コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


-ドッグファイト- 通常要撃戦闘



-Stray Girl-

 夕刻の通りを歩く少女。
そのみずみずしい唇から思わずでたのは、憂鬱の溜息ではない。
 安堵と微かな疲労のいりまじったもの。
 バケモノ退治の帰り、なのだ。
 本屋にでも寄って、好きな小説片手に安らぎたい気分。
 てくてくと帰途を急ぐ彼女が怪異と闘った後だとは、誰が見ても思うまい。
「え、あれ?」
 その少女――涼風・鈴音はふと小首を傾げて辺りを見回した。銀髪が夕日を受けて、輝き、揺れる。
 近道しようと裏小路を選んだせいか、気が付けば知った道ではなくなっていたのだ。
 大通りへの方向を聞こうにも、人通りが全くない。
「どうしようかな‥‥‥」
 と、その矢先。
 町工場らしき建物から灯りが漏れている。
 よかった、お仕事中のとこ申し訳ないけれど道を尋ねよう。
 ひょいと戸口を覗き込む。
「あの‥‥‥すいません、ちょっとその、迷ってしまって‥‥‥」



-The Way of the.....?-

 ――目の前の簡素なテーブルには、カモミール・ティーが湯気を上げている。
 防霊空軍、パイロット待機室。
 道をきくだけのつもりが。
 建物内にいた高月・泰蔵と名乗るおじさんに出会いがしら、
「おまえさん、素養があるッッ!!」
 ‥‥‥と唐突そのもの、わかるようなわからないことを言われ、鈴音が口を挟む間もない説得攻勢、マシンガントーク。
「パイロットとして飛んではくれんかの。いや、ちょっとの間、出撃待機しといてほしいんじゃ」
「はあ、あの、私に出来ることならお手伝いしたいのですけど」
 空から化け物が降ってくる、そんな事実にはことさら驚く鈴音ではない。が。
 この展開にはさすがに当惑の色。
「でも私、戦闘機なんて乗ったことないですし。操縦とか、着陸とか‥‥‥」
「そうじゃな。当然の心配じゃが大丈夫じゃ。手短に説明するぞい」
「おねがいします」
 オホン! と咳払い。
「まず離着陸は心配ない。ALSとATS――あ、自動離着陸装置があるし、バックアップにうちのオペレーターが」
「オペレートはお任せ下さい。戦闘機動中の機位の保持も担当します」
「ぬお! もうちょい普通の登場せんかい」
「ちょっと、驚きました‥‥‥涼風、鈴音といいます」
 何時からそこにたたずんでいたのか、高月・サキがファイルをパラパラとめくっている。
 サキは鈴音に軽く目礼を返して、
「司令が機の設計仕様を説明しだすと切りがないんです。どうぞ手短に」
「お、おう。えー座席はパイロットを包み込む形でリクライニングしておる。可動しつつGからパイロットを守る。その座席の左右、丁度嬢ちゃんの手が収まる位置に搭乗者と機体の同調パスがある。操縦はそこに手をおくだけじゃ。火器のコントロール含め、思ったとおりに機体はうごく」
「えと、それなら‥‥‥私でも飛ばせそう、かなあ」
「それからHUDは、網膜に直接干渉、投影される」
「は、はっど? ってなんですか?」
「おおすまん、照準とか高度数値などが表示されるディスプレイのことじゃ」
「えぇ、その、そーいうのが、私の網膜に、直接投影‥‥‥」
「うむ、ワシが開発した。どうかしたかの?」
「いえ、なんというかそのぅ。その装置、後遺症で瞳が変色したなぁん〜て‥‥例はない、ですよね‥‥‥?」
「がはは、勿論ないわい。うむ、今のところないな」
 最後の一言は言わないでほしかったと思う鈴音であった。


