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Seven Colors −Alternative Green−
今日の天気予報は、午後から雨。確かに空に浮かぶ雲も重くなっていっている。
窓の外を見上げて、草間・武彦は溜息をついた。
「赤、橙、黄……ときたら緑か」
武彦は窓をからりと、少し開けてその前で仁王立ちになった。
「来るならいつでも来い」
ある種の覚悟か、どーんと武彦を構えさせる。
「……お兄さん何してるんですか?」
「待っているんだ、今日も来る!」
「……誰がですか?」
「そのうちわかる」
でもそこに立たれているとちょっと邪魔。
そんな視線を草間・零はぶつけてくる。それは気がつかないフリだ。
と、視界に緑色なものが降りてくる。
やっぱり来たか。
武彦はそう思い、何故か反射的に身構えた。
とん、と窓の外に降り立ったのは緑色の服をまとった人形。
「緑色か」
「はい、緑色の玉を……」
「探せ、か。まー覚悟してたからな……付き合ってやるよ」
「ありがとうございます」
ぺこりと礼を一つ。
すごく礼儀が良いじゃないか。
そんなことを武彦は思った。
興信所に入ると、そこで武彦と出会った。
突然ばったり出会った様な感じで、二人とも驚いたがすぐにいつも通りだ。
「あら、もしかして今回も?」
「おう、緑だとさ。しかもかわりの緑だと」
きぱっと武彦は答えてシュライン・エマに笑いを向けた。
武彦の肩にはちょこんと緑色の服の人形。
「腹括ったのね。じゃ、武彦さん今回も一緒に探しましょ。それにしても色によって係さんも個性があるのね」
くすっと笑いを称えながらシュラインは言い、そして緑係の人形を見つめる。
するとその人形はぴょこっと立ち上がり、深々と礼をしてよろしくお願いしますと言った。
「こちらこそ宜しくね」
「さて、そんじゃ探しに行くか」
武彦は言って、興信所の扉へと向かう。そして階段をおりると鼻の先にぱたりと雫が一つ。
「お、これは急がないといけないみたいだな。なんかイメージとかあるか?」
「そうね……」
武彦はこういうイメージを出すのは得意じゃないと笑いながら言い、シュラインに意見を求める。
少し、考え込んだ後シュラインは顔を上げた。
「緑で姿が変わってこの時期といえばアマガエルかしら? 可愛いわよね、カエル」
「そうなのか?」
「かわいいわよ? うーん、後は芽吹く前の球根とか。これから緑になるぞって感じの」
どうかしら、とシュラインが問うと、それを武彦がまた人形に問う。
「思いつくものすべて、心当たりすべてあたれば、みつかると思います。その……カエルとか、他にも目に付いたものに近寄りたいです」
「だそうよ」
「わかってるって」
「あ、それとあとは……植物って言うと紫陽花もうつろぎだとかって花言葉があるし……そうね、カエルの鳴き声頼りに近く回ってみて、途中のお花屋さんや咲いてる紫陽花等を調べてみましょうか」
シュラインはそう言って先頭を歩き出す。後ろからゆっくりとついてくる武彦を時々振り返っては早く、と急かしたりしつつ。
「ちょこちょこ色変えたり姿変えたりして人目について、目立ってる可能性もあるわよね。今までのもそうだったし」
「……そういえばそうだなー動き回ったり……」
赤橙黄、それぞれ姿を変えたものが何だったか思い出しながらの捜索。
緑の姿がどうなっているのかまだわからない。
と、ゲコゲコとかすかにカエルの声。
シュラインは耳をすませてそれを捕らえ、こっちよと先を行く。
そしてもさっとした木の陰、じめじめしたところで喉を鳴らすカエルを見つける。
「武彦さんこっちこっち」
出来る限りの小声、そして脅かさないように注意しながら葉を掻き分けて指差す。
「どう?」
「……違います」
「あら、残念。それじゃあ別のものをあたりましょう」
「切り替えが早いなぁ……」
シュラインの切り替えの早さに武彦は関心する。シュラインはというとそんなことないわと苦笑。
「だって今回は、名前からして変動具合が激しそうな気がして。ちょっとした隙に姿変えられてそうじゃない?」
「ん、確かにな……」
「でも気まぐれというよりその場になじむ……そんな風な変わり方なのかしら?」
うーん、とシュラインは考え、言葉を選びつつ言う。
どうしてそう思うんだ、と武彦の視線が問う。
「緑って目に優しいし、見てるとほっとする色の一つだもの。武彦さんの方は何か連想したものある?」
