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<東京怪談・PCゲームノベル>


時の彼方、思い出の先




 それは昔。
 一瞬のすれ違い、思い出の中で、何度も何度もそれを繰り返す。
 何度も、何度も。
 それはすでに時の彼方で起こった事。




 ふらり、と世界が一点するような感覚。
 これはまずいと法条風槻は思った。
 遠見の能力が暴走しそうになっているのがわかる。
「仕事で疲れてるからかな……」
 立っているのが少し辛い。道端で倒れるわけにもいかない、どこか休めるとこはないかと見回した先、視界に入ったのは神社だった。
 風槻の足は自然とそちらへと向かった。
 頭の中に入ってくる情報は次第に多くなってくる。
 やっとのことで神社にたどり着くと境内から少しはなれたひっそりとしたところにお堂が一つ。
 人気もなく休むのには丁度良さそうで風槻はその中へと非難した。
 ぺたりと座り込むと板の間の冷たい感触が伝わってきた。
 そして少し安心するとともに抑えていた情報が一気に流れ込んでくる。
 手持ちのノートパソコンを取り出して電源をぷつっと入れる。すぐに画面は起動し、ファイルを開いてそこへ頭の中に見えてくる情報を風槻はどんどんと、ひたすらアウトプットしていく。
 カタカタと一定のリズムでキーボードを打つ音はお堂内に響く。
 風槻に表情は無く、この機械的な状態が『D』と、『DOLL』『人形』と呼ばれる所以の一つだった。
 と、遠見能力で頭の中に入ってくる像に、先ほど自分が通った道が入ってくる。
 そこに新たな像として見えてきたのは二人。
 銀髪の、険しい表情の青年と黒髪の、それを全く気にしていないような男。
 何も話はせず、やがて自分のいるお堂の外で、二人は立ち止まり向き合う。
 と、その二人を追いかけてこそこそと行動する二人、と一匹の像。
「……揉め事……?」
 少しだけ、興味をそそられる。
 自分がいるお堂のすぐ外の出来事は否応がなく流れ込んできている。それも忘れずにパソコンの中へ。
 お堂のすぐ傍には問題の二人、そして黒髪の男の後方に二人を追って来たと思われるもの達が潜む。
「奈津さん、弱みを握られてるみたいに見えるけど……気のせいかな?」
「そうね、そんな感じもするかしら」
 声を潜めに潜めての会話だが風槻にはしっかりと聞こえる。
 追ってきた二人から得る情報は奈津、という名前。
 と、黒髪の男が先に言葉を紡ぎ始めた。
「昔よりも、かわいくなってらっしゃる」
「そうですね、百年ちょっと前は……封じる前でしたから」
「それでいいんですか? 私は昔のあなたの方が好きですよ」
「ええ、この姿でいいんです。世司さんは、相変わらずのようで」
 にこりと、銀髪の青年は張り付いたような笑みを浮かべた。
 それ以上言うなというような牽制。
 この青年が奈津、そして相手は世司という名だと風槻は知る。
「奈津と世司ね……」
 お堂の中、外に声は漏れない。小さく小さく呟いた。
「傷は未だ、疼きますか?」
 その言葉に、奈津は笑顔を返す。けれどもそれは本当に笑んでいるわけではないのは一目両全。そんな笑顔に世司も笑顔で返すのだけれども、その表情はどこか歪んでいた。
 風槻はそんな像を見ながら、カタカタとキーボードを叩き続ける。
「雨の前なんかは……思い出しますよ。今も若いですけど、昔は馬鹿だった」
「あの時は、私も悪かった。すみませんね、我を失っていた」
「水に流すとは言えないけれど、もういいですよ。それで用件は何ですか?」
「先ほども急いていた。私と話をするのはそんなに嫌か。まぁ……良いですけどね。要件はあなたに会いたい、と言っている人がいます。その伝言だけ」
 そうですか、と奈津は呟いて、でもその表情にはそうしないと言っているようだった。
 きっと視線は強い。
 と、追ってきたもの達に少し動きがあった。少女が抱いていた猫が暴れている。
「ちょ……小判君!」
「あっ……!」
 少しばかり大きな物音を立てそうになる寸前、少年は少女を腕の中に収め声の漏れる口を塞いで息を潜める。
 ざわっと一瞬、音を立ててしまう。
 その音を耳にしたのか世司が振り返った。
「……」
「どうかしました? 誰かそこにいるんですか?」
「いや、気のせいということにしておきましょう」
 ばれているのかもしれないが、そうだとしても世司は彼らを見逃してくれているということだ。
「あっ、ごめん痛かった? とっさだったから……」
「大丈夫、声……漏れそうだったからありがとう。小判君駄目でしょ、ばれちゃうわ」
 悪いとはちゃんと思っているらしくごめんなさい、というように気落ちした小さな声で猫、小判が鳴く。
「奈津さん、大丈夫かな……」
「機嫌が悪いのははっきりわかるわ」
 と、いきなり別の像も頭の中へと入ってくる。
 それはものすごい剣幕でこちらへとやってくる者たちそそれをフォローする少女と猫。
「……また追っかけてきたみたい……誰もいないようだったからここ選んだのに……これ以上の痴話喧嘩なんかは始めないでよ」
 飛び込んでくる像。そこから彼らの名前を知る。
 藍ノ介、千両、蝶子、そして百合子、クロ。
 どこに共通点があるのか、と探してしまう。少しだけ、興味が溢れる。
「奈津!!」
「小判たん小判たーん!!」
 その騒がしさに緊張していた雰囲気はふつりと途切れた。
