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<東京怪談・PCゲームノベル>


ワンダフル・ライフ〜梅雨の晴れ間にSunbathing






「……ええ、ええ。了解致しました」
 受話器を優雅に片耳に当てながら、デルフェスは軽く頷く。
受話器からは見知った少女の声が、心配そうに響く。
『デルフェスさん…ホントにいいの? 私が言うのもなんだけど、大変なことになるかも…』
 デルフェスは電話口で、くすくすと可笑しそうに笑った。
「ご心配には及びませんわ。たまにはこういうのも宜しいかと思いますの」
 デルフェスは宥めるようにそう告げたあと、電話の相手の少女と2,3世間話をしてから、受話器を置いた。
そして宙を見上げ、暫し考える。
「……食材の買出しに行かなくては」







             ***






 日本の6月は雨ばっかり降る季節だって聞いたけど、ホントだったよーね。
だって毎日毎日毎日雨ばっかり降るんだもの! 気が滅入っちゃって仕方が無いわ。
でもそんな日々だけど、時折雨雲が晴れて晴天が覗く日もあるのよね。
丁度今日はそんな日だったわ。

「なあリース! でっけえのがいると邪魔なんだけど!」
「あらリックちゃん、でっかいのって誰のことかしら?」
 あたしの脇で、褐色の肌を持つ少年―…ここんちの魔女の使い魔であるリックが、キーキーと喚いてる。
最もこいつの原型は黒コウモリだから、そう喚かれても別に不思議じゃないんだけど。
「おめーのことだよっ! 見えねーじゃん」
「いちいちうるさいわねえ。じゃあ見なけりゃいいのよ」
 あたしはフン、と鼻で笑い、まだうるさく喚くリックを無視して、扉の隙間に目をぴったりとつけて、中の様子を伺った。
あたしがこんな体勢でいるもんだから、まだガキなリックは中の様子を見ることが出来なくて、うるさく喚いてるってわけよ。
「ふーん…どうやら普通に料理してるみたいね」
 あたしはそう独り言のように洩らした。
扉の中からは、高さが異なる3つの声が、笑いさざめいている。
あたしが覗いてるのはうちの家『ワールズエンド』のキッチンで、中にいる3人は楽しげに料理をしてるってことだ。
そこまでは何ら不思議じゃなくって、ただ一つあたしが気になることは。
「……ねえリックちゃん。何であたしたちが締め出されなきゃいけないわけ?」
「俺が知るかよ。リースが入ったら、余計なもん入れるからじゃねーの」
 けけけ、と意地悪く笑うので、あたしはむかっときて、リックの耳を引っ張った。
「いでででで!」
「真面目に答えなさいよ」
「…そういうことをされるからでは、ないのでしょうか」
 するとそこに、落ち着いた声が響いた。あたしは思わず飛跳ねて、ばっと振り向く。
そこには長身の男が小脇に買い物袋を抱えながら、むすっとした顔で立っていた。
「あら、銀埜ちゃん。いきなり声かけないでよ」
「それは驚かせたようで申し訳ありません。ですが」
 彼はちらり、とあたしを見下ろし、失礼、とジェスチャーをした。
「入れて貰えない理由は、ご自分の胸にお尋ねなさったら如何です?」
「……!」
 あたしを押しのけるようにして、そう捨て台詞を残し、悠々と中に入っていく。
扉が閉まる瞬間、こちらを見下ろしてクスッと笑ったのを、あたしは見逃さなかった。
「あーあ…銀のやつ、自分だけ入れてもらったからって調子に乗ってやがんの。なぁリース…」
「何よあのわんころ! リースさんは料理が一つも出来ないって言いたいわけ!?」
 あたしは憤慨して、地団太を踏む。確かにそれは事実だけど、だからって締め出すことないじゃない!?
「それってめっちゃでかい理由じゃ…」
 あたしは余計な一言を挟もうとしたリックの胸倉を掴み、顔を至近距離に近づけて睨む。
「リネアやルーリィがキッチンに篭って何かやってるんなら、あたしだって文句はないわよ。
でもあの子も来てんのよ、何であたしだけシャットダウンなわけ!?」
「ぐえっ。しま、締まる…!」
 あたしは眉を吊り上げ、ぽいっとリックを放った。
そしてうーっと睨み、キッチンの扉に目を向ける。



