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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


空鯨の光臨(前編)

------<オープニング>--------------------------------------

 草間がぽつり呟いた。
「む、梅雨か」
 梅雨に入ったことが鉱石ラジオから流れる。
 梅雨前線がどうこうと、雨の季節の対策などが流れた。
「カビなど心配です」
 草間零が梅雨のうっとうしさの1つを口にする。
「外出もそんなに出来ないから、退屈にはなるな。しかし、風情があるモノだぞ?」
「草間のおじちゃから、風情なんておかしい」
 座敷わらしの五月がクスクス笑っている。
「うるさい、五月。書類の分別は出来たのか?」
「もちろ〜ん」
 ぼうっとしているわけでなく、片づいた仕事の書類整理をしているのだ。
 3人は分かっている、こういう平穏な時間が何より楽しいと。

 しかし、それは梅雨の頃にやってきた。

 草間が起きて、カーテンを開ける。
 目の前にはどこかで見たようなしろい大きな生物。
「梅雨入り時期に霧雨か……」
 草間は生物を霧雨と勘違いしているようだ。
「きゅい……」
「……きゅい? って、なんだ? 窓越しから……」
「きゅいきゅい」
「いや、其れだけでは……伝わらないから、人間の言葉喋ってくれ空鯨……って空鯨か!」
 寝ぼけていた様子の草間武彦だった。
 体長おそらく30m。その巨大で空を飛ぶ鯨さんが前鰭をパタパタしてこの都会に来たのだ。

「深淵海水浴場が危機?」
 草間零が驚きを隠せない。
「人魚と海の悪魔の戦争だきゅい。悪魔倒すため手助けいるきゅい」
 窓越しから鯨さんが言う。
「おまえ神様なんだから人になるか、小型化できないのか?」
「わすれていたきゅい……きゃああああ」
 と、空鯨は可愛い、少女になって地面に落ちていった。
「かなりぼけているか、慌てているかだな……」
 草間はポリポリ頭を掻いて、助けに言った。

「海の悪魔と人魚の争いの仲介ではなく追い払うって事?」
 草間零が、お茶を出す。麦茶だ。
「そうですきゅい」
 落ちたが怪我一つ無い空鯨。落ち着くために麦茶を飲む。
「村人たち大丈夫でしょうか?」
 心配する零。
「海の悪魔達は、おそらく宿に封印している“モノ”を奪いに来て居るんだろう。其れがよく分からないが人魚と関わりがある」
 草間は考えていた。

 海の悪派は半魚人である。ありとあらゆる生物を憎む別次元の存在だったモノだ。
 元から海に関わる全生物と仲が悪い(鮫や凶暴な生き物は除く)。
 人魚達が防衛戦を貼ってくれている分、村人に被害が及んでいない。
 ただ、一番海に近い深淵の住人はどうだろうか?
「いそぐか……」
 草間は煙草を消した。
 梅雨の深淵海水浴場の危機。夏、憩いの場を守るべく。草間は立ち上がった。



