ける。
羽を一度隠したために、落下するも、すぐにまた羽を戻す。
「ち……組織め…」
陽月兄ちゃんが、何も無い真っ暗闇を睨んだ。


*紫の卵 五日目*

朝。陽月兄ちゃんは普通に起きる。昨日のことなんてまるで無かったように、出会った頃のような学生、として。
テレビをつけると昨日の出来事が、早速取り上げられていた。
『怪盗Feathery、今度は世界に一つしかないトランプを鮮やかな手口で盗みました』
『今回のトランプは、確かに珍しいものではありますが、金額としてはさほど高価なものではありません。
 金額だけで考えれば、もっと他の絵画などたくさんの獲物があったハズです。やはり彼は愉快犯としか…』
そう、TVのコメンテーターがさも気持ち良さそうに語る。
陽月兄ちゃんは、あくびをしながらテレビを消した。
そして、今日も学校へと向かう。

普段どおりの学生生活。怪盗Featheryについての話題は、適当に話しを合わせていた。
「やっぱスゲーよなー。でも俺、あの怪盗嫌いじゃない!だってさ、なんかかっこよくね?ポリシーがあってよぉ!」
「そだなー」
興味なさげに、陽月兄ちゃんは答えていた。何か考え事をしていたようにも見えた。
そんなことは気にせず、友人は兄ちゃんに声をかける。
「そうそう、今日学校終わったらカラオケいかね?」
「あ、ゴメン。今日はちょっと用あるんだ。ごめんっ」
「そっか、じゃあしゃーないな。…女?」
「違うっ」
「…男?」
「阿呆。マジックの練習に行かなきゃなんないんだよ。また誘って」
そういう陽月兄ちゃんに納得する友人。
オイラはなんとなくわかっていた。きっと兄ちゃんは「オシゴト」があるんだ。

夜。
今日の兄ちゃんは女装はしていなかった。黒い服、キャップ、というシンプルかつ、人目につかない格好。
そして、夜の街を歩く。
一軒の、怪しげなビルに入っていく。そして、そのビルの一室をノックする。
「ケイか?」
「あぁ。頼んでたアレ、出来てる?」
「おぅよ。」
鞄の中にいたオイラには、やっぱり言葉のやり取りしか聞こえなかった。けど、尋常じゃない雰囲気だけは感じられた。
「サンキュ」
ケイ、と呼ばれた陽月兄ちゃんは、大きな荷物を持って、外に出た。

「ペピュー。明日は最高のショー、見せてあげるから」

優しくも、意志の強い瞳で陽月兄ちゃんはオイラを見つめ、笑った。


*紫の卵 六日目*

気づいたら、もう6日目。
オイラはあっという間、だと思った。ただのお兄ちゃんだと思っていた陽月兄ちゃん。
マジックが得意な、陽月兄ちゃん。
すっごく運動神経も、頭もいい、陽月兄ちゃん。
人間って、みんなこんなに色々な一面を持っているのだろうか。
今日は、土曜日。学校はお休み。

陽月兄ちゃんは、朝、学校に行くよりも早く起きていた。
そして、何やら準備をしている。
テレビがついている、見ると『怪盗Feathery 世紀の宝珠を怪盗予告!』
…陽月兄ちゃんの今日のお仕事は、これだな。
陽月兄ちゃんは、テレビにも目に向けずポロッと言葉を出した。

『イッツ ショータイム!!!』

今日も、白いスーツに、透き通る羽。
目には、白い布で目隠し。その姿で闇を飛ぶ。オイラをポケットに入れて。
目隠しをしているにも関わらず、全ての動きは正確。

「来たな、Feathery!!今日こそは!!」

フフ、と妖艶な笑みを浮かべると、陽月兄ちゃん…いや、Featheryは笑った。
Featheryは、シルクハットを取る。
そして、そこから取り出したのは…マシンガン。
明らかに、あのシルクハットからは出ることはないであろう大きさの…
「おおっ!」と警察の下っ端さんがどよめいてる中、一番偉そうな警察さんが
「驚いている場合か!」と檄を入れるっ。
そして、妖艶に微笑みながら、美術館の屋上から、眼下の警察官に向けて、マシンガンの銃口を向ける。
一斉にひるんだり、逃げ出す警官達。
え?兄ちゃん、人の命までっ!?そう、オイラが驚いていると、ためらいもなく、引き金を引いた…

ダダダダダダダダ!!!
豪快な音がし、玉が警官達に向けて……玉?…飴、玉?
色とりどりのキャンディが降り注がれる。
警官たちがそれらを手に取り、また屋根に目をやると、もうFeatheryの姿はない。
そして、同時に催眠作用があるらしきパウダーが撒かれた…。

