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<東京怪談・PCゲームノベル>


時の彼方、思い出の先




 それは昔。
 一瞬のすれ違い、思い出の中で、何度も何度もそれを繰り返す。
 何度も、何度も。
 それはすでに時の彼方で起こった事。




 銀屋店主、奈津ノ介と、その知り合いと思われる世司。
 二人の関係は友好とは言えないものだと誰もが思っていた。
 今の今まで和やかに雑談をしていたのに一瞬にしてその雰囲気は悪いものへとなっていた。
 不安だとは誰もが思う。
「……俺気になるからついていって来る」
 人型から猫へ姿を変じ、止める間も無く軽やかに小判は走る。器用に引き戸を開けて外へ。
 今の今まで楽しく雑談をしていた所に現れた世司。
 小坂佑紀は立ち上がって小判を追いかける。
「小判君だけじゃ心配だし……あたしも行くわ」
「僕も行くよ、何があるかわからないし」
 さらにその後、音原要に心配せずに待っててと笑いかけながら菊坂静が追う。
「奈津さん暴走すると手がつけられないから注意してくださいね」
 心配そうな視線を後ろから感じつつ、二人と一匹は店を出た。
 まだ先を行く奈津ノ介と世司の姿は視界に見え、このまま追いかければ見つかってしまいそうだった。さっと物陰に身を隠す。
「見つからないように注意しないといけないわね」
「そうだね、奈津さん勘が良さそうだし……」
 わかってる、というように小判がにゃぁと泣く。
「小判君も小坂さんもあんまり無理しちゃ駄目だよ? 奈津さんのあんなにピリピリした所……見た事ないから……見付かったら、怒られるかな?」
「そうね、無理しないように。怒られるのは嫌だし」
 苦笑しながらの静の言葉に、佑紀は頷いて同意する。
「気をつけて、慎重に追いかけよう」
 そうして電柱の影に潜みながら、曲がり角で距離を稼いだりと進んでいく。
 小判が先走りそうになるのを佑紀が抱きとめ、静が様子を伺いチームワークは抜群だ。
 そしてたどり着いた先は神社。途中から一本道でなんとなく、そこへ向かうのだろうなというのは予測できた。
 神社の境内、その中心よりも外れたお堂の傍。人気の無い場所に距離をとって二人は立つ。
 そこから距離を置いて繁みの中、こっそりと身を小さくして耳を欹てる。
 佑紀は小判が飛び出したりしないようにとしっかりと抱き上げていた。
「ここからじゃちょっと聞き辛いね……もうちょっと近づこうか」
「ええ、もうちょっとだけ……」
 そろそろと音を立てないように、少しずつ少しずつ距離を詰める。場所としては世司の右後方。
「奈津さん、弱みを握られてるみたいに見えるけど……気のせいかな?」
「そうね、そんな感じもするかしら」
 声を潜めに潜めての会話。
 と、世司が先に言葉を紡ぎ始める。
「昔よりも、かわいくなってらっしゃる」
「そうですね、百年ちょっと前は……封じる前でしたから」
「それでいいんですか? 私は昔のあなたの方が好きですよ」
「ええ、この姿でいいんです。世司さんは、相変わらずのようで」
 にこりと、奈津ノ介は張り付いたような笑みを浮かべた。
 それ以上言うなというような牽制。
「傷は未だ、疼きますか?」
 その言葉に、奈津ノ介は笑顔を返す。けれどもそれは本当に笑んでいるわけではないのは一目瞭然。それに対する世司がどんな顔をしているのか、こちらからはわからない。
「雨の前なんかは……思い出しますよ。今も若いですけど、昔は馬鹿だった」
「あの時は、私も悪かった。すみませんね、我を失っていた」
「水に流すとは言えないけれど、もういいですよ。それで用件は何ですか?」
「先ほども急いていた。私と話をするのはそんなに嫌か。まぁ……良いですけどね。要件はあなたに会いたい、と言っている人がいます。その伝言だけ」
 そうですか、と奈津ノ介は呟いて、でもその表情にはそうしないと言っているのが見て取れる。
 きっと視線は強い。
「ちょ……小判君!」