「ああ、邪魔が入りましたね、どうしますか……」
「あー……来ちゃいましたか親父殿、蝶子さんまで……内緒だって言ったのに」
 苦笑しながら、世司が言う。
 と、その時パソコンの電池切れのアラームがピーッと鳴った。
「ここで鳴る!?」
 うっかりしていた、と風槻は舌打ちする。けれども今までアウトプットしたものについてはしっかり保存済みだから心配はない。
「……誰か、いらっしゃるんですか?」
 その声に風槻はしょうがない、とお堂の扉をからりと開けた。
 知恵熱が出てきたような感じもして、少ししんどい。
 できることなら早くこの騒動を、手を貸してでも終わらせて眠りに尽きたいところだ。
「私の後ろにも、隠れてらっしゃる方たちがいますよ」
「え……?」
 世司の言葉に、ばれてたのかという表情で姿を現した者たちに奈津は気がついてなかったと苦笑する。
「静さん、佑紀さん、小判君まで……」
「ごめんなさい、でも心配だったから……」
「小判たん……! 無事でよかった……!」
 と、佑紀の腕の中にいた小判の姿をみて千両は安心する。
 そして、蝶子は奈津よりも前へ出て、世司を見る。
 何かありそうな雰囲気、と風槻は勿論思う。
 ただ、ここで痴話喧嘩など、目の前でされると非常にいづらくなるのでそれは止めてほしい。
「兄上」
「久しぶりだね、蝶子」
「奈津の前にまた現れると思っておったのじゃが、本当にそうなったのじゃ」
「私は、まだ会う気はなかったんだけどね」
 にこりと笑うのだけれどもそれはどこか卑屈だった。
「世司、何をしにきた! また奈津に……うぐっ」
 と、さわぎ始める藍ノ介の頭上にいた黒猫は顔を蹴り、地に下りる。
 そして世司を見上げた。
「お前さんはちょっと黙っとり。ふぅん……ええ男やなぁ……そんで、奈津の坊に何の用なん? まさか手ぇ出しとらんやろな? 奈津、でしゃばって堪忍な」
 黒猫は世司を見定めて、そして奈津ノ介に視線を送る。
「僕は、大丈夫です……いえ、ありがとうございます。頭が……冷えました、クロさん」
「ん、ならええんよ。さ、蝶子は話あるんやろ?」
 静かに見守ることしか、周りのものは出来ない雰囲気。
「兄上、兄上は……」
「蝶子、それは言っては駄目だよ。言えば、肯定しか私にはない」
「!」
 二人だけの間で通じる会話の後、きゅっと唇をかみ締めつつ蝶子は世司を、睨んでいた。
「否定はされないのじゃな?」
「しないよ」
「……わかった、のじゃ……」
 納得しきれないけれども無理矢理納得する、そんな様子だった。
 世司は蝶子を通り越して、視線を奈津に向ける。
「お返事、いただけないみたいですが……あの人もそんなに気にしないでしょう。いずれまた、ですね。蝶子も、ね」
「兄上、次に会ったら私はきっと……」
「それでいいよ」
 最後の一瞬だけ柔らかな表情。世司は背に黒羽根を広げて飛び上がる。
「あ、逃げるか汝!」
「逃げますよ、父上殿。一人じゃ身が持たない」
 蝶子は追いかけることはできるのだけれども、そうしない。
 きっと兄である世司を見上げるばかりだ。
 黒羽根が、はらはらと落ちてくる。
 誰とも無く、奈津と蝶子を中心に集まる。
 なんとなく、気まずいのだけれども、ずっとお堂の傍にいるわけにも行かない。
 と、佑紀の腕の中の小判に向かって、千両が走ってくる。
「小判たん! 無事で、無事で本当に良かった……!」
 にゃあ、と一鳴き。それは大丈夫だと言っているようだった。
 千両は、小判を佑紀の腕から奪い取る。
「……やきもち?」
「みたいだね」
 佑紀と静はそんな様子に苦笑する。
「奈津さん……大丈夫?」
「え、あ……大丈夫ですよ。ほらこの通り怪我も何もなく」
「そう、なら……いいかな」
「お二人とも、覗きとは良いご趣味で。あなたも……」
「あ、ごめんなさい。悪いとは思ってるん……だよ? ね?」
「ええ、心配だったのよ」
 静と佑紀は視線を合わせつつ、自分達を擁護する。
 そういうことにしておいてあげます、と奈津は言う。
「あたしの場合は、後から来たのはそっちなのよね。本当、出るに出られなかったんだから」
「それは、すみませんでした。お詫びにお茶でもご馳走しますよ」
「あ、小判たん!!」
 と、走り出した蝶子たちを見てか、小判はそれを追うように千両の腕からするりと逃れた。
「……お店まで競走みたいですね。はい、行きますよ!」
「えっ、ちょっ……!」
 走り出す彼らをみて、風槻は元気なものねと笑う。
 と、自分と同じように走らずにいるものが一人。
 先ほど世司には、父上殿と呼ばれていた人物。その風体から、奈津の父親だとわかる。
「……走らないの?」
「わしは、歩いて帰る。付き合っておれん」
「なら、あたしも連れて行って。お詫びにお茶をって言われたから」
「ぬ」
 着いて来い、というように足取りはゆっくり。
 風槻は藍ノ介の少し後ろに続く。
 偶然、偶然に出会った彼らなのだけれどもまだまだ秘密はありそうな予感。
 これは探るに値するかもしれない、と思う。
 もう少し、そうせめてお茶を飲むまでは少なくとも付き合っていこう、と風槻は思った。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5686/高野・クロ/女性/681歳/黒猫】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)


