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<東京怪談・PCゲームノベル>


惚れ薬 またたび




「ほら、ここのお店なの」
「誘われて来たが……何があるんだ?」
「普通の雑貨屋さんよ、ほらほら」
 二人連れ立って。
 菊理路蒼依と菊理野友衛、二人は幼馴染だ。
 今日は蒼依が先日、ひょんなことから手助けをした青年に教えて貰った雑貨屋へと来たのだった。
「ごめんください」
「はい、いらっしゃ……あ、この前はありがとうございました」
「あら、本当にまた会えたわね、嬉しいわ」
「僕もです。この前は本当に助かりました。ええと……お連れの方は? 初めまして、奈津ノ介と申します」
 礼儀正しくぺこりと頭を下げながら、奈津ノ介は挨拶をした。
 友衛もつられてぺこりと頭を下げる。
「俺は菊理野友衛だ。蒼依とは、まぁ幼馴染だ」
「蒼依さんの幼馴染ですか。あ、どうぞ奥へ。お茶を淹れます」
「嬉しいわ。ここでバイトでもしてるの?」
「まぁ……迷惑にならないんだったらご馳走になろう」
「いいえ、ここの店主なんですよ」
 あらそうなの、と蒼依は瞳を一度瞬いた。
 と、にこにこ笑顔の奈津ノ介につれられて店にある和室へと二人は通される。
 靴を脱いでそこにあがるとちゃぶ台と茶請け。
 と、そこに白い錠剤もある。
「あら、これは薬?」
 蒼依はそれを両手に一つずつ摘み上げて、そして興味津々と見る。
「おい、勝手に……」
 それを溜息をつきつつ友衛は制すのだけれども構わないですよ、と奈津ノ介は笑う。
「激薬とかじゃないし……ちょっと作ってみてるだけのものですから」
「へー……友衛、飲んでみる? 激薬じゃないから大丈夫でしょう?」
「いや、飲まない、飲むわけないだろうそんな怪しいもの!!」
 友衛の口に、うふふと笑みを浮かべながら蒼依は薬を入れようとする。
 必死の抵抗を友衛はもちろん、行う。
「お二人とも落ち着いてください、ね?」
 そんな二人を苦笑しながら、奈津ノ介はいさめに入る、入ったはずだったのだけれども。
 ふとした拍子にその薬は蒼依と奈津ノ介の口へと入る。
 突然のことで、どちらもうっかり飲み下してしまった。


