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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


自分が殺人を犯したのか 調査篇

●オープニング
 草間興信所を訪れた高校生、甫坂昴の顔は青褪めていた。

「こんな話をしても信じてもらえないかもしれませんが…聞いてください…」
 昴は怯えながらも、事の経緯を草間武彦に話した。

 一ヶ月前から、真夜中に女性ばかりが狙われる奇妙な殺人事件が起こっている。
 顔を潰された者、胸を鋭利な刃物のようなもので引き裂かれた者、腕を引きちぎられた者。
 殺され方はそれぞれだが、共通していたのは、トラやライオンのような肉食獣に襲われたような痕跡があることだった。
「その殺人事件と君がどういう関係があるというんだ?」
「そ、それは…」
 体を震わせ、昴はこう言った。

「その獣が…俺ではないかということです…」

 昴はその事件が起こる数日前から、奇妙な夢を見ていた。
 何も無い闇に、突然猛獣が入れられているような大きな檻と、その中に閉じ込められている『自分』がいた。
 それは…首に太い鎖がついている首輪をつけ、鎖で両手と両足を縛られていた。
 一糸纏わぬ獰猛な肉食獣を思わせるような獣のような姿、闇夜に浮かぶ蛍のような双眸。
 その姿はまさに…獣だった。

「奴はこうも言ったんです。『本能と欲望の赴くままに生きろ! 殺したい奴を殺せ!』…と。でも、俺、殺された人達とは何の関係もないんです! ですが、あいつが俺の身体を乗っ取ったかでもして、殺人を犯した可能性もあるんです…」
 自分の中にいる獣が自分の身体を使って、あるいは、自分の中から抜け出して殺人を犯した可能性があることに懸念し、怪奇探偵と名高い草間に事の真相を探って欲しいと昴は草間興信所を藁をも掴む思いで訪れたのだ。
「殺人事件の真犯人を探って欲しい…か。わかった、できるだけの調査をしよう。それでいいか?」
「はい! お願いします!」

●経緯
 調査を行うことになったのは草間興信所アルバイト事務員のシュライン・エマ、偶然訪れ、今回の一件に関わることになった元暗殺者の黒冥月(ヘイ・ミンユェ)、雑誌で追っている事件が今回の依頼に少なからずとも関わっているかもしれないと睨んだ雑誌記者の来生十四郎(きすぎ・としろう)の三人。
「調査で別に犯人…少なくとも殺人が止まる結果になれば良いわね、武彦さん…」
「ああ」
 静まり返っている興信所の雰囲気を和らげるかのようにシュラインは呟くと、昴の様子を見る。
 昴は身体を小刻みに震わせながら思い詰めている。
 冥月は何も言えずその様子を見、来生は真剣な表情でいつでも昴から情報を聞きだせるよう待機している。
「そんなに思い詰めなくても大丈夫。でも、調査を情報収集のため、あなたには辛い思いをさせてしまうことになるけど。御免なさいね」
 疲れた様子の昴を労うシュライン。
 昴の手を取り、すかさず爪先を確認した。昴が夢に出てくる獣に変化し殺人を犯したのなら、爪に僅かでも血痕が付着しているはずと睨んでの行動だったが、普通の爪だった。
「そろそろ続きを聞かせてくれ。依頼を無事解決するには、おまえの話が必要だ」
 草間の要請に「わかりました」と答え、昴は続きを話し始めた。

 昴が悪夢を見るようになったのは、無差別殺人とも言える事件が起きる六日前に遡る。
 その日、昴のクラスメートが放課後に学校の屋上から飛び降り、自殺した。クラスメートや担任も、自殺の動機について思い当たることは何も無いと証言した。家族も、その日の朝も普通通りに登校し、変わった様子は無いと言っている。
 遺書は残されていなかったので、警察はノイローゼによる自殺と断定した。
 クラスメートの遺体の周りには鬼か獣に見えるリアルな絵が描かれたルーズリーフが数枚散らばっていたが、美術部に所属していたので、単なるデッサンだろうと処分された。
 昴が続きを話そうとしたが、来生が遮る。
「昴の言うことは確かだ、間違いねぇ。ついでに付け加えるなら、自殺したのは柏木静、十七歳。友達が一人もしやしねぇ大人しい子だが、苛められっ子というワケでもない。自殺翌日に、取材がてら同じクラスの奴に話を聞いたから確かだ。飛び降り自殺を目撃した奴等にも聞き込みした。怖かったとか、気持ち悪い等が感想だ。ま、普通、死体を目の当たりにしたんじゃあ、普通でいられねぇが」
「流石は雑誌記者、と言ったところね、来生さん。ところで甫坂くん、あなたはそのクラスメートが飛び降りる現場を見たの?」
「あ、はい。柏木さんが飛び降りるところを…。彼女が家に帰ろうとする俺の側に…ドスンと…」
 落ち着いたかと思ったが、また身体が震え始めたが、シュラインは「その時の気分はどうだったかしら?」と続きを促す。
 昴は震えながらも、その時の気分を思い出す。

