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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


心の中の太陽

投稿者:碓氷│投稿日:2006/05/1X 
件名:あなたの絵を見せて下さい

 はじめまして。「こころの拠り所」という心理学サイトの管理人、碓氷と申します。
 場違いな書き込み、お許し下さい。

 私はこの春、晴れて正式な臨床心理士として働くことになった医療機関のカウンセラーです。

 単刀直入に申し上げます。
 突然ですが、今この掲示板をご覧になっている、あなたの絵を判断させて下さい。
 あなたがどのような絵をお描きになるのか、私に見せて下さい。
 絵を通じて、あなたの中に隠されている心の太陽を見せて下さい。
 どうか宜しくお願い致します。

「心の中の太陽ねぇ…」
 瀬名・雫は頬杖をつきながら、退屈そうに呟いた。
「誰か興味のある人いない? この人に絵を見てもらったら? あ、絵のアップロードとかはあたしがするからだいじょーぶ♪」

●届いた太陽の絵
「場違いなところに書き込みをしたと思いましたが、早速絵が来るなんて驚きました。書き込んだ甲斐があったというものです。どれどれ…」
 新米臨床心理士、碓氷瑞士(うすい・みずし)は心を躍らせ送られてきた太陽の絵を見た。
 紙からはみだしそうな位の大きく、赤い太陽が描かれている。地球に近づき、今にも全て焼き尽くしてしまいそうな雰囲気を想像させるかのように。
「これはまたダイナミックに描いたものですね。焼き尽くされそうな感じが伝わってきます。どんな人が描いたんでしょうか。できれば、会って話がしてみたいものです。駄目もとで会ってほしいと交渉してみましょう」
 碓氷はパソコンを立ち上げると、その絵を描いたクライアントにメールを送った。

『はじめまして。ゴーストネットの掲示板に「あなたの絵を見せてください」という書き込みをした碓氷と申します。
 臨床心理士として、あなたの絵に興味を持ちました。そのことでお話したいことがあります。
 突然のお申し出に驚かれるかと思いますが、あなたと直にお会いし、絵の判断をしたいと思います。
 絵画療法に関してはまだ初心者ゆえ、上手くお伝えしにくい面もありますが。
 そちらのご都合の良い日時を教えてください。どうか宜しくお願いします』

 翌日、そのメールは『門屋心理相談所』という個人相談所を経営する臨床心理士、門屋将太郎(かどや・しょうたろう)の元に届いた。
「返事をくれるなんて、随分と丁寧な人だな。何々…ん? 臨床心理士として俺と話し合いたいだ? 同感だ。俺もできれば詳しく話をしたいって思っていたからな。同業者としてな」
 門屋は早速、碓氷に丁寧な返事と共に、出会う日時と待ち合わせ場所をメールに記し、送信した。

『碓氷様 ご丁寧な返信、ありがとうございました。
 実を申しますと、私自身も臨床心理士です。碓氷様がどのように判断されるか興味を持ちましたので。
 来週の日曜日にお会いできないでしょうか? 場所は…』

●臨床心理士二人
 待ち合わせ当日、門屋は碓氷と会う約束をしている喫茶店の窓際の席に座っていた。
 ―俺と同じ臨床心理士か。先輩として、俺の心理士経験の話でもしてやろうかな、てのは生意気過ぎるか。
 どうやら、まだ碓氷は来ていないらしい。メールには「窓際の席で座って待っている」と返事をしたので、大丈夫なはずだが。
 辺りを見回し、それらしき人物がいないかどうか調べるが、メールだけの遣り取りだったので、碓氷が男か女かもわからない。
 ―フルネーム、聞いておけばよかったぜ。
 そう後悔していた時、喫茶店のドアのカウベルが鳴り、一人の男が入ってきた。

 男は誰かを捜しているような仕草をしていた。
 ―すっかり遅くなってしまいました。門屋さん、怒っているでしょうね…。
 男の目は、そう言っていた。他人の目を見つめることで、心を読む能力を持つ門屋ならではの見つけ方だ。
 男が碓氷本人であることを察知し「ここだ、ここ」と手を振って呼び寄せた。
「あなたが碓氷さんですね? はじめまして、俺があの太陽の絵を描いた門屋将太郎です。宜しく」
 屈託の無い笑いで挨拶をする門屋に対し、簡単な自己紹介を済ませるだけの碓氷。
 碓氷を待っている間、門屋のコーヒーはすっかり冷めてしまったので、ウェイトレスにコーヒー二つを注文した。
「何故、二つも頼むんですか?」
「悪いが、ここから先は普通に喋らせてもらうよ。敬語はどうも堅苦しくてな。ひとつはあんたの分、もう一つは覚めちまった俺の分だ。えと…早速で悪いんだけどさ、俺が描いた太陽の判断をしてくれないか?」
「は、はい。そうですね…」
 碓氷は鞄の中にしまってある、門屋が書いた太陽の絵を取り出し、テーブルの上に広げて見せた。

