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蒼天恋歌 ２ 非日常からの朝
謎の存在が追ってきて、あなたの家は滅茶苦茶になってしまった。何とか追い返せたが、修理をしたり掃除をしたりと忙しくなりそうだ。ただ、こうも侵入者が来たことの理由、それは見当がつく。彼女の存在だ。自分の家にいては、また襲われるのだろうか？ ただの強盗であって欲しいと思う。
今のレノアは気を失っている。先の騒ぎで力を使ったためなのか疲れ切っているようだ。それにしても美しく、この世と思えない。
なんとか、人が住めるよう元に戻すこと１時間。彼女も目覚めた。
「わ、わたしは……」
まだ、怯え続ける。
あなたが、話しかけると、素直に答えてくれる。助けてくれたことに対して、
「あ、ありがとう……ございます。私みたいな見ず知らずの者に……こんなに……優しくしてくださって」
と、あなたに抱きつく。
「わたし、怖いんです……。何者なのか、何故ああいうことが起きるのか……」
震えながら泣いた。
今の彼女は記憶を失っている。彼女のから全く手がかりをつかめる術はない。
「何か手がかりになる、きっかけを探しに行こう」
草間興信所の草間武彦は、シケモクを吸いながら街を歩いていた。
「何となくここら辺で消えたって感じだな」
と、デジカメで写真を撮る。
「残留霊気で、浮遊霊が活発化しているな」
と、取ったデータを見て心霊の波を調べていたのだ。
彼が怪奇探偵というのは有名な話である。本人は嫌がっているのだが事実として言い返せない場合が多い。しかし裏の顔がある。彼は探偵業として生きている他に、ＩＯ２の凄腕エージェントとして超常現象事件解決、抹消を手がけているのだ。しかし彼にとってはやる気がない。
「色々神やら悪魔やら、魔力霊力が多いこの世界に一人の女性だけを探し保護しろといってもな……」
と、ぼやく。
「在るのは文書のみのデータだけか。写真すらない。……あの場所にとらわれたが、境界とＩＯ２との戦闘時、脱走……それ以外は不明。ただ何か重要な存在だけか……。あいつは戦うことしか考えてないし……」
メモしている情報を見て頭を掻く。
「虚無の境界が絡んでいるなら……さっさと済ませるべきか。先日のアレも厄介だったからな……」
と、草間はこの近辺を探す。
安らかなる日常といびつなる異境の境界線は曖昧になり、あなたはレノアの忘れた過去を取り戻す、非日常が始まったのだ。
〈光と闇 天使の翼〉
獣の影。それは猟犬を思い起こさせる。そして、ベランダに立っているそれもまた影だった。
「さあ、女を渡せ。それならおまえは見逃してやろう」
と、影は笑う。
月明かりの所為なのかそれはわからないが、その影はシルエットしか見えないのだ。
レノアを後ろにかばい、司馬・光が拳法の構えに入った。臨戦態勢になった。
「いきなり人の家の窓をぶち破ってくる奴の主張なんざ知るか！」
と、叫ぶ。
しかし、彼はジリジリ後ずさる。
影の獣の大きさは３メートルもあるだろうか？ この場合狭いところに逃げる方が得策だ。しかし、レノアが危険な目に遭う。
「この部屋に隠れて……」
と、小声で言った。
相手もそれが判っているのだろうか。
「威勢だけは良いのだな、娘」
挑発するのである。
「俺は女じゃない！ それを言うなら相手になってやる！」
と、態とであるが挑発に乗った。
「ふ、そうか。それは関係ないこの場所では……」
影は笑うと手を挙げ、振りかざす。
その合図で獣が光に向かって襲いかかってきた。野獣をしとめるのは銃などでなければ歯が立たない。しかし、これはそれを超えた存在だ。人が太刀打ちできる物ではない。
その爪を転がって躱わし、そのまま走り抜ける。そして、影にめがけて拳を放つ！
のれんを押したような手応えのなさと、この世とは思えない悪寒が光を支配する。
――なんだ？ この圧迫感は！？
影はにやりと笑う。
「俺に一撃を与えるとは、楽しい奴だ」
