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<東京怪談・PCゲームノベル>


リース式変化術道場〜その鬣、勇ましくは無く






 麗らかな午後。”ワールズエンド”の店兼住居にはあたし以外誰もいないから、
天然娘の素っ頓狂な叫び声だとか、お子様二人の騒ぐ声だとか、小生意気な犬の説教だとか、
そういう煩わしいものから解き放たれた、あたしだけの時間。
開けっ放しの窓からはこれっぽっちも風は入らず、カーテンだって1ミリもなびかない。
ちゃんと風の通り道は作ってあるはずなのに。
 そういうわけで、あたしはとうとう激怒した。
「暑いのよ、くぬ、くぬっ! 湿気だけ有り余ってポイできるぐらい漂ってくるくせに、
風が全く通らないのは何で!? あー苛々するぅっ!」
 だんだん、とあたしは腹立ち紛れに地団太を踏んだ。ったく、これだから日本って嫌いよ!
「じめじめするし、むしむしするし、むんむんするし…!」
 手近にあった紙の束で仰ぐ、というのもやってみたけど、ただ生暖かい空気が顔にかかるだけで不快感は倍増。
魔法で空気を冷やせばいいんだろうけど、いかんせんあたしはそこまでの魔法は使えない。
そんなことやろうとすれば、店ごと氷漬けになっちゃうわ。
「あーもう、なんかこう…ひやっとすることないかしら」
 でも肝試しには未だ早い。だってまだ7月にもなってないのよ。
うー、と髪を掻き毟っていると、あたしはふと視界の隅に黒い何かが入ったのを感じた。
ちょっ…もしかして、Gで始まるあの黒い悪魔じゃないでしょうね!?
 恐る恐る、あたしはそれを追って視界を上に移動させる。
確かにあれを発見すれば背筋はぞぅっと波立つけど、そんなもん求めてるわけじゃないのよ!
どうか神様村の創設者様、あれがあたしのリクエストにお応えして出現してませんように…!
 あたしは祈りながら、ゆーっくりと天井を見上げた。
そしてぴきっと硬直する。
確かに、天井に張り付いている”何か”は居た。
だけどそれはあたしの想像よりも遥かにでかくて、そして―…あたしの理解を超えていた。
 天井にべたっと張り付いているのは、真っ黒なダンボール箱。
まるで強力な磁石か何かで張り付いているかのように、微動だにせずしっかりと固定されている。
その側面に何か白い文字で書いてあるけど、今のあたしにその文字を解析する余裕なんてなかった。
 硬直して目を飛び出さんばかりに見開いてるあたしの目の前で、ダンボール箱の蓋が、微かに開いた。
そして黒い”何か”が、ぴょこんと重力にしたがって垂れ下がり、あたしの緊張の糸はそれを合図に、ぷちんっと千切れた。

 ―…そしてあたしは、隣近所2軒は聞こえるぐらいの大音量で、絶叫した。








「お、『お邪魔します』…だぁ!?」
 天井に張り付いていたダンボール箱は、あたしが絶叫している間に床に下りてきていた。
あたしは自分の声でキンキンと痛い頭を抑えながら、ダンボール箱を”ぐわし”と掴む。
「お、お、驚かせんじゃないわよっ! まだ心霊特集にゃ一ヶ月以上早いんだからね…!」
 あたしは震える声で、ダンボール箱に向かって叫ぶ。
ああ、まだ心臓がばくばくいってるわ! 何なのよ一体!
 ひとしきり怒鳴ったところであたしは漸く平静を取り戻し、ダンボール箱を床に置く。
職業柄けったいな物は見慣れてきたけれど、これほど奇妙なものは見たことないわ。
全身(ダンボール箱にもこの表現って使っていいのかしら)真っ黒はともかくとして、
さっきの登場シーンが納得いかない。どこの魔女よ、こんな悪戯しかけてくんのは!
あたしをリース・リーファイをと知っての狼藉?
 心が落ち着いたら、今度は腹が立ってきた。良く考えれば、何でダンボール箱ごときにこのあたしがビビらなきゃいけないのよ?
ふふん、所詮ダンボール。どうせリックあたりがこっそり天井に貼り付けておいたに違いないわ…と思ったそのとき。
 ダンボール箱の蓋の隙間から、ぴょこん、と黒い何かが飛び出した。
あたしは思わず、ずざざざざっと部屋の隅まで退避した。
「な、ななな何っ!?」
 あたしは壁にへばりつきながら、震える声で叫ぶ。十分な距離を置いたまま、あたしはじっくりそれを観察した。
どうやら黒いGのつくあれじゃなさそうだけど…ていうか、単なる髪の毛の束みたいね。
でも何故か、怯えたようにぷるぷる震えている。なんつーか…そう、まるで猫か何かの尻尾みたいよ。
 あたしはうーん、と唸り、仕方なく声を張り上げた。
まあ黒くて艶光りするあれじゃなきゃ、大概のもんはオッケーなのよ。
「何奴! 名を名乗りなさい!」
 あたしはそう叫ぶと同時に、さっきまで『お邪魔します』と書かれていた白い文字が、
いつの間にか書き換えられていたことに気づく。
「…? 『よやみ…です。変化…』………」
 あたしは呟くようにその文字を読み取り、はて、と首をかしげた。
変化なんて言葉が出てくるってことは、もしかして…。
「…あんた、あたしのお客?」
 そう問いかけると、ダンボール箱の蓋から生えている髪の毛は、必死で何度も頷いた―…ように、あたしには見えた。