 あっと思った時にはもう遅く。
 蒼依と奈津ノ介の様子がおかしくなる。
 表情はかわらないのだけれども、その雰囲気が。


「あ、奈津……」
「なんですか?」
「奈津……一緒にいてもいい? ……駄目?」
「駄目、なんて言えるわけないでしょう? 僕も一緒にいたいから」
 ぱちりと二人の視線が重なる。それは、熱っぽい。
 がらりと変わったその雰囲気に、友衛はもちろん、混乱する。
「え、おい? だ、大丈夫なのか? 蒼依! おいっどうしたんだっ?!」
 唇が触れるか触れないか、そんな至近距離で会話をする二人に友衛は慌て、そして事態は飲み込めないままだ。
「もう、うるさいわよ友衛。邪魔しないで、ね?」
 にこりと微笑む。けれどもそれには絶対の威圧感。
「いや、でもな……!? 絶対に現状おかしいだろ!? 奈津ノ介! 離れっ……お前絶対正気じゃないだろ?! 蒼依も元に……ってこらーっ! 店内でキスしようとするなあぁ!!」
「そんなことしてないですよ。それに声のトーン落としてくださいね、友衛さん。あと、邪魔しないでくださいね」
「そうよ、スキンシップよ」
 奈津ノ介までにこりと友衛に笑みを向ける。
 と、先程の友衛の声に反応してか、二階からの足音。
 その音の方へと視線が向く。
「あ、親父殿。今起きてきたなんて良い御身分で」
「……起きてきた途端に息子がいちゃついているのはまだ夢だからか?」
「現実、現実だ!」
 起き抜けか、まだぼーっとしているその奈津ノ介の父親に向かい友衛は声を荒げた。
 むむ、と少し不満げな表情を向けたものの、意識がしっかりしてくると何か起こっているのを理解したようだった。
「とりあえず……奈津から放れろ、奈津も放れよ」
「嫌よ」
「嫌ですよ」
 蒼依と奈津ノ介の声は重なり、互いを見合って微笑みあう。
「蒼依……! お前はっ……!」
「……汝の名は?」
「俺!? 俺は友衛だ! いや名前よりも今は……!!」
「とりあえず落ち着け! なんでああなっておるのだ!?」
「なんか、白いの飲んでからだ!」
「白い、の……? あ、あれかっ……!」
 心当たりがあるのか、一つ大きな溜息をついて、友衛の肩をぽむ、と彼は叩く。
「それは、惚れ薬だ……一時間くらいで切れるはずだ」
「なっ、は、どうゆ……ええと」
「藍ノ介だ」
「そう、藍ノ介さん、どういうことだそれはっ! こ、このままじゃ、一時間だと言われてもな……見ているこっちは戦々恐々だぞ?」
 じっとりと、友衛は背中に汗を感じる。なんだか非常にまずいことが起こりそうな予感だったのかもしれない。
「別に小一時間だし……いいではないか」
「いや、よくない。小さい頃からの付き合いだからアイツがどれだけ怖いか知ってる…」
「お、恐ろしい女子なのか!?」
 友衛の言葉に藍ノ介は反応し、きっと蒼依を見る。
 そんな視線、ものともせずに現在二人はぴたり、寄り添って蒼依の髪飾選びの最中だった。
「奈津が、選んでくれる?」
「ええ、もちろん。そうですね……これなんか、ああ、こっちも。どっちが好きですか?」
「両方ね。奈津も似合いそう。ほらこれとか」
「僕が? そんなことないですよ」
 蒼依は蝶モチーフの髪飾を一つとって奈津ノ介の髪に飾る。くすぐったそうにそれを受け入れた奈津ノ介はお返しとばかりに蒼依の髪に触り始める。
 そして自分が良いと思うものをとっかえひっかえ頭に飾って真剣に選んでいた。
「って顔が近い、近いぞ汝ら!!」
「え、これぐらい普通ですよ、ね?」
「ええ、普通でしょ?」
 きょとん、とした表情。
 本人達はそうであっても外野はそうでない。
「近い、近いぞ蒼依! 奈津ノ介! 奈津ノ介がいつ毒牙に掛かるか……」
 と、ひゅんっと鋭い音を立てながら顔の横を何かが掠めた。
 それは手元にあった髪飾だったようでぽすっと畳の上に落ちる。
「うっ、あ、蒼依のやつ……! 危険な……!」
「毒牙だと!?」
「いや、今のは失言だった……だから、藍ノ介さんもそんな恐ろしい顔をしないでくれ……」
 毒牙の言葉に反応して、子を心配して藍ノ介は蒼依を威嚇するように表情をきっと硬くし、蒼依を睨む。
 それに蒼依は動じない。
「毒牙だなんて……酷いわね。あ、お店のもの投げて……ごめんね」
「大丈夫です。結構丈夫なものですから。それに毒牙だなんて……そんなことありえませんよ」
「や、でも奈津、それは汝、薬のせ……」
 黙れ、とばかりに冷たい冷たい笑み。これは、逆らってはいけないと藍ノ介も友衛も思ってしまう。
「ど、どうしよう、どうすればいいのだ友衛」
「お、俺にもわからん!」
 時間がたてばいいことなのだけれども、友衛と藍ノ介にとってはその時間が非常に長い。
 友衛と藍ノ介はどうしようこうしようああしよう、と二人で騒ぐしかない。
 と、ぱちりと何かがはじけるような音がした。
 ぱちぱちっと蒼依は目を瞬く。
「……奈津君?」
「なんですか?」
 呼ばれて不思議そうな表情。ふっと今までのことを蒼依は思い出す。
 髪飾りを見て、思い出す。
「……ありがとう。大事にするわね」
 柔らかな微笑をたたえ蒼依はそう言うと、幼馴染たちの方へと顔を向けた。
「それで、なんで友衛と……藍ノ介さんはそんなに疲れてるの?」
「え、んん?」
「あ、もしかしてお前ら……」
 声をかけられたことで、頭を悩ませ疲れていた二人は現状に気がつく。
「どうしたんですか? お茶でも飲みます?」
「……一時間たったの、か?」
「たってますよ」
「ええ、もう騒いでみっともないわ」
「なっ……お前のせいでなんだぞ!?」
 友衛は声を張り上げるが、さらりとそれを蒼依は流す。
 何を言っても無駄、と悟ったのか友衛は大きな大きな溜息をついた。
「……汝、苦労しておるのだな……」
 ぽむっと友衛の肩に手を置いて藍ノ介は言う。
 全くそのとおりで、友衛は何も言い返せなかった。
 そんな二人を見つつ、蒼依と奈津ノ介は笑いあう。
「大げさね」
「そうですね、しょうがないなぁ……」
 苦笑しつつ、フォローしてあげますかと奈津ノ介は言う。
「お茶とお菓子出してあげますから元気だしてください、ね?」
「お、俺は子供じゃないぞ!!」
 友衛の声は店に響きわたり、そしてその後に友衛以外の者の笑い声が響く。
 これでいつも通り、何もない元の関係のはずなのだけれども。
 どこかしらに、何かまたありそうな予感。



 このひと時は、心配で。
 いつものような、そうでないような。
 また一苦労。




<END>




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6077/菊理路・蒼依/女性/20歳/菊理一族の巫女、別名「括りの巫女」】
【6145/菊理野・友衛/男性/22歳/菊理一族の宮司】


【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 菊理野・友衛さま

 初めまして、ありがとうございました。ライターの志摩です。
 蒼依さまの尻に敷かれてる…!と志摩は喜びながら(…)書かせていただきました。友衛さまらしさと尻に敷かれっぷり…うまく表せていれば嬉しいです。
 そしてこのノベルで楽しんでいただければ幸いです。
 ではではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!