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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


 青い目のウサギさん

 Opening
 最近、「青い目のウサギさん」という噂が、主に下級生の間で広まっているらしい。
 そのウサギを見ると幸運になるとか、ならないとか。あるいは呪われるとか、呪われないとか。
 呼び出し方はいたって簡単。小さな紙に青い目のウサギのイラストを描く。そしてそれに願い事を書き加えて、誰にも見つからないように学校のどこかに隠しておく。この際、隠す場所の制限はない。ただ学校の敷地内であれば良いのだと言う。
 そして、一日経ってもその紙がそのままの場所にあれば――。
 青い目のウサギが、現れるのだという。

 響カスミは、今日も夜の学園を歩いていた。
 もちろん怖がりの彼女は、何も好きこのんで夜の学園を歩いているわけではない。ただウサギのイラストが書かれた紙片をあちこち探しまわって歩いてるうちに、いつの間にか夜になってしまったのだ。正直なきたくなるが、これも仕事である。
 先日、ちょっとした事件があった。初等部のクラスでのことである。一人の女生徒が、クラスメイトと喧嘩をしたのだ。原因は隠しておいたウサギのイラストを、その女生徒が見つけたことにあったらしい。それなら良いのだが、問題は女生徒がカッターナイフを持ち出した事だった。
「嫌な話よね……それは」
 だから、カスミはこうしてイラストを見つけて周っているのである。ただこれでは根本的な解決にはならないとも思っている。どうせまた置く生徒もいるからだ。
 だから――カスミは昨夜、青い目のウサギのイラストを描いて、学校に置いている。場所は彼女の机である。これで青い目のウサギが来るはず無いということを証明し、噂の沈静化をはかろうというのだ。
 つまり――噂が本当なら、そろそろ出るはずなのだ。青い目のウサギが。
(でも……やっぱりちょっと怖いわね)
 事実、手がちょっと震えている。
 どうしようもなくなったカスミは、こういう時に頼りになる知り合いに連絡するのだった。


 真夜中に突然呼び出されたというのに、全く嫌な顔をせずに来てくれた二人を見て、カスミは本当に良い友達を持ったものだと感動にふけった。
 一人は黒髪に黒スーツに黒い瞳の美男子。
 もう一人は金髪碧眼で白い肌の青年であった。
「二人とも、急に呼び出してごめんなさい……」
「いえ、構いませんよ。それよりどうしたんですか突然」
 そう聞くのは黒髪の青年。名を都築亮一。カスミの元同級生という間柄だ。実はカスミは、今亮一がどんな仕事をしているのかよく知らなかったりする。
「実はね……」
 カスミは二人に、今回の青い目のウサギについての話をする。要領よくまとめられたその説明に、二人はふんふんと頷いていた。
「つまり……」
 金髪の青年――劉月璃が口を開く。
「その青い目のウサギさんが出たときの護衛……ということで、俺たちは呼ばれたとことですか? カスミさん?」
 月璃は、繁華街で館を開いている占い師である。その服装は中国の衣装のようで、金髪碧眼と合わせてますます国籍不明である。名は中国人だが。
 カスミも占いの類が好きな人間なので、たまに彼の世話になるのだ。
「そ、そんなの噂よっ。でるわけないじゃないっ。でも、ほら、最近は学校でも不審者が侵入したりとかして危ないでしょ? わ、私も一人じゃちょっと怖かったりして……そ、そのウサギさんが怖いわけじゃないんだからねっ」
 青ざめた顔で、かつ震える足で力強く言うカスミ。信憑性というものが欠片もない。
「怖いんですね。昔っから怖がりなんですよ、色々と騒ぎもありましたからね、ふふ」
「……お互い、正体ばれたらとんでもないことになるようですね。彼女、卒倒してしまいますよ。都築くん……でしたか。そちらは破邪の力をお持ちのようですね」
「あなたもただの人間ではないみたいですが……まあカスミさんの信用している方です。俺も信用するとしましょう」
「それは光栄ですね。俺も都築くんのことは信用します。とりあえず今晩だけよろしくお願いしますね」
 小さな声で、さりげない共同戦線を張る二人。一方カスミは。
「そうよ、ウサギさんだもん。可愛いのよきっと。青い目のウサギさんだもの……」
 誰も聞いていないのに、まだ自分は怖くないと弁明していた。


「ウサギさんは怖くない……怖くないわよ……で、でもほら、やっぱり夜なのよ、暗いのよ、女の子はそーゆーの怖いのよねえわかるでしょ都築くん!?」
「はいはい」
 とりあえず校舎の廊下を行く三人だったが、歩き出して五分もしない内にカスミがへたりこんでしまった。一人の時はどうにか保っていた恐怖が、亮一と月璃が来た途端に決壊してしまったのだ。ある意味安心したと言い換えてもいいかもしれない。
「じゃあとりあえず手をつないで行きましょう、カスミさん」
 亮一がすらっと手を出した。カスミは恐る恐るその手を握る。
「懐かしいですね。昔もよくこうしましたよね、カスミさん、全然懲りてないんだから……」
「わ、忘れてよっ」
 嬉しそうに笑う亮一。それに対し頬を染めるカスミ。
 月璃はそんな二人を嬉しそうに見ながらゆっくりと後を突いていった。


