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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


藍玉 + 友達 +



☆ ★

 沖坂 鏡花は顔だけ。
 そんな噂があちこちのグループで囁かれるようになった。
 仲の良い子だけで固まった小グループのリーダー達は、こぞって鏡花を無視し始めた。
 人見知りが激しくて、ほんの少し話し掛けられただけでオドオド・・・
 いつも俯いており、ほとんど喋らないその様子は、見る人によっては酷く苛立ちを覚えるのだろう。
 だからこそ・・・
 沖坂 鏡花は顔だけ。
 無駄に良い外見を持つ彼女は、女生徒からあまり好まれなかった。
 男子生徒達から一目置かれているのは、ただ外見が可愛いから。
 中身は大した事ないくせに、ムカつく。
 理不尽なソレは、鋭い刃となって鏡花に襲い掛かり、教室内では浮いた存在になっていた。
 ・・・けれど、自分にも悪いところがあるから・・・。


* * *


 午前の授業が終わり、お昼の時間が始まる。
 ざわつく教室内からするりと抜け出ると、俯きながら中庭へと出た。
 初夏を感じさせる高い陽をしのげる、巨大な木の根元、真っ白なベンチの上に腰を下ろすとバッグの中からお弁当箱を取り出した。
 鏡花が食べるにしては大きすぎるそのお弁当箱は、いっそお重と言ってしまった方が良いほどに大きかった。
 しばらく黒塗りの蓋を見詰めた後で、小さく溜息をつく。