 そう、久しぶりの晴れ間が覗いた今日、ナイスタイミングで訪れたのはあたしたちの友人だった。
名は鹿沼デルフェス。清楚なお嬢様然とした女性だけど、中身は芯が通っていて、
成すべきときには毅然と胸を張ることが出来る、そんな強い子よ。
付き合いはここ最近のことだけど、あたしは彼女のことが嫌いじゃない。
それにカリーナ騒ぎのあと、寝込んだあたしを見舞ってくれた内の一人だったの。
東京ってのは冷たい街だと思ってたけど、そんな気遣いをくれる人もいるのねえ、って少なからず感心したし、有り難かったわ。
 そしてその彼女が、今日うちの店にやってきた。
どうやら天気が良いのを見計らって、近所の公園にピクニックにいこうってことらしい。
此処最近の雨で参っていたあたしたちは、二の句もなく賛成したわ。
じゃあ肝心のお弁当はどうしようってところで、彼女が提案したの。
『宜しければお台所をお借りして宜しいでしょうか? 材料は持参しておりますから、わたくし腕に寄りをかけますわ』
 勿論、それに反論をするようなあたしたちじゃない。
元々彼女の料理の腕前は証明されてるし、以前から彼女お手製のお菓子もご馳走になってたからね。
でも肝心なのはここからよ。
 諸手を上げて喜ぶあたしたちに向かって、彼女は言ったわ。
『ではリネア様、ルーリィ様。お手伝いをお願いしても宜しいでしょうか?』
 ルーリィはここの店の店主、リネアは彼女の魂の欠片が入った木製の人形―…今はルーリィの娘として、此処に住んでるの。
その二人を名指しして、共にキッチンに入って行ったのが一時間ほど前。
銀埜? あいつはただの使いっぱしりよ。ルーリィやそのお客の僕になるのが、あいつの唯一の喜びなんだから。
で、あたしは別に料理が得意なわけじゃないわ。自慢じゃないけど、満足に一品も作れないわよ。
でもほら、味見役としてでも、参加してみたいじゃない?
そう思って扉を開けると、デルフェスに笑顔で締め出されたの。
『リース様は、リック様と暫しお待ちくださいませ。すぐに出来上がりますわ』
 そんなのってないわ!
リックのバカは理解できるわよ。こいつは悪戯が生きがいなんだもの。
でもあたしはそんなことしないわ、失礼しちゃう。でも、デルフェスの笑顔に逆らえるほど強く出られないあたし…。
「うう、あたしって可哀想」
 思わずあたしは床に体育すわりになって、めそめそしちゃったわ。勿論実際に涙は出て無いけどね。
でも魔女の村の犯罪者、カリーナに体の自由を奪われて、しかも魔力まで勝手に消費させられて、
何とか体調が元に戻ったと思ったらこの始末よ。神様、あたしなんか悪いこと、した!?
「…リース様、如何なさいましたの?」
 うっうっと自らの境遇に浸るあたしに、ふわっと優しい声がかかった。
驚いて顔を上げると、件のデルフェスが心配そうにおろおろとして、あたしを見つめていた。
いつも纏っているようなドレス風のふんわりした衣服の上に、簡素なエプロンをつけたまま。
「デルフェスちゃん、酷くない?!」
 あたしはキッとデルフェスを睨む。デルフェスは眉を下げて、困ったような顔をした。
「も、申し訳御座いません。わたくし、リース様もご一緒にお料理を楽しむ筈でしたの。
ですが、ルーリィ様のご助言で…」
「ルーリィ? ルーリィが何かいったわけ?」
「言ったわよ、だってリースがいると…あっ、これは秘密だったわね」
