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<東京怪談・PCゲームノベル>


孤高のプライド



 「忘れろ」
 首元にすっと銀の刃。それは彼、空海レキハの得手、刀。
 出会うのは、突然。
 ふと誰だったかと思った。
 目が合った瞬間に、踏み込まれて急接近。
 そして刃を向けられた。
 自分に攻撃をするには、甘い踏み込み。
 そして殺気は感じられない。
 どちらかというと、不安定な迷いといえるものを感じた。
 ノエルは微動だにせず、その場所から動くことは無く、ただただ冷たく冷たく、この不可解な行動をとる彼をユア・ノエルは見下ろした。
「忘れろ、この前のことを」
「何を、だ……話が見えない」
「惚けんな、先生から聞いた。見たんだろ?」
 だから何をだ、とノエルは思う。心当たりはあるようで、ない。
 苦々しげに舌打ちの音。
 きっと、レキハはノエルを睨みあげる。
「俺が……へろへろだった姿、見たんだろ……? それを忘れろ、と言っている」
 言われて、ノエルはそういえばと思い出す。
 そういえば、この前、そんな姿を見たような……気はする。
 正直、忘れろといわれても、本当に姿を見かけただけ。
 自分にとっては取るに足らないような事だった。
 このレキハの師であるシメイとその時会ったことを連鎖的に思い出す。
 関わるな、とずっと前に言ったくせに、シメイは何故か、このレキハに自分との接点を与えた。
 少しばかり、不愉快。
「忘れる、よな?」
 かちゃり、と刀の刃が鋭さを増すように向けられる。
 別段驚くこともなく、ノエルはその瞳をレキハに向ける。
「忘れるって、言え」
 どう答えようか。
 一番この面倒な問題を回避する良い方法をノエルは探す。
 そんなにあの弱弱しい姿を見られたのが嫌だったのか、と相手の心中を思い、そして自分に重ねてみる。
 確かに、自分がそうであったら、嫌だ。
 弱弱しい姿など他人に見せてたまるものかと思う。
 さて、どうする?
「見たものを忘れる、なんてことは俺は出来ないんだが……」
「それでも、忘れろ」
 無茶を言う。
 ノエルは面倒、と思いながら再度、言葉を紡ぐ。
「……忘れたフリをすることなら出来るな……それで満足か?」
 根本的な解決にはならないのだけれども。
 自分にできる、精一杯の善処はこれぐらいしかない。
 見たもの、映像を記憶する。それはノエルにとって当たり前過ぎる事だ。
 知らぬ前に、というよりも無意識のうちにそれは、行われる。
「……それで、いい」
「そうか、なら刀を下げろ」
 淡々と、日問うようなことだけノエルは口にする。
 心の中で整理がついていないのはわかっているが、それは自分には関係ない。
 この目の前のレキハ自身がカタをつけなければならないことだ。
 渋々、ゆっくりとレキハは刀を下ろし、ゆっくりと鞘へと収める。
 カチン、と鍔鳴りの音がした。
「……いきなり、悪かったな」
 少しばかりトーンの低い、聞き取りにくい声。
 それをレキハが言ったものだとノエルはすぐに理解する。
 そんな言葉を聞くとは、と少し驚いたがそれは表情にはでない。
 ノエルはその言葉を受け取って背を向ける。
 これ以上の長居は無用だと思ったからだ。
 かつかつと一定のリズムの足音が、響いていく。





 暗い、暗い道。
 ふと行く手に佇む者が視界に入る。
 また、面倒ごとなのかとノエルは一瞬だけ眉をひそめた。
 今度は、先ほどのレキハの師である片成シメイがにこりと笑んで、立っていた。
「すみません、レキハが……行きましたよね」
「……」
 無言でもって肯定をノエルは返す。
 すぅっと、シメイの色の違う瞳が細められた。
「教えたのは僕です」
 やっぱり思ったとおりか、とノエルは短く息を吐いた。
「どうするかな、と思って。これでレキハが成長するならよし、しなければしないで、いいんですけど……関わるなと言ってけしかけたり、ころころと考えを変えて本当に申し訳ないです」
「そう思うなら、面倒を起こすな……」
「気をつけます。でも、そうですね……まだあと一回は、波乱がありますから」
 そんなものに巻き込むな。
 きつい視線をシメイに送るものの、それは笑みでかわされたようだった。
 何をする気なのか、気になりつつも、問うてもきっと答えはしないとわかる。
「巻き込まないように善処はしますから、それでも巻き込まれたらそういう運命だったと、思ってください」
 何だそれは、こじ付けじゃないのかと思うようなことをさらりと言われる。
 ノエルはもう考えると延々とはまってしまいそうだと思い、言葉をそのまま受け取ることにした。
「しっかり善処しろ……」
「ええ、しますよ」
 くすくすっと小さく笑う声。その声を最後に気配が消える。
 しんと、静寂が響く暗闇。
 ノエルは瞳を閉じ、思う。
 頼むからこれ以上は、面倒ごとを持ち込むな、と。
 関わらないようにしても、降ってくる面倒ごと。
 次はいつくることやら。
 


 面倒ごと。
 持ってくるのは、いつも向こう。
 ユア・ノエルと片成シメイ。
 親しいのかそうでないのか。
 読まない読ませない関係、この次はどうなるのか。
 それはまだ、わからない。
 それはまだ、作っていくもの。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6254/ユア・ノエル/男性/31歳/封印士】

【NPC/片成シメイ/男性/36歳/元何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 ユア・ノエルさま

 無限関係性五話目、孤高のプライドに参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 折り返し地点もすぎて、あと二話となりました。シメイ先生はストーカーのごとくこれからも現れてくると思います(ぇー)ノエルさま、好かれております…!!そうは、そうはみえないのですけれども…!(苦悩
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!