「あっ……!」
 突然じたじたと、小判が佑紀の腕の中で暴れる。少しばかり大きな物音を立てそうになる寸前、静は佑紀を腕の中に収め声の漏れる口を塞いで息を潜める。
 ざわっと一瞬、音を立ててしまう。
 その音を耳にしたのか世司が振り返った。
「……」
「どうかしました? 誰かそこにいるんですか?」
「いや、気のせいということにしておきましょう」
 静も佑紀も、冷や汗を背中に感じていた。ばれているのかもしれないが、そうだとしたら世司は自分達を見逃してくれているということだ。
「あっ、ごめん痛かった? とっさだったから……」
「大丈夫、声……漏れそうだったからありがとう。小判君駄目でしょ、ばれちゃうわ」
 悪いとはちゃんと思っているらしくごめんなさい、というように気落ちした小さな声で小判が鳴く。
 そんな姿に佑紀はちょっと微笑ましいと小判を一撫で。
「奈津さん、大丈夫かな……」
「機嫌が悪いのははっきりわかるわ」
 佑紀の言葉に小さく静は笑う。
 今はまだ、静観しているのが良さそうだった。
 そう思っていたのに、どたどたと足音を盛大にさせながらの乱入者たち。
「奈津!!」
「小判たん小判たーん!!」
 その騒がしさに緊張していた雰囲気はふつりと途切れた。
「ああ、邪魔が入りましたね、どうしますか……」
 苦笑しながら、世司が言う。
「あー……来ちゃいましたか親父殿、蝶子さんまで……内緒だって言ったのに」
 と、お堂の方からピーッと電池切れのような音が響く。
「……誰か、いらっしゃるんですか?」
 奈津ノ介の問いの後で、からりとお堂の扉が開いた。
「私の後ろにも、隠れてらっしゃる方たちがいますよ」
 静も佑紀も小判も、その言葉にびくりとする。
 視線を一度合わせ、気まずく笑いあった。
「え……?」
 繁みから立ち上がって、その姿をさらす。
「静さん、佑紀さん、小判君まで……」
「ごめんなさい、でも心配だったから……」
「小判たん……! 無事でよかった……!」
 と、佑紀の腕の中にいた小判の姿をみて千両は安心する。
 そして、蝶子は奈津ノ介よりも前へ出て、世司を見る。
「兄上」
「久しぶりだね、蝶子」
「奈津の前にまた現れると思っておったのじゃが、本当にそうなったのじゃ」
「私は、まだ会う気はなかったんだけどね」
 にこりと笑うのだけれどもそれはどこか卑屈だった。
「世司、何をしにきた! また奈津に……うぐっ」
 と、さわぎ始める藍ノ介の頭上にいた黒猫は顔を蹴り、地に下りる。
 そして世司を見上げた。
「お前さんはちょっと黙っとり。ふぅん……ええ男やなぁ……そんで、奈津の坊に何の用なん? まさか手ぇ出しとらんやろな? 奈津、でしゃばって堪忍な」
 黒猫は世司を見定めて、そして奈津ノ介に視線を送る。
「僕は、大丈夫です……いえ、ありがとうございます。頭が……冷えました、クロさん」
「ん、ならええんよ。さ、蝶子は話あるんやろ?」
 静かに見守ることしか、周りのものは出来ない雰囲気。
「兄上、兄上は……」
「蝶子、それは言っては駄目だよ。言えば、肯定しか私にはない」
「!」
 二人だけの間で通じる会話の後、きゅっと唇をかみ締めつつ蝶子は世司を、睨んでいた。
「否定はされないのじゃな?」
「しないよ」
「……わかった、のじゃ……」
 納得しきれないけれども無理矢理納得する、そんな様子だった。
 世司は蝶子を通り越して、視線を奈津ノ介に向ける。
「お返事、いただけないみたいですが……あの人もそんなに気にしないでしょう。いずれまた、ですね。蝶子も、ね」
「兄上、次に会ったら私はきっと……」
「それでいいよ」
 最後の一瞬だけ柔らかな表情。世司は背に黒羽根を広げて飛び上がる。
「あ、逃げるか汝!」
「逃げますよ、父上殿。一人じゃ身が持たない」
 蝶子は追いかけることはできるのだけれども、そうしない。
 きっと兄である世司を見上げるばかりだ。
 黒羽根が、はらはらと落ちてくる。
 誰とも無く、奈津ノ介と蝶子を中心に集まる。
