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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


■恐れなく知る■





 慣れない者であればその光のけばけばしさを、瞼の裏にさえ灼き付けてしまうだろう。
 頭痛さえ呼び起こすネオンが瞬き始めた街。眞宮紫苑は飄然とその只中を行く。人の間をすり抜けながら眩い視界から自然と記憶の淵を浚うように浮かぶ意識――思考に熱中するのとは別の、いうなれば視点を外に置くにも近い、そんな。
 それが向かうのは、幾年も繰り返すうちに精神の高揚を促すこともなくなった紫苑の仕事。けれどそこから始まった『契約』は意味を成さなくなった今も続いている。その、相手だ。

 藤水和紗。

 そろそろ食事が必要なはずだと考えながら器用に向かいからの通行人を避けて歩く。
 ――美しい幽玄の長生の青を幾度も塗り重ねながら一滴を混ぜた、そんな不可思議な色合いの眸の男。考えても、問うても、それをどれだけ続けてもいまだ己達の関係に明確な解を示せない相手。
 奇妙な距離で繋がり続ける和紗。彼の住居にこのまま訪ねるかと、それも当たり前の生活の一部であったので言葉として考えるまでもなく紫苑の足はそちらを目指していた。



「客か」
 勝手知ったる画房に到着したところで、行儀良く揃えられた男物の靴を目に留める。
 けれど静止は一瞬のこと。
 きちんと手入れされた清潔な靴に見覚えがあるとなれば遠慮も要らない。持ち主は和紗の確か、そう。
(絵を依頼した)
 槻島綾は紫苑自身にも多少の面識はある。
 渡された原稿に目を通さずに時間を流してばかりであった和紗にちくりと言ったものだったが――後日聞けば綾の文章の素晴らしさ、いかに自らの絵を描く欲求を呼び起こすか、普段通りの声音ながら隠しきれぬ熱意のようなものを滲ませて話してくれたものだ。聞き流す紫苑にというよりも己自身に再び語りかけるような調子であったけれど、余程の文だったのだなという認識は紫苑にもされた。

 その槻島綾が訪れているのであれば絵の打ち合わせか。さて出版はされていただろうか。
 和紗の絵を当たり前のように画房で目にしている紫苑は、あるいは新しい出版でもあるのか、はたまた無関係な用事であるのか、その辺りもさほど熱心には考えずに遊月画房に足を踏み入れた。
 そして当然ながら目指す相手のいるだろう一室に向かい、和室独特の香を思わせる空気を感じつつ――

「思った通りだな」
「眞宮さ〜ん!」

 槻島さん。
 続けようとした紫苑は言葉を呑むと、振り返った綾の涙混じりかといった風の途方に暮れた声を聞いた。


 ** *** *


 ――少しだけ、時間を戻そう。
 それは眞宮紫苑が装いを変えつつある時刻の街中を歩き、その光の賑やかさ藤水和紗との出逢いを脳裏に甦らせていたころから大きくは遡らない。 