 その時の気分とはどうだった? あの時…俺の目に映ったのは彼女じゃない。赤い血だ…。

「死体を目の当たりにしたのに…俺は…じっと見ていました…。彼女の周りに散らばっていた絵も見ました…。今にも飛び出てきそうなほど…リアルでした…」
 怯えていたはずの昴の気分が若干高揚としている。
「他にもあなたと同じような気分の人がいなかったの?」
 首を振る昴。静のことで頭が一杯で、周りに気づかないのは無理も無い。
「恐怖も悲しみも感じない代わりに、ああ、彼女が死んだ…という感覚しかありませんでした…」
 やや淡々と言う昴の様子を、三人はじっと見ていた。

●調査
 昴が話し終えたのを機に、冥月が質問をする。
「昴はそのクラスメートに惚れてたのか?」
 ストレートな冥月の言葉に、昴はドキっとした。
「俺もその辺の話を聞きてぇ。そのクラスメートとはどういう関係だ? 密かに恋人、というんじゃねぇだろうな?」
 重く口を閉ざしていた来生が付け加えるかのように聞く。彼の鋭い勘が、何かを察知したようだ。
「そ、そんなんじゃないです! ただのクラスメートです。口を利いたことは無いですが」
 フ…と来生が笑うと「俺の知る情報と同じだ。彼女はよほどのことが無い限り誰とも口を利かない子だったし」と付け加える。
 ひとつ、聞きたいことがあると断り、冥月は思い出したかのように夢の件について訊ねた。
「夢や心理学分析は専門外だが、その夢の獣は本当にお前なのか? 誰かの意思と同調し、その者の感覚を自分のものと思い込んでしまっている可能性があると私は思うのだが」
 同症状の人の夢とも考えられるわね、と納得するシュラインに対し、胡散臭いと睨む来生。彼は自分の目で見るまでは全てを信用しない主義だ。
「敢えて酷な事を聞くが、もし、お前がその獣で殺人事件の犯人だったらどうして欲しい?」
 究極の選択とも言える冥月の問いに、昴は「もしそうだったら、躊躇う事無く俺を殺してください」と俯いて答えた。
「心配するな、少年。美人のお姉様が一晩中側にいてやるぞ」
 その冗談に「いや、本当はこいつ男でな」という草間に「誰が男だ!」とマジ蹴りする冥月。
「いてぇ…。ご、ご苦労だったな、もう帰ってゆっくり休め。後のことは俺達に任せろ」
「はい」
 がっくりと肩を落としているかのように、昴はとぼとぼと帰宅した。冥月はその隙をつき、昴の影に潜んだ。

 昴が帰宅した後、シュラインと来生は昴から得た情報と事件の関連性を調べていた。
 最初の殺人事件が起こったのは、昴が夢をはっきりと見始めたという時期で、静が自殺した六日後。
「この辺は合致しているな。次の事件が起こったのは…」
「今、ネットでニュースを検索しているから待ってて。あったわ。次の事件が起こったのはその一週間後の金曜日ね」
「その次の事件は、翌週の金曜日か」
 パソコン画面を見て、事件を確認する草間とシュライン。
 無差別殺人ではあるが、犯行日時は一定している。
 来生はメモを取り出し、被害者達の報告をシュライン、草間にする。
「第一被害者は27歳のOL。残業の帰りに路地で頭部破損殺害。死体発見場所はビルの路地裏。第二被害者は25歳のフリーター。バイト帰りに駅の裏通りで引き裂かれ殺害。第三被害者は20歳の女子大生。人気の無い公園で右腕を捻られ、切断されたことによる失血死」
「背格好とか通勤路とかは分かる?」
「待ってな」
 とジャケットのポケットを探り、三枚の写真を取り出した。
 一枚目には切れ長の瞳が特徴の黒のロングヘアの女性、二枚目にはコギャルのウェーブがかったセミルロングの金髪女性、三枚目には清楚なお嬢様と言った背の低そうな女性が映っていた。
「外見的特長は全く無しね」
「おまけに通勤、通学路もバラバラ、殺害現場もバラバラ。残虐な愉快犯の仕業としか思えねぇな。共通点が全く…ん? 待てよ」
「どうかしたの?」
「被害者達だが、くまなく調べた結果血液型が全員同じA型なんだ。自殺した柏木静もな」
「何ですって!?」
 気づかなかった共通点に驚くシュライン。

