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孤高のプライド
「忘れろ」
首元にすっと銀の刃。それは彼、空海レキハの得手、刀。
いつものように出会うのは突然。
声をかけようとした途端に一足、踏み込まれて急接近。
そして刃を向けられた。
一瞬一瞬が驚くことばかり。
彼の刀、その冷たさを小阪佑紀は感じる。
そしてきっと何か理由があってこうしていることをなんとなく、感じる。
レキハの表情は苦々しげで、視線をあわせようとはしない。
「何を忘れるの? この前の……こと?」
「ああ」
刀がおろされる気配はない。
冷たい刀の感触を感じていた。
佑紀はひとつ、ため息をついた。
「刀向けられるの、二回目ね。脅しのつもりなんだろうけど……あたしは全然、脅されて無いわよ」
さらりと言葉を放ち、佑紀はじっと真っ直ぐな視線をレキハに送る。
その視線に負けるのか、刀の切っ先がぶれる。
「まぁ……どうしてもって言うなら忘れられるようにするわ。覚えていてほしくないことってあるものね」
「忘れて、くれるか? 忘れるんだな?」
「善処はしてみるけど、でも、忘れられないかもしれないわよ。この前のことはそれなりに印象強かったから」
「……忘れろって……」
吐き出すように言って、眉を顰める。
どこか不安定、だけれども真剣な様子に佑紀は相当答えていたんだな、と思う。
けれどもそれはまた、レキハの神経を逆なでしそうなので言わない。
今日は少しだけ、優しい。
「あんたとはあんまり会わないから忘れちゃうのはもったいないとは思うんだけど……そこまで真剣だからしょうがないわ」
「もったいなくねぇよ、思い出とかそんなもんは作ればいいしな」
「あら、あんたにしてはまともな事言ってるわね」
わざとらしく瞳をぱちくりとさせ、佑紀は言う。
その言葉にレキハは何か言おうと口を開くが途中で言うのを止めてしまう。
そして刀を、下ろした。
「どうしたの、言いたいことがあれば言えば?」
「言ってもなんか負けそーだからいい……」
「その通りよ」
レキハは自分に勝てない。それはもうお決まりだ。
しっかりと主導権を握っているのは佑紀。
それをどちらも理解していた。
「それじゃ、あたしに刀向けたこと、申し訳ないと思ってるわよね?」
「ん、だって向けても脅しにならねーんじゃ申し訳ないとおもえねーよ」
「そんなこと言ってると頬ひっぱるわよ」
「や、それは簡便してくれ! マジ痛ぇだろそれぜってー!」
本気でびくついているのかどうかはわからないけれども、レキハは後退する。
微妙な佑紀との距離は、即逃げるためのもの、といった雰囲気だ。
「やっぱり刃物向けられるのって、嬉しくないしちょっとはどきっとするものなのよ」
「嘘だろ」
「嘘じゃないわよ」
疑うの、と佑紀はにっこりと笑顔をレキハへと向けた。
レキハは引きつった笑みでそんなこと無いと首を横に必死に振る。
と、ふと何か思いついたように佑紀を見た。
「あ、あれだ、なんか食いもん奢るからそれで許せって!」
「何? デートのお誘いにしては色気が無いわよ?」
「なっ、馬鹿、違うって!!」
かぁっと少し頬を染めて必死でレキハは否定をする。
違う違うと何度も言って、とても慌てていた。
「つーかデートなんて言うなよ恥ずかしいだろーが!」
「恥ずかしがり屋なのもしかして」
「んなことはねーよ! けどなぁ!」
はいはい、と佑紀は笑いながらまだ色々と言おうとしているレキハを押し黙らせる。
指一本、レキハの口の前にたてて、だ。
「あんまりうるさいと、奢ってもらうケーキの個数、増やすわよ」
「増やしてもいいけど……体重とか気になんねーのか? 女だろ?」
「レキハ」
にこっと、今までで一番の笑顔を佑紀は浮かべた。だけれどもその反面、どこか恐ろしい。
「女の子に体重とかの話はしちゃ駄目なものよ」
「う……すまん、悪かった、わ、忘れろ」
「無理よ、もう忘れられないわ」
「ゆ、許せよ、もうぜってーしねーからそういう話!」
「絶対?」
「ぜ、絶対……」
佑紀の静かな迫力に毎度の如くレキハは押される。
そう、と佑紀が納得すると、ひとつ大きなため息をついて安堵。
「わかったならいいの。さ、じゃあ行きましょうか」
「……行くってどこに……」
「奢ってくれるんでしょう? だからどこか、お店に行きましょうって言ってるわけ」
「ああ、今から奢らせるワケか……」
こくっと頷いて、忘れないうちにね、と佑紀は言う。
言うことを聞いておかないときっと後々まずいだろうなと思ったのか、レキハはどこでもいいぞと投げやりに言った。
それを聞き逃すはずがない。
「いいのね、どこでもいいのね。じゃあとっても高い、普通ならいけないようなお店にしてみようかな」
「いや、いや俺の財布は薄いからそれも考えてくれ!」
あんたの財布の厚みなんて知らないわ、と佑紀は言ってレキハより先を行く。
その後を舌打ちしながら、レキハが行く。
「ほんっとうにいい根性してやがんの……」
「何か言った?」
「言ってねー」
言葉はしっかり耳に届いていた。けれども、まぁ知らない振りをしてあげる。
「なぁ……あーやっぱなんでもねぇ」
レキハは言葉を飲み込んで、佑紀に告げようとした言葉を押さえ込んだ。
それが気になったのは一瞬で、佑紀はそれをすっと記憶に流した。
言える事、言えない事。
わかる事、わからない事。
小坂佑紀と空海レキハ。
次に会えばきっとまた距離は縮まる。
けれどもまた、はっきりとしてくることもある。。
それはまだ、わからない。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】
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■ ライター通信 ■
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小坂・佑紀さま
無限関係性五話目、孤高のプライドに参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
口止めとばかりにやってきたのにお財布をさらに薄くするレキハでございます…!しっかりと尻にしいていただきレキハも本望です!(ぇー!)
次は六話目です。次でもきっと、きっと…!(何を期待している
ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!
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