「和紗君。槻島です」
 主の纏う空気を映してかその方形の画房はどこまでもひそやかだ。
 そこに親しい者の気安さを見せて声を上げつつ靴を脱いで上がりこむ。行儀良くそれを揃えてから槻島綾は再度「和紗君」と呼びかけた。
 周囲に遮るけたたましさがない空間で、彼の声はよく通った。
 ややあって「槻島」と和紗の声が返ってきたのは奥の二間続きの部屋からだろうか。
 お邪魔します、と改めて言いながら廊下を歩く。同時に首を傾げたのは和紗の返事に微妙な感覚の違いがあったからだ。
 まるで眞宮紫苑のような語調、というのか。
 普段の丁寧な言葉遣いと声の勢いが違う、そもそも和紗が綾を姓で呼ぶのはこういった私的な場所でではなくて。違う、なによりも「槻島」と呼び捨てるなんて。
 別に、呼び方は集中していれば違うこともあるだろう。
 だから声の調子が綾に違和感を覚えさせた理由だったのかもしれないが、大人の男の歩幅だ。すぐに目指す部屋へと辿り着いた。
「こんばんは、和紗君」
 そもそも綾は小さな引っ掛かりだけで親友相手に警戒だとかをするような人間ではない。違和感は廊下を歩く間にどこぞに失せてしまっていたので、普段の通りに穏やかに微笑みながらその部屋に顔を覗かせた。
「美味しい和菓子屋さんを見つけたんですよ。折角だから和紗君もどうかと――」
 同時に片手に下げた小さな紙袋を掲げてみせた綾。
 その腕が中途半端な位置で止まり、深い淵色の黒瞳が少年のように大きく広がり瞬いた。数度、不思議そうに。
「……和紗君?」
 探る色を微かに含んだ綾の声。
 向かい合う輪郭さえ危うい細さを覗かせる青年――和紗が「どうした」と何気ない様子で問い返す。
 どうした、と。
 その声を聞いてその姿を見てその眸を見て、瞬間に綾の肌が粟立った。恐怖ではなく、何か奇妙な快さに浸かるような、けれどどこかとろりと重い。そんな感覚。
 動く気配なく部屋の奥でただ座っている和紗の姿。
 もとより独特の雰囲気を持つ人物ではあるが、今のこの様はどうだろうか。この建物のこの階の、そこかしこにある彼の描いた夜の世界が姿を持ったそんな様子は。
「和紗君」
 もう一度、今度は相手を確かめるように。
 なんだと応えた声はまさしく和紗のそれだったけれど、綾は表情を硬くして相手を見据えた。

 違う。自分の知る和紗はこんな風には。

「……君は誰ですか!?」
 別人であるのか、だとして本物はどこにいるのか、それは不安を呼ぶ疑問だ。綾が語尾を強く問う。
 日常の彼からは想像も難しい淵色の瞳をしかし和紗は美しい流線形の笑みを描いて受け流している。動じる様子はない。
「俺は俺だ」
 悠々と、幻想さながらの面差しのまま。
「寝惚けてるのか、槻島」
 上品な色の小さな紙袋。
 それが綾の手に力が篭ったことを教える様子でがさりと一度揺れる。
 とろとろとそれは危うい声だ。
 幽玄の中で人を誘う人外の――けれど和紗は、和紗は確かに綾も知る通りに人外という言葉に含むことの可能な存在ではあるがけして緊張を呼ぶ者ではなかった。綾にとってはとても大切な親友なのに、今のこの様はどうしたことか。
 目の前の和紗の在り様が彼の本性だという発想は、そもそも綾の中には存在しない。では他にどんな可能性がある。別人ではないのだとしたら、目の前のこの姿が本人だとしたら。
「憑依……」
 ぽつと唇を割った言葉は和紗にも聞こえたのだろう。
 吐息ほどの笑い声をひとつ咽喉から押し出した。
 それさえも危うく妖しく美しく静謐な聖所とも墓所ともつかぬ気配の――たとい同じ人外であっても綾の知る和紗では有り得なかった。

 恐ろしくなる。
 ただ恐ろしくなる。
 己の危険ゆえではなく、心許す相手が尋常ではない何かを被っていることが恐ろしくなる。自らに親友を救う為の術が浮かばないことが恐ろしくなる。

 けれど、けれどなんとか和紗を。
 頬の耳近くが緊張して綾が和紗を見る。視界に映る夜の絵に棲まうが如き青年が、あらぬ方へと――玄関の方角であったが向けたのには、その緊張の中の思考に見えても意識されなかった。

