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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


□ 黒い遺伝子 〜にくきゅう大行進〜 □



【 opening 】

 深夜。
 丑三つ時といわれる時間に集まった猫たちは、集会を開いていた。
 ねこねこ集会という、猫だけの集まりだ。
 少し普通の猫たちとは違うのは、尻尾が二本あることだろうか。
 白い髭を持った長老格の猫が、尻尾をふぁさりと優雅に動かし、重々しく口を開いた。
「わしらだけでは、王子を探すのは困難だにゃ。人間にはわしらのような、ちょっと変わったイキモノの依頼も受けてくれるところがあるらしいのにゃ」
「ほうほう」
 集まった猫たちは頷き、賛同する。
「それはとてもいいひとなのですにゃ!」
 すると、比較的若く見える黒猫が尻尾をパタパタと動かしいう。
 どこか得意げなのは若さ故だろうか。
「大臣さま、依頼というからには報酬が必要ですにゃ!」
 若い黒猫を、大臣の白猫が眩しそうに眺め、頷く。
「うむ。報酬にはこれをつかうとよいにゃ」
 す、と出てきたのは、透明な小瓶に入った飴玉だ。
「おお! それはにゃんこ玉ですにゃ!」
「とても良い報酬ですにゃ!」
 黒猫と白猫のコンビが前に進み出て、大臣にいった。
「では、われわれがマーブル王子の捜索依頼をしてくるのですにゃ」

 そして、草間興信所に現れた白黒猫のコンビを前にして、草間武彦は溜息を吐いた。
「マーブル王子を探して下さいにゃ」
「猫、猫だよな、どーみても…」
「報酬も用意して来たのですにゃ」
「うっ……」
 ぺこりと頭を下げた猫たちに草間は、だれか来ないかと扉へと視線を泳がせた。



