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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『好きだったあの人』

投稿者:あゆみ 21:12

初めまして、あゆみと申します。女子高生やっています。
実は皆さんに相談があって、思い切って書き込みさせていただくことにしました。
私には、3つ年上の大学生の彼氏がいました。
でも去年、事故で亡くなってしまったんです。
とても辛かったけれど、最近では、彼のことは大切な思い出として胸にしまいながら、頑張って生きていこうって思っていたんです。
そう思って、写真や思い出の品を片付けたところに……彼が現れたんです。
再び私の前に、幽霊の姿で。
嬉しいのか、怖いのか、もう何がなんだかわからなくて、私はとにかく泣いてしまいました。
彼は近付いてきて、私に手を伸ばします。こっちに来いというように。
私が一人の時にだけ、彼は現れます。今はお姉ちゃんと一緒なので、彼はいません。
大好きだったのに。
それは嘘じゃないのに。
どうしたらいいのか、わかりません。
彼はどうしたら、成仏できるのでしょうか。
私は何をしてあげらればいいですか?

*******

 誰かを好きになった時。
 永遠を信じたくなる。
 ずっと、愛し合えることを。
 ずっと、一緒にいられることを。
 あなたをずっと、愛していたい。
 あなたにずっと、愛されていたい。

 ――あなたをずっと、愛せればいいのに――

 愛し合っていた恋人が突如死んでしまったら。
 幽霊であっても、逢いたいですか?
 その問いに、yesと答える人は多いだろう。
 しかし、幽霊になった恋人にずっと側にいてほしいかという問いにはどう答えるだろうか。
 それは、互いにとって、幸せなのだろうか……。

 待ち合わせ場所の公園に彼女は現れた。
 長い黒髪、優し気に見える二重まぶた。色白の可愛らしい女の子である。しかし、その姿はどこか草臥れている。
 胸の赤いコサージュが目印だ。間違いはない。
 門屋将太郎はベンチから腰を上げて、軽く会釈をする。
「あんたがあゆみさんかい? 俺がメールを出した門屋ってもんだ、宜しく」
 あゆみの書き込みを見た将太郎は、すぐに彼女とコンタクトを取った。
 直接話がしたいという将太郎のメールに、あゆみは是非にと返事を返してきた。
「はい。よろしくお願いいたします」
 一人でいるのが怖いのだろう。
 彼女は酷くおびえているように見えた。
 彼女の隣には、痩身の男性の姿がある。自分の他にもう一人会う約束をした人がいるという話だった。彼がその人物だろう。
 付き添っている男性は、三葉トヨミチと名乗った。劇団関係の仕事をしているらしい。
 あゆみを挟んで、ベンチに座る。
「早速で悪いが、幽霊になったって彼氏のことを聞かせて欲しい。あんたの話から、彼氏のことがわかるかもしれないから」
 将太郎の言葉に頷いて、彼女はゆっくりと語りだした。

 彼と出会ったのは、2年前。自分が高校1年生の頃。
 彼は所属する部のOBだった。
 大学生の彼はとても大人で、あゆみの方から惚れて、告白をしたのだという。
 交際を始めておよそ1年間、二人は幸せな時を過ごした。
 だけれど……。
 次第に、彼の束縛が激しくなり、あゆみは悩んでいたのだという。
 好きな気持ちに嘘はない。
 だけれど、もう少し自由が欲しい。
 そんな風に悩んでいた矢先……。
 彼は事故で帰らぬ人となった。
 自由が欲しいと自分が願ったせいではないかと、あゆみは苦しんだのだという。
 彼を愛する気持ちは本当で、今でも好きだけれど。
 だけど、どうしたらいいのかわからない。
 今は姉と一緒に寝ているけれど、自分ひとりになった瞬間を逃さず、彼は現れるのだという。
 悲しげな瞳で、彼は自分を見ている。
 手を伸ばして何かを言うのだけれど、その言葉はあゆみには聞き取れない。