 糸が張り詰めていく。
 ぴりぴりと鋭く伸びていく。


「思った通りだな」
 と、眞宮紫苑が声をかけたのは、そういった頃合のことだったのである。
 背後から突如かけられた低い声――綾は別段周囲を警戒する職ではないのだ。そこに常ならぬ友人への心配なりがあれば気付かれぬ間に行う類の職の紫苑に気付かずともおかしくはない――に首近くから跳ね上げた肩。それが下りるよりも早く綾は振り返った。
「眞宮さ〜ん!」
 上げた声は後々思い返すに力の抜ける情けないものであったけれど、このときの綾には意識の外だ。
 驚愕の後に聞き覚えのあった声の主、彼と和紗の親密さを即座に思い至ってはっしと紫苑にしがみつく。いや、これはもう縋り付くといってもよかった。紙袋を放り出さずきちんと握ったままであるのがなんとはなし緊張感を削ぐような。
「どうしたんだ……あんた泣きそうだぞ」
「か、和紗君が、和紗君が……!」
「和紗がどうかしたか」
 縋りつく成人男性一人をそのままに身体を僅かに傾ける辺りは細身ながらに鍛えられていることも明らかだ。
 綾のさらりと揺れる黒髪の向こうを覗い見る。確かに和紗はいるが紫苑には何も変わった様子には見えない。独特の空気も普段と同じではなかろうか。
「和紗君が……こ、壊れたんです」
 三度、画房の主の名を繰り返してから綾はようようそれを告げた。壊れた、とそのまま復唱しながら紫苑は再度視線を和紗へ。
 もの問いたげな色も僅かに刷いた眼差しに、性差の曖昧な美しい面を愉快そうに動かして和紗は軽く頭を傾けて笑んで見せた。
「これが地だ。槻島も何をいっているのだか」
「違います、いつもの和紗君ではないですよ!」
「落ち着け槻島さん」
 通じているようで通じていない会話に、紫苑は綾の肩を押して退けると平然とした素振りは変わらずに和紗へ歩み寄る。
「何かに憑依」
「そうじゃない」
 憑依されている可能性が、と言いかけた綾の前。
 笑みを湛えて見る和紗の前から素早く背後に回ると紫苑は腕を何気ない風に振り上げて――落とした。

 ごつん、と響いた一つの音。

 言いかけて開いた口もそのままに綾は呆然と眼前の、頭を景気良く殴られて前屈みになる和紗と殴った犯人である紫苑を見る。
 ぱくりと魚のように一度唇を開閉させてから改めて閉じて。
「……あの」
「腹減り過ぎてるだけだろ。殴りゃ直る」
「直るって」
 ああ、と中途半端に返しつつ紫苑は頭を押さえて悶える和紗の傍に膝をつくと自らの襟元に手を伸ばした。元からきちんとしめてはいなかったシャツを広げて咽喉を晒すと和紗の肩に手をかける。
「流石にこの状態は初めて見たんだな、あんた」
 言いながら髪の流れ落ちる様も美しいばかりの青年の面を自分に向けた。その顔近くに咽喉を寄せて更にシャツを寛げていく紫苑の行動を綾は困惑を伴って見守っているばかりだ。
「こっちの食事まで忘れてどうするんだ和紗」
「――え」


 そこで、伸びた白く細く優美な腕。
 絡まる先は呼びかけた男の首。
 伏していた面が月を呑んだ以上に瞬く眸でその顔を見る。
 色もなく向こう側さえ透けて見えそうな和紗の横顔の中の唇がそろりと緩やかに開かれてそれが閨での如き親しさを添えて紫苑の肌に触れて。