「ああ、知ってる知ってる! 夜闇ちゃんでしょ。リネアたちから話は聞いてるわ」
 何度かの説得工作の上、漸くダンボール箱の中から出てきてくれた幼い少女は、
小さく縮こまりながらあたしを見上げている。
見かけどおりだと、大人しくて人見知りが激しい、深窓の令嬢タイプってとこね。
座ると床まで届きそうなほど長くたゆたう、ウェーブがかかった黒髪も、その印象にぴったりだわ。
 あたしの言葉に、夜闇―…伊吹夜闇は、目を少し丸くした。
「リネア…さん。仲良く、してもらったのです」
「ええ、あたしも聞いてる。あたしの作った人形、気に入ってくれたみたいで、どーもありがとね」
 あたしが精一杯の愛想を込めてにっこり微笑んで見せると、夜闇は、何故かきゅっと固まった。
…何か不味いこと言ったかしら?
「まあいいか。…それで、何で最初天井なんかに張り付いてたのよ?」
 言ったとおり、あたしはこの少女のことを、リネアやルーリィから話として聞いてはいた。
不思議な黒いダンボール箱に済む、不思議な女の子ってね。
リネアが、可愛いお友達が出来たって楽しそうに話すから、どんな子だろうって思ってりゃ…。
 夜闇はあたしの問いに、はにかむようにつっかえながら答える。
「リ…リースさんは、はじめまして、なので…。見ていたのです」
「ははぁん」
 成る程、偵察してたってわけね。でもそれなら天井なんかに張り付かなくてもいいじゃない!
思わずビデオで見た心霊体験集思い出しちゃったわよ。
ま、良く考えれば天井にダンボール箱が張り付いてたって、ただのお笑いのコントぐらいにしかならないけどね。
だからあたしが絶叫したのだって、単に驚いたからであって―…
「あ…あの」
 あたしが一人でうんうん、と頷いていると、夜闇がくいっとあたしの服の裾を引いていた。
「ん? 何」
「あの、あ…へ、」
「あへ?」
 この子、何を言いたいんだろう? あへ…阿片? いやだわ、日本が犯罪大国だって本当なのね。
こんな小さい子まで麻薬に手を染めて…ってそんなわけないでしょ、こんな阿呆なボケするなんて、あたしはルーリィかっての。
「分かってるわよ、変化でしょ」
 あたしはニッと笑って、夜闇の頭を撫でた。夜闇は一瞬だけ、びくっと震えるけれど、おずおずとあたしを見上げてくれる。
「……できる…ですか?」
「勿論。優秀な講師であるリースさんがついてるんだからね、任せなさい」
 あたしはふふん、と鼻を鳴らして胸を張った。
夜闇はそんなあたしをきらきらと目を輝かせて見上げる。
成る程、深窓の令嬢は人見知りが激しいけど、中身は純粋で素直で、且つ騙されやすい子と見たっ!
こりゃあリネアやルーリィも気に入るわけだわ。
そんであたしも、こういう子は嫌いじゃない。
「で、夜闇ちゃん。何になりたいの?」
 あたしは笑顔を浮かべたまま尋ねてみる。お人形好きってことだし、そっち系かしら。
なら楽なもんよね、正直動物なんかより無機物のほうが遥かに簡単なのよ。
 だけど夜闇の願いは、あたしの想像の斜め45度ほど上にいったものだった。
「あの…私、これに、なりたいのです」
 夜闇はそう言って、少し慌てながらダンボール箱に手をつっこみ、ぬいぐるみを一つ取り出してあたしに見せた。
あたしはそれを見て、きょとんとする。
「それ、この前あたしがリネアにあげた競馬のぬいぐるみじゃない。
確かにUFOキャッチャーで大量に取って、余っちゃったのよね。リネアからもらったの?」
 夜闇はこくこくっと嬉しそうに頷く。
夜闇が手に持つ馬のぬいぐるみは、デフォルメされたシルエットを持ち、なかなか愛らしい顔立ちをしている。
確かあたしが動く魔法をかけたから、それなりに動くことはできるはず。
馬のほうも既に夜闇がお気に入りなのか、手の中で大人しく立っている。
「でも、これになるっていっても…サイズの指定は、夜闇ちゃんの背丈の半分程度までなのよ。
少し大きすぎない?」
 あたしがそういうと、夜闇は「だいじょうぶなのです」と微かに笑って見せた。
訝しく思って更に尋ねようと口を開いたあたしは、そのままあんぐりと開けっ放しになる羽目になった。
夜闇が瞼を閉じると、彼女の周りになにやらあやふやでふわふわした、闇の塊のようなものが、幾つも集まってくる。
あたしは思わず目をこすり、良く見ようとした―…けれど、あたしが瞼を閉じた一瞬の間に、夜闇は姿を消していた。
否、消したんじゃない。馬のぬいぐるみと同じようなサイズになって、ちょこん、と床に立って
精一杯あたしを見上げている。
「…こりゃたまげたわ。夜闇ちゃん、あんた…魔女じゃない、わよね」
 小さな夜闇は、こくこくと頷く。
「私は、闇の子…なのです。お人形はともだちなので、一緒になれるのです」
 夜闇はつかえながらもそう言って、微かだが得意そうな顔をした。
あたしが驚いたことが嬉しかったらしい。
「この大きさで…変化、したいのです」
 いけますか? と夜闇は首をかしげた。
…成る程ねえ。あらかじめ自分の大きさを小さくする、か。それも一つの手だわ。
「大丈夫よ、夜闇ちゃんは人形化するのは慣れてるんでしょ?」
「…はいです」
「なら全然問題なしだわ。体のつくりが単純だから、もっと上手くいくかもしれないし」
「……そうなのですか?」
 夜闇は少しだけ安堵した表情を見せた。
なのであたしは、
「ええ。魔女リースは自分のお客に嘘はつかないの」
 と、自信満々に微笑んでみせた。










