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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 フィフス・エラー



 目的の廃ビルの中を探索しているのは三人。
 成瀬冬馬と、梧北斗、そして一ノ瀬奈々子だ。
 奈々子の指示で、こういう組み分けになった。万が一なにかあった時のため、外ではらんと、朱理と正太郎が待機している。
 閑散としたビルの中には物はないが、窓がないために葉や枝まで落ちている。
「梧さん、どうですか?」
 薄暗い中を見回していた奈々子が、北斗に声をかけた。
 メンバーの中で唯一の退魔師である北斗は首を横に振る。
 写真に写ったモヤの正体を探るために来ていたが、北斗はなんの気配も感じていない。彼の持っている退魔用の武器・氷月も反応はなしだ。
「一階は怪しげな気配はないみたいだね。二階かな」
 冬馬は奈々子ににっこり微笑む。
 三人は見上げる。天井はたくさん穴が開いている。大きな穴もあるので、足場は悪そうだ。
 三人は階段を見つけてあがっていく。
「ところでさ、奈々子ちゃん」
「はい?」
 後ろからあがっていく冬馬のほうを奈々子は振り向く。
「さっき、朱理ちゃんにすごい剣幕だったよね。何かあったの?」
「…………」
 二人の会話に北斗がつい、耳をそばだてる。それは北斗も気になっていたことなのだ。
 探索組と待機組に分かれる時、奈々子は「自分が行く」と言い出した朱理を睨みつけて言い負かし、待機組にしたのだ。まあ戦力的にみて、それが正しいともいえる。組を二つに分ける以上、戦力になる北斗と朱理は別のチームにしなければならないのだから。
「……別に何もありません」
 冷たく言う奈々子の手を冬馬は掴む。彼女は足を止めた。
「ほんとに?」
「…………」
「ボクじゃ、頼りにならないか」
 苦笑して奈々子の手を放す冬馬。彼女は顔を曇らせ、何か言いかけるが口を噤んだ。
 奈々子の様子がおかしいのは、明らかだ。それに、冬馬の『悪寒』が奈々子に危険が迫っていることを告げていた。
「そうだよね。いっつもみんなに護られてるし」
「そ、そんなこと……」
 二人のやり取りに北斗は振り向けず、赤面したままのろのろと階段をのぼっていた。
(も、もしかして俺って物凄いジャマなのかなぁ……)
 今回の写真の原因究明を渋った奈々子の態度を北斗は気にしていたので、どうしても二人の会話を聞いてしまう。
「とにかく、モヤがなんなのか調べて……早く解決させたいんです」
「何か心配事があるんだね?」
「……はい」
「ボクにも話せないの?」
 奈々子は顔をしかめ、それから俯く。彼女はしばらく黙っていたが、重い口を開いた。
「成瀬さん……本当は、写真はもう一枚あるんです」
「もう一枚?」
「朱理が写った写真が……」
 言いかけた奈々子が突然落ちてくる。足を滑らせたのではない。北斗に突き飛ばされたのだ。
 冬馬は慌てて奈々子を受け止めて、手摺りを掴む。
 上のほうから北斗が叫んだ。
「逃げろっ!」