「お友達と・・・食べなさいって・・・。そんなの、いない・・・のに・・・。」

 従兄妹の顔を思い描き、それに向かって再度溜息を洩らす。
 友達が出来ない鏡花を思っての事なのかも知れないが・・・

「全部・・・食べきれないと、悲しそうな顔・・・するから・・・なぁ・・・。」

 つい昨日の事を振り返って、ポツリ・・・そう呟くと、目を伏せた―――


★ ☆


 授業終了の鐘が鳴り、沖田 奏は背伸びをすると出してあった教科書を鞄にしまった。
 先生が出て行った後で、日直の生徒が黒板を消しながら友人と談笑している。
 ガタガタと机を動かしてグループにする者達、購買へと走る者達・・・・・・
「沖田君、一緒に食べない?」
 クラスメイトの女の子のグループがそう言って、可愛らしいお弁当箱を左右に振る。
 女の子グループの中でも比較的大人しく、少人数のグループだ。
 そのリーダー格の女の子は、かなり人気があった。
 控え目な茶色の髪に、短すぎないスカート丈。
 華奢と言うよりは少しふっくらとした体型のその子に、奏は頷くと窓の外に視線を向けた。
 陽はそれなりに高いが、風が心地良さそうだ。
「どうせならさ、外で一緒に食べない?」
 奏の突然の申し出に、顔を見合わせながら窓の外を見詰め・・・外も過ごしやすそうだと言う結論に至ると、コクリと頷いた。
 鞄の中からお弁当を取り出し、人でごった返した廊下を抜け―――――
 それは丁度、棟と棟とを結ぶ渡り廊下での事だった。
 ガラス張りのそこから何の気なしに中庭の方へ視線を向けると、ポツンとベンチに座る少女が見えた。
 銀色の長い髪を風に靡かせながら、膝の上に抱いたお弁当箱をジっと見詰めている。
 ・・・その姿に、奏は思わず「あっ」と声を出しそうになった。
 相変わらず今日も1人で寂し気にお弁当を広げている鏡花。
 奏は立ち止まると、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「あは♪ゴメン、今日先約いるんだった☆」
「え?そうなの?」
「うん、ゴメンネ?また今度、一緒してもいー?」
 無垢な笑顔を向けられては、流石の女の子グループもNoとは言えない。
 明日にでもお昼を一緒にしようと約束をして、奏は一人中庭へ走った。
 ついこの間会ったばかりの少女。
 美人で可愛らしいが、極度の人見知り・・・
 やっぱりまだ警戒するかな〜?
 奏は走りながらそう思った。
 肩に少し触れただけでビクリと飛び上がったほどだ。
 きっとするよね〜・・・ま、いいや!いつも通りスマイルでいくべし!
 奏は気合を入れると、中庭を突っ切る形で走り、鏡花の前で足を止めた。
 ジっとお弁当箱を見詰めていた鏡花がゆるゆると顔を上げ・・・視線が合う、それは刹那の事。
 驚いたように瞳を潤ませた瞬間、顔を背けた。
「お・・・沖田・・・さん・・・?」
「うん、そう。鏡花ちゃんだよね?」
「えっと・・・あ・・・あの・・・どうして・・・ここに・・・?」
 膝の上に持ったお弁当箱を両手でギュっと握る。
 奏は視線を鏡花の顔からお弁当箱に移した。
 黒塗りのお重は、女子高生がお昼ご飯として持ってくるにしてはあまりにも立派過ぎる。まして、鏡花はかなり華奢な方だ。
 痩せの大食いで無い限りはこの量を1人で食べる事は無理だろう。
「ふわ〜、凄いお弁当。これって手作りだよね〜?」
「え・・・あ、はい・・・。私の・・・従兄妹の人が・・・作ってくれたんですけれど・・・」
「凄いねっ!俺の作った弁当が完全に顔負けしてるよ☆」
 そう言って、手に持ったお弁当箱を揺らす。
「え・・・?沖田さんが作ったんですか?」
 鏡花が意外そうな顔をして、奏の瞳を見つめ・・・すぐにそらす。
「うん、そう・・・意外?」
「あ・・・はい、少し・・・」
 鏡花はそう言って俯くと、お重を恥ずかしそうに手で隠した。
「な・・・なんか、こんな・・・大きいの、恥ずかしくて・・・。へ・・・変な子って、思われるの・・・怖くて・・・」
 顔を真っ赤に染めながら鏡花が小さくなる。
 言葉の最後は耳をすませなければ聞こえないほどに小声で・・・その言葉に、奏はにっこりと微笑んだ。
「変なんて、そんな事言うわけないじゃん。だって、鏡花ちゃんの従兄妹の人が頑張って作ってくれたんでしょ?」
 奏の一言に、鏡花が顔を上げる。
 今度はしっかりと奏の目を見詰め・・・直ぐにはそらさなかった。
 その瞳はあまりにも真っ直ぐで、純粋で・・・奏の方が思わずそらしてしまいそうになるほどだった。
「えっと・・・俺、なんか変な事言った?」
「あ・・・いえ、そうじゃないです・・・」
 鏡花が首を振り、それっきり視線は合わなくなった。
 お重を両手に握り締めたまま、奏の腕の辺りを見詰める鏡花・・・
「む〜、む〜・・・えっとさ、鏡花ちゃん。俺のおかずとちょっとだけ交換しない?」
 笑いながらそう言って、奏は自分のお弁当を鏡花の目の前に差し出した。
「おかず交換・・・ですか?」
 鏡花の口調はいぶかしむようだったが・・・
 パっと顔を上げる。
 その瞬間、奏は思わず固まってしまった。
 初めて見た笑顔は、満面の笑みで―――――
 あまりにも無邪気なその笑顔に、奏は目が釘付けになった。
 鏡花が席をずらし、奏の場所を作る。
 それにお礼を言って、そっとその横顔を見詰める。
 さきほどの笑顔は一瞬で、もう微笑んではいなかったけれども・・・その表情はどこか嬉しそうだった。
 おかず交換が嬉しいのだろうか?