「ま、日頃から人形になってるんじゃ、コツ掴んでるのも同然ね。呪文もいらないかも」
 あたしは微かに笑って、絨毯の上に立つ小さな夜闇の上に手を掲げた。
こうしていると、まるで人形使いになったような気分だ。
「夜闇ちゃん、なんでまた馬のぬいぐるみになりたいの?」
 あたしが掌に力を込めながら、雑談交じりにそう尋ねる。
あたしの言いつけで瞼を閉じている夜闇は、ゆっくりと答えた。
「リネアさんが…お馬を、きたえるって」
「…あー」
 あたしは短い夜闇の言葉に、思わず苦笑を浮かべた。
あの子ももう少し一般常識を身につけたほうがいいみたいね…夜闇ちゃん、本気にしちゃってるじゃないの。
でもま、気に入ってるみたいだから良しとするけど。
「でも、鍛え方…わからないのです。だから…」
「馬の理解のために、自分がなってみようって? なかなか前向き且つ建設的な意見ね、夜闇ちゃん」
 あたしがそういうと、夜闇は嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。
数十センチ程度しかないのに、ちゃんと表情に変化ってつけられるのね。
やっぱり本人が人形化すると違うわ。後学のために、もう少し観察しとこう。
「んじゃ夜闇ちゃん、ぬいぐるみのことはよくわかるでしょ?」
 夜闇はこくっと頷く。
あたしは掌の中心に力を込めた。あたしの魔力が、淡い光となって、夜闇に雪のように舞い降りるのが見える。
あたしの魔力に包まれる夜闇に、囁くように呟く。
「なら、ぬいぐるみのことをすみずみまで思い出して。中身は何? どんな素材で出来てる?
目の色は? 背格好は? 装飾品まで全てよ。さあ、イメージして」
 夜闇の口元からは既に笑みは消え、軽く結ばれていた。
夜闇の全身がほぼ完全に光で包まれた―…と思った次の瞬間から、”変化”は始まる。
ざわざわと波打つ夜闇の髪がたてがみになり、二本足で立っていた夜闇はいつの間にか4つんばいになっている。
だが既に人としての手足は消え去り、柔らかそうなタオル生地がその四肢を包んでいる。
「もう少しよ、ガンバって。頭の中のイメージは消しちゃダメ」
 あたしはそう囁きながら、手の中の光を掴み取るように、ぐっと拳を握り締めた。
もうあたしの補助はいらない。あとは彼女自身の想像力で変わっていく。