〈車内〜〉
 7人近くで向かうため、レンタカーのワゴンを借りて向かう。そこで、空鯨と集まったメンバーは作戦を考えていた。事務所でゆっくり作戦を練る余裕すらなかったとも言う。人数がくるまでに、泊まりや武器などの準備をそろえるだけで一杯だったのだ。空鯨がせかしたこともある。
 集まったのは、シュライン・エマに榊船亜真知という、いつも深淵海水浴場に遊びに行く者と、施祇刹利、アリス・ルシファールだった。そこで草間と零、五月に空鯨である。少女のままで一緒に乗っている。
「どうして、今頃になって襲ってきたのかしら?」
「わからないきゅい」
 シュラインの質問にしょぼくれる空鯨。守り神として失格ですきゅいと落ち込んでいるようだ。亜真知が頭を撫でる。
 亜真知は先行して向かうと言ったが、独りでは危険と言うことと、空鯨曰く、“転移する”ことは無理という。進入禁止障壁を宿、その砂浜に展開しているとか何とか。それで、一応の“被害”はないというのだが……。
「施祇が思っているような、深き者どもと違うきゅい」
「え? ちがうの? 名前からしてそうだと……」
「あっちは、異形の生物たち。星怪とかに関係する。この深淵(ふかぶち)を狙うのは人怪なのだきゅい」
 クトゥルフ神話体系のものではないという。じゃあ、いったい何なのだ? という疑問が出るわけだが。
「その辺どう違うの?」
「深き者どもは異様な磯臭さですぐ解るきゅい。私の領地でそう言う者は居ないきゅい。界境線現象的に言えば深淵海水浴場は閉ざされた世界なのだから」
 さすがに閉ざされた世界という言葉に、皆は首をかしげる。しかし、異界としての個別世界であるなら、空鯨の権限によりある程度遮断できるという。そういうことならばさらに謎は深まる。
「臭わないのか……。ああ、監視者がいれば誰がソレなのか解るって言うこと……でも、よけいに」
「もし、深き者がいるなら、友好的な人魚も知的な魚も住んでいないですね……」
 亜真知は考える。
 つまり、敵対種として危険性は謎だが……。
「ああ、背景はどうでもいい! 俺のバカンス先がめちゃくちゃになることだけが気にいらん!」
 と、草間が言った。
 そんな深く考える必要もない! そんな意図も込められていた草間の台詞だった。
 半魚人にしても種類があるということだ。ただ、それだけである。
「でも、前に宿には何か封印しているって言ってなかった? それ目当て?」
 過去のことをもいだし、シュラインが空鯨に訊く。
「多分そうかもしれないきゅい」
「なんなんだ? それ?」
「聖遺物か何か、海魔神の封印像とおもうきゅい。青波に訊けばさらにわかるきゅい」
 青波というのは深淵の女将をしている若い少女だ。ほかに夏江とその妹が仲居としている。
「神様のくせに忘れたの?」
 刹利が言うと、アリスとあまりが彼を睨んだ。
 縮こまる刹利。
「封印物管理と守護は似て非なるものきゅい……」
 きゅいきゅいと泣く(鳴く)空鯨だった。
「なら……直也君が戦っている訳ね……」
「急がないとな」
 草間の運転する車はさらにスピードを上げた。


〈血の海岸〉
 何度も行っているメンバーは、ここはずっと静かな海岸だと思った。
 夏ににぎやかになるだけの……。
 しかし、今は遠くが、赤く染まっている気がする。
 夕日の色じゃない。血の色だと……。

 深淵の領地に入る。確かに、神の亜真知や平行世界の出身であるアリスには今深淵は閉ざされている空間と認識できた。確かに“転移”は出来ない。
 潮の臭いに血のにおいが染みついている。死のにおいが海を支配している。
「これはひどい」
 シュラインは眉をひそめる。気配、そして“音”で感じている。
 別に海岸に死体が上がっているわけではない。海の底奥深くで血生臭い戦いがあるのだろうか?
 幸い旅館深淵は無事のようだ。
 村人達はかなり離れたところで避難しているようだ。
「鯨様! あ、草間さん!」
 青波紅葉が水着姿、ライフジャケットとライフルを持っていた。それだけで、ここは危険だと判る。
「どこに行っていたんですか!? 心配していたんですから」
「草間に助けを求めにいっていたきゅい」
 と、青波と、空鯨が話をしている。
「無事で良かったです。そして、草間様、皆様どうも此処まできてくださってありがとうございます」
 青波は謝る。
 そこで、シュラインが、青波に尋ねる。
「出来れば、詳しく話を聞かせて欲しいのですが、まさか前に言っていた封印物の?」
 と。
「ええ、封印している“モノ”の使徒でもあります」
 彼女はそう答えた。


〈状況と作戦〉
 食堂のテーブルに地図を広げて、村人達が集まって思案している。
「空鯨様が、お帰りになりました。草間様とそのお手伝いさんを助っ人に呼びに行っていたそうです」
「おお、一時はどうなるかと……」
 と、青波が言うと村人の猛者が安堵している。
「草間です。いつもお世話になっています。……で、いきなりですが、状況の方はどうなっているんです?」
「ああ、これを見てくれない?」
 海水浴場と、さらに数キロ先も記された地図。途中に丸い印がある。人魚の神殿都市らしい。
「悪魔達はどこから来ているの?」
 シュラインは尋ねると
「海と、鯨様の祠がある崖先にある陸からも来ている」
「2方向から……困ったなぁ」
 と、着々と話は続く。
「どうして、襲われてきたのでしょうか? 封印がとけかけているとか?」
 シュラインが青波に尋ねると。
「おそらくその線が濃厚です。今も確認と術の強化は行っていますが。ほかにもあるかも」
「?」
「ここを領土とする可能性があるのです」
「何のメリットがあるのかしら?」
 首をかしげる。
「そうなると、紅葉様、封印物について詳しく教えてくださいませんか?」
 亜真知が青波に封印物について尋ねる。
 青波は海の悪魔といわれている半魚人にとって、神の使いである槍だという。それがあると、空鯨が狩られるとからしい。
「神殺しの武器ですか」
 アリスが驚いた。
「人間などでは使えないようになっています。使えるとすれば、その悪魔達だけ」
「それは手に渡ると、厄介よね……」
 シュラインが考え込む。
「空鯨が死ぬとどうなるんだ?」
 刹利が訊く。
「この深淵自体が泡となって消滅するという言い伝えになっております」
 その言葉で、皆は沈黙した。
「守らないと……」
 草間は煙草を加えて言う。
 その目は、この場ではシュラインだけが知っている別の“目”であった。
「武彦さん?」
「あれの生死に関わるって言うならなおさらだな」
 気が付けば、空鯨は居ない。
 心配になって、海に向かったのだろうか?
 かなりの時間話し合った。そして、安堵か人魚が怪我をしたという知らせなども入る。かなりあわただしくなっていた。
 亜真知が人魚の傷をいやし、シュラインが事情を尋ねる。草間と刹利は村人達の手伝いに追われる。アリスは先に人魚の都市に先行することとなった。
 そのあと、草間が言う。
「アリスと亜真知は、各自でやってくれ。しかしあまり壊すな。ああ、俺と、零、シュライン、施祇は団体で行動する。悪魔を退治するぞ」
「おお!」