【1・猫さんといっしょ】

 興信所の扉を開けたシュライン・エマはそのあまりにも幸せな光景に、思わず立ちつくした。
 草間と白黒猫。思わず和んでしまいそうな状況で変わらないのは草間だった。
「シュラインか、……依頼人らしい」
 がっくりとした声を出す草間。
「………。」
 黙って立っているシュラインに、草間はどうしたのかと再び声をかける。
 シュラインは白黒猫の前にしゃがみ込み、内心どきどきさせて、そっと黒猫の前足を取り、にぎにぎとした。
「………あの、宜しくね……?」
 黒猫は小首を傾げ、二本ある尻尾をパタパタさせる。
「依頼を受けてくれるですにゃ?」
 にくきゅうの感触と黒猫の可愛い仕草にほうっ、と堪能し、うっかり違う世界へ行きそうになるのをギリギリで踏みとどまり、会話を続ける。
「勿論、受けさせて頂くわ」
「ありがとうございますにゃ! ありがたいご近所さんなのですにゃ」
「おい、シュライン」
 白黒猫と一緒に話を始めたシュラインに思わず草間が声を出す。
 受けるのか、と。
「武彦さん、今後、依頼で色々情報交換してもらえる可能性だってあるし、投資だと思えばいいと思うの。それにご近所さんとは仲良くしなきゃ、ね?」
 ぱくぱくと、何かいおうと思うのだが、言葉にならない草間を尻目にシュラインはそわそわとし、
「玄関先じゃ何だから、ソファにどうぞ。えぇと、お名前教えてもらえるかしら」
 ちまっと座っている白黒猫は尻尾をパタパタさせて紹介を始めた。
「ブランですにゃ」
 白猫が両前足を揃えていう。
「ノアですにゃ」
 黒猫が猫又一族の術なのだろうか、両前足でソファをとんとんと叩いて、何かを取り出した。かちゃかちゃと鳴っている袋を引きずり出す。ブランたちには重いのか、なかなか全部が出てこない。
「手伝うわ」
 一緒に引っ張り出したシュラインは袋から転げだしたのを、危うくソファから落ちないようにキャッチした。
「あら、かわいい」
 デフォルメされた猫の顔が蓋になった透明な小瓶だ。瓶の中には赤・青・黄、の三色の飴玉が入っている。袋の中には同じ物が何個か入っているのだろう。
「壊れなくてよかったですにゃ」
 ブランが両前足で瓶を受け取り、そっとローテーブルの上に6個並べた。
「これは報酬のにゃんこ玉なのですにゃ」
 ノアがうんうんと頷く。
 シュラインは依頼の内容を聞いた後、質問をしようとした時、興信所の扉が開いた。
 覗くように顔を出したのは、比嘉耶棗だ。
 畳んだ黒のレース日傘を手にしている。
 ソファにいる白黒猫のブランとノアを見ると、煌めく青瞳を更にきらきらさせて近づいてきた。
「にゃんこさん……!」
 そっとノアの前足を手に取り、ぷにっとしたにくきゅうを堪能する。
「依頼を受けてくださる方ですにゃ?」
 くりっとした猫目が、上目遣いで棗を見上げている。パタパタと動く二本の尻尾にも心揺らめかせられ、誘惑上等な勢いで頷く。
「にゃんこさん、……うん、手伝う、手伝うよ!」
「おーい、比嘉耶。内容聞いてないのにいいんかい」
 デスクの向こうから、草間が思わず突っ込む。
「いいの……だって、こんなに可愛い依頼人さんですもの」
 お互いの紹介をして、ブランのにくきゅうをにぎにぎと棗。
 何気なく、ふっと視線をずらし、開け放たれた扉の隙間から覗く黒猫に気がついた。
「あ……、ブランさん、お仲間?」
「にゃ?」
 手と前足を繋いだままの棗とブランは、そっと入ってきた、どこか不可思議な雰囲気を纏った黒猫に注視する。
「一族では見たことのない方ですにゃ」
「迷子猫かな……?」
 誰かを先導してきたのか、黒猫はにゃぁん、と啼いた。
 呼吸に合わせるようにゆっくりとした足運びの音が廊下から聞こえ、現れたのは藍染めの和装を纏った痩身の男だった。
 二十代半ばと推測される年齢からは、醸し出す雰囲気がどこか浮世離れしていた。外見的な年齢とは違い、経てきた年月は永いのだろう。
 気ままに散歩する猫を追いかけて辿り着いた、といった風な男は黒猫が導いた面々を見やった。
「賑わっているな……、猫が依頼人か?」
 岸頭紫暁(きしず・しぎょう)は口元に細い指をやり、訊ねた。
「良いところにきたな、黒猫飼っているなら猫好きってことで依頼を受けてくれ」
 探偵事務所というより寄り合いの集会の様相を呈している興信所室内を見回し、依頼人である白黒猫を見つめる。気にならないふりをしつつも、自然と意識は向いている。