 何かが貫く微かな音は幻聴だろうか。
 途切れ途切れの細い音は何を啜っているのだろうか。
 鼻腔を擽る一欠片の匂いはそれは。


「和紗君――」
 これが、キミの種族、なんですか。
 人の内を流れる赤い生を糧とする夜に棲まう者。
 吸血鬼、それは容易く至る解答だった。
 紙袋を提げて立ち尽くす綾の眼前で広がる光景。かろうじて見える和紗の陶然とした表情と少しだけ眉を寄せている紫苑。紫苑の腕が宥めるように愛おしむようにただ当たり前の温もりを与えるように意図などないようにけれど捕らえるように、幾らでも読み取れる腕一本の動きが和紗の頭を自ら咽喉に。
 心許し安らげる親友の姿。
 初めて見る彼の『食事』を沈黙のまま瞳に映し続けてどれほど経ったのか。針の音もなにも聞こえなかった。けれどきっと思う程には経っていない。
「ここまでだ、和紗」
 繰り返す行為の時間は把握している。
 今日は和紗が飢えていただけあって多少勢いが良かったらしく幾分早い。
 酔いに任せた風な瞳の中にも本来の和紗が持つ色が戻ったのを見て取って、紫苑はごく軽く抱えた腕で相手を叩いた。ぱちとまばたきの音を立てて青年は視線を上げる。
「しお、ん……そうか、俺は」
「大方集中し過ぎた挙句にこっちも無しだったんだろ」
「そんなところです」
 親しい人間以外の訪問ををなるべく断って筆を運ぶ間に、といったところか。流石に吸血行為の機会まで忘れることはなかろうと思っていたけれど、完成した絵をためつすがめつする間に限界を超えてしまった。
「飢え過ぎておかしくなる前にちゃんと摂れよ」
「注意はしているんですが、描き始めるとどうにも」
 苦笑して食料提供者の言葉に応じてから、はたと髪を整えかけた腕を和紗は止める。紫苑、から血は貰ったが何か記憶に。
「余分にやりたいところだが、これ以上は無理だからな」
「そりゃ、そうでしょうね」
 何か、違う誰か。
 この人が来る前に。
「足りないなら、あっちに分けて貰え」
 飢えが過ぎて豹変といっていい状態だった記憶を辿る。
 その和紗が探す解答を紫苑が先に、示して、その先には。


 背後。
 自分の後ろ。
 紫苑が指差す先に立ち尽くす青年。

「……綾さん……」

 それは和紗に真昼の世界を見せる友人。
 競い合うべき素晴らしい文章の、絵を描き心底から思わせる、その穏やかに微笑み合うことのできる、人。

 槻島綾が、それはきっと手土産だろう小さくて品の良い色合いの紙袋を提げて、顔は、困り果てたような不安そうな戸惑ったような考えをまとめているのかと探りたいその深く濃い黒とも緑ともつかぬ瞳。配されている面立ちの肌色は今はあまりにも青く血の気がない。

 紫苑の肩にまだ触れたままだった繊細な線を引く指が、き、と力を入れた。


 ** *** *


 藤水和紗が人ならぬ存在であることは、最も親密だろう友人関係の槻島綾が承知していると眞宮紫苑は考えていたのだ。そこには当然ながら『吸血鬼である』という事実も含まれていた。
「和紗。どうした」
 しかしこれはどうしたことか。
 振り返り青い瞳を見開いた和紗。いまだ触れたままだった腕の先、細い指先に力が入って肌を押さえる感覚に訝しく瞳を眇める。
「紫苑」
 微かな震えさえ伴って和紗が呼ぶ。
 一気に失った血液の量は尋常ではない。かろうじて動ける程度にまで減少したおかげで妙にぼんやりとした気分が紫苑を包む。
 それでも「なんだ」と返せば振り返ったままだった和紗の瞳がきりと紫苑に注がれ、すぐに力なく伏せられた。
 ひそやかに唇が動く。
「吸え……ません、よ」
 だって、それは行為の後の和紗による記憶操作を意味するのだ。
 友人の血を吸って記憶を奪って――繰り返しても成功しないのは紫苑だけだ。だのに綾の血を吸うことなど出来るものか。
 さわと庭の草木が夜風に揺れる音を和紗の耳が拾う。
 一度視線を外せば綾を見るのは恐ろしかった。
 青褪めた顔に広がるのは恐怖か嫌悪か。人ではないと承知して尚親しくしてくれる彼だけれどそれでも、知己の血を友人が吸う場面を見て変わらずに微笑んでくれるのか。
 動く気配のない彼に再び瞳を向けることが、出来ない。
 そんな和紗の目が紫苑を睨む。
 吸血鬼であることをどうやら綾は知らなかったらしい、と紫苑もこの流れで気付いていた。人外の者であることは承知していたようだが、と青褪めてはいてもそこに恐れの類は見えない綾を眺めて考え。
「和紗」
 視線を戻そうとしない青年は気づかないまま紫苑を睨んでくる。
 その声を促しと取ったか和紗は再度、出来ません、と細く応えた。
「無理です、吸えるはずがない」

