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<東京怪談ノベル(シングル)>


新世紀芸人伝説
 2000年を迎えて担ぎ出された大いなる問題があった。その名を『少子化問題!』
 国を挙げての少子化対策の庇護の下、幼き命をめぐって悲劇は繰り返される……。

「ども〜。エロくてもいい。少子化対策に貢献できればそれでいい。でお馴染みの橘・しをねで〜すぅ☆」
 とある地方公会堂、そのステージの上では一組の男女が漫才を繰り広げていた。先ほどの挨拶をしたのは黒のワンピースで豊満な体を包み、黄色のカチューシャをつけた女だった。
 しをねはちゃんとした芸能事務所に所属しているれっきとした女お笑い芸人である。
 しかし、芸一本で食っていけるのはテレビに映る一握りの人材であり、劇場や地方公演などを繰り返す芸人たちは生きるためにバイトや共同生活などをしているのが普通だった。
 かくゆう、しをねもその一人である。
 だが、しをねはほかの女芸人とは違った。
 昼間の顔と夜の顔が存在する女……つまり、アレなバイトをしているのだ。この秘密をしっているのは店で見つけた相方だけである。それ以外は芸能プロダクション関係者もソープランド関係者も知らない。メイクには自信があるので、ごまかせている(はず)だ。
「…どうも、ありがとうございました〜」
 一連のツマラナイネタを終えたしをねはステージを降りた。脚光は少なくても舞台のうえでは芸人である。だが、外に出て夜の街に繰り出せばしをねは違うのだ。
「それじゃあ、またね〜私はこれからバイトだから♪」

 地方公演を終えると急いで新幹線で東京へ。バイトしないとやってられないが、バイトのためにこういう費用を払わなければならないのもつらいところだ。
 駅からダッシュして裏街道へ、夕方の裏道はこの時間からにぎやかになって来る。夜の世界の朝焼けともいえる光景だった。
 そんなことをしをねが思っていると、吉原のソープランド「ジョイトイ」の控え室へ遅刻ぎりぎりで到着。
「あは☆ おっくれましたぁ〜」
 と持ち前の笑顔と可愛い外見でマネージャーを交わす。今のところ全戦全勝。この記録
はジョイトイでは上位ランクの証でもあった。
 控え室につくと急いでメイクを施す。昼間の顔から夜の顔へ。「しをね」から、「しおん」へと変身しているとき、ギャグを披露する。
「ねぇねぇん、ちょっと考えたんだけどさぁ〜……」
 渾身のギャグを放つ。控え室の冷房が強くなった気がした控え室の同僚や先輩の顔が青ざめたように見えるのは気のせいか…。こちらの記録は全戦全敗。まずは、ここで笑いが取れるようになりたいなとは思う。
「そ、そういえばさ、しおんのギャグのセンスって売れないコンビ芸人に似てない? 名前なんだったっけ……ああ、確か漢と…」
 今度は「しおん」の体温が下がっていく、ほかの人から見たら青ざめているかもしれない。ばれてはいけない。
「「しおん」ちゃ〜ん、ご予約様よ〜」
「あ、はぁい。私のことはいいでしょぉ? お仕事お仕事〜」
 テンションをいつもの調子に戻してそそくさと控え室を後にした。
 ホールにでるとピンク色の証明が「しおん」の目を刺激し、甘い香りが鼻を、怪しげな曲が耳を刺激する。昼の世界では味わえない感覚だった。
 指名のあった客の待つ部屋へ、相手がどんな人なのか心躍らせて向かった。
「ご予約ありがとぅございまぁ〜す♪ しおんでーす」
「あ、ど、どうも…注目の泡姫が予約できて、きょ、きょしゅくです」
 相手は初めてさんなのかえらくぎこちない。「しおん」は男を上から下まで舐めるように観察した。
 服装はぱっとしないスーツだが、しわが少ない。靴だってきれいだ。上司に誘われたかなんかできたのだろうなということがわかった。
 なにより、カチカチにかって固まっている。そういうのはこの世界ではアレだけでいいのだが。
「緊張しなくって、いいわよ…気持ちよくさせて あ・げ・る♪」
 「しおん」がリードして甘いひと時をすごす。肌と肌が触れ合い、二人が声を上げお互いの敏感なところを刺激しあう。このバイトがやめられない理由がここにあった。
 そのとき、「しおん」の鼻腔が甘い香り意外の何かを感じた。全身を泡まみれにして豊満な体をゆすり、この相手に擦り寄って匂いを確かめたがどうやらこの相手ではないようだった。
 骨抜きになった相手を心の落胆を隠すように笑顔で見送った。
(この三下クンは違ったみたいね……でも、直接の相手じゃないのに感じられる匂いって……)
 自分の汗と泡を流して控え室へ足取りを軽くさせて戻っていく。まだまだ夜は終わらない

                                      続く