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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


対決! 真・黒マント!

 後に黒満 透はこう語る。
「全ての始まりはあの本だった」
 学園の図書室に眠る一冊の童話。
 ある怪人と勇気ある青年との物語。
 彼はその物語に憧れた。
 そして、その登場人物に惚れこんだ。
 主人公の青年ではなく、奇天烈怪奇な怪人、黒マントに。

 ある日の朝。
 瀬名 雫は自分の下駄箱の中に不思議なものを見つける。
 決してラブレターなどではなく、果たし状。
 そして果たし状と共に一つの古びた鍵。
「何……これ?」
 怪訝な顔をしてそれを掴む。
 果たし状も鍵も何の変哲もない。フツーの紙と鍵。
 だが、果たし状の差出人を見て、雫はとても嫌な顔をした。
「黒マント、か……」
 この果たし状と鍵から、なにやら不思議の匂いを感じていたのだが、その差出人があの変人であるとなるとテンションもかなり減る。
 雫は果たし状と鍵を見やり、どうしたものか、と思案していたのだが、とりあえず中身を見てみるだけ見てみることにした。
 果たし状の内容はやはり宣戦布告。
 黒マントによるどうでもいい決意表明と、煽り文章。
 破り捨ててやろう、と思ったのだが、最後に勝負の舞台を指定した文字列に目が行った。
「『開かずの間』? 学校内にある……って書いてあるけどそんな話聞いたことないわね」
 開かずの間なんて二流三流の怪奇文句ではあるが、その手の話に詳しい雫である。
 そんなモノが身近にあるなら聞いた事がないわけがない。
「嘘かしら……。若しくは引っ掛け?」
 それを判断するために文章を読み進める。
『その扉は開く事はない。鍵がかかっているからである。
 その扉は知識を守る。知識を得るには何を見るのか。
 その鍵は魔法の鍵。それを回せば扉が開く。
 その扉は待っている。鍵を持つものが扉を開けるのを。
 その鍵は待っている。扉に近付き、歓喜に声を上げる時を』
 何だかよく判らない詩のような物。
 果たし状には他に何も書かれておらず、多分、これがヒントなのだろうと推測できる。

 無視する事も出来た。
 黒マントはどうにもウザイヤツだ。
 雫も関わりたくはなかった、が―――
「これで最後だって言ってたしね。まぁ、開かずの間探しのついでに相手してやるわよ」
 そうして今日一日の予定を立てたのである。

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 放課後。
 雫はヒミコを連れてある教室に来ていた。
「不城・鋼(ふじょう・はがね)君! このあたし、瀬名 雫がお呼びです! すぐに来なさい!」
 教室の入り口で、そう声高らかに叫ぶ。
 放課後になってすぐなので、教室を出ている生徒は少なく、そのクラスの人間はほとんど部屋の中に居た。
 勿論、今しがた雫に名指しで呼ばれた男子生徒、不城 鋼も自分の席で帰り支度をしていた。
「黒マントから果たし状よ! 早速アイツをぶっ飛ばしに行くわ! 協力して!」
 雫は果たし状と書かれた紙を掲げる。
 鋼はそれを見てものすごくでかいため息を吐き、
「またかよ……もういい加減にしろよ……」
 とぼやいた。