 デルフェスに続いて中から出てきたルーリィが、いけないいけない、と舌を出す。
あたしは、かーっと頭に血が上るのを感じたわ。でもそれが爆発する前に、デルフェスに押しとどめられたの。
「リース様、病み上がりですので、興奮なさるとあとに響きますわ。
ご一緒できなかった理由は、あとで必ずお教え致しますので」
 ぽんぽん、と宥めるように肩を撫でられる。仕方が無いけど、これで収まらなかったら女じゃないわ。
「うー…仕方ないわね、デルフェスちゃんに免じて許してあげるわ。
そんでルーリィ、もう出来たんでしょうね?」
 ジッと見上げると、ルーリィは肩をすくめて見せた。
「ええ、勿論よ。すっごい出来になったわ」
「殆どデルフェス姉さんの力作なんだけどね! すっごいんだよデルフェス姉さん。包丁の使い方とか、コックさんみたいなの」
 興奮するほどのものを見たのか、最後に出てきたリネアが頬を赤くしている。
あたしは「へー」と感心して相槌を打った。
「さすがねえ、デルフェスちゃん。あたしも教えてもらいたいもんだわ」
「ええ、そのうち」
 デルフェスは笑って頷いた。そこらへんの無神経な使い魔どもみたいに、決して馬鹿にしたりしないところが、この子のいいところよね。
そしてあたしは、彼女の反応に満足して、立ち上がった。
しゃがみこんでいたものだから、少しふらついてしまう。
「おっと」
「リース様!」
 デルフェスが機敏な反応を見せ、あたしを支えてくれた。あたしは苦笑して返す。
「やだもう、大げさよ」
「いいえ、ご無理は禁物ですわ。病み上がりなのですもの」
 …少し心配性すぎるところが、玉に瑕ってやつかしら…。
そう思っていると、ふわっと足元がなくなって、自分の体が浮かび上がる感覚を覚えた。
「っ?!」
 驚いて目を丸くしていると、顔のすぐ横にデルフェスの笑顔があって、更に目を丸くしてしまうあたし。
気がつけば腰のあたりと足の関節の後ろに支えるものがあって、それであたしはデルフェスに抱き上げてもらってることに気づく。
「でっ、デルフェスちゃんどうしたの! 乱心でもしたの!?」
「まさか、そんなこと御座いませんわ。お待たせ致しましたが、今から出かけるところですの」
 そう言って、デルフェスは顔を横に向け、目配せを送る。
そっちのほうを見ると、既にうちの店の連中が、シートや重箱、その他諸々を持って用意万全の状態で待ち構えていた。
「そりゃ、わかるけど…!」
「場所は近場ですけども、病み上がりのリース様を放ってはおけませんわ。
わたくしが連れて行って差し上げます」
 そう言って、にっこりと笑う。あたしはぎょっと驚いた。
「え、ええ!? でもそんな重病人でもないし! ていうかあたし、こう見えても結構重いのよ」
「まあ」
 あたしの言葉を聞くと、デルフェスはくすくす、と笑って答えた。
「わたくし、見かけよりずっと力持ちですのよ。リース様の体重なんて、羽ぐらいにしか感じませんわ」
「そーいえば、あんたミスリルゴーレムだっけ…」
 あたしがそう、諦めたように苦笑すると、デルフェスはえぇ、と頷いた。
まー、しゃあないか…ここは大人しく、お嬢に担がれるとしますか。
 でも少し恥ずかしいし、何よりワールズエンドの連中の、揃ったにやにや笑いに腹も立ったけどね。














