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<東京怪談・PCゲームノベル>


孤高のプライド



「忘れてください」
 首元にすっと銀の刃。それは彼女、凪風シハルの得手、大鎌。
 いつものように出会うのは突然。
 声をかけようとした途端に一足、踏み込まれて急接近。
 そして刃を向けられた。
 一瞬一瞬が驚くことばかり。
 彼女の大鎌、その冷たさを施祇刹利は感じる。
 そしてきっと何か理由があってこうしていることをなんとなく、感じる。
 シハルの表情はどこか不安定、目を合わせたくないと視線はまっすぐ刹利の方を向かず逃げていた。
「えっと……何を忘れる、のかな?」
 柔らかな声で刹利は聞いた。
 そして今回初めて視線が合う。
「この前のことです、弱音をはいた私を忘れてください。あの時の私は……不安定でした」
「……この前って言うと……うん、この前か」
 この前。
 先日出会った時の事しか思い当たることは無い。あの時の事はシハルにとってあまり覚えられていて心地良いものではないようだった。
 確かに、弱い姿はそうなのかもしれない。
 シハルの鎌の刃が引かれる気配はない。それはきっと自分が頷くまで下ろされないだろう。
 完全な敵意は無いけれども、刃を向けられているのは居心地悪い。
 刹利は無言のまま、すっと手袋を取り出してきゅっと手にはめる。
 何をするのか、とシハルは少し緊張したようだった。
 その刹利の手は、ゆっくりと、刃に触れるのではなくて、ぽむっとシハルの頭の上へ。
 そのまま彼女の頭を、刹利は撫でる。
「えっと……あの」
 シハルは何故そうされているのかわからず困っている。
 刹利は何も言わず、無言のままずっと撫で続けていた。
 忘れるなら二人と同じようにシメイの弟子になると言おうと思ったのだけれどもなんだかそれは自分がいじめっ子のような気がして言わなかった。
 なんだか警戒する小動物を相手にするような気分だった。
 びくびくと、本当に恐れられてはいないのだがいつ逃げられてもおかしくないような状態。
 そして気を抜くと斬られそうだな、とも思う。
 それでも撫で撫でと。
 時々、手を少し彼女から離す。
 でもまた離れようとする前に手を置いて撫でる。
 それを続けていると、だんだんと自分に向けられた刃は下がっていく。
「…………何で撫でるんですか?」
「忘れるのは嫌だって表現かな」
「どうしても無理……ですか?」
「うん」
 そんな会話をしている間も刹利の手は止まらない。
 シハルはちょっと困った、という風に一度瞳を伏せた。
「忘れなくて良いって言うまで、撫で続ける気……?」
「そうだね……うん、そうする」
「そう……ですか……」
 かしょり、とシハルの持つ鎌が完全に下ろされる。
 諦めたのか、呆れているのかといったところだ。
 ふっと刹利に彼女が向けた表情は柔らかいものだった。
「わかりました、もう……良いです。忘れろとは言いません……だから、その……撫でるのやめてください」
「シハルさん、撫でられるの嫌い?」
「嫌い、じゃないですけど……慣れません」
 そっか、と声を漏らし手を止める。
 撫でるのを止める瞬間、ほっとすると同時に少し寂しいような感覚。
 そんなものを感じた。
「ボク多分」
「はい?」
「シハルさんと、レキハ君、それとお師匠さんがもっと家族っぽい幸せに浸れればな〜って思ってるのかも、今はちぐはぐに見えて」
 刹利は言葉を切り、そしてシハルをじーっと見る。
 視線が合って、刹利は静かに微笑んだ。
「だからまず諍いの原因……傷が無いのに見えない目がどんな方法でそうなったか知りたい。で、その目が見えるようになる方法があるのか知ってるかな?」
「どうして見えなくなったか……ですか?」
「うん、そう。知らなかったりわからないならボクも次を考えないといけないし。出来れば一人よりも二人ともの原因とかわかるのが理想……レキハ君も片目見えないんだよね?」
「そうですね」
「シハルさんと反対の目……だったよね」
 レキハを思い浮かべながら刹利は問う。それに無言で頷いてシハルは肯定した。
「……言われてみれば、どうして目が見えないのかわからないんです」
「そうなの?」
「はい、あれ、ええと……いつからなのかも、え、っと……」
 突然気がついた、というようにシハルは不思議がる。そしてだんだんとそれが不安になってきているようだった。
 きゅっと眼帯に覆われた目に触れ、そこにあるものを確かめる彼女。
 刹利はそんな様子を見て再び、ぽむと彼女の頭に手を置いて撫でる。
 一瞬びくんとするがシハルはおとなしく撫でられていた。
「生き物に長時間触れるのは苦手なんだけどね」
「でも、撫でてくれるんですね」
「うん、なんとなく。落ち着くかなーって」
 ふわ、と手を離して刹利は笑う。苦笑というか、すこし困っている。
「ボクはさっき言ったような感じ……シハルさんは、したいことやること、決めた?」
「私は……私はまだ、です。まだ、はっきりと決められないままです」
 ごめんなさい、とシハルは言ってしゅんとする。悪いことをしているわけではないのだけれども。
「……ところで」
「何?」
 と、シハルが真っ直ぐに刹利を見る。
 いきなり改まって何かな、と当然思う。
「先生とはともかく、あなたがいくら頑張ってもレキハと家族みたいな幸せなんてありえません、絶対。諦めたほうが良いです」
「あはは、絶対? でもやるからにはやるよ」
「無理です」
 ぴしゃりと言い切るシハルにそんな事言わないでと苦笑。
 それでもまた無理だとシハルは言葉を返す。
「うーん、仲悪いよりも良いほうが良いと思うんだけどなぁー」
「そうでしょうけど……でも無理なものは無理です」
 そう言われても仲良くしてもらおうって決めたから。
 声に出さずに刹利は思い、そしてシハルを見て笑う。
「何ですか?」
「何でもないよ」
 不思議そうな顔をした後でシハルはくるっと刹利に背を向けた。
 そして背中越し、言葉を紡ぐ。
「また、見苦しいところ見せてしまったかもしれません。珍しく心許してるような気がします。だから多分また……やっぱりなんでもないです、言おうとしたこと忘れました」
 言葉を切って、何を言おうとしてたのかと自問自答するようなシハル。刹利は彼女に笑いかけた。
「思い出したら教えてね」
 その言葉にシハルは、口を開くものの言葉を飲み込んで、ただこくりと頷いた。



 やりたい事、やらなくてはいけない事。
 わかる事、わからない事。
 施祇刹利と凪風シハル。
 次に会えばきっとまた距離は縮まる。
 どちらのやるべき事も明確になるのはいつなのか。
 それはまだ、今は、わからない。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5307/施祇・刹利/男性/18歳/過剰付与師】

【NPC/凪風シハル/女性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 施祇・刹利さま

 無限関係性五話目、孤高のプライドに参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 恥ずかしがり屋さん(ぇー!)なシハルが前回の弱々に耐え切れなくてやってきたのですがするりと撫でりこでかわしてしまいました!さすがです!(何)シハルルートをこのまま突っ走ってくださいませ…!
 次は六話目です、色々と目のことなどもわかってまいる…と思います。
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!