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<東京怪談・PCゲームノベル>


-ドッグファイト- 通常要撃戦闘

 
■LIVING LOVING MAID?


 東京防霊空軍は性格上、夜戦隊だ。
 夜間の警戒・索敵、そして戦闘。
 泰蔵もサキも朝日に眠り午後に目覚める。
 起きれば調整整備、空図確認、指揮所『シュヴィンデルト』SCS点検、エトセトラ、エトセトラ。
 どうしたってパンやシリアルといった味気ないものをかっこんでから作業に入ることになる――のだが、少しだけ昔の話。
 『彼女』がくるようになってからだ。
「こんにちは〜」
 リボンと黒髪のコントラストが戸口をひょいと覗き込んだかと思えば、フリルを揺らして慣れた足取りで基地内に入ってくる。
 その『彼女』。
「む? おう、祐子さん、おはよう」
「……おはようございます」
 天候確認のファイルからちらりと瞳を上げすぐにもどし、サキもぽそりと挨拶する。
「ふふ、サキさん、泰蔵さん、もうそろそろ夕方ですよ?」
 以前と別物のように磨かれたテーブルに荷物をおきながら、祐子は微笑う。
「そうじゃったそうじゃった、昼夜逆に慣れとるから、ついな」
 もはや基地日常の一枚絵に溶け込んでいる感の祐子である。
「ん、その包みはなんじゃ?」
 泰蔵がひときわ大きなテーブル上のそれに眼をとめる。
 祐子が連日のように入り浸るようになってから冷蔵庫は生鮮食料品でいっぱいだし、さらには対空爆扉の向こう、兵食貯蓄の地下冷暗庫までも食前食後酒もろもろでいっぱいなのだ。
 食材といった見た目ではない。
「これはですねー。以前ティーのレシピをいただいたお礼をサキさんにと思いまして」
「ほう」
「別に。あれぐらいで……」
 といいつつも嬉しさは隠せないか、眼はちらちら虚空とテーブル上を往復している。
「わざわざのご好意なんじゃ、素直にうければよかろうよ」
「そうですよ、サキさんなら絶対似合いますっ。正規服のカッターばかりじゃもったいないですよ〜」
「……はあ」
「似合う? ということはあれか」
「はいっ、お洋服です」
「服、ですか」
「よかったじゃないか、着替えは地上要員待機室がよかろう」
「しかし、2分後をもって準弐級対空警戒……」
「変更通達、対空警戒移行は15分後。バルーンのみ先行してワシが飛ばす
「でも今日はその、上空に低気圧がかなり……」
「復唱不要、命令じゃ」
「……了解……」
「決まりですね〜。じゃ、行きましょう行きましょう、私手伝いますっ」
「え、あの」
 ひきずられるように、というより文字通り祐子の細腕怪力にひきずられていく。
「あ、泰蔵さん、覗きはだめですよ〜っ」
「せんわぃ!」
 無機的なほど情報管理に長け電子を友人にしているような姪だが普通なら淡い恋もする年頃。ワシもそういう配慮が足りんか――そう思案しつつ、泰蔵は苦さが急に増したように感じるコーヒーを啜り、シガリロに火をつけた。
「ふうむ……」
 彼女には自分からこそ礼を言うべきかもな、そう思い苦笑する。
「――にしても長いな」
 そう思った矢先二人が戻る。
「じゃーん、どうですかぁ私のチョイス」
「ほう」
 黒のインナーにセピアピンク、控えめにレース装飾のワンピース。銀髪と赤銅の瞳にはよくはまっている。
 当のサキは祐子の後ろに隠れるようにしているが。
「でしょう? よく似合ってますよ〜。ほら笑顔、笑顔ですよっ」
「……その、はあ」
 どう喜んでいいかわからない、といったところなのだろう。
「しかし肩幅ウエストぴたりじゃな、ようできたもんじゃ。……ちょっと露出度高めじゃが」
「うふふ、持つべきものは良い家主と良い友人ですよ、実はこちらに通いながら」
 途端に、全員に沈黙が降りる。
 彼らの饒舌を受け継いでいるのは、警報――。
 サキが既に指揮所へ駆けていた。