本当にそれは、人型の闇だった。輪郭は濃い灰色でわかる。それがいかに“ありえない”ものか光は知る。
後ろから獣が襲ってきた、光は無意識に後ろ蹴り。そのときに気を込めて蹴った。気の生命エネルギーにより、獣は霧散した。
「ほう」
「次はおまえだ！」
と、気を込めた拳で影を殴る。その力は鋼鉄の鈍器。
「むぅ！」
そのまま影は下に落ちていく。
光もそのまま飛び降りた。
内気により彼はこの高さまで耐えることが出来る！
影にはその力があるのか判らないが、今の一撃でかなり朦朧としているのが判った。
しかし、足下から数多の影の獣が現れ襲いかかってくる！
「どけぇ！」
落下しながらも、彼が獣を霧散させていく。
目の前には影。
そいつは、真っ黒い球体を持っていた。
「消えろ、小僧」
大型トラックにはねられたような衝撃。
飛び降りた先より、かなり遠く光は倒れている。
「小僧がいい気になるな」
影は笑いながら歩み寄っている。
「ひ、光さん！」
遠くでレノアが、叫んでいる。
「な、何故、キミが……どうして？」
先ほどの謎の衝撃であまりからだが動かない。幸い内気功によって大きな怪我はないのだが、体が言うことを聞いてくれない。
何とか立ち上がるも、今の影に対抗できるかどうか……わからない。
レノアが駆けてくるが、光は彼女の前に立ちはだかった。
「あそこで隠れていれば……」
「いや……そんなのいや……」
何かに訴えるように拒否している。その言葉は光に対してではないようだ。
「レノア？」
「レノア、取引しよう。俺に付いてこい」
「……いや……」
首を振る。
彼女の背中に天使のような翼が現れた。
彼女は何か怯えている。では何に？
「！？」
「レノア？！」
影は後ずさる。
「争いなんて止めてぇ！」
と、レノアが叫ぶと同時に、強い光が一面に広がった。
〈気が付けば〉
レノアから発した光が収まった後、影はいなくなっていた。
「どういう事なんだ？」
と、よろめきながらレノアを見る。
大きな翼は小さくなって、ピコピコ動いている。それも徐々に消えてなくなった。
「レノア？ レノア？ ああ、気を失っただけか……」
と、安堵のため息を吐いて、彼女を横抱き、自分の家に戻っていった。
あの光に当てられてからは、強い体の痛さがない。何だったのだろうか？
レノアをベッドで寝かせて、この辺りの気配を調べる。邪悪な気配はない。しかし、生命力に満ちあふれている。本能で“安全”だと告げている。
まずは落ち着くために、部屋のガラスを何とかしなくてはならない。アレに押し入られてそのまんまだ。
「掃除……するか」
それから１時間ぐらいたった。
レノアが目覚める。まだぼうっとしているようだ。
「起きた？」
と、光は目覚ましのコーヒーを差し出した。
「あ、あの、お怪我は……だ、」
ぼうっとしているようでも、光のことを気遣っているようだ。
「大丈夫怪我はないよ」
と、笑って返事する。
もっとも、少しばかりは痛いが我慢できる程度だ。
「あの、め、迷惑だったでしょうか？」
と、意識が戻り始めた彼女はおどおどし始めた。
光は苦笑して、彼女の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。 まず、これはどう見てもあの影が悪い奴だ。そんな事はバカでもわかるよ。あんなのが善人とは思えない。それに、レノアは怯えながらでも勇気を出して、俺を助けてくれた。だから、おあいこ様だ」
と、笑い、レノアの頭を撫でてあげた。
綺麗な髪の毛、そして、彼女の美しさ。それがとても光には何かしらの感情を芽生えさせていた。しかし本人は自覚がない。
レノアは、撫でられて顔を真っ赤にしておたおたしているようだが、そのまま俯いて、じっとしていた。ガラスが割れた部屋ではさすがに大掃除しないといけない。ある程度の破片は取ったが、かなりの所まで忍び込んでいるだろう。自分より掃除の上手い人に頼むことにして（レノアの件は伏せておく）、今なすべき事を考えようと思う光だった。