〈亜真知の場合〉
「これでさらに封印できたと思います」
 と、亜真知は地下にある宝物庫のような扉にルーンのような凡字のようなモノを書いていた。
「はい、ありがとうございます」
 青波が礼を言った。
「たいへんだ。向後岬で戦いがおこった!」
「大変!」
 と、亜真知と青波は書けていく。
 向後岬は旅館に右に沿ってある所。その先には漁港がある! もしかすると、人を食い殺そうとするため方向を変えたのか!?
 鮫に乗った、緑色の鱗をまとった半魚人たちが人魚と漁船を襲っている! 手には銛で人魚を殺そうとしている!
「させない!」
 と、とっさに亜真知は飛んだ。
 星杖をかざし、自分の周りに聖なる力をまとわせる。
「滅びよ! 悪しきものども!」
 と、叫ぶ!
 空間のあらゆる所から光線が発射され、半魚人達を焼き殺していった。



〈アリスの場合〉
 彼女は神殿の方に向かっていた。亜真知には場所は聞いてはいるが、空鯨が自分をまつる祠で佇んでいた。
「どうかされました?」
「かなしいですきゅい」
「……?」
 何故“かなしい”のか?
「何故僕を殺そうとするのきゅい?」
 そう、何故殺すのか?
 この空間が滅ぶという事が得をするのだろうか?
 かなり過去になるためか、今の空鯨にその記憶がないのだろうか、アリスは考えてしまう。
「私を神殿まで連れてってくれませんか?」

 そして。海底都市の神殿まで案内される。
「狙いは、いったい何なのでしょうか?」
 と、陸でも聞いたことを尋ねる。
 しかし答えは一緒だった。深淵に眠るあのかみ殺しの槍が狙いだと。
「我々は海を、人は陸を守る使命を帯びています。空鯨様はこの空間(異界)の創造主。しかし守護者ではありません」
「なるほど。では」
 と、一息吐いてアリス表情を変える。
「私は時空管理維持局特殊執務官、アリス・ルシファール。平行世界の安定を目的としております。助力を惜しみません」
 と、言う。
「敵が現れましたが、星船の神子が一掃しております。しかしその間にもけが人が続出」
 人魚の斥候が報告にやってきた。
「連れて行ってください」
 と、アリスが言った。
「空鯨さんはこの場に残ってください!」
「きゅい!」
 アリスは、様々なサーヴァントを駆使して、人魚や村人の怪我を治しに回っていく。海については亜真知と彼女で何とかなるだろうか?


〈陸の激闘〉
 施祇刹利は前もって用意していたモノがある。ビニール袋とセラミックの刺身包丁。それでも彼には都合の良い武器だ。どんなモノであれ彼は強化できる。
「目の奥がチリチリする。早く片づけないといけない」
「怪物に対しての防衛本能ですか?」
 青波が訊く。
「多分。ほかに科学樹脂製品などありません?」
「まあ、分別処理をしているからありますけど? 夏江! 夏江!」
 青波は仲居を呼ぶ。
「はいはい〜」
 ニコニコと笑いながら割烹着姿の女性が現れた。
「あ、ビニール袋ですね。たくさんありますよぉ。まさか何か悪いことでも使うのですかぁ?」
 と。
「あ、えーっと、なんていうか。相手がそう言う人工物を嫌うかなぁって」
「なるほどぅ♪」
 
