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<東京怪談・PCゲームノベル>


時の彼方、思い出の先




 それは昔。
 一瞬のすれ違い、思い出の中で、何度も何度もそれを繰り返す。
 何度も、何度も。
 それはすでに時の彼方で起こった事。




 店の中でオタオタとするのは大人たち。
 扉を開けた途端に何を騒いでいるのか、と芳賀百合子は思った。
 遊びに来てこの状態、何かあったに違いない。
 たたっと走りよって彼らを見上げた。
「こんにちは、どうしたの? 皆大丈夫? ええとええと……」
「百合子! 百合子! 汝奈津を見なかったか!?」
「小判たんも小判たんも!」
「私の兄上もじゃ!」
 百合子に声をかけられて、三人詰め寄る。
 見てない、と百合子が首を横に振ると、三人ともまた騒ぎ出す。
 それにつられてか、百合子も一緒になってオロオロオタオタ。
「あああ、早く探しに行かんと、まずい、奈津、奈津にもしものことがあったらわしは……!」
「それよりも小判たん小判たん小判たん!! 何かあったら生きていけない生きていけない……!」
「あ、兄上、兄上がここにおったのに何でティッシュペーパーなんて買いに行っていたのじゃ!」
「暖かいものでも飲んで……あっ! 糖分取ると少し落ち着くよ!?」
 ごそごそと何かあるかなとポケットを探ると飴玉がころり。
 それをはい、と渡すけれどもやはり三人とも落ち着くはずがない。
 音原要が後ろでどうしたらいいのか、と少し困っている。
 と、百合子の傍を勢い良く過ぎていくのは火の玉。
「!」
 それは途中で二つに分かれて藍ノ介と千両に見事に命中した。
「ぎゃー!」
「炎!?」
 熱っ、と騒ぎつつ視線はその火の玉が飛んできた方へと向く。
 そこに黒猫がちょこんと礼儀正しく座っていた。
「手加減はしたから燃えたり火傷なんかしとらん筈やで? んで、藍の字に千の字、蝶子も頭冷えたんな?」
「クロさん! あ……冷えました……」
 千両が声をあげ黒猫の菜を呼ぶ。百合子はしゃべる猫の出現にちょっと驚きつつも、千両や小判がいるのだからそれもあり、と思う。
「騒いどっても何にもならんやろ? 何かあったんはわかるけど……どしたん?」
「奈津が」
「小判が」
「兄上が」
 藍ノ介、千両、蝶子の声が揃う。
 それだけでなんとなく、クロはすべて理解したようにニヤッと笑んだ。
「……何をするべきか分かるやろ? 狼狽えるだけで大事な事逃したら、それこそただの阿呆やで?」
「そうだよね、私もお手伝いするし!」
 頑張るっ、とガッツポーズしつつ百合子は気合を入れる。
 クロはそれを見つつ、ちゃんと手伝ってくれる子もおるんやで、と諭すように言った。
「うん、探すのじゃ。世司兄上……」
「よくわかんないけど、お兄ちゃんなら会いたいよねっ。今から探せばまだ間に合うかもっ」
 蝶子の服のすそをちょいちょいとひっぱりながら百合子は微笑む。
「そう……じゃな」
 少し弱弱しく、蝶子は答えた。
「よし、探しにいくぞ! 要、留守は任せた!」
「はい、いってらっしゃい」
 ひらひらと手を振る要に見送られながら四人と一匹は外へと出る。
「蝶子! 汝は上から探せ!」
「はい!」
 ばさっと背に羽根を出し、蝶子は空へと上がる。
「うちはそのへんの猫衆に聞くわ、先走ったりしたらあかんで?」
「私も探すのお手伝い。ええと……」
「俺は小判たんへの愛で!」
「……それは暴走しそうやからやめとき」
「千両さんめげないで頑張って!」
 千両の言葉にクロは突っ込みをいれ、たたっと屋根の上で昼寝をしている猫へと駆け寄る。そしてクロの言葉にショックを受けた千両を励ますのは百合子だった。
 とりあえず千両を慰め終わり、百合子はあたりを見回す。最初に眼に入ったのはすこし離れたところにある木。
 その木へと走り寄って、百合子は優しく触れる。
「あのね、和風な銀髪のお兄さんと長い黒髪お兄さん、どっち行ったか知らない?」
 さわさわと木の枝が揺れた。百合子に神社の方だと伝える。
「ありがとう」
 ちゃんとお礼も忘れずに言って百合子は皆のいる所へとたかたかと小走りで戻る。
 と、タイミングよく蝶子も降りてきたところだった。
 けれどもわからないといったような風。
「神社だよ」
「神社や」
 百合子とクロの声が重なる。二人が同じ答えを持ってきたことで、一同そこへ向かうということに。
「神社か、だとしたら人気のない堂の近くだろうな」
「ほな、行こか」
 ぴょん、とクロは藍ノ介の肩へと上がり、そしてがしっと頭に手を置く。
「わ、な!?」
「藍の字の方が足速いやろ? 運んでや」
「ぬ、落ちても知らんからな」
 そして、走り出す。
 それは全力疾走だった。
 神社までのその道中、百合子は千両のフォローを入れる。
「こ、小判君大丈夫だよ、だから落ち着いて、ね?」
「そ、そうだといいんだが小判は天真爛漫のお茶目さんだから何をするか……!」
「それなら何かあってもうまく切り抜けてくれるよ、ね?」
「ああ……」
「で……あのね、その世司さんって人とは……皆どんな関係なの?」
 まだわたわたオロオロする千両に少し遠慮がちに百合子は尋ねる。踏み込んでいいのかいけないのか、少し自信がない。
「世司は……蝶子の兄、奈津の因縁の一人ってとこだな。蝶子が追っている理由は、知らない」
「そうなんだ……」
 仲が良いのか悪いのか、それは良くわからないけれども少しだけ嫌な感じ。
 諍いは良くないと思う。
 そして話は一区切りし、神社の鳥居が見えてきた。
 そのまま藍ノ介を先頭に人気がない堂の方へ。
 そこに、二人はいた。
「奈津!!」
「小判たん小判たーん!!」
「ああ、邪魔が入りましたね、どうしますか……」
 苦笑しながら、世司が言う。
「あー……来ちゃいましたか親父殿、蝶子さんまで……内緒だって言ったのに」
 と、お堂の方からピーッと電池切れのような音が響く。
「……誰か、いらっしゃるんですか?」
 奈津ノ介の問いの後で、からりとお堂の扉が開いた。
「私の後ろにも、隠れてらっしゃる方たちがいますよ」
「え……?」
 世司の言葉に、ばれてたのかという表情で姿を現した者たちに奈津ノ介は気がついてなかったと苦笑する。
「静さん、佑紀さん、小判君まで……」
「ごめんなさい、でも心配だったから……」
「小判たん……! 無事でよかった……!」
 と、佑紀の腕の中にいた小判の姿をみて千両は安心する。
 そして、蝶子は奈津ノ介よりも前へ出て、世司を見る。
「兄上」
「久しぶりだね、蝶子」
「奈津の前にまた現れると思っておったのじゃが、本当にそうなったのじゃ」
「私は、まだ会う気はなかったんだけどね」
 にこりと笑うのだけれどもそれはどこか卑屈だった。
「世司、何をしにきた! また奈津に……うぐっ」
 と、さわぎ始める藍ノ介の頭上にいたクロは顔を蹴り、地に下りる。
 そして世司を見上げた。
「お前さんはちょっと黙っとり。ふぅん……ええ男やなぁ……そんで、奈津の坊に何の用なん? まさか手ぇ出しとらんやろな? 奈津、でしゃばって堪忍な」
 クロは世司を見定めて、そして奈津ノ介に視線を送る。
「僕は、大丈夫です……いえ、ありがとうございます。頭が……冷えました、クロさん」
「ん、ならええんよ。さ、蝶子は話あるんやろ?」
 静かに見守ることしか、周りのものは出来ない雰囲気。
「兄上、兄上は……」
「蝶子、それは言っては駄目だよ。言えば、肯定しか私にはない」
「!」
 二人だけの間で通じる会話の後、きゅっと唇をかみ締めつつ蝶子は世司を、睨んでいた。
「否定はされないのじゃな?」
「しないよ」
「……わかった、のじゃ……」
 納得しきれないけれども無理矢理納得する、そんな様子だった。
 世司は蝶子を通り越して、視線を奈津ノ介に向ける。
「お返事、いただけないみたいですが……あの人もそんなに気にしないでしょう。いずれまた、ですね。蝶子も、ね」
「兄上、次に会ったら私はきっと……」
「それでいいよ」
 最後の一瞬だけ柔らかな表情。世司は背に黒羽根を広げて飛び上がる。
「あ、逃げるか汝!」
「逃げますよ、父上殿。一人じゃ身が持たない」
 蝶子は追いかけることはできるのだけれども、そうしない。
 きっと兄である世司を見上げるばかりだ。
 黒羽根が、はらはらと落ちてくる。
 誰とも無く、奈津ノ介と蝶子を中心に集まる。
「蝶子さん、大丈夫……? あの、何があるかわからないけどお兄ちゃんなんだから、喧嘩とかしてても仲直りできるよ、ね? 好きなんだよね?」
「うん、兄上は……好きじゃよ。ありがとう。でも……いや、これはなんでもないのじゃ」
「え、え?」
「内緒じゃー! さ、帰ってお茶するのじゃ!」
 元気に一歩、踏み出して蝶子が最初に走り出す。それにつられてか、次に百合子も。
 小判もそれに続いて、千両が追う。
 なんとなく、誰もがこれに続かないといけないと思って走り出す。
 向かう先はもちろん、店。
「あー、もう蝶子さん速い!」
 必死になって百合子は追いかける。
 蝶子と世司、奈津ノ介と世司、それぞれに何があるのかまだわからないけれども今はただただ走ることで精一杯だった。