Side月璃
 月璃は、何かの気配を感じた。
 自分も感じたのなら、おそらく亮一も感じただろう。それほど邪悪な気配ではない。いや、むしろ穏やかな。
(――どうします)
 亮一に目配せをする。暗闇の中でも、月璃の碧眼が鮮やかに光る。
 口では答えなかった亮一だが、カスミの手を更に強く握ったのが見えた。つまりカスミと一緒にいるということだ。気配の方は任せるということだろうか。
 カスミはこちらを見ていない。
(では……)
 さっ、と月璃は姿を消す。同時に気配も。闇に紛れ込ませる。
 彼の姿が、猫に変わっていた。
 月璃の実体は猫だ。セピアアグーティの毛並みが風に撫でられる。猫に変わった月璃はすぐさま反転し、そのまま気配のするほうへ走っていった。


Side亮一
「あれ……劉くんは?」
 カスミが、月璃の姿が見えないことにようやく気付いた。自分の役目は彼女を怖がらせないことだと、亮一は自分に言い聞かせる。
「あはは、トイレでも行ったんじゃないですか」
「……そうかしら、一言声かけても良いと思わない? あ、まさか青い目のウサギさんに食べられちゃったとか!?」
いつの間にそのウサギは人食いになったんだろうか――亮一は苦笑しつつも、カスミの手をひいていく。
「覚えてませんか、高校時代も、同じような事したじゃないですか」
「そ、そうだったわね」
「あの時は……なんでしたか。そうそう、音楽室のピアノが勝手に鳴り出すとか……結局、音楽の先生が居残って練習していただけだったんでしたよね」
 どうにか月璃から意識をはずすことに成功した。まあもちろん、この状況を十分に楽しもうという亮一の策略もあったわけだが。
「わ、私だって、あれから成長くらいしてるわよ」
「いえ、別に成長して無いとけなしているつもりはないんですが……」
 ふーんだ、と顔を逸らす仕草も可愛らしい。
「行きましょうか。そろそろ時間です。これで何も無ければ、ウサギなんて出なかったと生徒に言えるじゃないですか」
 カスミがどう考えたかは分からないが――それを聞いて、彼女はより強く亮一の手を握った。
(月璃さんがお仕事中にこんな事を考えるのもなんですが……まったく、今回は役得というほかありませんね)
 そう思って、亮一はくすりと笑った。


Side月璃
 そのウサギは、結構簡単に現れた。職員室に猫の姿で飛びんだとき、そこにウサギがいたのだ。あっさり。
「これは……やっぱり、カスミさんの机でしょうか」
 きちんと整理整頓されていて、機能的。しかしところどころに可愛らしいアクセサリーなどがあるのは、やはりカスミの机だからだろう。
 ウサギは机の上で眠るように目を閉じていたが、やがて月璃に気付いたのか、その目を開く。
「言葉は分かりますか?」
 ウサギが頷いた――様に見えた。向こうが喋る事はできないらしい。
「君は……多分、この学校の生徒の思念や望みが凝り固まったものでしょうかね……だから現れて欲しいと思ったところに現れる……」
 ウサギは黙って聞いていたが、否定する様子はない。
「でも、ここでは少々騒がしくなりすぎたようです。俺と一緒に来ますか?」
 その問いに、ウサギは頷いた――。
 のかもしれないが、月璃にはやっぱりよく分からなかった。


「……なんで君が一緒について来るんですか。せっかくカスミさんを食事にでも誘おうかと思っていたのに」
「学校の様子を見に来たんですよ。俺がいてもおかしくないでしょう、いまウサギを飼っているのは俺なんですよ?」
 後日談――。
 ウサギを捕らえた月璃は、そのまま帰宅。亮一とカスミは一晩中まわってウサギの書かれた紙を回収し、同時にウサギなど出なかったという証明をしてみせた。
 今頃はカスミの努力で、ウサギの噂も沈静化しているだろう。亮一は様子見をかこつけてカスミをデートに誘いに来たのだ。それを敏感に察知した月璃は、邪魔をしようとやってきたのである。
「結局、ウサギは?」
「俺がちゃんと飼育しています。結構気の良い奴ですよ。なついてくれて、可愛いものです。小学生の思念なんて、可愛いものです」
 だがそれのせいで、カッターナイフでの事件が起きたのだ。あまり良いことではないな、と月璃は思う。
「さて、そろそろお帰りください。俺はこれからカスミさんを……」
「俺だって当事者です。ご一緒しますよ」
 月璃がそういうと、亮一は思いっきり嫌そうな顔をしたのであった。


<了>

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■   登場人物
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【0622/都築・亮一/男性/24歳/退魔師】
【4748/劉・月璃/男性/351歳/占い師】

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■   ライター通信
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 初めまして都築さま&月璃さま。担当ライターのめたでございます。今回は一緒のご挨拶です。なぜかといいますと、お二人ともすごーく似ていまして。
 何が似ているって口調! 敬語は使うわ一人称は俺だわもう台詞でキャラの区別できないしみたいな! おまけにプレイングも似ていてはあもうどうしようかみたいな。
 結局ウサギは月璃さん預かりになりましたが、都築さんはカスミさんと役得だったのでどうでしょう? お気に入りいただけましたら幸いです。
 ではでは。そろそろ失礼をば。またお会いできる事を楽しみにしておりますです。


 追伸:異界開きました。よければ覗いてください。   http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=2248