-Red Alert-

 ハンガー内に控えめの警報。
 鈴音は思わず身を硬くする。
「ええい、手薄を狙って着たか!? 嬢ちゃん、一人で行けるか!?」
 意外なほどにこともなく鈴音は頷いてみせる。
「相手がアヤカシなら初めてじゃないですし‥‥‥」
 流石に戦闘機に乗って――というのは未知の体験だがしっかりフォローはしてくれるようだ。
<こちら管制指揮所『シュヴィンデルト』。高月サキです。対空警戒レーダー甲が空間異常を探知しました。敵、浮遊型、降下型多数、飛行型妖類少数。方位0-9-0方面から一斉に東京上空へ向けて接近中。待機中のパイロットは直ちに配置に付いて下さい。繰り返します、待機中のパイロットは直ちに配置に付いて下さい」
 落ち着いた声がスピーカー内に鳴り響いた。
「さっきまで‥‥‥そこにいたのに、素早い人ですね」
 と傍らの泰蔵に問う。
「まぁ。あいつはあれが仕事じゃからな」
「ええ、と‥‥‥では私、飛行機のところ行ってきます」
「そうじゃな。複座対霊制空戦闘機『レンヒョウ』はDハンガーじゃ。案内する」
 油ヨゴレした整備服の背中を追って、とてとてと駆ける。
「ここじゃ」
「これですかぁ‥‥‥」
 少女らしい好奇心と感動からか、思わず歎賞まじりのため息。
 その声ははじめて見る戦闘機『レンヒョウ』の前で、少し弾んでいる。
「わはは、さすがわしが見込んだ男、やはり嬢ちゃん大モノじゃわい」
「いえ、女、なんですけど‥‥‥さてっ」
 愛用のカッターナイフ――「愛用」と自分で思ってしまい複雑な気分に一瞬なる鈴音であったが――ともかく。
 咎骸に控えめに血滴をおとし、使用者識別をさせる。
「ソーサル‥‥‥シフト」
 ――淡い曳光が走ったかと思われた後、鈴音は黒い衣装――どことなく魔法少女を連想させる出で立ち――を纏っていた。
「よ、よーし、いきます」 
 いそいそと操縦席へ駆け上る。
 傍らには咎骸が鎮座。
「まあ、ザコばっかりじゃ。気楽に叩き落としてこい!」
 コクピットから見下ろすと高月・泰蔵が下で親指を立てている。
<『シュヴィンデルト』は、鈴音機・ウィッチコフィンの出撃行程終了を確認しました。オールグリーン。滑走路へのタキシングを開始します」
 機がハンガーから外へ牽引されていく。
「離陸後、ただちに高度制限を解除します。敵勢力、要撃ラインに接近中」
 満天の星空だ。
 鈴音はサン・テクジュぺリの『夜間飛行』をつい思いだす。
<涼風鈴音機、ウィッチコフィン、貴機の幸運を祈ります。……出撃。>



