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あの娘が綺麗になった理由
●オープニング【0】
「ねえねえ、山城さん近頃やけに綺麗じゃない?」
「そうね、性格はちょっとあれだけど、元から綺麗なのがさらに……でしょう?」
「恋でもしてるのかしら」
「そういえば高輪先輩にアタックしてるらしいわよ、山城さんって」
いつの世も、学校で女子生徒の間で話題に上るこのような会話。それは決して神聖都学園も例外ではない。憧れ、羨望、嫉妬……まあ、色々と感情が入り混じっているけれども。
「え、そうなの? でもあの性格なのにねえ。そっちも近頃酷くなってない? お高くとまって」
「決まってるじゃない、猫かぶってるの。先輩の前で、にゃーにゃー言ってるんだわ」
「……あたし知ってるわよ。山城さん、いい化粧水を手に入れたのよ。ほら、あそこの路地あるじゃない。あの奥に小さなお店が出来て、そこから出てくる山城さんを見たのよ、あたし」
「へーえ、そうなんだ……って、まさかあなた!?」
「ふっふっふ、内緒♪」
「ね、場所教えて! あたしたちも買いに行かなくっちゃ!!」
「いいわよ。そうそう、そのお店ね、あの川口さんも出入りしてるの」
「えー、あの娘が? あの顔で? 化粧水使っても変わる訳ないでしょー?」
「あはは、言えてるー。やっても無駄なのにねー」
……ま、色々とあるようで。
ところで、その化粧水の名前だけれども。
「ええと、『妖精香』という名前ですって」
話を聞き込んできた影沼ヒミコは、同級生の原田文子へそう教えた。
店の場所も、化粧水の名前も分かった。さて……あなたはこれからどうしますか?
●懸念、あるいは不安【2A】
(やっぱり、こう……気になる噂だわ)
街中を歩いていたシュライン・エマは、厳しめの表情を浮かべていた。向かっているのは件の『妖精香』を売っているという店だ。確か『妖精の手』などといったろうか。
けれども、単に『妖精香』を買いに行くだけで、シュラインがこんな表情をするはずもない。そこに何か懸念事項があるから、厳しい表情になる訳で――。
(もしかするとまた『虚無の境界』が絡んでいるのかも)
シュラインの懸念するのはこのことだった。何故なら、噂の内容のいくつかが、シュラインの知るいくつかの事柄と符合していたからだ。
(ええと……元々の魅力部分がより磨かれた綺麗さで、性格などの他の特徴も一部比例して顕著に。で、化粧水の名前が『妖精香』……直に触れ、元からある物を増幅する……)
シュラインは噂の内容を思い返していた。そこからある者……いや、ある妖精を思い浮かべる。
その妖精の名はアズ・ウェンリ。『虚無の境界』構成員、ニーベル・スタンダルムの肩に乗っていた妖精だ。
その時のニーベルは、エヴァ・ペルマネントの能力をコピーしていた。だがその能力はエヴァを上回っていた。そこにアズが絡んでいるだろうことは、容易に想像出来ること。
「妙に繋がりあるのよね……」
何せ化粧水の名が『妖精香』、あれこれとシュラインが思い悩んでしまうのも無理はなく。それにニーベルたちには『BON企画』なる前科もあったりするのだし……。
(嫌な予感がするわ。……麻薬のように手放せなくなりそうな怖さがあって……)
などと思いながら、シュラインは店への歩みを早めた。
●謎の女性【3B】
「ここね」
店を前方に見据え、シュラインが気を引き締めるようにつぶやいた。神聖都学園からほど近い路地の奥、そこに件の店『妖精の手』は確かにあった。
ここに来る前、近所でシュラインは聞き込みを行っていた。異口同音に皆が言うのは、いつの間に店が出来たのか知らなかったということ。よほどスピーディーに、よほど鮮やかな手並みで開店に漕ぎ着けたようである。
そしてもう1つ言っていたのは、銀髪の女性を何度か見たということ。そこの店主ではないかと言う者も居た。少なくとも、ニーベルやアズ、エヴァなどの特徴に合致する人物を見たという目撃情報は一切なかった。
(何にせよ、入ってみなきゃ……いけないわよね)
覚悟を決め、店内へ足を踏み入れるシュライン。中は小さな外観から感じた通り狭く、15、6人も入ったら一杯になりそうだと感じられた。だがまだ放課後の時間帯ではないからか、店内に居るのはシュライン1人だけであった。
シュラインがゆっくりと店内を見回す。ドラッグストアなどでよく見られる普通の化粧品などに混じり、それはあった。『妖精香』――シュラインは静かに近寄り、化粧水の瓶を手に取った。
(200ミリで1200円かあ。妥当な価格ね)
高くも安くもない値段。怪しい所は感じられない。裏を見て成分を確認すると、グリセリンやクエン酸といったこれまた化粧水としては妥当な成分が含まれている。
(……これだけ見ると、本当に普通の化粧水なんだけど)
などとシュラインが考えていた時だった。
「何かお探しかしら?」
突然背後から女性の声が聞こえた。びくっとして、慌てて振り返るシュライン。
(いつの間に後ろにっ?)