「拒否権は無しか。……ふむ、まぁいいだろう」
 紫暁はソファに歩み寄って坐ると、黒猫がそこが定位置なのか膝に飛び乗った。
 棗はシュラインが用意した麦茶を口に含み、渇きを癒していた。外に出かけるのに水分補給は必要だった。
 シュラインはというと、猫じゃらしを何処にやったかしらと探していた。
「皆さんいいひとなのですにゃ」
 ブランとノアがかわるがわる紫暁の手を両前足でとり、にぎにぎとする。
 黒猫にも挨拶なのか、にゃんこ語で何やら会話をしていた。
 にくきゅうの感触を楽しんだあと、テーブルに並べられた瓶に興味が湧き、依頼猫を見やると何やら二猫で話をしている。
 聞いてみると、
『葉っぱもってるにゃ?』
『持ってないにゃ』
『どうするにゃ……』
『どうするにゃぁ……』
 と、困った様子がうかがえた。
 二本の尻尾がへたりと項垂れている。
 話していた時間は短く、気付いたのは紫暁だけだった。消沈している姿も可愛らしいが、やはり生きものは元気な方が良い。
「葉っぱが必要なのか」
 はっ、とブランとノアが同時に紫暁を見る。
「そうですにゃ。それがないと大臣に連絡が取れないのですにゃ……」
「葉の種類を問わないのなら、ここにある観葉植物のを分けて貰えばいい…」
 紫暁はそういうと、草間のデスクの上にある観葉植物、幸せの木から一枚頂く。
「一枚で良いのか?」
「はいですにゃ」
 きらきらと猫目を潤ませて、葉っぱを両手で持った。
「ありがとうですにゃ」
「あら、今日は猫さんが依頼人? 可愛らしいわねぇ」
 いつの間にかソファを覗き込むように二猫を見ていたのは、柔らかな雰囲気を持つ由良皐月(ゆら・さつき)だった。
 鎖骨が綺麗にみえるサマーニットに、動きやすいカプリパンツを穿いている。後から行う捜索を最初から分かっているかのような服装だ。
「手伝ってあげるわ、ね?」
 そういって、白黒猫コンビを一気に抱き上げ、胸に抱く。皐月の鎖骨に埋まって、まるで襟巻きのようだ。
「よろしくおねがいしますにゃ」
「にゃ」
「ああぁん、このふかふかっぷり、気持ちいいわぁ。にくきゅうも絶妙な湿り気と柔らかさね。このまま連れて行ってもいい?」
「あー?、いやいや待て。まだ何も聞いちゃ居ないんだが」
 調査員の心をがっつりと捕らえて離さない猫たちが少し、羨ましいと思う草間武彦30歳だった。
 そんな心の隙間を埋める存在が、いつの間にか背後に現れ、無表情だった表情をにやりと変えた。
「これはまた金にならない仕事だな」
 気持ちよさそうなくらいの笑い声をあげた。
 艶のある長い黒髪が印象的な黒冥月(ヘイ・ミンユェ)だ。
 涼しそうな麻素材の黒い服は白い肌が際立ち、エキゾチックな印象を与えている。アジアンビューティを前にして何も変わらないのが草間の良いところなのか悪いところなのか。
「ここにいる調査員全員と草間の分をいれれば、一人一つ手にすることができるということか。草間、なんなら私が買ってやろうか。そのお金で草間は煙草を買えばいいだろう」
「おお! そりゃありがたい。俺は良い男友達を持ったよ、本当に」
 当分、煙草がお預けで、残るのはにゃんこ玉だけか、と半ば諦めていたので、正に渡りに船だった。あまりの嬉しさにちょっぴり目尻に涙まで滲ませる草間。
「しみじみいうな、誰が男だッ!」
 冥月は草間の顔に猫パンチをスナップを利かせ叩き込むが、草間は、ぱしっと掌で受けると、ソファに並んで座っている面々を振り返った。
 草間と一緒にいる冥月がとても気になっていたのか、ブランとノアは正にじっと見つめていた。もしかしてさらさらと動く長い黒髪が気になっていたのかも知れないが。
 それはともかく。
 一人掛けのソファに冥月が座ると、猫たちは、ぱあぁぁっと嬉しそうにした。ひょいっと、ノアがソファから降りて、冥月の膝に両前足をつけると、見上げていった。
「マーブル王子、探してくださるにゃ?」
 『探して下さるにゃ? にゃ?』と冥月の脳内でこだまする。肉球の魔力に囚われたのか、いつの間にかノアの前足を手にして、にくきゅうをぷにぷにとして感触を確かめていた。
「ほうっ」
 思わず漏れる溜息に、視線が冥月に集まる。
『ん……!?』
「あぁ、いや、何でもないのだ」
 やや焦り気味な声を出すと、何事も無かったかのように振る舞った。