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「で? その開かずの間って所に黒マントが居るわけだな?」
「多分ね。だから今から開かずの間ってのを探すの。良い?」
 良い? と問われれば、どちらかと言うとヤダ、と答えたいが、この暴走列車をヒミコ一人に任せるのは心配だ。
 鋼はため息混じりに頷く。
「それにしても、果たし状とは古風だな」
「そうよね。まさか下駄箱に果たし状が入ってるとは、この雫ちゃんでもビックリしたわ」
「だけど、その決闘場所? をぼかしているのはどういうことなんだろうな?」
「あの黒マントの考える事よ? 真意を汲もうとするのが間違いよ。きっと大して意味は無いと思うわ」
 そこまで敵を馬鹿のように言うのは流石にどうかと思うが、鋼の持っている黒マントの印象も雫の言うそれとほぼ変わりない。
「そうなると、この果たし状に書いてあるヒントってのも本当かどうか怪しい所だな」
「うん……でも、全くの嘘ってワケでもないと思う」
「なんでだ?」
「前回、黒マントはヒントを出して自分を見つけて欲しいように私達を導いたじゃない?」
 前回とは雫のシャープペンが黒マントに盗まれた時の事だ。
 その時、黒マントはヒントを雫たちに与え、自分の居場所を暗に示していた。
「と言う事は、黒マントはもしかして、私たちに捕まえて欲しがってるんじゃないかしら?」
「そうかぁ? 捕まえて欲しいなら逃げないだろ?」
 これまで幾度か黒マントを追い詰めた事があったが、その度に黒マントはどうにかこうにか逃げていた。
 追いかける雫たちが黒マントの間抜けっぷりに、とことん追い詰める気が削がれたと言うのもあるが。
「追いかけっこを楽しむ歳でもないだろうしな。ちょっとは疑ってかかっても良いんじゃないか」
「そうかもしれないけど……。うぁあ! もぅ! 考えるのはまた後にする! 今は行動あるのみよ!」
 大分頭がこんがらがってきたらしい雫は、静かになった校内に響き渡る叫びを上げ、廊下を走り始めた。
「おい! 何処へ行くんだよ!?」
「とにかく学校中を走り回って怪しい所があれば徹底的に調べるわ!」
「そんな効率の悪い事をしてたらすぐに日が暮れるぞ」
 うっ、と言葉に詰まる雫。
 鋼はその計画性の無さを嘆いてため息を漏らす。
「とにかく、今はそのヒントを信じるしか無さそうだな」
「何よ、さっきは信用できない、見たいな事言ってたのに」
「それ以外に手がかりが無いんだから仕方ないだろ。まぁ、前回の事を考えれば、またどこかの部室か何処か、かとも思うが……」
「それよ! きっとまたなんたら部の部室に隠れているに違いないわ!」
 そう言って雫は部室棟の方へ走っていった。
 鋼もやれやれ、といった様子でそれを追いかけた。
 少し遅れてヒミコも。

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 実のところ、黒マントの正体はもう割れている。
 神聖都学園二年の生徒で、図書委員。
 眼鏡をかけた、大人しめと言うか若干暗いヤツだった。
 ヒマさえあれば分厚いハードカバーの小説を読み、その物語の中で生きているようなヤツだった、らしい。
 聞いただけの話なので、らしいと言う事しかわからないが。
 どう考えても黒いマントとマスクをつけて、夜な夜な辻斬りをしたり、下着泥棒をしたりするヤツではなかったらしいのだが、逆にそういうヤツが危ないという考え方もある。
「日頃のストレスが爆発した、ってことかな?」
 適当に廊下を走りながら、雫が考える。
 黒満 透の事を熟知しているわけではない。
 憶測するしかないのだが、ストレスが溜まってそれが爆発したからといって、超インドア系の黒満 透が辻斬りを実行出来るとは思えない。
 妖しげな術も使っていたが、それもちょっとやそっとで習得できるわけではないだろう。
 黒満 透が自分から起こしている事件とは思えない。
「もしかしたら別の誰かが操っている……? まさかね」
 そこまで壮大な物語とも思えない事件だ。
 誰か黒幕が居るなんて考えにくい。
「まぁ、今は開かずの間探しよ! そのついでに黒マントをとっ捕まえる!」
 開かずの間、と言う三流の怪奇文句が雫の心を躍らせる。
 三流であるがゆえにわかりやすい。
 怪奇好きの雫にこれ以上の餌は無い。もしかしたら黒マントの狙い通りに動いているのかもしれないが、それも今は関係ない。
 とりあえず、開かずの間を探したい一心で、雫は廊下を駆け巡った。