 と、佑紀の腕の中の小判に向かって、千両が走ってくる。
「小判たん! 無事で、無事で本当に良かった……!」
 にゃあ、と一鳴き。それは大丈夫だと言っているようだった。
 千両は、小判を佑紀の腕から奪い取る。
「……やきもち?」
「みたいだね」
 佑紀と静はそんな様子に苦笑する。
「奈津さん……大丈夫?」
「え、あ……大丈夫ですよ。ほらこの通り怪我も何もなく」
「そう、なら……いいかな」
「お二人とも、覗きとは良いご趣味で。あなたも……」
「あ、ごめんなさい。悪いとは思ってるん……だよ? ね?」
「ええ、心配だったのよ」
 静と佑紀は視線を合わせつつ、自分達を擁護する。
 そういうことにしておいてあげます、と奈津ノ介は言う。
「あたしの場合は、後から来たのはそっちなのよね。本当、出るに出られなかったんだから」
「それは、すみませんでした。お詫びにお茶でもご馳走しますよ」
「あ、小判たん!!」
 と、走り出した蝶子たちを見てか、小判はそれを追うように千両の腕からするりと逃れた。
「……お店まで競走みたいですね。はい、行きますよ!」
「えっ、ちょっ……!」
 走り出した奈津ノ介を追う。
 走るの速いな、としみじみ思いながら追いかける。
「……あれ、走ることなんて別にないんだけど……あたしまでつられるなんて。まぁ、いいかな、たまには」
 くすっと声を漏らして笑いつつ、佑紀は追いかける。
 と、走る速度を落としてきたのか、いつの間にか千両が隣に。
「……小判たんを、小判を守ってくれてありがとう」
「抱き上げてただけよ?」
「それで十分なんだ、ありがとう」
 ちょっと過保護、と思いつつもその御礼の言葉は素直に受け取っておく。
 奈津ノ介たちの関係は聞いてもはぐらかされそうな気がする。でもそれが何であっても、今自分が築いている関係は壊れないと思う。
 それなら何があっても大丈夫。
 そんな気がしていた。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5686/高野・クロ/女性/681歳/黒猫】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)


【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/蝶子/女性/461歳/暇つぶしが本業の情報屋】
【NPC/世司/男性/587歳/放浪者】

【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/音原要/女性/15歳/学生アルバイト】

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■         ライター通信          ■
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  ライターの志摩です。今回もありがとうございました! 
 謎をちょこちょこ残しつつ、のこのシナリオでしたがいかがでしたでしょうか? ここのネタはまたそのうちその先、忘れた頃に…!(ぇー)
 蝶子の兄上が投げ込まれました。これで、あと本格的に投入されていないのはあの蛇さんということになります。シリアスーなテイストな話には欠かせませんが、アホシナリオになると、この二人はどう弄ればいいのか…!(悩)前途多難です。
 さてさて、シリアスなものをやりましたので、次の銀屋はアホをやります。馬鹿になって楽しんだもの勝ち。また皆様と会えるのを楽しみにしております!

 小坂・佑紀さま

 いつもお世話になっております!
 あれ、これ蝶子と奈津がメインなはずなのに、ひっそりと猫親子との交流がメインのような気がしないでもない感じです。おおお、でもこれでいいと思っています(ぇー!)猫親子にもイロイロあるので、そのイロイロもそのうちそのうち……
 ではではまたお会いできるのを楽しみにしております!