館内に入ったFeathery、そこで待ち構える警官たちの攻撃にも、まるで目が見えているかのように
スルリスルリと軽快な身のこなしですんでのところで避ける。
いや、これはむしろ楽しんでいるんだ。鬼ごっこ。そんな印象をオイラは受けた。

「ふぅ…やっぱり、手応え、ないね」

厳重にしまわれた宝珠に近づく。警官たちは、軽い攻撃で倒れていたり、投げられた鋭い特殊トランプによって
衣服が壁にくっついてしまってったり、と動けない状況。
そして、その宝珠を人目見ると…Featheryは、手を止めた。
「はい、これ偽者。」
そして、その後ろにあった女神像に目をやる。
その女神像は、口の閉じた貝殻を手にしていた。
ためらいもなく、その貝殻を掴み、床に落とす。
コロコロ…と出てきたそれは、まさしくテレビで放送されていた「宝珠」だった。
綺麗な綺麗な、紫色の…

「ふぅ、やっぱり今日も手応えがなかったな。」

紫色の宝珠を手に入れ、Feathery……陽月兄ちゃんはこっそりと帰宅した。
勿論、深夜のニュース番組では、Featheryの特集が組まれていた。


*紫の卵 孵化*

日曜日、だ。今日も学校はお休み。
またしても、昨日のことなどなかったかのように、朝から兄ちゃんは白いスーツに着替える。
しかし、Featheryのものとは違うし、何より陽月兄ちゃんの顔が晴れやかだ。

「おはよ、ペピュー!今日はこれからマジックショーなんだ。今日は連れて行けないんだけど…ゴメンね。」
「ん、いいのだ!オイラ、お留守番してる!!」
「…アレ?」
「…アレ?」

気づくと、オイラの殻が割れていた。
陽月兄ちゃんと目が合う。陽月兄ちゃんは、これまでに見たこともない晴れやかな笑顔で、オイラを見た。
凄く、凄く綺麗な笑顔で。

「ペピュー…孵化、出来たんだね。おめでとう。はは、半透明な羽がついてるよ。やっぱり飼い主に似るのかな?」
「陽月兄ちゃん…ありがとう」
その笑顔に、照れるオイラ。
「って、陽月兄ちゃん、ショーの時間に遅れちゃうよ!」
「え?」
そう言って、時計を見る兄ちゃん。オイラも、自分の体が透けていくのがわかる。
「兄ちゃん、ありがとう。たくさんの素敵なマジックショー、楽しかった」
「ペピュー…」
複雑な表情をする兄ちゃんに、オイラは笑顔を向ける。
「オイラは、兄ちゃんが大好きだ。だから…兄ちゃんの、思うがままに…
 またね、兄ちゃん!!」
そう、オイラが手を振ると、フワリと体が舞った。
兄ちゃんは舞あがっていくオイラをずっと、儚げな笑顔で見つめていた。

「ずっと応援してるよ、陽月兄ちゃん…」


*紫の卵 その後*

その後、ペピューの世界に戻ったペピューには『ジン』という名前がついた。
ジンは、人間界で覚えたマジックを駆使して、人気者となっている。
流石に、平和なペピューの国で怪盗は行わないが…
それでも、難しいクイズや暗号を作っては、人々を悩み、楽しませているという。

紫色の卵だったペピュー、ジン。
人間界での思い出は、陽月との思い出は、きっと忘れないだろう…。


☆END☆



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6178/黒羽・陽月/男性/17歳/高校生(怪盗Feathery/柴紺の影】

【NPC/ペピュー・紫・ジン/男性/17歳/妖精(マジシャン)】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして!新米ライター、千野千智と申します!
この度はこのような新人にPC様をお預けくださりありがとうございました!!

そして、納品が大幅に遅れてしまいまして、大変申し訳ありませんでした…!(土下座)

陽月くん。
儚げな印象、マジシャンな印象、ダンスパフォーマンスをする活発な印象…
まさに、見るものによって色の変わるお方だ!と…
こんな素敵なPCさんと出会えたことに感謝しますと共に、
その設定を生かしきれているか、イメージを壊してないか、と心配も盛りだくさんです(苦笑)
お叱り、受け付けております(汗)

本当に、わかりずらい内容にも関わらず、素敵なPC様を書かせていただき光栄でした!
ご発注、本当にありがとうございました!
ヘッポコライターではありますが、
よろしければまたお会いできることを願って…では!!

2006-05-31
千野千智