【2・王子のひみつ】

「さて、王子のことだが、名前の通り白黒斑なのか」
 冥月は名は体を表す、の通りなのかと確認の意味で二猫に訊ねた。
「そうですにゃ。マーブル王子はそれは見事な毛並みの白黒斑猫なのですにゃ」
「居心地のいい場所で微睡んでいればいいのだけれども。マーブル王子が居なくなってどれくらいが経つの?」
 もし居なくなってたら日数が経っていれば、縄張りなどの関係で戻れなくなっているのかもしれないと考えたからだ。自分の縄張り以外で食べ物を手にするのが難しい状況に陥っていないとも限らない。
「あしたで三日ですにゃ。マーブル王子はいつも遊び回ったら、次の日には戻ってきていたのですにゃ」
 王子の好物はまたたびフレークらしく、おやつに食べるのをそれは楽しみにしているらしかった。
「三日も戻って来てないの……、にゃんこさん、見つけてあげないと心配…!」
 棗は後で探しに行く場所を思い浮かべ、その中に居ると良いと願った。
「ところで、どうして猫たちだけじゃ捜索は難しいの? もしかしして人間にでも化けてにゃんこ立ち入り禁止のところにでも行っちゃってる? 子どもじゃないんだから、王子様もうちょっと放っておいてもいいんじゃないかしら」
「人間に化けているって、どうして分かったですにゃ……!!」
 何も離していないのに、と大きな猫目を更に大きくして、ブランとノアは皐月を見上げた。
「猫又ってそうじゃないの?」
 あっさりと思ったことをいっただけの皐月は、あっけらかんとしたものだ。
「人間になるのには、にゃんこ玉で化けるのですにゃ。ご先祖は何もなくても、人間に化けることができたのですが、われわれは出来ないのですにゃ。なので、にゃんこ玉で人間に化けるのですにゃ。どうやら、王子はにゃんこ玉を何個か持ち出したみたいなのですにゃ」
「ふむ、そのにゃんこ玉の効能はどうなっているものなのだ? 王子が人間から猫に戻る場合にはどうしているのか気になったものでな」
 黒猫の背をゆっくりと撫でながら、紫暁は見つめた。
「猫から人間に化けるのに赤の飴玉を食べた後、戻る時には赤以外の飴玉を食べると元に戻るのですにゃ。化けた時と違う色の飴玉を食べると元に戻るのですにゃ」
「うん? 先程、王子が何個かといったな。最後の飴玉を食べ、その姿が人間であれば戻る事が出来ないのではないか?」
「にゃ……?。はいにゃ! そうですにゃ! 猫に戻ることができなくなると、暫く時間が過ぎたら、人間の姿から猫に戻ろうとするのですにゃ」
「マーブル王子が人間に化けた時の姿は見たことある? あったら教えて欲しいの」
「人間の年齢でいうと、12歳くらいですにゃ。モノトーンのブラウスにリボンタイをして編み上げブーツを履いているらしいのですにゃ」
「かわいい〜」
 ノアのいう王子の外見を想像して棗は呟いた。
「そんなに可愛いんじゃ、ちょっと心配ねぇ」
 放って置くにはちょっと可愛らしすぎる。
「可愛い顔して悪戯好きなのね、王子って。どんな悪戯をするの?」
「王子は猫の時は、白猫、黒猫に化けることができるのですにゃ。それでかくれんぼをして、仲間に化けて驚かせるのですにゃ」
「化けたり、真似るのが上手いってことね?」
「はいですにゃ」
「猫たちは人間に化けた王子って見分けつくのかしら?」
「敏感な子猫ならわかるですにゃ」
「子猫連れて行くにしても、子猫ってあまり見かけないわよね」
 どうしようかしら、と溜息をついたシュラインに、ノアが両手に持った葉っぱを捧げ持ち、いった。
「応援を呼ぶのですにゃ、しばらく待って下さいにゃ」
 ソファの上に立ち、葉っぱを両前足で持ち、二本の尻尾の内一本をピンと立たせると、
「にゃにゃにゃぁ〜!」
 と、気合い(?)を込めて啼いた。
 すると、葉っぱが震え、猫又一族の伝言施設に繋がったのか、応答があった。
『なにか急用かにゃ?』
「六つ子猫を送ってくださいにゃ」
『いまは散歩中の筈にゃ……にゃんと! いま戻ってきたにゃ……、受け取るがいいにゃ』
 ごそごそとする音が聞こえ、先程、にゃんこ玉を出していた穴から、ぽんぽんと子猫が六匹出てきた。
「にゃっ!」
 放り投げられていたのか、方々に飛んでいく。
「にゃんこさん!」
 各自、片手でキャッチすると、落ち着かせようと背を撫でたり、顎の下を撫でたりする。
「何かあれば啼くですにゃ」
「そうか、ならば一匹連れていくとしようか。王子を見つけたら、ここに連れ帰れば問題ないだろう」
 冥月は子猫を肩に乗せると、颯爽と興信所を出た。
 棗は空き地や塀の上、土管の中などを調べてくると伝えて、日傘を手にし、子猫を抱いて優雅な午後のお散歩スタイルで出て行こうとしたが、思いだしてブランを見た。
「王子の好きなまたたびフレークって、さっきみたいに出せる……?」
「大丈夫ですにゃ。まだ繋がっているので出して貰うですにゃ」
 ごそごそと向こう側に伝えると、袋に詰めているのか、がさごそと音がした。
 出てきた袋を必要だという調査員と素早く分ける。物がまたたびなので、子猫がまたたびに酔わないようにしないと、王子を見つける時に判断して貰えなくなるからだ。
 紫暁は自らの黒猫と子猫を引き連れ、気ままな散歩といった風情で少しばかり分けて貰ったまたたびフレークを手にして、出て行った。
 袋に入れていないので、紫暁について行っている二匹は、少しふわふわした歩きだ。
 陥落するのも時間の問題かも知れなかった。
「ノアちゃん行きましょ」
 皐月はひょいっと、子猫と一緒に抱きかかえると、また後でね、と出ていった。
「や〜ん、あなたたち手触り最高! 王子、どこにいるのかしらねぇ…」
 ふわふわ毛並みを堪能しながら、皐月はまだ見ぬマーブル王子の毛並みはどんなのかしらと想像した。