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 そんな雫が走り回っているのを、後ろから鋼とヒミコが追いかけている時、突然廊下どころか学校中に響きそうな悲鳴が聞こえる。
「な、なんだ!?」
「雫さん……では無さそうですが」
 声の質からすぐに雫でない事はわかる。
 だが、雫が走っていった方から聞こえる、となると、雫が何かしでかしたのだろうか?
 心配になって鋼とヒミコは雫の居る場所に走り出した。
 そして、雫の傍に着く頃になってもその悲鳴はなり続けていた。
「どうしたんだ?」
 鋼が雫に近づいて尋ねるが、雫もよくわからないようで、首をかしげている。
「わからない。突然悲鳴が聞こえてきて……」
 聞こえてくる悲鳴は、間違いなく雫から聞こえてくる。
 だが、どう見ても雫が悲鳴を上げているようには見えない。
「何処から聞こえてくるんだ? 見たところ、雫はスピーカーを持ってるようには見えないし、こんなアレな着メロ持ってるわけでもないだろ?」
「そりゃそうよ。でも、ホントにどこから……?」
 呟きながら、雫は自分の身体を調べる。
 すると、ポケットの中で指にぶつかるものが。
「これから……? まさか」
 雫が取り出したものは鍵。
 果たし状と一緒に下駄箱に入っていた鍵だ。
 朝に確認した時には何の変哲もない古ぼけた鍵だったが、今見ると鍵には口が付いており、それが大口を開けて悲鳴を上げている。
「か、鍵が叫んでます……」
 一歩退いて鋼の後ろに隠れながら、ヒミコが声を漏らす。嫌悪感丸出しだ。
「鍵に口がある……」
 鋼もその気味の悪い様子に、多少引き気味だ。
「コレ面白い!!」
 一人だけ喜んでいるのは雫だ。
 鍵をいろいろな角度から眺め、どんなトリックを使っているのか、と調べている。
 その内、種も仕掛けも無いマジックだと決め付け、一人で目を輝かせる。
「わかった! きっと『その鍵は待っている。扉に近付き、歓喜に声を上げる時を』ってコレのことよ!」
 果たし状に書いてあった一文を思い出して、今の状況を当てはめる。
「確かに、鍵は声を上げてるが……歓喜ってわけでもなさそうだがな」
「それに、この近くに変わった扉なんてありませんよ?」
「なによぅ、二人して水を注さないでくれる?」
 雫は鋼とヒミコの意見を無視して怪しげな扉が無いか、辺りを探し始める。
 辺りにあるのは特別教室ぐらいだ。
 化学実験室、音楽室、生徒会室、図書室。
 ……図書室?
「あ、『その扉は知識を守る。知識を得るには何を見るのか』の一文、もしかして図書室を表してるんじゃないですか?」
「それよ! でかしたヒミコちゃん!」
 嬉々として雫が図書室の扉に手をかけようとするが、その前に鋼が扉を調べる。
 すると、難なくその扉は開いてしまった。
「鍵、開いてるじゃないか。開かずの扉じゃないぜ、これ」
「な、何ですってー!?」
 慌てて雫も扉に近寄り、それを開閉する。やはり何の苦も無い。
「な、なんで開くのよ!?」
「鍵が開いてるからだろ?」
「じゃ、じゃあ一度閉めてから、また開けるってのは!?」
「……それじゃ意味無いんじゃ……?」
 ヒミコのツッコミに対する返答は、ただ無言で睨みつけるだけ。
 ヒミコはそれで肩をすくめて黙ってしまった。
「鋼ちゃん、邪魔。どいて」
 雫は強引に鋼をどかせ、扉の鍵を持っていた鍵で閉める。
「おい、それじゃ鍵が合わないんじゃないか?」
「え? 普通に合ってるよ?」
 雫の言うとおり、鍵は鍵穴に納まり、そしてグルリと回る。
 カチリと音がして、鍵が閉まった。
「マジでか……」
「よぅし、コレで閉まったわね。一応確認しておこう」
 そう言って雫が再びノブに手をかける。
 だが、その扉は再び開く。
「あ、あれ?」
「なんだ、やっぱり閉まってないじゃないか」
 鋼は雫の失敗を煽るように、図書室の中を覗いてみる。
 すると、その中は何故か異次元だった。
 目をこすってもう一度確認してみても、やはりそこは図書室ではなかった。
「な、なんだこりゃ……」
 鋼の目に映っているのは松明の明かりが頼りなく灯る洞窟だった。
 石の壁、石の天井。そこはファンタジーのロールプレイングゲームの世界ではないかと疑えるぐらいだ。
「ここ、図書室だよな?」
「そうよ? どうしたの鋼ちゃん?」
 雫もドアの影から顔を出して中を覗く。
「な、何コレ!?」
 言葉の動揺具合とは裏腹に、その目はランランと輝いている。
「ワープ? これワープ?」
「知るか……っつっても、ワープ、なんだろうな」
 そこはどう見ても図書室ではない。
 と言うことはやはり、ワープなのだろう。
「不思議なドアもあったもんだな」
 鋼が不思議そうにドアを叩く。
 それに倣うかのように、ヒミコもドアを眺める。
「二人とも! ぼーっとしてないで、さっさと奥に行くわよ!」
 鬨の声をあげるようにして雫が叫びながら洞窟に入って行ってしまった。
 仕方なく、二人もそれに続いた。