●意外
「意外な共通点があったものね。ちょっと待って、今、地図を持ってくるから」
 シュラインは慌てて都内の地図を持ってくると、事務室のテーブルに広げた。
「地図広げてどうするんだよ? それで次の犯行現場が特定できるって言うんじゃねぇだろうな」
「私達が特定するのよ。第一現場はここね」
 シュラインが赤ペンで第一の殺人が起こった場所にマークする。すかさず第二、第三の場所もチェック。
「こうして見ると以外に近いもんだな、犯行現場」
 草間が覗き込み関心する。範囲は広いようで狭い。
「この住所…甫坂家付近じゃねぇか。確か昴の家はここだったはず」
 来生がジャケットの胸ポケットにある自分のボールペンで甫坂家の場所をチェック。
「どうやら、事件は甫坂家からそう遠くない場所で行われているようだぜ」
「だとしたら…甫坂君が犯人?」
「信じられねぇが、そういうことになるな…って、おい、今までの予測からすると今夜事件が起きるんじゃねぇか?」
 そうだとしたらまた事件が起こる。懸念を感じたシュラインは、昴の監視を行っている冥月に連絡を取ることに。
「冥月だ、どうした」
「今、何をしてるの?」
「何って、昴の監視だ。帰宅後は家から一歩も出ていない」
「良く聞いて。今夜、事件が起こるかもしれないから、甫坂君の監視を続けて頂戴」
 わかった、続けるという冥月の返事に安心し、携帯を切る。

 午後十一時、甫坂家を見張る調査員三人と草間。
「昴は眠りについたようだ」
 冥月の言うとおりであれば、昴は深い眠りにつき、彼の中にいる獣が出てくるはず。
 シュラインは草間に寄り添うように見張り、来生は銀行で使う蛍光塗料入りのボールを携帯し、何時投げてもいいように待機している。
 緊張感を破るかのように、草間の携帯がある。冥月からの報告だった。
「昴は今も眠っているが、悪夢にうなされているようだ。そろそろ、獣が出るかもしれん、気をつけろ」
「わかった」

 それから数分後、四人の前に大きな影が。振り向くとそこにいたのは…一匹の大きな獣だった。
「出やがったな、化け物。これでもくらいやがれ!」
 来生が思いっきりボールを投げ、獣の右肩に当てた。その部分だけ光っている。それに警戒したのか、獣は風のように素早く退散した。
「ちっ、逃げられたか。カメラ持ってたら大スクープもんだったのによ」
「今夜の事件を防げただけでもいいじゃない」
 シュラインにポンと肩を叩かれ「まぁな」とぶっきっらぼうな態度の来生。

 悪夢から解放され、ガバッと布団から飛び起きた昴。
 昴は肩に何か違和感を感じたのでそこを見た。

 そこには…来生が投げたボールの蛍光塗料が付着していた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
0883 / 来生・十四郎 / 男性 / 28歳 /五流雑誌「週刊民衆」記者 職業

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■         ライター通信          ■
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はじめまして、皆様。火村 笙と申します。
この度は『自分が殺人を犯したのか 調査篇』にご参加くださり、ありがとうございました。
草間興信所初の依頼ですので、上手く書けたかどうか心配です(汗)

>来生・十四郎様
はじめまして。ご発注、ありがとうございました。
来生様には鋭い勘と自ら持つ情報でご活躍していただきました。
蛍光塗料ボールを投げつけ確認、という案は自作に持ち越しということになりました。申し訳ございません。
来生様らしさが表現されたかどうか不安ではありますが、精一杯書かせていただきました。

ご意見、ご感想等がありましたら、ご遠慮なくお申し出下さい。

次回でもお会いできることを楽しみにしつつ、これにて失礼致します。