「彼の気持ちを聞いたら、答えを出せるのかい?」
 トヨミチの言葉に、あゆみは首を横に振った。
「わからない……わからないんです。もし、一緒に来いと……死んで欲しいといわれたら、私はどうすればいいんですか? 私は彼と共に逝くべきですか? 私は死にたくない! でも、彼も大切。生きていれば、話し合ってこれからの関係を考えていけたのに。でも、彼は死んでしまった。幽霊になった彼には何が幸せなの? 私は――」
 “怖い”
 と彼女は叫んで、泣いた。
 共に生きることは、もう叶わない。
 彼の幸せを考える自分は、偽善なのか。本心からそう思っているのか。
 それなら、何故彼の手を取り、彼の望むまま彼に従うことができないのか。
 将太郎と、トヨミチは黙って彼女の気持ちが静まるのを待った。
 時に、彼女の髪を優しく撫でながら。

 数分後に、3人は歩き出した。
 怯える彼女は2人が側にいてくれることを願ったが、将太郎とトヨミチは目配せをして、周囲に人の気配がなくなった時、彼女の側を離れた。
「あっ」
 小さく、あゆみが叫んだ。周囲を見回し後退りをして、塀に手をついた。
 そんな彼女に近付く人物……いや、霊があった。
 長身の20歳そこそこの男性の姿の霊だ。
 あゆみは目を見開いたまま、何も言えず硬直している。
 霊はゆっくりと、あゆみに近付いていく。
「おまえか、彼氏っていうのは」
 霊の背後から声がかかる。将太郎だ。隣にはトヨミチの姿がある。
「恋愛の基本は本人同士の話し合いだよ。たとえ、お互いが死者と生者に別れてしまってもね」
 トヨミチは眼鏡を外し、揺らめく霊の側に寄る。共感能力で、あゆみの彼の気持ちを探る。
 そして、あゆみに表してみせた。
 彼の癖も、口調も全てコピーして。
「おまえが、心配なんだ。俺の側から離れるな。こっちに来い。俺と一緒にいよう」
 あゆみは、首を左右に振った。
「離れていったのは、和君の方よ。もう……和君は私の手の届かないところにいっちゃったじゃない!」
「……聞いたか?」
 将太郎が霊に向って言う。
「今、自分がどういう状態かわかっているな。おまえはあゆみさんとは住む世界が違うんだ。触れることはできない。叶わないことを繰り返していて虚しくないか?」
「だから、来いと言っている。あゆみ、俺と行こう。二人だけの世界へ。誰も入り込めない二人だけの世界だ……」
 霊の言葉をトヨミチが代弁する。まるで、霊と一体化したかのように。
「いや、いや、いやっ。二人だけじゃいや! 皆一緒がいいの。私はこの世界で行きたい!!」
 あゆみは、トヨミチに向って叫んでいた。
 吐息をついて、将太郎は霊に言った。
「そういうわけだ。酷なことを言うようだが、彼女のことは忘れちまいな。いいな?」
「い や だ」
 霊が、フワリとあゆみに近付いていく、将太郎は遮るかのように、霊とあゆみの間に割り入った。
 鋭い目で霊を睨む。その威圧感に霊の動きが止まった。
「でなければ……無理強いしてでも成仏させてやる」
 浅く、笑みを浮かべる。
「亜由美、亜由美」
 霊があゆみに手を伸ばす。
 あゆみは泣きながら、自分の体を抱きしめていた。
「さて、彼の気持ちは君に伝わった。それで君はどうしたい?」
 眼鏡をかけてトヨミチがあゆみに問う。これは、彼自身の言葉だった。
「……わからないっ。どうすればいいのか、わからない」
 強く、首を横に振るあゆみ。
「彼は死んでしまってまで君を求めここにいる。それなのに君は、自分の気持ちを自分自身で考えることを放棄するのかい?」
 口調は優しいが、トヨミチはあくまで彼女が自分で答えを出すことを冷徹に促すのだった。
「おお、そうかい。なら仕方ないな。正当防衛だ」
 霊を止めていた将太郎が呟く。
 彼には霊の思念を読取ることができた。
“俺の亜由美を取るな。亜由美に近付くな、貴様等全員道連れだ”
 霊が揺らめきながら、将太郎を襲う――。
 バチッ
 将太郎と霊が触れた途端、閃光が走る。
「や、やめてーっ!」
 何かが、将太郎の背を覆った。
 暖かく、柔らかい、そして力強い何かが。
「やめて下さい」
 あゆみが、将太郎の背にしがみついていた。
 彼が消滅させられるのは絶対に嫌だと……咄嗟に体が動いたのだった。
「私は和君に死んで欲しくない。死んで欲しくなかった! 一緒にいたかったよ。でも、死んでしまった和君とは一緒に行けないの。生きている時も何度も言ったよね、一緒にいたいとは思ってる。だけど、いつでも一緒にいれるわけじゃない。呼ばれてすぐに、和君の側にいけるわけじゃない。和君の彼女でありながら、私は私。家族も友達もいて、みんなとの時間も大切なの!」
 将太郎から離れて、あゆみは霊となってしまった彼に言った。
「ごめんね。私は、あなたを好きだった」
 その言葉は過去形であった。
 ぽん、とトヨミチはあゆみの肩に手の乗せた。
 霊が、何かを呟いた。それは、とても寂しそうでもあり……。優しげにも見えた。
 すっと、姿が薄くなっていく。
 あゆみはじっと彼を見ていた。
 彼女の体は、今は震えていない。
 彼の体は完全に消えてなくなり、霊の気配も消え去った。
 もう、彼女の前に現れることはないだろう。
「ごめん、ね……」
 あゆみはその場に泣き崩れた。
「冷たい女で、ごめんね……。出来れば、戻ってきた彼に幸せな時間をあげて、未練を無くして成仏してほしかたの。でも、できなかった。結局、彼を悲しませて……私を嫌いになってもらうことしか、できなかった。ごめん、ね……」
「謝ることなんて何もない」
 将太郎が泣き崩れるあゆみの手をとって、立たせた。
「彼はわかってたさ」
 その言葉……その動作だけで、あゆみの心が軽くなっていく。
「そうだね」
 トヨミチも将太郎の言葉に頷き、あゆみの肩を抱いた。
 あゆみは、二人にしがみついて泣いた。
 彼と触れ合うことはもうできない。
 身体だけではなく、心も。自ら別れを告げたのだから。
 トヨミチは、そんな彼女の耳に、彼の最後の言葉を呟いた――。
「亜由美、俺もそんなお前が好きだった」