幸いキッチンは無事だったので、簡単に料理を作る。
「日本人なら、これだよな」
と、焼き鮭にノリ、お新香に生卵だ。欠かせないのはわかめと豆腐のおみそ汁。一寸の隙のない朝の代表食だ。東京なので鰹だしが普通だろうか。
「レノア、箸は大丈夫？？」
「え？ はい、大丈夫です？ どうしたのですか？」
「朝の食事は重要だよ」
と、すでに席に着いて頂きますをする二人。
確かに、手慣れているようだ。レノアの箸の持ちからも間違っていない。卵の溶き方も堂に入っているように見える。ひょっとすると、この子は日本で住んでかなり時間がたっているのでは？ と光は思った。
「この後で、連れて行きたいところがあるけど良いかな？」
「え？ どこでしょうか？」
「うん、君が倒れていた場所を調べて、記憶探しをするんだ」
「はい、ありがとうございます」
話しながら光は思った。
と、今日の予定は全部うまくいくだろう。何があっても彼女を助けなければという思いが強かった。
まあ、窓ガラスは割れているので風が入る。今が夏近くて良かったと思うのは否めない。
〈草間〉
さすがに出会った場所ですべてが判ると言うことはない。ただ少しの期待だけ。
「ここから先が判るかな？」
「いいえ」
光の問いに首を振るレノア。
仕方ないだろう。昨日今日ですで部手をも出せれば苦労はしない。心因性なのか外因性七日すら判らない師ひょっとすると術によって封じられているかもしれない。可能性はいくらでもある。
しばらくこの場所を二人で歩く。レノアの歩幅に合わせて歩く。
服が汚れているので光の服を着ているレノアだが、それでも可愛い少女に見える。黄色の美しい髪が風に遊ばれている姿がとても綺麗だなと思った。
ふと、二人は立ち止まった。
その先には踏み込みたくない空間があるのだ。
気を扱う者にとってそれはすぐにわかる。生命が完全に枯渇している。
「この寒気、まさか……」
見た目閑静な住宅街。しかし、そこに生命の吐息がないということは、周りに居るべき人々が“生きていない”事になるのではないだろうか？
そう言う考えで身震いする。レノアは敏感に震えてその場で膝を突いてしまった。
「レノア！ 気分が悪いなら帰ろう」
「うう、ご、ごめんなさい。わ、私のために色々迷惑ばかり」
「迷惑じゃないよ。でも、此処はやばいな。離れよう」
と、彼女を支えて立ち上がらせる。
光はその場で立ちすくむ。
「？ どうした？ 気分でも悪いのかその子？」
と、見知った声が聞こえた。
デジカメを持っている草間武彦だった。
レノアは怯えが余計に激しくなった。死の世界の入り口、そして目の前には見知らぬ男。司馬光は彼が何者であるか知っている。有名な怪奇探偵だ。
「あのもしかして、草間武彦？」
「なんだ、しっているのか？」
草間は首をかしげる。こんなガキに名前を知られているのもなんだか釈然としないが、話は早いかもしれない。
「怪奇探偵で」
「それかよ」
草間はため息と吐く。
「で、草間はどうしたんだ？ こんなところで。迷い猫を探しているとか？」
「ま、そんなところだ。近頃の猫は遠くに旅をしたいらしい。って、そんな平和な仕事なら嬉々として受けている……」
草間はまたため息を吐いた。
「まあ、それよりその女の子が気分悪そうだが大丈夫か？ 興信所からはそう離れていないし、零が手伝ってくれる。救急車が良いか？ む？」
草間は光にレノアのことを尋ねている。
確かにレノアの表情が芳しくない。
「……むう。レノア大丈夫か？」
「……だ、大丈夫です」
レノアはそう言うが、顔面蒼白で足がおぼつかない。冷や汗が出ている。
それに、レノアは光の腕にしがみついている。胸が当たるほどにぴったりと。光はそれにドキドキするところだが、状況は尋常でないためにそこまで考えていない。
「草間は知っているの？」
「なにが？」
「いや、猫探しは良いけどこの辺で何かあったか？」