 


<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5686/高野・クロ/女性/681歳/黒猫】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)


【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/蝶子/女性/461歳/暇つぶしが本業の情報屋】
【NPC/世司/男性/587歳/放浪者】

【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/音原要/女性/15歳/学生アルバイト】

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■         ライター通信          ■
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  ライターの志摩です。今回もありがとうございました! 
 謎をちょこちょこ残しつつ、のこのシナリオでしたがいかがでしたでしょうか? ここのネタはまたそのうちその先、忘れた頃に…!(ぇー)
 蝶子の兄上が投げ込まれました。これで、あと本格的に投入されていないのはあの蛇さんということになります。シリアスーなテイストな話には欠かせませんが、アホシナリオになると、この二人はどう弄ればいいのか…!(悩)前途多難です。
 さてさて、シリアスなものをやりましたので、次の銀屋はアホをやります。馬鹿になって楽しんだもの勝ち。また皆様と会えるのを楽しみにしております!

 芳賀・百合子さま

 いつもお世話になっておりますー!
 蝶子とのひっそりおそろいポイント兄上…!ちょっと私がときめいただなんて内緒です。毎回のように、百合子さまらしさに癒されたり癒されたり癒されたり。今回もそんな百合子さまらしさが出ていれば嬉しく思います!
 それではまたお会いできるのを楽しみにしております!