 シュラインは液体窒素のタンクを頼み、漁師に手押し車に乗せてもらっている。
 その最中に、空鯨が戻ってきた。
「あの、空鯨さん、海水などを大きな水槽などに入れてもらえないでしょうか?」
「はい、それなら簡単ですきゅい」
 と、空鯨は、湯船やらおもちゃプールなどに海水を入れていく。
 シュラインは漁師や村人に
「もし近くで人魚さん達が怪我をしてこちらに来たら、ココまで連れてきてください。治療などしたいので」
「わかった! まかせろ! 海の方に向かった嬢ちゃん達では手に負えない数だろうからな!」

 彼らの作戦はこうだ。
 脇から攻めてくる悪魔達を祠がある崖から液体窒素爆弾のようなモノを作って海自体を一部凍らせる。逃れた敵は刹利が強化した包丁で斬るか、ビニール袋にて鰓などを塞ぐというものだ。
「あ、そうだ、ビニール袋を限界まで強化して、中に液体窒素を入れよう!」
 と、刹利が言う。
 彼の能力は結構暴走しやすい。モノが確実に滅び、ほぼ無害な塵なる。のだ。
 急いでその作業が行われる。
 漁港からの進行が報告されてから、急いで台車を祠まで持っていく。当然、海上では人魚やその半魚人の戦いが見える。
 今の状態で飛び道具は使えない。流れ弾が人魚に当たるからだ。
「人魚さん逃げて! 今から凍らせるから!」
 シュラインが叫ぶ。激戦の中でも彼女の声は人魚達に届いた。
 すぐに液体窒素爆弾を投げ入れ……、猟銃を持っている村人がそれを狙って撃つ。液体が海面を覆い、化学反応や凍っていく音が聞こえてくる。そして、半魚人の絶叫。
 凍傷を負って、さらに上からの攻撃から不意打ちを食らった敵の指揮は混乱している。そこで、ダイバースーツに身を包み、モーターボートに乗った施祇が逃れようとしている半魚人の鰓などを包丁で切り裂くか、怪我をした人魚を抱きかかえて救出している。陸に上がった半魚人は、村の猛者達に取り囲まれている。
 草間も零も、簡単に半魚人を屠っていく。
 草間は、すでに愛用の銃を、零は怨霊の刀で倒していくのだった。


〈最終的に……〉
 この日の襲撃は何とか抑えた。しかし、海の被害は見るに明らかである。魚介類は死に、かなりの打撃を与えている。前には封印物に惹かれてやってくるという。それを倒しているのは、青波の兄妹。今は兄の直也も影で色々戦っていると妹の紅葉は言う。

 亜真知は空から海を見下ろす。先の方にたくさんの影……。
「どうしてここまで……今まで動かなかったというの?」
 これ以上自分の力を使うと抑止領域に浸食される……。
「亜真知先輩! アンジェラ達がオーバーワークしてしまいました!」
 アリスの方も限界になっているようだ。
「いったん草間さんの所に戻りましょう……」
「やっぱり本体を始末しないと無理?」
 刹利が言う。
 こくりと頷く救助された人魚達や紅葉。
 まだ、海の悪魔の首領が来ていない。
 消耗戦になると、厄介だ。

「機が熟したから襲ってきたの……だとすると厄介よね……」
 シュラインがむうと唸る。
「半魚人の拠点はどこにあるのか判りますか?」
 その言葉で、全員、ざわざわ騒ぎ始める。
「場所は確定できないよ。奴らは神出鬼没だ!」
 そう、どこからわいているか判らないのだ。
「ならば、俺たちで探して……見つけるしかないか」
 草間が言った。
 それに異論を唱えるモノはいるかというと、居るわけはない。今居る助っ人達は、そう言うゴタゴタを解決している猛者達だ。
「僕も行くきゅい……」
 空鯨が言った。
「なぜ、襲うのか、争うのか、それがわからないきゅい……」
 と。

 それもある。
 そして、この平和な海を助けなければならないと、この場にいる者は思っていた。

後半に続く


■登場人物
【0086シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【4239 水無瀬・燐 13 女 中学生】
【6047 アリス・ルシファール 13 女 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】


■ライター通信
 滝照直樹です
 『空鯨の降臨(前)』に参加していただきましてありがとうございます。
 色々「何故?」はのこっている状態ですが後半にて明らかになるかもしれません。
 後半は最終戦に、後日談。そして、深淵海水浴場と空鯨、海の悪魔の関係について少しかそれ以上判る感じになります。ただ、どちらも旧支配者関係ではないということですが。

 ではまたの機会に。

 滝照直樹
 20060619