●太陽の診断結果 
 お待たせしました、とウェイトレスが淹れ立てのコーヒーを二つ運んできた。
 緊張しているのか、碓氷は冷ましながら一口ずつゆっくりと飲んでいる。
「あ…失礼しました。判断ですね。えぇと…貴方は周囲に与える影響もメラメラに燃えるほど熱く激しく、怖い人ではないかと…。人間関係が広くないようですしね…」
 判断、というよりは占い結果のようなことをしどろもどろながらも一所懸命に説明する。
 ―新人だから、あまり期待しないほうがいいかもと思ったが、まさにその通りだ。
 予想通りの結末に、はぁ…と溜息をつく門屋。この調子でやっていけるのだろうか? という不安も感じた。

「こういう風に言うのは悪いかなとは思うが、臨床心理士になりたてだって言うから、どういう判断をするのか期待していたんだ。大した判断力だ、と言いたいところだが…同業者の俺に言わせれば、マニュアル通りの占いの結果みたいな感じだね。自分でもそうだと思わないか? 碓氷さん」
 門屋の駄目だしにショックを受けながらも、碓氷は真摯にその意見を受け止めた。
「そう…ですね。先輩であるあなたが仰るのなら、そうかもしれませんね」
「あんたも臨床経験をそれなりに積んでいるんだろ? だったら、少しは自信を持て。
 さっきの判断は正直言うと、悪くはなかったぜ。そこに自分なりの意見を盛り込んであれば、もっと良いんだけどな」
 碓氷は俯いていたので落ち込んでいるのかと思いきや…門屋の言葉を即座にメモっていた。
 メモを終えると、碓氷は自分が気づいた点を門屋に告げた。

●無意識の中の人格
「これは私の気のせいかもしれませんが、あなたの絵は、あなた自身が描いたようには見えないのです。あなたに中にある別の人格、あるいは無意識に描いたような感じがするのです。無意識の中の“何か”、上手くは言えませんが…あなたの中の破壊的象徴を表しているような気がするのです」
「俺の中の“何か”ねぇ…」
 その言葉を、残りのコーヒーと飲み込むかのように、ぐいっと一気に飲み干した。
 ―俺の中にいるかもしれない別人格まで見抜くとは…。おどおどしているが、大した判断力だ…。
「…で、判断はもう終わりかい? 碓氷先生」
「あ、は、はい…。一通り話し終えましたので、これ以上のことは…」
「そういう物の話し方は、じれったいだけだ。あんたも男だったら、言いたいことはビシッと言うんだ、ビシッと!」
 その台詞を言う門屋は、猛烈に燃えていた…ように見える。周囲の客は何事? と不思議がっていたり、子供からは「変なおじさん」と言われていたが。
「それじゃ、これでお開きだな。また会うときがあったら、今度はあんた自身の話を聞かせてくれよな? 先生」
 門屋はレシートを持ち、レジに向った。背後にいる碓氷の尊敬の念を感じながら。

 喫茶店から遠く離れると、門屋の顔つきが少し変わった。現在、門屋になりすましている副人格『カネダ』が表に出たのだ。
 ―碓氷とか言ってたな、あの男…。あの絵が俺が描いたものに気づくとは、只者じゃないな。
  俺の中に潜む感情まで見抜かれるのは予想外だったが。
  まぁいい、俺自身わからないのだから。門屋が俺と摩り替わったことは…。

 ふ…と呟きながら、カネダは人混みに紛れた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1522 / 門屋・将太郎 / 男性 / 28歳 / 臨床心理士】

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■         ライター通信          ■
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門屋将太郎様

はじめまして。この依頼が怪談デビューとなる新人の火村 笙でございます。
この度は「心の中の太陽」のご発注、ありがとうございました。
先輩臨床心理士として、新人の碓氷の良い指導者として書かせていただきましたが如何でしょうか?
ご意見、ご感想等がありましたら、ご遠慮なくお申し出下さい。

またお会いできることを楽しみにしつつ、失礼致します。