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 洞窟の中はひんやりして心地よかった。
 だが、見た目不気味さも助けて、心地いい、なんて感じる暇も無い。
「何か、出そうですね」
 ヒミコの言葉に鋼は黙ってうなずいた。
 確かに、幽霊や何かが出てもおかしくなさそうな雰囲気だ。
 だが、実際には幽霊どころかコウモリすらも出ず、何も無いのに勝手にはしゃぐ雫以外は静かなものだった。
 そして、一行は最奥にたどり着いた。

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 一本道を抜けた先は大きな部屋。
 壁には多くの松明が灯っているが、天井が暗くて見えないほどに高い。
 地面は平坦で、でこぼこはほとんど無い。
「ここが一番奥?」
 とてもとても広い部屋は何も無いように静かだ。
「そうらしいぞ。そこにヤツが居る」
 鋼が指した先に、確かに黒マントがいた。
「よく来たな。瀬名 雫、不城 鋼、影沼 ヒミコ」
 だだっ広い石の部屋にただ一人、ぽつんと。
「我輩からヒントを与えておいてなんだが、まさか本当にここまで来るとはな」
 たった一人がそこに居るだけなのに、部屋に充満する異常な妖気が黒マントを一人と感じさせない。
「ともかく、ようこそ。我が墓場へ」
 そんな台詞をはいて、黒マントはマントの下から一冊の本を取り出した。
「これは我輩の魂の器。この本がある限り『黒マント』は生き続ける」
 その本の表紙には金色の文字でタイトルが書かれてあった。
 日本語で『怪人 真っ黒マント』と。
「童話……?」
「そう。これは児童書だ。十年程前に初版が発売されたモノでね。この黒満 透が我輩と出会ったのは数年前だ」
 確固とした違和感を放置したまま、黒マントは話を続ける。
「黒満はどうやら今の自分を変えたい願望があったようでな。我輩はそのために力を貸してやったのだ。一つ条件をつけてな」
 放置された違和感でも、答えはもう出ている。
 何故、黒マントは黒満 透を他人のように話しているのか。
 それは、別の人格が黒満 透の中に出来上がっているからだろう。そして、多分その人格の名は『黒マント』。
「我輩の異能を与える代わりに、我輩の好敵手となりうるものを探し、その者と幾度無く対決をしろ、と言う条件だ」
「好敵手を見つける……それで最初の辻斬りの時あたしを『ライバルにする』なんて言ったのね……」
 強い人間ばかりに襲い掛かっていたのも、長く対決するに際して心や身体が弱ければライバルにふさわしくないからだろう。
「最初、貴女のような娘を好敵手に選んだ時はどうなる事かと思ったが、なかなかどうして強き女子よ」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「楽しかったぞ、瀬名 雫。我輩のような怪人は好敵手となる相手が居て、初めて生きる。そして相手が手ごわければ手ごわいほど物語は栄える。貴殿もだ、不城 鋼」
「俺も?」
「そうだ。思えば、貴殿は黒満が黒マントとなって日も浅い頃から瀬名 雫と共に我輩に立ちはだかってくれた。礼を言おう」
 邪魔をして礼を言われるというのも不思議なものだ。
 ……いや、立ちはだかって欲しいなら邪魔はしていないのだろうか?
 黒マントはしばらく楽しげに笑っていたが、その後に寂しげな表情を見せる。
「だが、それも今日でおしまいだ」
 黒マントがそういった瞬間、部屋の中に充満していた妖気が一瞬揺らぐ。
「我輩の正体が黒満 透であることがバレてしまった。正体がバレた怪人なぞ怪人ではない」
 今にも暴発しそうな妖気の揺らぎ。
 一般人である雫でも、その危うさに気付く。
「な、なんかヤバくない?」
「ヤバイな。すぐに逃げた方が良いかもしれない」
「そうですね……。出口までは一本道ですし、大丈夫だとは思いますが……」
 岩の壁も天井も頼りに出来そうだ。多少の衝撃では崩れないだろう。
 そうして周りの強度を確かめているうちに、黒マントが本を開く。
「この本のラストは黒マントの死で締め括られる。故に、我輩もそれに倣う」
「何を言って……?」
 雫が尋ねようとした時、妖気の揺らぎはピークに達する。
 不意にとてつもなく大きな音が聞こえたかと思うと、部屋の天井から大きめの岩が落ちてきていた。
「我輩が残した最後の力。これを使って、我輩は自害しよう」
 最初の一つが落ちて来たのを皮切りに、暗くて見えない天井から岩がどんどんと落ちて来る。
「こ、こりゃ本気でヤバイな。すぐに逃げないと俺たちまでつぶされるぞ」
「ありがちっちゃありがちだけど、こんなベタな死に方はあたしにそぐわないと思うのよね!」
「っていうか、私まだ死にたくないです!」
「じゃあ必死こいて逃げろ!」
 鋼を先頭に、三人は出口に向かって駆け出した。