 そんなこんなで、ついたのはデルフェスの言うとおり、うちの近所にある公園だったわ。
公園っていっても案外広くって緑も多い。休日になるとカップルや親子連れでにぎわうけど、
今日は平日だからかそれほど人出も多くなくて、日光浴には最適だわ。
あたしはしみじみとデルフェスの提案に感謝しながら、手ごろな日陰に敷かれたシートに腰を下ろし、
足を延ばした。やれやれ、病人扱いも優雅なもんだけど、過ぎると少し窮屈なのよねえ。
「リース様、体調は如何ですか?」
 デルフェスが気遣うような笑顔で尋ねてくる。
あたしは手をひらひらと振り、
「大丈夫よ。元々病気じゃないし、最近カリーナが大人しくしてくれたおかげで、魔力も随分回復したし」
「…そうですか」
 デルフェスはそう頷いたけど、その表情に少し陰りが見えたことにあたしは気づいた。
ああ…そういえば彼女は、カリーナのことをも気遣ってくれてたんだっけ。
だからこそデルフェスは、カリーナが現れることによって、あたしやルーリィたちや、そしてあたしたちと仲良くしてる人間たちが
傷つくのが怖いんだろう。そうなると、両者の間の溝は決定的に広がってしまうもの。
和解を目指すデルフェスにとって、それはなんとしてでも避けなきゃいけない事態のはずよ。
「…デルフェスちゃん」
 あたしが彼女に声をかけようと口を開いたとき、能天気なうちの連中が騒ぐ声がした。
むっとしかめっ面で振り向くと、ちょうどデルフェスちゃんたちが作ってたお弁当を開くところだったわ。
一言文句を言ってやろうと思ったあたしだったけど、その美味しそうな匂いに、思わず腹が鳴っちゃった。
「…リース様?」
 不思議そうに首をかしげるデルフェスに、あたしはウィンク一つして言った。
「その話はあとでね。お昼にしましょ、あんたの力作が取られちゃうわ」
「…ええ」
 デルフェスのにっこりとした笑顔にあたしも笑い返し、いそいそと弁当のところにいく。
取り皿と箸を手渡され、さあ何からつつこうか、とあたしは弁当を覗き込んだ。
弁当…お重は3段のスタンダードなものだったわ。
一段目は定番のおにぎり、2段目がおかず、3段目がフルーツを交えたデザート。
うんうん、見た感じとっても美味しそう。彩りも華やかだし、うちの連中の好みの食材もちゃんと入ってる…って待てよ。
「ちょっ、誰よ、ナスいれたの!」
 あたしは箸を握り締めて叫んだわ。
2段目のおかずのお重の隅っこ、器にちょこんと盛られたのは煮ナス焼きナス、おまけにナスの漬物。
その紫色を見て、あたしの肌にぞわっと鳥肌が立つのを感じたわ。
「あたしの食べるものに、ナスを入れるなっていってるじゃない! 味がうつるのよ、味がっ!」
 あたしは頭から湯気を噴出させて怒鳴ったわ。
そう、あたしはナスが大ッ嫌いなのよ! あの薄気味悪い紫色の皮、黄色い中身はぐにゅっとした歯ざわりで…ああっ!
 あたしが怒鳴ったっていうのに、目を丸くしているのはリックただ一人。
残りのワールズエンドの連中は、何故かにやにやしてる。気味が悪いったらありゃしない。
そこであたしはふと気づいたわ。
「あんたたち、もしかして…!」
「リース様、好き嫌いは宜しくありませんわ」
 はい、とデルフェスは自分の箸で焼きナスを一切れ取り、あたしの取り皿に置いた。
「デルフェスちゃん!」
「はい」
 デルフェスは有無を言わさない笑顔で首を傾げる。
あたしはこのとき察したわ。このナス事件の張本人が、一体誰だかをね…!!
「……デルフェスちゃんでしょ? ナスいれたの…」
「ええ」
 デルフェス、なおもにっこり。ああ、やっぱりそうなのね。
「……あたし、ナスが大ッ嫌いなのよ。知ってた?」
 あたしが震える声でそういうと、デルフェスが如何にもわざとらしく、目を丸くして口に手を当てた。
「まあ、今初めて知りましたわ。ナスを入れようと申し上げたのはわたくしですの。
リース様がそこまでナスを憎んでらっしゃったとは存じ上げておりませんでしたわ、申し訳御座いません」
 そういって、深々と頭を下げる。
うっ…卑怯だわ! そんなことされちゃ、逆切れできないじゃないの。