「ああ、この辺一体に生命力枯渇は異常だよな。しかし、俺にはそんな仕事はいっさい来てないし。来たら対応するけどな」
と、肩をすくめた。
「しかしそれよりも、彼女の看病が先だろう？ 救急車が嫌なら俺の所しかあるまい？」
「そうだよな。うん。レノア？」
「……怖い。この人怖い」
レノアは怖がっている。
「はぁ。レノア、このおっさんは大丈夫だ。取って食わないよ。怪奇探偵って親しまれているし」
と、レノアの手を取って、光は安心させる。
「だからその渾名を止めろ。怪奇探偵とは言われたくない！」
草間が間髪入れずつっこむ。
「レノア、本当に気分が悪いみたいだから行こう？ 俺も付いていくから」
「ひ、光さん」
レノアはこくりと頷いた。
光は彼女の手を取って草間に言う。彼女の「あ」という言葉は聞こえていなかった。
「お世話になるよ」
「決まりだな。零が何か服を譲ってくれるかもしれないし。しかしどれだけあるんだか」
と、草間が何かぼやいていた。
興信所の玄関に赤い猫があくびをしている。
そして、零に看病されるレノア。しばらくは寝ていた。着替えるときは光と草間は追い出されたが。そのあとは、レノアは光から
コーヒーで一服する草間と光。ウサギと遊んでいる座敷わらしという異様であるがいつもの空間になっていた。レノアは今ゆっくり眠っている。
「とりあえず、気分も落ち着いたようだな。色々困ったことがあるなら、俺の所に言えば、手助けはする。しかししっかり報酬はもらうけどな」
「まあ、あまり厄介になりたくないという言い方だけど」
と、光は苦笑した。
「人捜し程度なら、歓迎さ。ただ超常現象は実際お断りしたいところだ」
と、草間はさらに苦笑いする。
「……すみません。眠ってしまって」
「色々あったんだから、仕方なですよ。ゆっくりてくださいね」
と、草間零が言う。
「顔色が良くなった。良かった」
光が駆け寄って、レノアの手を握る。
レノアは、少し頬を赤らめる。
「？ 熱でもある？」
「いえ、大丈夫です。は……はい！ 大丈夫元気です！ あ、猫さん可愛い」
「にゃあ」
レノアは、光の手をゆっくり離してから、猫と遊ぼうとする。猫のほうも別段困った感じはしていないようだ。
光は元気になって何よりという顔をした。
「で、光。しっかりナイト役がんばれよ」
「え？どういう意味だよ！」
「ずっとレノアのことが心配のように見えたぜ」
笑う草間を見て、思い出すと赤面モノだった司馬光の今までの行動。
茶化されたので、余計に躍起になって言い返す光だが、さすがに大人の草間には言い合いにかなわなかった。撃沈。
じっさい、自覚はないが気づくだろうか。
司馬光は、あの晩から、レノアに心惹かれているという事を……。
では、レノアは？
非日常の入り口に入り、それでもある人の心。それを持ってこの謎を探すことになろうのだろうか？
３話に続く。
■登場人物
【4204 司馬・光 17 男 高校生】
■ライター通信
滝照直樹です
『蒼天恋歌』に参加してくださりありがとうございます。
光さんをかっこよく書けそうな感じを目指してみました。あと、無意識なフェミニストを演出しようとがんばって書いてみましたがいかがでしたでしょうか？ あと、朝食は代表的日本食でした。しかし、独り暮らしだと、なかなかみそ汁を作ることが出来ません。どうしても４人分になってしまいます。あ、これは私の実体験からですが（殆どの料理って２人前が少ないのが少し哀しい）。
草間との遭遇は、一応少しだけ協力関係と言うことで描写してみました。
では、次回はフリーシナリオです。てんやわんやか砂糖で悶えるかそれは光さん次第となります。あと、レノア用の服を買わなきゃいけませんね（ぁ うちの世界の零ちゃん、メイド服だけはやたらと多いからですが。
では次回にお会いできることを願って。
滝照直樹拝
200600613
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