【3・猫耳王子】

「黒猫が一匹、黒猫が二匹、黒猫が……って、多い気がするわね」
 連なって歩いている三匹の黒猫が皆同じ方向へと向かっているのを見て、何かあるのかしら、とその後をついていくことにしたシュライン。
 子猫を見ても、普通の黒猫なのか何も反応しなかった。
 ちょっと眠そうに欠伸などしているが。
 だが、近付くにつれて、子猫の反応が変わった。
「待って!」
 シュラインは飛び降りた黒猫の後を追いかけていく。


「黒猫たちを煽って何をしているのだ」
 緑豊かな樹の枝に子どもが居た。黒い猫耳と尻尾のある子どもだ。
「…公園で黒猫を苛めている子どもに仕返しをしにいくにゃ」
「仇討ちか」
 冥月は止める気にはならなかった。
「同じ数で挑むから卑怯じゃないにゃ」
「やるのなら、早く行くのだな。そろそろお前を捜している者がやってくる」
「逃がしてくれるにゃ?」
 降りてきたマーブル王子の頭に手を乗せると、いった。
「一族のものが困らない程度にやってくるといい」
「ありがとうにゃ!」
 そういうと、マーブル王子は黒猫を4匹つれて走っていった。


「あ、にゃんこさん!」
 棗は何匹目かになる猫を、またたびフレークの匂いで釣り釣り、猫の行進を続けていた。
 そろそろ十匹を数えるかどうかという時、前方にある公園の入り口から小学生くらいの子どもが5人、泣きながら走ってくる。
 よく見ると傷は引っ掻かれたもののようだったが、棗が連れている総勢十匹ばかりの黒猫をみて、悲鳴をあげた。
「失礼な子たち……」
 むっとして見るが、抱いている子猫が反応を示したのに気を取られている間に、子どもたちは逃げ出すように走り去っていった。
 すると、子猫も大人しくなった。
「あの子たち、何か知ってたのかな」