 しかもさすがデルフェス、それだけじゃ終わらない。
顔を上げると、例のあの笑顔でさらに煮ナスをあたしの取り皿に置く。
「これは、ひき肉と一緒に甘辛く味付けしたものですの。
リース様は濃い味付けがお好きと伺ったので、きっとお気に召しますわ」
「あのねえ! あたしはナス自体が…」
「リース様、ナスはとっても栄養がございますのよ。
ビタミンB群・Cなどのビタミン、カルシウム・鉄分・カリウムなどのミネラル成分、
食物繊維などをバランス良く含んでおりますので、生体調節機能が優れていると言われておりますの。
食物繊維が特に多く含まれておりますから、血糖値の上昇も抑えて下さいますわ」
 デルフェスが淡々と語る栄養談義を後押しするように、美味しそうにそのナスを頬張るリネアが続ける。
「デルフェス姉さんって、料理が上手いだけじゃないんだよ! すっごい詳しいの」
「さすがよねえ、栄養士さんにも慣れるんじゃないって色々言ってたの」
 ルーリィはルーリィで、自分の好きなチキンの照り焼きを頬張っている。
あたしはその傍らに控える銀埜に、キッと視線を向けた。
「……あんた、もしかして知ってたでしょ…」
「さあ、何のことやら」
 銀埜はしれっと宙を見る。そもそもこいつがそう簡単に尻尾を出すわけがないのよね!
でも悲劇はこれだけじゃ終わらなかったわ。
「あーーーっ!!」
 そのとき、甲高い叫び声があたりに響いたわ。
ぎょっとしてそっちを見ると、今度はリックが片手におにぎりを持って、わなわなと硬直していた。
「海苔ーっ。海苔ー!!!」
 まるで呪文のように、海苔、海苔と喚いている。
そして一瞬固まったかと思うと、おにぎりを手にしたまま、うっうっとむせび泣きはじめた。
「ひどいよぉー。俺、海苔つきじゃ食えねえよう!」
「あー…」
 あたしは遠い目をして、かわいそうなリックを見つめた。
そーいえばあいつ、まだ幼いコウモリのときに間違って海苔を食べちゃって、
それが口の裏に張り付いて呼吸困難に陥ってから、海苔がだめになっちゃったのよね。
イギリスに海苔なんてあるのかってつっこんじゃだめよ。ルーリィんちは大の日本びいきなの。
 そんなリックに、デルフェスが優しく声をかける。
「リック様。ゆっくりよく噛んでお召し上がり下さいませ。そうすると、安心して食べられますわ。
海苔は単なる飾りじゃ御座いませんのよ。
タンパク質は海苔1枚で牛乳5分の1本分、卵では5分の1個分含まれておりますし、
ビタミンも他の食品に比べ、豊富に含まれておりますわ。海苔1枚で卵約1個分、
牛乳350cc、にんじん10gのビタミンAが摂取できますのよ、とても素晴らしいでは御座いませんこと?」
 ぺらぺらとあたしのとき同様、栄養談義を語るデルフェス。
まるでその姿は、漁師さんの回し者のようよ。
ごくり…と思わず息を呑むあたし。なかなかの強敵だわ。
 そう思っていると、デルフェスは笑顔でこちらを振り向いた。
あたしの取り皿には、勿論ちゃんとナスが乗っかっている。
「リース様、リック様は挑戦していただけるそうですの。リース様も、ふぁいと、ですわよ」
 そういって、拳を握るデルフェス。
ねえ、誰がこんなお嬢に逆らえる!?
「……リース、腹を括ったほうが宜しいですよ」
 そう、ぽつりと銀埜が小声で囁いてきた。あたしは思わず涙目でにらむ。
「うるさいわよ、この裏切り者。あたしとリックちゃんを締め出したのだって、このためだったんでしょ」
「まあ、図星ですが。作っているところをあなた方が見ると、何としてでも排除しようとなさるでしょう。
ですがデルフェスさんは、リースやリックのことを思って、
わざわざルーリィにあなた方の嫌いなものを聞き出してくださったのですよ」
「…!」
 あたしは思わず目を見開く。銀埜は神妙な顔をして続ける。
「ちゃんと栄養を取ってもらいたいと思ってね。あなたはそれでも拒みますか?」
「………!!」
 あたしは思わず唸る。…ここまで言われてそれでも断る人がいたら、一度顔拝んでみたいもんよ。











