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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


新世紀芸人伝説 第二話
 2000年を迎えて担ぎ出された大いなる問題があった。その名を『少子化問題!』
 国を挙げての少子化対策の庇護の下、幼き命をめぐって悲劇は繰り返される……。

 大牙斬十郎はよるの街中を歩いていた。世間は春だというのに懐も世間の風も冷たかった。
 がっしりとした体躯に、高い身長。ブロンドの髪。持てそうな要素は持っているが、その顔は般若や仁王もはだしで逃げ出すほど怖かった。歩行者天国でも道が広かったり、サングラスをかけたこわもてのオニイサンたちにお辞儀されたりという経験は多い。
 元レスラーで動機は女にもてたいからだった。だが、現実はつらい。悪役レスラー風貌であり、マスクをしても、マスクをはずしたら逃げられるか失神されるの二択の反応しかなかった。幼いころからそんな感じで、屈折27年。童貞である。
「頬を目から出る汗で熱いぜ」
 誰にとも泣きながら呟き、涙が伝う。怪我をした体が痛みを戻した。この怪我を理由に引退だが、実際はもてなくて自棄になったのだ。
 そんな具合でふらふら雑多な真治を歩くと、あるソープランドの前で足が止まった。
視線を上げて看板をみると、ネオンが点滅しながら輝く。『ジョイトイ』と読めた。
「ジョイトイか…確かどこかの雑誌で特集されていたな…いって見るか」
 呟くと、捨てられていた雑誌の中のある記事が浮かんできた。『男なら一度はソープデビュー』という記事だったように思う。
 なけなしの財産を握り締めて、斬十郎は夜の世界へと足を踏み込んだ。

「もう嫌だ!! お前とは付き合いきれない!!」
「あ、ちょっとまって…」
 事務所のドアがバンッとあけられサラリーマン然した男がでていった。静止しようとしをねも追いかけるが、あっという間に姿が見えなくなっていった。
「せっかくの相方だったのに……」
 はぁとため息をつくしをね。バイト先の店から見つけたせっかくの相方だった…。自分はボケ体質なので突込みがいないと芸として受けないとわかってはや数ヶ月。
 バイト先で相方探して見つけたのだが、一週間で解散。
「やっぱり、どうにもネタが……」
 今の相方ではネタの限界だったのは薄々気がついていた。だけど、続けていけばなんとかと思っていたのだが……。
(今の彼からじゃ、匂いが感じられなかったから…やっぱり駄目だったのね)
 あけられた事務所のドアにもたれかかって、しをねはもう一度ため息をついた。また一から相方探しをしなきゃならない…バイト先の『ジョイトイ』で…。
「それじゃあ、今日はあがりまぁ〜すぅ♪」
 思い立ったらすぐ、しをねは事務所の奥にいる社長に挨拶をすませるとその場を去るのだった。
「勝手に! かえるなぁぁぁぁぁ!!」
 社長の大きな声が誰もいない廊下のむなしく響き渡った…。

 はじめてはいるソープランドに斬十郎はどぎまぎしていた。受付で「入浴料」を請求されると少し気分が落ち着いた。銭湯みたいな感じがしたからだろう。風呂なしの生活がこんなところで役に立つとは思わなかった。強面を恐れられていた斬十郎だが、受付嬢などは手馴れているのか可愛いなどといってくれていた。
 ロビーに案内されるとアルバムを見せられ、そこで人目ぼれをしてしまった女性がいた。
店の人気泡姫「しおん」だ。
「お客さんタイミングいいねぇ、しおんちゃんは今あいたとこだよ。決めるかい?」
 目ざとくアルバムを開いているボーイがにやけた笑みでアルバムを斬十郎の目の前に近づける。
「わ、わかった…しおんで!!」
 少し逡巡するも、ボーイがほかの客へ移そうかとぼやいたのですぐさましおんに決め手しまった。のちにサービス料で後悔することになるのだが、それは別の話である。
 待合室にボーイにつれていかれてすこし待った。
 1分なのか、3分なのかわからないが斬十郎にはすごく長く感じていた。心臓の鼓動だけが耳に響く。ぎゅっと握った手が汗でべっとりしてきた。
「はぁ〜い、おまたせしましたぁ〜しおんで〜すぅ♪」
 待合室に顔を出したしおんは写真で見るよりも肌のつやもよく、胸も大きいように見える。何より写真では感じられない艶やかな雰囲気や、香水の香りが斬十郎の感覚を埋めていく。
「は、はいっ! おまたされました!」
 思わず直立不動で返事をしてしまう斬十郎だった、すぐにはっと気づくが、しおんは目を細めて微笑みを浮かべて、つやのあるルージュで彩られた口でそっと斬十郎の耳にささやいた。
「緊張しなくていいわよぉ、私がリードしてあ・げ・る」
 熱い抱擁と口付けのサービスが斬十郎に捧げられた。斬十郎にいまだ感じたことのない温もりと、唇の柔らかさがしみ込んでいった。肩の力が抜けて少しふらつく。まるで体が軟体動物になったような感じだ。湯上りのような気持ちよさを斬十郎は感じていた。
 気がつくと、しおんの個室に斬十郎はつれてこられていた。浴槽とマットに冷蔵庫。そしてピンクな壁。淡い証明…すべてがそろって不思議な空間を作り出していた。見るのも初めてであり、周囲を見回すだけでこの不思議な空間に吸い込まれていきそうになる。夢と現実の区別さえ危うい…
「緊張しすぎよ、大丈夫…」
 ゆっくりと心に響くような声でしおんは囁き、斬十朗と自分を覆う布を取り払った…。
 
 斬十朗はずぶずぶと肉体が溶けるような感覚を味わったのは初めてだった。運動もしていないのに汗が溢れてくる。全身の力が一点に集中し、何度もはじけとんだ。
 そのすべてをしおんは微笑みを浮かべて受け取り、さらに体を使って斬十朗を醒めない夢の世界へといざなっていく。
 ピピピッと時間を知らせるタイマーがなった。その間に斬十朗は何度意識が遠のいたのか…想像もつかない。
 しおんが再び衣服を整えるとポロリと使いこなされた手帳が落ちた。あっと、素っ頓狂な声がでる。
「これは…」
 斬十朗はそれを取りあげて声に出して読み始めた。しおんの顔が見る見る赤く染まり、少女のように両手で顔を覆って身じろぎをしだした。横目で斬十朗はそれを見て微笑ましくなった。
「実は…俺もお笑いが好きでさ…」
 斬十朗は今まで誰にも言えなかったこと、ゆっくり、そしてしっかりと語った。
 その姿にしおん…いや、しをねは骨抜きにされ返された。
(この人なら、相方に!)
「私も昼間の顔があるの…」
 上目遣いになり、しをめはたどたどしく語り始めた…自分が、――店の人にも内緒で――芸人であることを…

 それから数日後、しをねの家に家族が増えた。朝帰りで斬十朗としをねは二人で帰ってくると「休憩」に入る。
「これからも、よろしくねぇ〜♪」
 昼間の営業が睡眠不足で遅刻したのは言うまでもない…。

 これがコンビ誕生秘話である。