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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


影探し




 事の始まりはこの一言。
「なっつー、ボクの代わりに学生してきて」
「はい?」
「あのねーボクなんでも屋でしょー?」
「まぁ、そうですね」
「それでー、ある人の影が逃げちゃって、それ探してて。それがしんせーとがくえんってとこにいるんだけど。ボクどーみても学生じゃないし」
 あはーと笑いながら南々夜に言われ、奈津ノ介はしょうがないですね、と笑う。
 南々夜の頼みを断れるわけない。
「あはーじゃあー制服とかちょちょーっと拝借してくるからよろしくねー」
「んーでも兄さんって大学生で通るんじゃないですか?」
「その辺は気にしないー。えーっと影はねー女の子、髪のながーい女の子でーきっと手ごわいよ」
 気にしちゃ駄目なんですか、と苦笑した奈津ノ介はまぁいいかと思う。
 神聖都学園。
 そこで影をみつけて捕まえてくること。
「ということはしばらくお店はお休みですね」
「うん、ごめんねー」
 たまには、そういうのも有り。
 奈津ノ介は大丈夫ですと言って笑った。




 がさがさごそごそと動く茂み。そこは普通の植え込みだった。
 何をしているのかしら、と菊理路蒼依の視線はそこへと止まった。
 そしてそちらへと自然に足が向く。
「探し物?」
 声を掛けられて顔を上げる。ちょっと驚いているような表情だった。
「あ、はい、ちょっと探し物で……」
「髪の毛、葉っぱが付いてるわ」
 きらきらと輝く銀髪についた葉を蒼依はとり、にこりと笑った。
「ありがとうございます」
「いいのよ。私は蒼依……菊理路蒼依、貴方は?」
「あ、奈津ノ介と言います。長いので……奈津と呼んでください」
 蒼依の笑みにつられて、彼、奈津ノ介も笑顔もを浮かべた。
「大学生さん……ですか?」
「そう見える? でもそうじゃないの。私は頼まれて神聖都の図書館に本を返しに来たんだけど……知らなかった? ここの図書館って一般にも開放されてるの、だから私みたいな部外者も入れるのよ」
 蒼依は微笑と共に言葉を紡ぐ。蒼依の言葉を聞いて奈津ノ介はやっぱり、というように小さく溜息を付いた。
「意味ないじゃないですか兄さん……」
「どうしたの?」
「あ、な、何でもないです」
「そう? ところで日本語上手ね、どうみても外国からって感じだけど、何処出身?」
 蒼依の質問に奈津ノ介はえっと、と言葉を選んでいる様子だった。
「あっ気を悪くしたら御免なさいね」
「大丈夫です、気を悪くなんてしてません。ただ複雑な事情があるようなないような……こんな髪と目してますけど、僕は日本生まれで、日本育ちで、留学生です」
 そういうことにしておいてください、と奈津ノ介は言う。
 蒼依はわかったわ、と深く聞かずに納得する。
「私海外に行った事なくて……外に憧れてた時もあったけど今は……やる事があるから」
 苦笑しながら蒼依は言う。
 その言葉にはしみじみと、本当に感情が篭っていた。
「僕も、海外に行ったことないですね、そのうち行ってみたいとは思うんだけど……自分も付いていくって言う人がいるだろうから……」
「あら、そうなの? ふふ、彼女さんかしら」
「いえ、親父殿……父親です……」
 ちょっとだけ遠い目をした奈津ノ介。蒼依は何かあるのねと慰めるような声色で言う。
「そういえば、さっき何か探してたけどいいの? 本当に手伝うわよ?」
「あ……それは……影を探してるんです」
「影? この影のこと?」
 蒼依は自分の影を指差す。奈津ノ介はそれですと頷いた。
「とある人からとある人の影を探して捕まえてきて欲しいって言われて」
「ワケ有りね」
「はい」
 と、ふっと蒼依の視界を黒いものが横切る。
 それを奈津ノ介も見たようで、その影が行く方へと目が行く。
「変なものがいるわね……黒い……あれね?」
「はい、ずっとここまで追って……」
 挑発的に、その影は再度二人の目の前に現れる。そしてくるっとターンをして捕まえてみろと言っているようだった。