■INTRUDING HIGH

「祐子ちゃんも変わった知り合いにはことかかないよねぇ、ほんと。……なんていったら私もそうなっちゃうなぁ」
 隠岐・明日菜は祐子について一緒に基地へ入ったのち、別行動をとっている。
 正面から堂々と入場。
 サキにも泰蔵にも気付かれず、である。
 窓だの裏口だの、シロウトの通る道はいかない。
 ハイド・アンド・アクトのプロである彼女には当然かつ常識。
「セキュリティの穴ほど警戒されてる場所はないってね」
 余裕の微笑を浮かべつつ、鼻歌まじりに小型端末を操作。
「ん。格納庫はあっちだね」
 事前に適当な軍事衛星をハックして得ている情報だ。
 今頃大騒ぎだろう、『ちょっと借りるねっ』とのキスマークつきメッセージが衛星の軌道コントロールルームをうめ尽くしているのだから。
 もっとも置き土産は残しても、足跡を残すヘマはしない。
 淡く光る画面から眼も離さず無造作に、携帯電話をいじりながら公園でも散歩しているように――彼女はカメラとセンサーの死角を悠々といく。
「Gut。みつけた」
 金髪をかきあげ顔をあげると、`一応`は電子ロックつきのハンガー入り口が目の前だ。
「まあ、一応は、だけど」
 自慢のノートPC起動。
 ジャックを電子ロックに差し込んだ。
「さて、お手製パスクラッカー、ゲーエン♪」
 ハックはこの数秒間がたまらない。
自分の技量で開いて当たり前、そんなことは重々承知。
 それでもやはり独特の高鳴りが胸で踊る。
「さーてっ、何秒もってくれるかな……って。開いちゃったよ。安いロジックつかってるな〜」
 易々と入り込めたのがむしろ不満げという口調。
 踏み込むと、牽引車と戦闘機がペアでずらりだ。
「ヒュー、壮観。ま、軍とはいえ対人じゃないもんね。セキュリティはこんなもんか。さーて、あれからいくかな」
 整備用コンソールのジャックがコクピットにつなぎっ放しの一機。
「たすかるぅ〜。アナログコピーだと、読むのめんどくさいもん」
 機体仕様を知るのにハックスキルがそのまま使えるということだ、そのままコンソールにマイノートを繋ぐ。
「ん……暗号化なし?」
 強引にログインしたわりに無防備だ。
 妙な予感が走る。
「いや気のせい、か。まさかね。よし、ビンゴ」
 整備記録、各種素材、機体及び武装仕様、さらにさかのぼれば設計思想の走り書きまでアクセスできた。
 ながれる数値と文字の滝を、明日菜はひとつのゼロも見失わず読み取っていく。
「へーえ。んでもって〜と、私的にはやっぱこれだ」
 空力データを見尽くして、動力源。
 エンジン仕様へアクセス――

・TISAF戦術戦闘機の主任務は要撃戦闘である。超音速巡航性能及びに高機動性能を保障した上で各搭乗者の特殊能力を引き出す必要上、機体にはユニット換装可能の灼魂型機関を搭載する
・推力及び単発、双発の選択は各機戦術特性と静的安定マージンにあわせ固定配備する
・吸気・排気口は二次元形状、標準仕様として各コントローラにより断面積を自動可変させる