「え、僕の血って美味しくないですか?」

「――は」
 そこでぽんと置かれた声とその内容に和紗が目をぱちと、長い睫毛を動かしてまばたく。紫苑も彼と重なるようにまばたきを一度しながら視線は綾を。
 綾さん?と和紗が呼ばわりながらようやく振り返る。
「あの、綾さん……俺は」
「やっぱり好き嫌いってあるんですね。お腹が空いても協力出来なくて残念ですけど」
「……槻島さん。和紗が吸血鬼ってのは今知ったんだよな」
「ええ、だから凄く不安で……和紗君、眞宮さんの血を吸った後も辛そうだったから」
 まだ少し綾の顔色は良くないけれど、表情は柔らかく普段の彼のもの。
 そうだお土産を、と今更に紙袋を掲げ直して笑う姿に和紗も紫苑も笑みを誘われる。
「でも本当に足りてますか?僕の血が無理なら、眞宮さん、ケチらないで多めにあげて下さいよ。まだ大丈夫でしょう?」
 勝手知ったる親友の家。というか画房。
 すぐ食べますか、冷やし気味が美味しいんですよ、と言う合間のその発言に二人の笑みは苦笑に変わった。
「少し位動けなくてもいいですよね。まだ和紗君の方が辛そうですし」
 そして続く容赦のない言葉。
 苦笑を通り越してなにやら遠い目で綾の向こう側を見る紫苑。
 彼の肩に触れたまま緊張を示していた指先の力は抜けている。
「そうくるか」
 少しだけ上から聞こえた呟きに、仄かに唇を緩めて微苦笑のまま和紗は身を起こして改めて綾に身体ごと向き直った。
「もう大丈夫ですよ綾さん」
「そうですか?やっぱり好みの味じゃなくても僕の血も」
「いえ、本当に充分です」
 ひたと合わせる視線の先で、深い淵を思わせる彼の黒とも緑ともつかぬ濃い眸にあるのは純粋な気遣い。和紗の体調を慮っている色。
 その穏やかで優しいばかりの瞳に自らの、宵闇の色を映した瞳を返して和紗は静かに立ち上がると彼に手を差し出した。
 背後の紫苑はいつもの通り、動かずにそのまま休んでいる。
「出迎えが遅くなりましたが――いらっしゃい」
 綾の血を吸わぬ理由も話そうか。
 今も和紗の調子を見るようにして立っている綾へ向かいながらただ考える。
 どう、説明しよう。習慣について、どこまで説明しよう。
「はい、お邪魔します和紗君」
 笑って応じてくれる綾。
 では茶の用意をと手土産を受け取って歩き出す和紗の背に、紫苑と綾の遣り取りが伸びてきて擽った。

「見た目以上に血はやってるぞ」
「そうなんですか?まだ顔色は和紗君よりも良いみたいですけど」
「失血寸前だ」
「あ、じゃあ元から血色が良くて」
「あんたな……」

 ぷ、と思わず吹き出した音は幸い二人には届かなかったらしい。
 続く会話を聞きながら風を通して開けていた障子越しに外を見る。
 和紗の描く、和紗が映す、静謐な色はそこに広がっていた。





end.