 ちょうどいい感じの空き地を見つけて、ノアと子猫を降ろすと、皐月は辺りを見渡した。
「あら、気になる?」
 皐月は手に持っている、またたびフレークと猫じゃらしを振ってみせる。
 ノアはうずうずと前足を出さないように頑張っているのだが、皐月の持つ猫じゃらしの誘惑はすさまじく、そろそろ限界だった。
 耐えきれずノアがとぶ。
「にゃっ!」
 隣で子猫がまたたびフレークを食べてふわふわな気分になっていた。
「にゃん!」
「あぁっ、可愛い〜」
「はっ、ついつられたですにゃ……っ、にゃっ!」
 前でふさふさの猫じゃらしが横切るたびに、つい飛びかかってしまうノアだった。
「そろそろ見つかったかしら、王子様」


「ふむ、数多くの黒猫が集まっているのか……、王子がなにやらやっているのかもしれぬが、事態は上手く収束したらしい」
 自らが当主を務める鬼鎮家が従えた鴉に、空から王子を探させていたのだが、どうやら王子は目的を果たしたらしかった。
「無事であればそれに越したことはない」
「にゃぁ」
 そうですか、とばかりに烏猫が啼いた。
「何かいいたげだな」
「にゃ」
 いえ、何も。
「にゃんこ玉を食べたお前はどのような姿に変わるのだろうな」
 紫暁はにこりと人の悪い笑みを浮かべた。



【 ending 】

 公園に出撃してきたマーブル王子を捕獲したのは棗だった。
 子どもたちを追いかけてきた一人の子どもと黒猫たちを見た子猫が反応したからだ。
 興信所で聞いた服装をしていたので、王子だと分かったのもあるのだが。
 ブランは王子を無事連れ帰ってくれたのをきらきらさせて喜んだ。
「ありがとうございましたにゃ!」
 と、にゃんこ玉を手渡された調査員一同は、ブランとノアの両方とぎうぎうと握手をして見送った。

 数日後。
 猫又一族の元に連れ帰られた王子はこってり説教をされたらしい。
 大臣猫・権三郎に。
 姿を消していた間、王子は遊んでいたと言い張ったので、そのことについては何もいわないでおくことになった。
 猫又一族へと公園を縄張りにしている黒猫たちからお礼の言葉が届いて居たのが真実だが、面と向かって褒められるのは照れるらしかった。
 どうやら、マーブル王子は遊んでいる間にみた時代劇のヒーローを目指しているようだ。
「大臣さま、にゃんこ玉がひとつ無くなっているですにゃ!」
「また王子かにゃ……」
 はう、と大臣の溜息が漏れた。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【受注順】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
[にゃんこ玉×1]

【2778/黒・冥月/女性/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
[にゃんこ玉×2]

【6001/比嘉耶・棗/女性/18歳/気まぐれ人形作製者】
[にゃんこ玉×1]

【5696/由良・皐月/女性/24歳/家事手伝】
[にゃんこ玉×1]

【1530/岸頭・紫暁/男性/431歳/墓守】
[にゃんこ玉×1]

【公式NPC】
【草間・武彦】

【NPC】
【マーブル王子/男の子/猫又一族の王子・白黒斑猫】
【ブラン/男の子/猫又一族の白猫】
【ノア/男の子/猫又一族の黒猫】
【大臣/お爺ちゃん/猫又一族の大臣・白髭猫・名前は権三郎】

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■         ライター通信          ■
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初めましてのPC様、再び再会できたPC様、こんばんは。
竜城英理と申します。

黒い遺伝子 〜にくきゅう大行進〜にご参加ありがとうございました。
にゃんこ玉を皆様にアイテム配布しております。
集まると何かになるらしいです。
文章は皆様共通になっています。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。
依頼や、シチュで又お会いできることを願っております。

>シュライン・エマさま
再びのご参加ありがとう御座いました。
猫ばっかりのお話でしたが、ふにふにした感触が少しでも伝われば嬉しいです。
お気に召したら、幸いです。