-intercept-

「ううっ……! はぁ、はぁ‥‥‥ふ〜」
 大きく深呼吸。
 無事、離陸した。
 であったが、普段から輸血を受けつつなんとかがんばっている彼女である。
 迎撃機というものは、一秒でも早く敵機に近づかねばならない。
 そのため、離陸距離が短い。
 つまり離陸の滑走スピードが速い。
 高速での離陸時に血液が背中のほうへGで流れ込み、浮いた途端にその血は今度は頭までぐーっと昇ってきて、機が真っ直ぐ安定した瞬間どうにか落ち着いてくる。
<こちら、『シュヴィンデルト』、ウィッチコフィンへ、問題ありませんか>
「はい、ちょっと……ええ、クラクラしましたけど大丈夫です。立ちくらみーの座りくらみ、のような……」
<管制指揮所でも搭乗者のフィジカルコンディションはリアルタイムモニタリングしていますが、異常を感じたらすぐに知らせてください>
「ありがとうございます。サキさん優しいんですねぇ」
<え、その、私は…………いやそのあくまで管轄内でのその‥‥‥>
「? どうしたんですか?」
<『わはは、コイツはそういうときどう応えればいいかわからんやつなんでな』>
 通信に割り込んできただみ声は高月泰蔵。
「そうなんですか」
 思わず泰蔵につられ、意外な一面をみた微笑ましさに口元がほころぶ鈴音――その刹那。
<『シュヴィンデルト』よりウィッチコフィン! 敵第一波、二列縦隊で螺旋系に降下中!>
「わわわわっ、方向は!?」
<ウィッチコフィンからの方位、0-0-0。現状での相対速度では約20secで武装射程内。3secで目視索敵可能レンジ。交戦態勢へ>
 照れ隠しではない、サキの声から本物の緊迫感が伝わってくる。
<こちらシュヴィンデルト、戦闘誘導を開始します。ウィッチコフィンをドグファイト・モードへスイッチ。敵の先鋭は高位より、ウィッチコフィンへ直上攻撃を仕掛ける模様>
 事前にわかってはいたことだが、数で言えば敵は多い。
 適度に接近できればこちらのものなのだけどなぁ‥‥‥そう思い鈴音は咎骸をちらりと見やる。
「真上からぐるぐる並んでくるってことは、その」
 言うが早いか、鈴音はレンヒョウの機首をあげ、昇る雷電のように一気に高度をとり、一瞬後には既に敵を眼下にみていた。
「こうですよねっ」
「ほおー。あのお嬢ちゃん、迎撃制空機のズバヌケタ推力を一瞬に悟るとは」
「そんな、ぐ、偶然ですよ‥‥‥照れます――――キャァアッ!!」
<な、どうしたんじゃ!>
<『シュヴィンデルト』ウィッチコフィン被弾を確認。レーダー上では‥‥‥ですが>
<照れとる場合じゃない、双方交戦距離じゃぞい! 損害はどうじゃ!>
「ない……です」
<な、なななぬぅ?>
 サキがスクリーンをコクピット内に切り替えモニターする。
 鈴音の横には、泰蔵には骸骨にしかみえないモノ。
 その口が開き、目を爛々と光らせている。
 吸収したのだ。
「弾まで吸えるなんて思わなかったですよ……」

 浮遊型妖類(戦術呼称:モスキート)は、悪意や呪縛怨念が具現化して浮遊している風船みたいなもの。
 それ故、奴らは自身の一部を切り離しそのまま飛ばす攻撃しかもっていない。
 その気になれば、鈴音は撃墜すらせずともいい。
 接近すれば、モスキートは咎骸で本体ごと吸収できてしまうのだ。

「こいつは一本とられたの!」
 口調とは裏腹に泰蔵は嬉しくてたまらんという様子。
「あ。うっわあ‥‥‥いっぱい来ましたよ」
 といいつつも、鈴音の咎骸は眼窩から一層まばゆい光条をあげ、喰らいつくさんと言っているかのように口を開けている――
<こちら、『シュヴィンデルト』高月サキ‥‥‥信じられません‥‥‥ウィッチコフィンがモスキート、全個体を撃墜しました>
「! 嬢ちゃん油断するな、次じゃ」
「はいっ」
<「第二波の降下型妖類(戦術呼称『ペスト』)がのこっておる。さっきの様に吸って終わりと言うわけにいかん、実体があるからな。サキ、説明せい」>
<降下型妖類、形状は漆黒の甲虫形。甲殻部の白い眼から高収束霊子レーザーを射出します。『レンヒョウ』の装甲なら数十発は耐えられる筈ですが……>
 通信が終わるのが先かそうなったのが先か。
「きゃッ!」
 鈴音の機体を軽い振動が襲う。
 思わずダメージコントロールシステムに眼をやる。‥‥‥動いていない。
<『シュヴィンデルト』よりウィッチコフィン。密集ペストへの相対高度、なし。距離700>
「えーと、どういうこと、ですか‥‥‥?」
<判りやすく言えばじゃのう。レンヒョウの超火力と特殊兵装をとりあえずありったけぶちこめぃ!」
「火力でゴリ押し‥‥‥ですか」
 ディスプレイの角に表示された基地の二人が頷く。
 鈴音は網膜に表示された攻撃オプションを確認。オールグリーンランプ。
 空中の要塞と呼ばれるだけあって、発射可能状態の武器はぱっと見ただけでは数え切れない。
「ほんとにいけるんですか?‥‥‥あれ、これは」
 画面上に、呼び出していないメッセージが表示点滅している。
「これは―――!?」