「いや、今のところないなぁ……お前は?」
「ないです。でも近くにはあると思います」
ちょっとばかりしゅーんと沈んだ声色。
それに早く見つけてあげなくちゃ、とシュラインは思う。
そして元気付けてあげなくちゃ、とも。
「大丈夫、今までだってみつかってるんだから今回も見つかるわ」
「だといいんですけど……」
「お前もっと明るく前向きに考えろよ、な?」
「はい……」
しゅーんとする緑係の人形を励ましつつ、シュラインを武彦は歩く。
緑色のもの、というイメージをいくつもいくつも出しながら。
そしてふと目に留まったのは花屋。
「あ、お花屋さんがあるわ。私の最初のイメージにもあったから……行ってみましょう」
武彦の腕をひっぱりながらシュラインは小走りでその花屋へ。
いらっしゃいませ、という店員の声もそこそこに並ぶ花を見る。
「何か、事務所に似合いそうな花を零ちゃんに買って帰る?」
「お、そうだなー……あの緑で茎がぐねってなってるのとか」
「……その選び方はどうかと思うわ」
武彦が指差したのはバンブーだった。それは茎が途中から螺旋を描いている。
ちょっと事務所には似合わない。
「あ、こんもりとしてて紫陽花はかわいいわ。薄い紫が綺麗」
と、傍から一本、シュラインは紫陽花を持ち上げる。
「あ」
「どうしたの? もしかしてこれ?」
「そう、そうです! 一本だけ、それだけが他の紫陽花とは違います」
ぴょん、っと武彦の肩から紫陽花へとジャンプ。
紫陽花に触れた途端、いつものようにほわんと暖かい光。
それは緑でありつつ、そうでないような色。
少しのまぶしさにシュラインは瞳を瞬いた。
それに慣れると、ほわほわと空中に、緑の玉を持って浮かぶ緑係。
無表情なんだけれども、安心しているような雰囲気だった。
「無事に見つかって、ありがとうございました」
ぺこっと頭を下げると彼は言葉を続ける。
「今度ちゃんと、お礼をしにきます」
「あら、そんなのいいのに……ねぇ武彦さん」
「だな。まぁ……そんな大変な依頼でもなかったし」
「いいんですか? 本当にありがとうございました。これでちゃんと、虹が作れます」
「おう、礼っていうなら綺麗な虹をこの後見せる、それで十分だ」
なぁ、と同意を求める武彦にええとシュラインは頷く。
「そうですか、わかりました。綺麗な虹を作ります」
何度も何度もあたまをぺこぺこ下げ、振り返りながら緑係は空へとあがっていく。
空は、重い雲の色だったが、緑の玉のそれだけがほわっとういて見えていた。
「……雨振る前に帰るか」
「そうね。あ、でもちょっと待ってて」
シュラインはすぐ近くにいた店員にこれとそれ、あとあれ、と何種類かの花を指差し小さな小さな籠にささっと入れてもらう。
小さな小さなかわいらしい花籠だ。
それを受け取り、シュラインは微笑む。
「可愛いでしょ? これを興信所におくの」
「いいんじゃないか、零も喜ぶだろ。でもなぁ……」
と、眉を少し歪めて武彦がうなる。
「どうしたの?」
「カエルも可愛いが、それも可愛いというのか……うーん……」
「あら、可愛いの種類がちょっと違うのよ」
悩む武彦に苦笑しながらシュラインは答えた。
そして二人はまた雨が振りかかる虹を楽しみにしながら、興信所への岐路へついた。
ぱたぱたと降り始めた雨に、少しだけ濡れながら。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
(整理番号順)
【NPC/草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】
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■ ライター通信 ■
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シュライン・エマさま
虹七四回目、緑にご参加いただきありがとうございましたー!ライターの志摩です。
た、武彦さんとのデート…!(緑係くっついてますが)と、心を躍らせることなりました。緑の捜索をしつつ、シュラインさまと武彦さんの絡みを書けて幸せでございました…!今回シュラインさまだけの参加でしたので、もうオンリー仕様です!(ぇ)
次は青でございます。また次回、ご縁があってお会いできれば嬉しいです!
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