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 石の通路は大して崩壊しておらず、部屋に近い所だけが多少崩れていただけで、逃げるのには苦労しなかった。
「なんか、歩いて帰っても大丈夫みたいだな」
 部屋の崩壊具合からして通路もただでは済まないと思っていたのだが、肩透かしも良い所だ。
「あ、でも、黒満さんを置いてきて良かったんでしょうか!?」
「……それも、そうね。鋼ちゃん! ついて来なさい!」
「は!? 何で俺が!?」
「ヒミコちゃんはもうすぐ出口だし、大丈夫でしょ? でもあたしはこれからあの危ない部屋に戻るのよ? 危ないじゃない」
「そりゃそうかもしれんが、そうなると俺も危ないだろうが!?」
「え、だってあたしの危機回避の為に今回参加してるんでしょ?」
「お前が強引に連れて来たような気もするけどな!?」
「気のせい気のせい。さ、行くわよ! ヒミコちゃんもあと少しだからといって気を抜いて転んだりしちゃだめよ!?」
「あ、私もついていきましょうか?」
「いや、影沼は来ない方が良いだろう。危険だしな」
「そうよ。心配しないで、ヒミコちゃんは出口で待ってなさい」
「……わ、わかりました」
 そう言って出口へ走っていくヒミコを見送り、鋼と雫は部屋へ戻っていった。