「なーんか、肝心のところ書いてないなぁ」
 もう一階層深く潜ってみるか、とキーを叩いた矢先。
 数値が突然逆転、逆流しはじめた。
「ちょ、ちょっと!? これってば」
 無差別攻撃性ファイアウォール――アクセスブロックに留まらず、侵入者に膨大な過負荷ゴミパケットを叩き込み端末の物理的オーバーヒートを狙う防壁。
「なんで急にこんなんでてくんのーっ!?」
 明日菜は急いでジャックを引き抜き、事無きを得る。
「あっぶないな。もぉ」
 並みの端末ならとっくに黒煙をあげているだろう。
「ふぅ、実用化してるなんてねぇ、どうも灼魂機関に関する情報は――」
「おや、さがしものかな?」
 背後から野太い声。
 祐子から聞いた、ここの指揮のおじさんだろう。
(うげ。みっかっちった?)
 反射に近いスピードでアクセスログを消しつつ。
「あ! どもー。私、祐子ちゃんの友人で隠岐明日菜でっす。ついつい飛行機って珍しくて」
 振り返りざま自分でも結構イケてると思う薄目の微笑。
「すいません、そんで挨拶おくれちゃって。高月さんですよねっ」
「そうだが……ふむ」
 ムズカシイ顔。
(ありゃ、やっぱ露骨だったかなぁ?)
「うーむ、むむむ」
「あー。それでえーと。手ぶらもなんなんでこれ。日本酒お好きですか? 結構レアなやつですよぉ」
 沈黙……。
「ぬうおおお!」
「きゃ、うわ、え!? なんですかその咆哮、ちょっと、」
「悔しい! 普段ならどれだけワシの機体を自慢できたことか」
「なんだ……そういう叫びね……。ていうか私の話、聞いてました?」
 同時にIQ250の彼女の頭脳を予感が走る。
 普段なら。 
 つまり今は普段、通常ではない。
「折悪しく敵襲じゃ。待機要員が祐子さんしかおらん」
「でも、祐子ちゃんなら大丈夫でしょ、きっと」
「ワシもそう思うんじゃが、やつら、低気圧内に隠れながらきおった。祐子さんとはいえ目視では補足しにくい」
「生身だもんねー。死角が増えるってこと?」
「うむ」
「じゃ、私いいモノもってきてるよ。とんでっちゃわないうちに届けなきゃ」
「詳細聞く暇はないが助かるの。よし、いくぞい」
 タキシングウェイへ走る二人。
「ところで明日菜さんじゃったか、マシンは無事だったか?」
「……カスタマイズしてあるから、余裕も余裕だね(……なかなか狸だこのじいさん…)」


■Aegis without Manual

 明日菜が追いついたとき、祐子はすでに魔剣と預言書を手にしていた。
「ま、まって! ――間に合ったぁ。祐子ちゃん、これ」
「あれ、どこにいたんですか。ん、ん?」
 自分になにかマフラー状の布をかけ朱珠と銀鎖で固定する明日菜を、さすがに不思議そうに見ている。
「これね、起動すれば物理無効の球状フィールドが張れるからさ。んで、こっちの赤いのが情報集積体かつAIコアね」
<<こちら『シュヴィンデルト』、敵第一波が無人偵察機弐番を破壊。第一要撃ライン到達まで約115秒>>
「ぬう、まずいのう。第一ラインが間に合わんとすれば第二まで下げねばならんのじゃが遅滞防御要撃でラインを一本失うのはかなり痛いといわざるを」
「あーもう、お願いだからちょ〜と、だけおじさん黙ってて! ……えっと早い話が起動ワードさえ言えば後はうまいこと動くからそれで」
<<第一要撃ラインへの先行到達時間、限界。各警戒・対空設備、第二ラインへシフト中>>
「あれ? んー、なんか急がないとやばそう? ですねぇ」
「やばいというか。やばいのぉ」
「だからせめて、起動ワード……」
「よーし、祐子、今日もがんばりま〜すっ」
「おう、無茶だけはせんのじゃぞ」
「もー誰かちゃんと聞いてってば! 祐子ちゃん、その起動ワードがさ」
 しかし祐子はディスロートを構えると、赤い煌きを名残に、高き闇へ吸い込まれていく。
「か、肝心なとこなのにぃ〜〜!」
 とはいえその叫びが音速を超えている祐子にとどくわけもなく――