 確かに、女の子同士でよくやっているのを見かけたりはするが・・・・・・
 ふと思い当たった1つの事実に、奏は目を伏せた。
 そうだ・・・鏡花ちゃんにはお友達が・・・・・・・
 もし、友達がいたとするならば、いくらお重が恥ずかしいからと言って中庭で1人、お昼を食べるような状況には至ってないだろう。
 鏡花がお重の蓋を開け、中から一通りのおかずを蓋に乗せると、奏に差し出した。
「私・・・1人で食べ切れなくて・・・困ってて・・・だから、あの・・・食べてくださると、嬉しい・・・です」
「うん、俺のもどうぞ〜?」
 鏡花ちゃんのお弁当ほど豪華じゃないけどと付け加え・・・鏡花がいただきますと小さく呟き、朱塗りの箸で玉子焼きをつまんだ。
 もぐもぐと味わうように食べて・・・ふっと小さく微笑むと、美味しいと言って奏に視線を向けた。
「お料理上手いんですね・・・?」
「や・・・鏡花ちゃんのお弁当よりも全然だよ・・・」
 豪華なお重の中身は見た目だけにとどまらず、味もかなり本格的で美味しかった。
 日本料亭の味と言うか、一流レストランの味と言うか・・・美味しい以外の言葉が見つからないほどだった。
「ご馳走様でした〜」
「えっ・・・もう食べ終わったんですか??」
 カポっとお弁当箱に蓋をする奏に鏡花が驚きの声を上げる。
 しかし、それは決して奏の食べる速度が早いからと言うわけではない。鏡花の方が食べるのが遅いのだ。
「うん。さてっと、お腹もいっぱいになったし・・・今日は詳しい自己紹介」
「自己紹介・・・???」
「うん。沖田奏、身長156センチ、趣味は剣術。好きなものは、綺麗なものかな〜♪」
 スラスラと出てきた言葉に鏡花が目を丸くする。
「あ・・・私は・・・沖坂鏡花と言います。えっと・・・身長は、145センチで・・・えっと・・・趣味・・・」
 そこまで言って、鏡花が口を閉ざした。
 暫く無言で何かを考えながらモグモグとお弁当を食べ・・・箸を置くとお重に蓋をした。
「趣味・・・・・」
「何でも良いんだよ。楽しいって思えるものなら・・・鏡花ちゃんは何が好き?」
「私、動物が好きで・・・犬とか・・・って、コレ・・・趣味じゃないですね。うー・・・ガーデニングとか、フラワーアレンジメントとか・・・あと、ピアノも好きです。本を読むのも好きですし、映画を見るのも好きです」
 ポンポンと出てくる鏡花の好きな事を、奏は黙って聞いていた。
 見た目通りの大人しい趣味ばかりだ。
 奏がそう思っていた時だった。不意に鏡花が意外な一言をポロっと零した。
「でも私、昔サッカーやってたんです・・・」
「・・・え?サッカー・・・!?」
「はい。母が・・・小学校の時に、地域のチームに・・・無理矢理・・・」
 顔を赤くしながら言う鏡花に、奏は凄いねぇと呟くと、マジマジと見詰めた。
 この鏡花が、白と黒の球を蹴りながら走っているなんて・・・少し想像がつかない・・・。
「結局、中学に上がる時に止めちゃったんですけど・・・でも、楽しかった・・・です」
 鏡花がそう言った瞬間、お昼休み終了を告げる鐘の音が鳴り響いた。
 お重を綺麗に包み直し、鏡花が立ち上がる。
 ポンポンとスカートについた埃を払い・・・・・・・
「なんか、嬉しいなぁ」
「・・・え?何がですか・・・?」
「鏡花ちゃんが色々話してくれて」
 少しずつ、焦ることなくゆっくり仲良くなっていけばいい。
 奏はそう感じていた。
 もしかしたら、それが鏡花と仲良くなる為の一番の近道なのかもと・・・。
「あっ・・・わ・・・私も、沖田さんが・・・仲良くしてくださって、嬉しかったです。お弁当、一緒に食べてくださって・・・」
 そう言って、ペコリとお辞儀をすると校舎に向かって歩き出し・・・足を止めると振り返った。
「沖田さん・・・優しくて親切・・・ですから、きっと・・・お友達が多いんだと思います。・・・私は1人でも大丈夫なんで・・・折角のお昼休みなんですから・・・私なんかと一緒に居て、貴重な・・・時間を潰しちゃわないで下さい」
 先ほどよりも大きく頭を下げると、鏡花は今度こそ校舎の中に消えて見えなくなってしまった。
 湿気を多く含んだ生ぬるい風が奏の髪を揺らす。
 鏡花の先ほどの声が耳の奥で木霊する。
 “私は1人でも大丈夫”
 そんなはずがあるわけないのに・・・。
 きっと、最初に言ったほうが鏡花の本心なのだろう。
 仲良くしてくれて嬉しかった・・・けれども、自分と過ごす事が奏にとっては“時間の無駄”になってしまうと思ったのだろう。
 鏡花と並んで座った真っ白なベンチを暫し見詰めた後で、ゆっくりと背伸びをすると校舎へ足を向けた・・・・・・・



               ≪ E N D ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6078 / 沖田 奏  / 男性 / 16歳 / 新撰組隊士・神聖都学園生徒


  NPC / 沖坂 鏡花


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『藍玉 + 友達 +』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、続きましてのご参加まことに有難う御座います。(ペコリ)
 鏡花が自分の事を沢山話してます・・・!
 まだキチンと視線が合わなかったり、口篭ったりしておりますが、確実に前進しております。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。