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 部屋の付近は大分崩壊が進んでいたが、中に入り込めない程度ではない。
「黒満! 黒満 透君! この雫ちゃんがお呼びなんだからすぐに出てきなさ〜い!」
 鋼が岩を砕いて雫が進みやすいように道を作る。
 何となく、雑用のように扱われているようで釈然としないが、今文句を言っていても仕方が無い。
「アイツも勝手に逃げたんじゃないのか? 答えが聞こえないぞ?」
「でも、もしかしたら残ってるかもしれないじゃない? だったら部屋の中まで入って探してみようよ」
 という雫の提案を飲んで、二人は部屋の中に入ったのだが、部屋の中はとても暗かった。
 松明が半数以上消えているらしい。
「暗くて中が見えにくいな……。どうする? まだ奥へ行ってみるか?」
「当たり前でしょ。何の為にここまで来たと思ってるのよ?」
 鋼はため息を吐いて慎重に足場を確保しながら奥へと進んだ。
 その間も崩壊は続いている。
 岩が雫をぺしゃんこにしないように気を使いながら進むのも疲れるものだ。
「ここもかなりヤバイからな。長くは居られないぞ」
「わかってる。居ないとわかったらすぐに逃げるわよ」
 そう言って雫はピョンピョン飛び跳ねて鋼の前を行く。
「オイこら! 危ないって言ってるのがわからないのかよ!?」
「わかってるって言ってるでしょ! おっとと」
 雫がバランスを崩し、体勢を立て直そうとした時、ふと岩と岩の間に人影を見た。
「あ、居た」
 雫は岩と岩の間に滑り込み、人影に近付いた。
「生き埋めになってもしらねぇぞ!?」
「そういうときの為に鋼ちゃんが居るんでしょうが」
「……ったく」
 そうは言いながらも近くを離れない辺り、鋼も放っておけないのだろう。
「ほら、黒満 透! 早く起きないとホントに生き埋めになっちゃうよ!」
「お、俺……わがはいは……」
「アンタは黒満 透。しっかりしなさい。夢と現実の区別が出来なくなると拙いと思うよ、人として」
「……俺は……変わりたかったんだ。弱い自分を棄てたかったんだ……」
「じゃあ誰かの力を借りずに、自分で変わりなさい。でも、まずは逃げなさい。ここに居たままじゃ死んじゃうわよ」
 そう言って雫は黒満を担ぐ。
「ああ、もう、ウザったいマントだな! これこそ真っ先に棄てちゃいなさいよ!」
 雫は黒満のマントを剥ぎ取り、その辺に棄てる。
 黒満が『あっ』と言って手を伸ばしかけたが、すぐにその手を引っ込めた。
 それを見て、雫は満足げに笑い、鋼に声をかける。
「鋼ちゃん! 穴をでっかくして。このままじゃ出られないわ」
「わかった。早くしろよ。もうすぐ部屋の出口も塞がっちまうからな」
 鋼が岩を砕く。

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 洞窟に入った時には夕暮れも遠かったはずなのに、外に出る頃にはドップリと夜になっていた。
「ああ、一時はどうなる事かと思ったぜ」
 鋼と雫、そして黒満は無事に外へ出る事ができた。
「黒満は……気絶してるみたいだな」
「良いんじゃない? このまま放って置いても風邪をひくぐらいでしょ。命があるだけマシってね」
 雫は疲れた、と言わんばかりに肩をほぐしている。
 ヒミコはそんなババくさい雫の様子に苦笑していた。
「でも、良かったですよ。皆さん無事で」
「まぁ、多少ヤバかったけどな」
「でもあたしのラッキーガールっぷりで助かったのよね」
「どう見ても、俺が身体張ってた気がするけどな」
 三人で疲れたように笑った。

「これで、終わりなんですかね?」
「そうだろ。あの本が黒マントの魂の器って言ってたしな。あの本は今頃あの洞窟の中で岩と心中だ」
「じゃあこれ以上、黒いマントを羽織った変態は現れないってことよね?」
「多分、な」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2239 / 不城・鋼 (ふじょう・はがね) / 男性 / 17歳 / 元総番(現在普通の高校生)】

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■         ライター通信          ■
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 不城 鋼様、黒マント騒動において皆勤賞おめでとうございます、そしてありがとうございます! 『貴方に最大級の感謝を!』ピコかめです。

 これで一応黒マントの話は終わりです。
 全てのシナリオにご参加くださり、本当にありがとうございます。泣くほど嬉しいです。マジで。
 俺は『はがねん』の名を心に深く刻むでしょう。
 連作の体を成してなかった中途半端な単発シナリオでしたが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
 では、気が向きましたらまたよろしくお願いします!