「うわぁ……」
「お相手してあげないと駄目みたいね」
 くすっと、丁度良い暇つぶしだと言うように蒼依は微笑を浮かべた。
「みたいですね。捕まえてこのごみ袋に入れれば良いんですけど……」
「ごみ袋に?」
 はい、と言って小さく折りたたんでいたゴミ袋を奈津ノ介は広げる。
 真っ黒いゴミ袋など最近は見かけない。
 ぱちくりと蒼依は目を瞬いた。
「あ、普通のごみ袋じゃないんですよ、特注のもので……」
「ふふ、丁寧に説明ありがとう」
 蒼依はにこりと笑い、影を追い始める。
 影は、少女の形をしていた。長い長い、髪が揺れている。
「奈津くん、あの影を数秒程足止めできるかしら? 少しだけ、良い方法があるの」
「良い方法、ですか?」
 そう、と柔らかく微笑を浮かべた蒼依をしばし見つめ、奈津ノ介はこくんと頷いた。
 どうやら蒼依を信じたようで、お任せしますと目で伝えてくる。
「止めます!」
 とん、と一足で彼は蒼依を抜き去りその影へと追いつく。
 彼が伸ばした手から綺麗に影はすり抜けるものの、行き場を塞がれて動くことはできない。
 その間に、蒼依は影を捕らえた。
 動こうとした影ががくんとバランスを失い倒れこむ。
 地面と影の足が紅い糸が繋いでいた。
「これは……」
「菊理の糸は括りの糸、絡み絡みて邪を縛る……なんてね」
 ころころと鈴の音のような声でお茶目に笑いながら蒼依は言う。
「糸を切ればまた影は動くわ、何かするのなら今の内にね? ゴミ袋かぶせたり……」
「はい、そうします」
 にこりと笑みを浮かべ、ぼさっとゴミ袋を影に被せる。
 もごもごと最初のうちは暴れていたものの、それはだんだんと静かになっていく。
「捕獲完了です、どうもありがとうございました」
 ふつりと紅い糸が切れる。それはふっと風にまみれて消えた。
「何か……お礼をしないといけませんね。蒼依さんのおかげで早く終わりましたから。僕一人だったら当分……走り回ってたでしょうね」
「あら、お礼なんか……でもしてくれるなら、そうね……何処かいい雑貨屋さんを教えてくれるだけでいいわよ?」
「それなら、ええ、お教えできます」
「本当? 和小物があると嬉しいんだけど……」
「ええ、大丈夫です、ありますよ」
 蒼依は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
 よいしょとゴミ袋を担いだ奈津ノ介は簡単にその店の場所を蒼依に告げる。
 そして意味有り気に笑うのだった。
「あら、その含み笑いは何?」
「いいえ、なんでも。お店に行けば、わかります」
「そう、それじゃあ楽しみにするわね」
 蒼依は教えてもらった店の場所を忘れないように、もう一度頭の中で繰り返す。これできっと忘れない。
 どんな所かしら、と楽しみは膨れる一方だ。
「では、僕は影を届けてくるのでこれで」
「ええ、また会えると良いわね、奈津くん」
「あははは、きっと近いうちにお会いしますよ」
 その言葉に、蒼依は奈津ノ介も雑貨屋の常連なのかと思う。
 そしてゴミ袋を担いで去る彼の背を見送りつつ、はたとひとつ思い出すのだ。
「そうだ、本を返さなくちゃ」
 蒼依の足は図書館のほうへと向く。
 その足取りは少し、軽かった。



<END>




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6077/菊理路・蒼依/女性/20歳/菊理一族の巫女、別名「括りの巫女」】


【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 菊理路・蒼依さま

 はじめまして、ライターの志摩です。此度はご参加ありがとうございましたー!!
 ウフフ、素敵なお姉さま…!とにやにやしつつ書かせていただきました。蒼依さまらしさが出せていればと思っております。そしてちょっとでも楽しんでいただければ幸いです!
 そのうちまた銀屋の方でも遊んでいただければ嬉しく思います…!出会いは連鎖していった方が面白いと勝手に思っております…!
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!