シュラインが驚くのも無理はない。何故なら足を踏み入れてから物音一切に気を払っていたにも関わらず、声をかけられるまで物音一つなかったのだから。
「い、いいえ! 噂を聞いて……見に来ただけで……」
咄嗟に答えるには、これがシュラインの精一杯だった。目の前に居るのは銀髪の小柄な女性。女性はシュラインの目をじっと見つめていた。これが聞き込みにあった女性なのだろうか。
「そう……。使わなくてよいのなら、それに越したことはないわ」
化粧品を扱っているにしては、何だか妙な台詞である。
「心配しないで」
そして、くす……と女性が微笑んだ。女性はまだシュラインの目を見つめている。どこかこう、吸い込まれてしまうような瞳で――。
「あなたが懸念しているような事柄に、私は一切関わりはないのだから。ただ……何かが起こっても、それは私の起こしたことじゃない。本人の問題……とだけ言っておくわ」
「…………!?」
言葉を失うシュライン。
(ひょっとして、心が読める……の?)
「さあ、どうかしら。あなたに敵対する気はないけれど?」
くすくすと女性が笑った。ぞっとなるシュライン。
「ま、また来ます」
シュラインはそう言って店を後にした。どこか得体の知れぬ恐怖を感じながら……。
●相変わらずの噂話【8】
「ね、ね、山城さんどうしたの?」
「何か入院だって。ベランダから落ちたみたい。お見舞いも断ってるそうよ」
「へーえ。結構重症なのね、それじゃ。それよりもほら、山城さんがアタックかけてた高輪先輩! 彼女出来たってほんとっ?」
「本当よ。それがさ、あの川口さんなの!」
「嘘っ! だってそばかすもにきびもないし、つやつやで表情も輝いてて……嘘ぉっ!!」
「やっぱりあの『妖精香』のおかげ?」
「えー。でもあたしも使ってるけど効果ないしー。他に何かいい物でも見付けたんじゃない?」
「整形でもしたんだったりして」
「あはは、そうかもー」
相変わらずの女子生徒たちの噂話。それをただ聞いているヒミコと文子。
「本当は……どうなの……?」
「……どうなんでしょう?」
文子とヒミコが顔を見合わせ首を傾げる。真実をつかんでいる者は、とても少ないのかもしれない――。
【あの娘が綺麗になった理由 了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
/ 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 2748 / 亜矢坂9・すばる(あやさかないん・すばる)
/ 女 / 16? / 日本国文武火学省特務機関特命生徒 】
【 3806 / 久良木・アゲハ(くらき・あげは)
/ 女 / 16 / 高校生 】
【 4682 / 黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)
/ 女 / 中学生? / 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしてしまい申し訳ありません。ここに噂の化粧水についてのお話をお届けいたします。高原としましては、久々に黒いなあ……などと思いながら書いていた訳ですが、いかがだったでしょうか。
・今回、事件の全体像を確実につかんでいる方が居られるかどうか、高原にもちょっと分かりません。アプローチの仕方であれこれと得られた結果が変わっているはずですから。ちなみにオープニングと場面【8】以外、皆さん異なる文章だったりします。
・あ、もし自分で使ってみるという方が居られた場合、行動次第ではえらいことになっていたかもしれないとは言っておきます。それはそれで、ある意味では面白い結果があったのかもしれませんが……。
・シュライン・エマさん、110度目のご参加ありがとうございます。どうもあれこれ深読みし過ぎたかもしれませんね。妖精を思い付いたのはよかったと思いましたが……。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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