 見事な変化を終え、数十センチの馬のぬいぐるみとなった夜闇は、ぶるるっと鼻を鳴らして身震いした。
そのたてがみの臭いを、あたしがあげたぬいぐるみが、ふんふん、と興味深そうに嗅いでいる。
「…くすぐったいのです」
「あはは、もしかしてお仲間かと思ってるのかもね。どう、走って御覧なさいよ」
 ぬいぐるみとはいえ、今の夜闇は馬そのもの。大地を踏みしめ駆け回りたいという欲求はあるはずだ。
夜闇は太い首を軽く縦に振ったあと、四肢を交互に出してゆっくり歩き始める。
…と思えば、段々スピードを上げ、あたしが見つめている間に何とかそれなりのフォームで駆け回ることが出来た。
本来ならば軽快な蹄の音が聞こえるんだろうけど、下は絨毯、馬の生地はタオル、故にぽふっ、ぽふっという音しかしない。
 店の床をひとしきり駆け回ったあと、鼻息を荒くして夜闇はあたしの膝辺りに戻ってきた。
「…とても…疲れるのです。でも、楽しいです」
 夜闇の声で、荒い息を交えながらそう呟く。
あたしは、そりゃよかった、というように笑った。
「そんで、どうする? ああ、鍛えるんだったわね。結構計算して育てるのは難しいけど…実際自分が馬になってみて、どう思った?」
 あたしの問いに、馬の夜闇は訝しそうに首を傾けた。
その糸で作られた尻尾は、始終縦にのんびり振られている。
「つまりね。走ったとき、どう感じたか? ってことよ。もっとこうすればいいのに…って思ったことない?」
「あ…」
 夜闇は暫し考えるように、前足を掻くように動かす。
やがてぽつり、ぽつりと口を開く。
「少し…体が軽かったのです」
「ね。安定した走りをするには、それなりの馬体重ってのがいるのよ。
夜闇ちゃんは元々細身だから、不安定になっちゃったんじゃない?」
「そう…かもしれない、です。あと…すぐに、疲れました」
 夜闇はそうはにかむように言った。
「それもね、スタミナが問題なの。馬体重が重すぎたらすぐにスタミナがなくなって長く走れないってこともあるけど、
今は単純に体力不足ね。何より必要なのはトレーニング! 適度な運動と適度な食事ってとこかしら。
あとはなにかある?」
 あたしがそう尋ねると、夜闇は前足を蹴りながら、微かな声で言う。
「……あと…」
「?」
「…足が、ぽふぽふっていってました」
「……」
 あたしは夜闇の言葉に、一瞬目が点になった。
そのすぐあとに、彼女の言葉に意味が分かって、思わずお腹を抱えて笑ってしまう。
「あっははは! た、確かにそうね。ぬいぐるみで地面はじゅうたんだもん、確かにぽふっていっちゃうわ。
ははっ…気になった?」
 あたしの笑い声に夜闇は急に恥ずかしくなったのか、ぶるるっと身震いして項垂れる。
「そ、それは」
「大丈夫よ! 気になったんなら、また今度場所セッティングしてあげるわ。それに蹄もつけたげる。
それなら、ちゃんと普通の馬見たく、かっこいい音がするわよ」
 あたしはひーひー笑いながら、目じりを押さえた。
あー、やっぱりこの子おかしいわ。天然な子って大好きよ!