「…リース様、お顔の調子が良くありませんようですが」
「え、大丈夫よ。うはははは」
 あたしは無理矢理豪快に笑って胸を張る。
「うん、まあ。美味しかったわよ、ご馳走様」
 うえ、でもまだ少し吐きそうになるわ。
結局あの紫色を、詰め込むようにしてがっついちゃったもの。
「それだと宜しいのですが」
 デルフェスは控えめに笑う。

 何とか昼ごはんを片付けたあと、あたしたちはのんびり緑に囲まれた遊歩道を歩いてたわ。
リネアは食後のお昼寝に突入して、使い魔2匹は彼女のお守り。
「ルーリィ様はお誘いしなくても…」
「大丈夫大丈夫、あの子も眠そうにしてたから、きっとぐーすか寝てるわよ」
 デルフェスが心配そうに言うので、あたしは笑って手を振ってやる。
ルーリィも最近なんだかんだで疲れてたみたいだから、丁度いいわ。
「…そうですか。お疲れでしたのね」
 ふぅ、と沈んだ顔を見せるデルフェス。あたしは思わず、彼女の背を叩いて言ってやったわ。
「あんたが沈んだ顔してどうすんの? 本末転倒じゃない」
「…リース様」
 デルフェスは顔をあげて、目を丸くする。
あたしはニッと笑って言ったわ。
「あたし、デルフェスちゃんには感謝してるのよ。
今回のだって、あたしたちを励ますために企画してくれたんでしょ?」
 あたしの言葉に、デルフェスは暫し逡巡したけども、やがて小さく頷いた。
「…カリーナ様と前向きにお付き合いするためには、このままではいけないと思いましたの。
でも良かったですわ、皆様お元気そうで」
「デルフェスちゃんのおかげよ」
「…そんな、わたくしは何も」
 デルフェスが驚いたように首を横に振ったので、あたしは立ち止まって彼女を見つめた。
そして両手を腰にあて、仕方なさそうに言ってやる。
「あのね、あんたみたいなのがあたしたちのとこにやってきてくれるから、あたしたちは元気になるの。
あたしたちみたいな魔女はね、デルフェスちゃんみたいなお人よしがいるから、なんとかやっていけてるのよ。
だから、あたしはあんたの存在自体が嬉しいわ」
「……」
 デルフェスは一瞬目を丸くして、それからゆっくり瞼を閉じて、確かめるように頷く。
その瞼が開いたとき、彼女の顔にはいつもの心安らぐ笑みが浮かんでいた。
「……勿体無いお言葉ですわ」
「でも真実よ」
 デルフェスはその言葉には答えず、ふふ、とただ微笑んでいた。
「…カリーナの件はまだこれからだけどね。大丈夫何とかなるわよ」
 あたしはそういって、拳を握ってみせる。
「もうあいつの好きにはさせないから。…これ以上引っ掻き回されちゃったら、あとが大変だものね」
「…ええ、カリーナ様含めて、皆が幸せになれるような結末を探したいと思いますの」
 デルフェスのその言葉は、きっと誰もに共通する想いだろう。
その想いに堂々と胸を張ることが出来る彼女を、あたしは心の中でこっそり尊敬してた。
だから、言ったわ。
「…デルフェスちゃん、あんたはずっとお人よしのままでいてね」
 デルフェスは、笑って頷いてくれた。
「…ええ、努力致します」
 その言葉を信じて、頑張ってみようと思う。
幸せな結末に向けて。









                            End.



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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【2181|鹿沼・デルフェス|女性|463歳|アンティークショップ・レンの店員】

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▼ ライター通信
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 いつもお世話になっております!
今回はピクニックにお誘い頂き、ありがとうございました。
今のこの季節、日差しは暑いけれども涼しい風もあり、
ピクニックには最適だなあ、と羨ましく思っておりました。
デルフェスさんには、いつも何かとお気遣い下さりありがとうございます!
私からも、深くお礼申し上げます。

 それでは、またどこかでお会いできることを祈って。