【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/蝶子/女性/461歳/暇つぶしが本業の情報屋】
【NPC/世司/男性/587歳/放浪者】

【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/音原要/女性/15歳/学生アルバイト】

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■         ライター通信          ■
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 ライターの志摩です。今回もありがとうございました! 
 謎をちょこちょこ残しつつ、のこのシナリオでしたがいかがでしたでしょうか? ここのネタはまたそのうちその先、忘れた頃に…!(ぇー)
 蝶子の兄上が投げ込まれました。これで、あと本格的に投入されていないのはあの蛇さんということになります。シリアスーなテイストな話には欠かせませんが、アホシナリオになると、この二人はどう弄ればいいのか…!(悩)前途多難です。
 さてさて、シリアスなものをやりましたので、次の銀屋はアホをやります。馬鹿になって楽しんだもの勝ち。また皆様と会えるのを楽しみにしております!

 法条・風槻さま

 二度目まして、ありがとうございますー!
 変則ルート参加ということで、私自信も楽しく書かせていただきました!風槻さまのお仕事っぷりが出ていれば嬉しく思います。
 まだまだ謎と弄り(ぇ)がいっぱいの銀屋、続いていくと思います。また奈津や藍ノ介らに興味があれば、是非情報収集しにいらしてくださいまし!
 ではではまたお会いできるのを楽しみにしております!