 外で待つ三人組は、手頃な石に腰掛けていた。ぼんやりと、流れていく雲を眺める。
「いい天気だなぁ」と、朱理。
「ん」と、らんが頷く。
「こういう日はピクニックだよね。なんでこんな……ひと気のないところに居るんだろ」と、正太郎。
「正太郎兄ちゃんが、写真撮ったから」
 朱理と正太郎の間に座っていたらんが、的確にツッコミを入れていく。
 朱理は「はあ」と嘆息した。
「なんであたいが待機なんだよぉ」
「しょうがないよ。梧さんが向こうに行ったほうがいいし、何かあった時に奈々子さんが瞬間移動で逃げれば間違いないから」
「まあなー。成瀬さんは奈々子を見ててくれるから……安心なんだけど」
 青い青い空。鳥も飛んでいない綺麗な青空。
 らんは二人を見比べ、俯く。らんとしても今回のことはあまり乗り気ではなかったのだが、みんなが行くというのでついて来たのだ。
 しばらくしてから、朱理は「あー」と、つまらなそうに声をあげる。
「正太郎」
「んー?」
「なに隠してる?」
 ぎく、としたように正太郎が沈黙した。ちろ、と朱理が横目で見遣る。突然の重苦しい空気にらんは動けなくなった。
 朱理は膝を抱える。
「いっつも率先して解決しようとするくせに、今回に限って奈々子は嫌がったろ?」
「奈々子さんだって気乗りしない時くらいあるよ」
「……でも、モヤのこと、解決しようとはしてるんだよな」
「そりゃ……気になるからでしょ」
「解決はしたがってるくせに……あたいが来るのは嫌がってるだろ」
「…………」
 目を細める朱理。正太郎は視線をずっと地面に向けたまま。らんは戸惑って二人を交互に見た。
「……言え。怒らないから。あたいに何を隠してる?」
 威圧的な朱理の声に正太郎は汗を流す。
 だがその時、らんが鼻をひくつかせた。
「朱理姉ちゃん……!」
「どした?」
「危ない! 奈々子姉ちゃんたち……!」
 途端、朱理は立ち上がって駆け出す。らんもそれに続いた。
 正太郎は青くなって叫ぶ。
「ダメだよッ!」
 朱理とらんは、足を止めた。
「朱理さんは、行っちゃダメだ!」



 持っていた氷月を構えて、気を矢として練り上げて放つ。だがその矢は、モヤを霧散させるだけの効果しかない。
 人の形に収束したモヤは、まるでスキップでもするように軽やかに北斗に近づいて来る。
(くっ……なんなんだよアレは!)
 何度矢を放っても、アレは霧散するだけ。
 徐々に後退していく北斗は階段下の奈々子と冬馬を横目で見遣る。
「何してる! 早く逃げろ!」
 先に動いたのは冬馬だ。彼は奈々子の手を引っ張ると走り出した。
 天井が揺れ、埃が降ってくる。
「奈々子ちゃん急いで!」
「は、はいっ」
 だが奈々子の目が見開かれた。入口のところに朱理が立っていたのだ。
「成瀬さん、奈々子を任せたよ!」
 そう言うと、冬馬の横を通り過ぎて朱理は二階を目指して走っていく。
 奈々子が急に足を止めたため、冬馬はぎょっとして振り向いた。
「奈々子ちゃん!?」
「朱理は……朱理は行ってはいけません!」
 冬馬に引っ張られてビルの外に出た奈々子は、待っていたらんと正太郎を見遣る。
「止めたんだけど……」
「成瀬さん、朱理を連れ戻してください!」
 正太郎の声を遮って奈々子は冬馬にすがりついた。彼女は泣きそうな顔をしている。
「たくさんの鉄筋と……コンクリートが落ちてきて、朱理は下敷きになってしまうんです! お願いです、朱理を連れ戻して!」



 朱理は大きく開いた天井を覗く。
 ずどん! と大きく天井が揺れた。
「梧さーん! 北斗ー! 大丈夫ーっ?」
 大声で呼ぶが北斗は返事をしない。
 それもそうだろう。北斗は二階で苦戦していたのだ。
 ふわふわと寄ってくるモヤを避けて逃げ回り、矢を放つ。それの繰り返し。
 彼はぜぇぜぇと息を吐き出し、重くなっていく足を叱咤してなんとか逃げていた。
 モヤは人の姿を模していたが、今は巨人のようになっている。しかも、重量などないはずなのに歩くたびに床がぐらぐらと揺れた。
(朱理の声……?)
 ぼんやりとそう思っていると、モヤは手を止め、くるりと後方を振り向く。穴の開いた床のほうへするすると寄っていった。
 怪訝そうにする北斗。
 モヤは穴から覗き込むように下を見て、それから興味深そうに凝視した。
 白い煙のような体で、笑う。笑みがはっきりと見えた。
 モヤは喜んでいるようでどたどたと歩き回る。北斗は揺れに耐えられず、近くのものにしがみついた。
(な、なんだ? なんであんなに……)
 不思議そうにする北斗は、ごぼっ、と床が落下するのを見た。だがその時に確かに聞いたのだ。
 ――――チョウダイ、と。



