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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


黄泉電車

 噂というのは、いつも出所はわからないものである。
「ねぇねぇ知ってる? ××駅にね、隠されたホームがあるんだって」
「あ、きいたきいた。なんでも夜中の12時にならないとそのホームにはいけない、って」
「うんうん。で、そこのホームには一両の黒い電車がとまってて、それに乗るとあの世に行ける、っていう話なんだって。友達の友達の友達が、乗ったまま帰ってこなかったらしいよ!」
「うわ、こわーい。……でも興味あるよねー」
 ……信憑性もまた、わからないものである。

「というわけで三下くん、取材にいってちょうだい」
「えっ!?」
「え、じゃないわよ。その黄泉電車」
「あの世にいってしまうって……」
 碇麗香に言われ、三下忠雄は身を縮めながら上目遣いに麗香を見返した。
「乗らなきゃ大丈夫なんでしょ? それにそれが本当かどうかもわからないわけだし。デマならデマでもいいから。…一人で行け、なんて言わないわよ」
 麗香は三下の肩越しに、いつものように編集部に出入りしている人物達を見る。
「誰か、三下くんについて行ってやってくれる?」

●月刊アトラス編集部 −日曜日 午前中−
「まっかせてください!」
 勢いよく立ち上がったのは、三下LOVEを顔に刻んでいる(本当に刻んでいるわけではない)、湖影龍之助だった。
「俺がしっかりと三下さんを守るっスよ!」
 スポーツで鍛えた、厚い胸板をドーンと叩く。
 高校生である龍之助だが、三下よりもずっとガタイがいい。
 三下さんは俺のもの! と公言してやまない彼は、月刊アトラスのアルバイトである。
「りゅ、龍之助くん……」
「なんスか?」
 ゴールデンレトリバーの子犬のような、愛くるしい黒い瞳で見つめられて、三下は小さくため息をついた。
「……取材の支度ができないので離れてもらえないでしょうか……?」
 三下の背中を覆うように、後ろから三下を抱きしめていた龍之助は、あ、すまないっス、と言いながら、悪びれた様子もなくにこにこと三下から離れた。

●駅のホーム −日曜日 午後−
「まだ時間があるっスね」
 駅の電光掲示板にうつっている時間を眺めつつ、龍之助は呟く。
「ま、まだ下調べですから」
 それから、連絡をとったアトラス読者から、黄泉電車の事に関して取材をする事になっていた。
「待ち合わせ場所はここですね」
 駅の中に設置されているファーストフード店。そこで2人の女の子と会うことになっていた。
「あそこあいてるっスよ」
 指さした先に4人掛けのテーブルが見えた。しかしそこに向かおうとしている別の高校生の姿が見えた。
「ほいっと」
 龍之助はこともなげに持っていたバッグをテーブルに向かって放り投げた。
 バッグは綺麗な半円を描き、テーブルの真ん中へ落ちた。
「あ」
 テーブルにやってきた高校生が立ち止まって固まる。
「悪いっす。そこキープね」
「なっ……あ、ああ……」
 声をかけた龍之助を、すごい形相で振り返った高校生だが、にこにこ笑っている表情の中に「三下さんとのツーショットを邪魔させるか」オーラでも感じ取ったのか、ちょうど空いた別のテーブルへ移動していく。
「三下さんはあっちで待ってて欲しいっス。セットでいいっスよね。俺のおすすめがあるんス!」
 意気揚々と買いに行く龍之助に、三下は口を挟む暇がなく、困った顔のままいすに座った。
 龍之助が注文をして戻ってくると、入り口に店内をきょろきょろ見回している女の子二人が目に入った。
「あ、いたいた」
 三下と目が合い、大きく手を振る。
「こんにちは〜」
 薄化粧に紺ソ。学生鞄のかわりにブランド物のバッグを持っている。
「あたし達もなにか注文してこよーっと。いこ」
 ペンネームで確か、どっちかが「アケミ」でどっちかが「ユミ」だった気がするが、三下にはどっちがどっちか区別がつかない。
「黄泉電車の話だよねー」
 とアケミかユミのどっちかが話し始める。茶色い長い髪。目元の青いラメがやたらきらきらしている。
 どうやらこっちがアケミらしい。
 金髪に近い茶色いショートの髪に、ピンクのグロスがテカテカしている方がユミ。
 三下はこっそりと紙の端に特徴と名前を書き込んだ。
「確かね、ここの駅の13ホームがあるでしょー。あそこの脇に、工事中の布があるの知ってる? そこくぐると別のホームに出られるらしいんだ」
 アケミは順番カードをつつきながら言うと、ユミはカラスの向こうを通る友達に手を振る。
「そうそう、でも12時前にその布めくっても、壁があるだけ、って話だよね」
「話だよね、って行った事ないっスか?」
「いかないよー。あたしらは。あ、でもマキがいったかも。なんにもなかったよー、とかへらへら笑ってたけど、その後プチ家出しちゃったみたいで連絡とれないんだよねー」
「でも黄泉電車の投稿くれたのはお二人ですよね?」
「うん。噂話だけど、面白そうかなーって。一回くらい雑誌に名前のってみたいじゃん?」
 ユミは先に届いた飲み物のストローをくわえる。
 これって雑誌にのるかなぁ、とユミとアケミはけらけらと笑う。
「13番ホームですね……」
 メモに書かれた13番、という文字に三下は丸をつけた。