 あたしはその時点で笑いの発作にかかってたんだけど―…それよりも酷い発作が、まもなくあたしを襲うことになった。







「あーっはっはっは! な、何よそれ!? くくっ…ははは!」
 あたしは床をどんどん、と叩いて爆笑している。
店の床では、どすどすと可愛らしいんだか騒々しいんだか、分からないような駆け足の音が響いてる。
あたしはその音の主をちら、と見て、それからまた発作が起こる。
お腹を押さえてごろごろと転げまわるあたしは、最早まともな声が出せない。
でも、目の前のこの光景を見りゃ、誰だって―…それこそ堅物の銀埜だって爆笑するわよ!
 足音を高らかに大方の予想どおり、馬になった夜闇―…ではなかった。
何故か…そう、何故か馬の夜闇は自分の足で走らずに、
夜闇人形とかいう自分そっくりの人形にまたがっている。
といっても馬だから、おんぶしている形なんだけど。
 無論、馬の夜闇は何の違和感も持ってない。持ってたら、普通あんなことしないわよ!
競馬の馬に乗る人のことをジョッキーっていうのよ、って教えたら…夜闇人形がジョッキーなのです、とか言い出して。
へえ、背に乗せるんだ…って思ってたら、これよ?!
な・ん・で、自分が背に乗ってるの?!
「ぷぷっ…あ、ありえないわ… あはは!」
 あたしは何とかして笑いの発作を抑えようと思うものの、目の前の光景を見ると、もう止まらなくって。
だって馬なのに人形に跨ってる夜闇ちゃんもおかしいし、ジョッキー役の夜闇人形だって、
『どりふと〜!』とか書いてる旗をぶんぶん上機嫌で振り回してんのよ!
ああもう、何この子たち! あたしを笑いの発作で殺す気ですか!?
「…リースさん…どうしたのですか?」
 夜闇人形に跨った夜闇が、不思議そうに目をぱちくりさせて、あたしの眼前にやってくる。
「ちょ、ちょっとまって…! し、しぬっ」
 あたしは、ぷぷーっと吹き出して、きりきり痛む腹を押さえながら更に爆笑した。
夜闇はそんなあたしを見て、がびーん、と硬直する。
「だ、だいじょうぶですか? 大変なのです…!」
 あわあわおたおた。
ジョッキーに扮する夜闇人形の旗には、ちゃーんと『おちつけ』『よやみ』なんて書かれてるっていうのに、
夜闇自身は何も見ちゃいない。
ただ夜闇人形の背におぶさったまま、おろおろと戸惑うだけ。でも夜闇人形だって、
そんな旗振ってるくせに一緒になってうろうろしてんだから、付き合いがいい人形だわ、ほんと。
「だっ、大丈夫よ! こんなの、すぐにおさま…ぷぷー!」
 だっ、だめだわ。今ダブル夜闇を見たら、あたしきっと腹が破裂してマジで死ぬわ…!



 でも結局、あたしの笑いの発作がおさまったのは、数時間後夜闇の変化が解ける頃で。
その後暫くの間、あたしは常に腹を抑えなきゃいけない生活を送る羽目になっちゃったわけでした…。


 天然って…天然って、面白いんだけど!
案外こっちにも被害がくるもんだってことを、あたしは初めて思い知ったのだった。
 







                  End.




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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【5655|伊吹・夜闇|女性|467歳|闇の子】


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▼ ライター通信
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 いつもお世話になっております、発注ありがとうございました!
そして少しばかり遅れてしまい、申し訳ありませんでした;

 馬の人形、早速ネタにしてくださってありがとうでしたv
ジョッキーにまたがる夜闇ちゃんがツボに入ってしまって、
リースにも爆笑させちゃいました…勿論私自身も、プレイングを拝見した直後に、
思わず噴出してしまいました。(笑)
毎度ながら、素晴らしく面白いプレイング、ありがとうございますv
お馬さん体験はいかがだったでしょうか、気に入って頂けるととても嬉しく思います。

 それでは、またお会いできることを祈って。