------------------------------------------------------

 ***Special Weapon Attack is waiting your order.
 ***All Armament Attack .......[READY]
 ***Shoot them all......Suzune

------------------------------------------------------

「泰蔵さん、なにか、変‥‥‥、この飛行機まるで意思があるみたいです」
 ‥‥‥静寂。
<「‥‥‥ある。おまえさんの機レンヒョウだけじゃあない。とにかく! 散開される前にうつんじゃ」>
「はいっ」

 ‥‥‥これでは、いくら敵が散開していようとむだだったかもしれない。いや、おそらく。
「い、行け――」
 鈴音が裂帛の気合でトリガーを引いた瞬間、可動仕様大口径霊子機関砲搭×4が獣の咆哮を挙げる。甲殻甲虫型妖魔を蛇のように猛追し、爆炎と共に不浄な無数の破片へと帰す。
 さらには無数の多弾頭浄化炸薬マイクロミサイルはクモの巣のような白煙の軌跡をひき、小型炸薬ミサイルの“蜂の巣”、死の豪雨。

‥‥‥静けさ。

<……こちら『シュヴィンデルト』高月サキ、敵性反応すべて消失‥‥‥下等飛行妖魔(ブラック・ビィ)、検知できません。>
<戦術撤退を学んだのか、それとも臆したか? ワシにはわからんがまあ後者じゃろうな。モスキート級とペスト級が一撃で各個全滅じゃからな。嬢ちゃんもどってこい!」
 サキの誘導にまかせ着陸。
 涼風鈴音はついに懐かしき大地をふみしめた。ゆっくりと。



--R.T.B.--
 
 帰還後の基地内。
「よっしゃーーーー飲むぞ〜〜〜〜い!」
 泰蔵は豪快なまでにハイテンションだ。
「いえ、だめです、私、未成年‥‥‥」
 かろうじて口元から笑顔は消えていない。が。鈴音はかなり本気で困り顔だ。
「だめです司令。はい、鈴音さん、ハーブティー。神経落ち着きます」
「ありがとうございますぅ」
 そういわれて初めて、鈴音は今まで感じたのとは異質な疲労が自分にあるのにきがついた。
 無理もない。
 破魔なら幾度となくこなしたが、飛行機で空に飛びつつなんて経験がない。
 安堵と快い疲れの混じったため息が、ふと漏れる。
「ええと、私そろそろ‥‥‥」
「ふむ、ふむむむ。祝宴と行きたかったが流石に深夜にお嬢ちゃんを一人帰らせるわけにはいかんしのう」
 酔っていてもその分別はあるらしい。

「変な人達だったけど‥‥‥いい人達……」
 と鈴音はちらと基地を振り返って思う。
 そらからふと仰いだ夜空は、気のせいかとても澄んで見えた。



□■■■■■■■■■■■■■

■   登場人物
□■■■■■■■■■■■■■□

【5821/涼風・鈴音/女性/15歳/魔法少女/学生】

□■■■■■■■■■■■■■□
■   ライター通信
□■■■■■■■■■■■■■□

 涼風・鈴音 様

 あきしまいさむ と申します。m(__)m

お初にお眼にかかります。
文章作品二つ目ということでいささか緊張し作成に臨んだのですが…。
PL様のイメージ通りとはいかずとも、少なくともそれに近づけていれば、
そして何より読んで楽しんで頂ければこの上ない喜びです。

裏話など…前半、鈴音様が咎骸でモスキートを一網打尽に吸収、という場面がありましたが、実は私驚きましたw
あの敵は悪意体や呪縛のみで出来ていて、攻撃してくる弾も本体と同質。
この異界構想時から変わっていない弱点なのです(笑

ついつい長くなりました、身勝手ではありますが、書いていて非常に楽しく感じました。
このたびは大事なPC様を預からせて頂き、有難う御座いました。^^