●駅 −12時−
「こ、ここですね……」
 腕時計は午後11時59分58秒をさしている。
「大丈夫っスよ! もしなにかあっても、俺が三下さんを守るっス!」
「あ、ありがとう」
 高校生に守られて複雑な表情になる三下に、龍之助は上機嫌。
「い、いきますね」
 言われた布をめくる。
 するとそこには人一人が通れるくらいの通路ができていた。
「俺の後ついてきてくださいっス」
 先頭をきって龍之助が通路に入っていく。
 瞬間、目の前が開け、駅のホームが現れた。
 そこには1両のみの黒い電車。
「こ、これですね」
 三下は持っていたカメラで電車をうつす。
「お客様……撮影はご遠慮ください……」
 不意に声が聞こえて振り返ると、そこには車掌の姿をした男が立っていた。
「す、すみません」
 気が付くとホームには人の姿がまばらにあった。
「乗られるお客様はお早めにご乗車くださいますよう、お願い申し上げます」
 いいながら車掌は去っていく。
 ふらふらと電車の中に入っていく人たち。
「ちょ、ちょっと待つっス! この電車に乗ったらまずいっスよ」
 中には小さな子をつれて母子もいた。
 龍之助が声をかけると、子供は小さく手をふる。
 母親も微かな会釈をして電車にのりこんだ。
「もう、遅いんですよ……」
 三下の口からもれる言葉。しかしその声音は三下のものではない。
「ここにいる人たちは、すでに現世で命を失ったものたち。戻ったところで器はない……でも、こうして生ある者が現れて、器をプレゼントしてくれる……くくくく」
「み、三下さん!! 駄目っスよ! 精神とられちゃ駄目っス!!」
 三下の肩をガシッとつかみ、前後左右に激しく揺さぶる。
「こ、ここは俺の熱い口づけで、目、目を覚まさせて……」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ」
 三下の体の中に入った霊は、龍之助の迫ってくる唇を見て、慌てて三下の体から抜け出した。
「りゅ、龍之助くん!」
 ぐぎっと音がして、龍之助の首が後ろに曲がる。三下に顎の下をおされたせいだ。
「ご乗車なさりますか? されませんか?」
「されません!!!」
「あ、はい」
 はっきりきっぱり龍之助が返事をしたので、車掌は思わず姿勢を正してしまう。
「三下さん、写真を撮りましたよね!? じゃあいきましょう」
「え、あ、え!?」
 三下を肩に担ぐと、龍之助は来た道をダッシュで戻る。
 布をくぐって13番ホームに出ると、龍之助はあたりを見回す。
 そこは閑散としたホームだった。
「大丈夫みたいっスね! …おぉ、布の向こうが壁に戻ってるっス」
「龍之助く〜ん……」
「なんスか?」
「おろしてください……」
「俺は別に大丈夫っスよ」
「そういう問題ではなく……」
「はぁい」
 龍之助は三下をおろし、しゅんとなる。
「あ、でもありがとうございました。先程は助けてくださって」
「三下さんの為なら、例え火の中水の中!!」
 ぐいっと拳を握り、夜中のホームで叫ぶ高校生男子。
 相手が男でなければいいシチュエーションなのかもしれないが。
「取材も終わった事だし、帰りますか。原稿は明日出せば大丈夫ですし」
「三下さん、俺…もう家に帰れないんで…」
「ああああ、そ、そうですよね。終電終わっちゃってますよね」
 困りましたねぇ、と呟く三下に龍之助はニヤリと笑う。
「俺、三下さんちに泊まるって家族に行ってきたんス」
「え、えええええええええええええええええ!?」

●月刊アトラス −翌日−
 編集部内にはげっそりと疲れた三下の姿が。
「三下くん、昨日のレポートは?」
「こ、ここにあります……」
 よれよれで提出する三下に、麗香は不審そうな顔をする。
「健康管理はちゃんとしなさいよ」
「……はい」

●学校 −翌日−
「湖影、なんか今日は機嫌がいいな」
「そうみえるっスか?」
「ああ、お前に尻尾振った犬の姿が重なるよ」
 足取り軽く去っていく龍之助の後ろ姿を見て、クラスメイトは小さく呟いた。

●おまけ −お泊まり中−
「三下さーん、お背中おながしするっス」
「い、いいですよ。大丈夫です。あああああ、入ってこないでください」
「お、俺の事嫌いっスか……」
 耳をたれて、尻尾を丸めて上目遣いにご主人を見る子犬の姿が目の前にある。
 三下は罪悪感がこみあげてくるのを感じつつ、それでも風呂場のドアをとじた。

「三下さーん、俺抱き枕ないと眠れないんスー」
「ちょ、ちょっとどこ触って! 龍之助くんやめてくださいっ」
「三下さんの肌すべすべー」
「りゅ、龍之助…く…ん」
 三下を複雑な格好で抱きしめたまま、龍之助は深い眠りについていった。
 夢の中で龍之助は、いつまでも三下を抱きしめていた。
 ……夢の中以外でも、しっかり抱きしめていたが。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0218/湖影・龍之助/男/17/高校生・アトラスアルバイター】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、お久しぶりです☆
 龍之助くん懐かしいです♪
 なんかノリノリで書いてしまいましたよ。
 ええ、黄泉電車なんてそっちのけ気分で……。
 またの機会にお逢いできることを楽しみにしています。