*******

 この後、彼女はたまに、あの待ち合わせをした公園を訪れている。
 自分を助けてくれた、2人の男性を想いながら。
 顔も性格も知らない自分を助けてくれたのは何故なのか――。

 門屋将太郎さんは、臨床心理士だという。
 職業を聞いた時には、優しい雰囲気の人を想像したけれど、お会いした彼は強さを感じる人だった。
 だけれど、その手はとても優しくて。
 触れられただけで、不思議と心が落ち着いた。
 そうして、沢山の人を癒しているのかしら。
 三葉トヨミチさんは、劇団で主に脚本と演出を担当しているという。
 トヨミチさんが演じた和君はホント彼そのものだった。
 途中でどちらが彼なのかわからなくなったよ。
 きっと、私よりも彼のことを感じ取ってくれていたのよね。
 彼の書くお話は、とても素敵なんだろうな。

 出会いと別れ。
 これからもっと沢山の人と出会っていくんだよね。
 そして、沢山の別れを経験していくんだ。
 出会うだけならいいのに。
 好きになった人と、いつも一緒にいられたらいいのに。
 でも、私は自分で選んだ。
 この世界で生きることを。
 気付かせてくれてありがとう!
 選ばせてくれてありがとう!

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1522/門屋・将太郎/男性/28歳/臨床心理士】
【6205/三葉・トヨミチ/男性/27歳/脚本・演出家+たまに役者】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、ライターの川岸です。
今回は想い強めのノベルを書かせていただきました。あゆみが答えを出すきっかけを与えてくださり、ありがとうございます。
門屋将太郎さんは少し変わった設定でしたので、シチュエーションノベル等、色々興味深く拝見させていただきました。
今後の門屋将太郎さん、カネダさんのお語が気になるところですっ。
この度はご参加ありがとうございました。
また機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。