 覗き込まれた朱理は目を見開いていた。モヤは朱理を真っ直ぐ見て、にたりと笑う。
 朱理の瞳が恐怖に染まり、天井から視線を逸らすと駆け出す。逃げる、とも言えた。
 大きく天井が揺れた瞬間――それは落ちてきた。
「朱理姉ちゃんっ!」
 冬馬よりも足の速いらんが朱理目掛けて走って来ているのが見えている。
 だが、誰が見ても明らかだった。
 間に合うわけがないと。
 落ちてきた天井は、一気に朱理目掛けて押し寄せていたのだ。

 正太郎は真っ青になる。彼の手に握られているのは、迫る天井を振り向く朱理の写真。
 ずっと隠していたものだ。
 必死にしがみついても朱理は彼を押し退け、奈々子を助けに向かった。結果、こうして写真は現実のものとなったのだ。
 自分はこうやって写真に撮るだけで――何もできはしない! それを痛感する。

 距離がありすぎる。
 らんは全速力で朱理に向かった。
 朱理が天井を仰ぐ。もうダメだ。押し潰される!
(ヤだ!)
 顔を歪めたらんは、驚いた。
 朱理がこちらに突き飛ばされたのだ。
 本当に、それは刹那の出来事。

 朱理は振り向く。
 誰に突き飛ばされた?
 ゆっくりと向いた先にいたのは――。
 長い髪をなびかせて、両手を前に出して。
 薄く微笑んだ……。

 どしゃぁぁぁ!
 派手な音を立てて二階の床が落下した。



 しがみついていた北斗は、ゆっくりと瞼を開く。
 床がほとんど……なくなっていた。

 倒れた朱理を受け止めているらん。朱理のつま先の数センチ先には、天井だったものの残骸。
 朱理は呆然とした表情でそれを見ていた。
 冬馬は震え、膝をつく。
「奈々子ちゃ……」
 朱理を突き飛ばしたのは、瞬間移動した奈々子だった。朱理を連れて脱出できるほどの時間はなかったのだ。
 朱理の身代わりに、彼女はこの瓦礫の下敷きになっている。
 正太郎はゆっくりと、握りしめている写真を見た。未来の写真だったはずだ。いいや――。
(この写真の先は…………『これ』が正しいんじゃ……)
 朱理が下敷きになる『直前』。だから、下敷きになったわけではない。下敷きになるのは……最初から奈々子だったのではないかと正太郎は考えた。
 冬馬は立ち上がり、よろめきながら瓦礫に近づく。嫌な予感がしていたのは『奈々子』だったのに……!
(俺……傍にいたのに止められなかった……)
 止めることは困難だろう。本当に一瞬のことだったのだから。
 あまりのことに何も言えないでいるらんから離れ、朱理は立ち上がった。そしてよろよろとビルから出て行く。
 正太郎はそれを目で追った。
 ふらつく足で歩く朱理は、空を見上げ――そして涙を一筋流す。
「頼む……頼むよ……」
 朱理は膝をついた。顔を手で覆う。流れる涙が、指の間から滴り落ちた。



 それから――――あのファーストフード店の二階に陣取っていた三人組は現れなくなったという。
 三人がどうなったかは…………誰も知らない。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/大学生・臨時探偵】
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
【6177/―・らん(―・らん)/男/5/魂の迷い仔】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、らん様。ライターのともやいずみです。
 超能力心霊部最終話、いかがでしたでしょうか? 衝撃的な結末になっておりますが、らん様の存在で少し和んだ場面もありつつ……。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
 「超能力心霊部」全てに参加してくださって、本当に感謝しております! ありがとうございました!