■ MELT, IN MY RAINS

「なんだか霞がかかってますねぇ……」
 ディスロートと夜空を翔けつ、眼下の東京を見て呟く。
「うーん、眼鏡が曇る」
 灯りのひとつひとつが絹をかぶっているようだ。
 ハンカチを取り出し片手で器用に拭う。
<<こちら『シュヴィンデルト』高月サキ。通信を相互確保。祐子機、応答どうぞ>>
「はーい、聞こえます。もうばっちり」
<<相対高度に問題なし、接敵交戦時の上方占位を確認。方位修正、0−0−6>>
「えーと? 0が正面ですね」
<<ええ、時計の秒針3,4目盛り分、右へ進路を。上空視界、部分的に十数メートルです。注意を>>
「あ!」
<<え?>>
「あ、大丈夫です。洗濯物取り込んだかな〜って。ちゃんと取り込みました、うんうん。乾燥機、やっぱり傷みますよね」
<<は、はい……それより敵一波『モスキート』3、正面。捕捉されました>>
「は〜い、見えました!」
 言の葉終わらぬうちに、ディスロートが連なる銀月を描く。
 霧より微粒に刻まれた悪意が祐子の描いた流星上で雲散した。
「よしよしっ、いい感じですよ〜」
<<モスキート級3体、反応消失。次は……>>
「どっちですか?」
<<『ペスト』級5体。下方ですが層雲の中で動きません。捕捉されている筈です――シュヴィンデルトSTCから警告、罠です>>
「ペストってあの害虫さんですよね? ソウウン?」
<<低空に発生する霧状の雲。肉眼視が頼りのこちらの弱点をついてきた、とのSTCの回答。>>
「煙で退治できるゴキさんならいっぱい知ってるんですけど、隠れてるんですか。うーん」
<<雲にははいらないで下さい。充填反応感知。集中砲火を受けます>>
「あ……いえ簡単でした」
 預言書を構え、黒い雲を見つめる。
「換気扇と」
 業風の螺旋が祐子の周りを駆け――隠れ蓑を暴かれたペスト級がただ戸惑う。
 戸惑う間髪もなく。
「殺虫剤っ。と」
 霊子砲が降り注ぎ、彼女の言う『害虫』は破片となって墜ちていく。
「完了っ」
<<ペスト級・5体、殲滅確認。指揮官クラスの索敵中。警戒しつつ、待機>>
「は〜い」


 地上『シュヴィンデルト』内。
 各レーダーを目まぐるしく扱うサキの操作とSTCの解析がコンソールを走る無機質な駆動音。
 泰蔵はただ空図、レーダーと合成表示されたディスプレイをじっと睨んでいる。
「はー、心配したけど祐子ちゃんもやるね。なんとかなりそ」
 明日菜が大きく伸びをした。
 防御兵器の起動ワードを伝えられなかったが、通信可能な指揮所内ならまだ機会がある。
 そう考え管制室の一席にいる彼女だったが、あと一匹いるかいないかでは使う機会もなさそうだ。
「今回の指揮クラスはまあ策士というかの。単体での戦闘力はさほどないといっとるようでもある」
「もう逃げてるとかさっ」
「事例ではなくもないな」
「そっかぁ。そそ、おじさん。どうこの大吟醸。マジいけるよ?」
「ぬぬ。しかし作戦行動中……しかしまあ舐めるぐらい……」
「むしろ景気がついていいってば、絶対♪」
「むむ、しかししかし」
「――指揮官体、コンタクト――高度8000」
「動きは?」
「上昇中。高積雲の中です」
「退いたか……」
「祐子機に通知します」
「んーまだ祐子ちゃん戻らないの? のもーよ早く」
 張り詰めた空気が弾かれた様に弛緩する。

 薄く白み始めた空をつまみに、日が昇るまでの大吟醸振る舞い。
 夜戦隊始まって以来、昼間の宴が賑やかに始まる。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3670/内藤・祐子/ 女性 / 22歳 / 迷子の預言者】
【2922/隠岐・明日菜/ 女性 / 26歳 / 何でも屋】

-NPC-
【NPC3583/高月・泰蔵(たかつき・たいぞう)/男性/58歳/整備士兼指揮官】
【NPC3587/高月・サキ(たかつき・さき)/女性/16歳/航空管制オペレーター】
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■         ライター通信          ■
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 まずはお届けが遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。
 マシンが製作中データごと壊れた、とはいえ、その管理もクリエーターの責任なわけでありまして。
 重ねてお詫び申し上げます。

 余談ではありますが(もともと戦闘機対化け物で構想しましたので)
「液体溶液系攻撃の敵も用意しておくのだった」
 と後悔しておりました……(笑)
 
 あきしまいさむ 拝