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アルバイトの彼女
「聞きましたか? 編集長」
アルバイトの桂が碇編集長に声をかける。
「何を?」
「この間バイトに入った東海林〔しょうじ〕ですが」
「ああ、あのなかなか使える男の子ね。あの子が?」
「東海林の彼女、幽霊みたいなんですよ」
麗香の手から、書類がばさばさと落ちる。
その手がわなわなと震えて、
「な……なんですって……!」
「たまに見るやつがいるんです。彼女の足がなかったとか、変な目撃をするやつが」
「それは大スクープじゃないの!」
バン! と麗香はデスクを叩いた。瞳がきらきらと輝いた。
「至急、その真相を確かめるのよ、三下!」
「ええええ僕がですかあああ!?」
突然声をかけられた三下忠雄は、震える声を出して、
「何で僕なんですかあ……」
とぽつぽつとつぶやいた。
**********
五代真は、話を聞いてぽりぽりとこめかみをかいた。
「東海林って人の彼女が幽霊だって……?」
「そうなんですよう」
目の前にはどんより影を背負った三下がいる。
真は明るい声で、
「いいじゃん、幽霊でも彼女がいれば」
「ええええええ!?」
「で、その彼女の正体を見極めたいと。彼女いない俺が言うのもなんだけど、そっとしてやったほうがいいんでない? 彼女が突然いなくなったら、東海林さんも悲しむぜ?」
「そうは言っても、編集長はノリノリなんですよう……」
三下は頭を抱えた。
そんな三下を見ていた真は、
「三下さんが怯えてるのは毎度怪奇事件に関わっているから? それとも……嫉妬心? どっちにしても、あんたは怖がりなんだよなぁ。俺も幽霊の正体見極めるの、手伝ってやるよ」
そう言って、真は声をあげて笑った。
「感謝してくれよな」
「感謝はします! 枯れるほどにします!」
三下は悲鳴のような声をあげて、真の腕にすがった。
「正体ねぇ……」
真はあごに手をあてて考える。
「まずは、東海林さんが付き合っていた女で死んだって人を突き止めるか。家族とか友人に聞いて」
「お亡くなりになった人ですか……はいいい」
三下は極端な猫背になりながら歩き出す。真は頭の後ろで手を組んでその後ろをついていった。
東海林哲郎[てつろう]。それが問題のアルバイトの青年の名だ。
現在十九歳。明るくハキハキしていて、働き者で……何の問題もないように思える。
「僕からしてみれば、憧れですよ……」
いつもドジばかりしている三下はぽつりとつぶやいた。
真はその背中をどんと叩いた。
「ばっかだな。俺はそんな三下さんが好きだぜ?」
三下は驚いたように真を見る。
真はにやりと笑ってみせた。
三下の顔に、ほんの少しだけの笑みが見えた。
――三下は真に言われたとおりに、東海林の家にやってきた。
応対に出たのは、東海林の母だった。
「はい。どちら様ですか?」
「あの。月刊アトラスのものですが」
「あら!」
息子がアトラス編集部でアルバイトをしていることを知っているらしい、母親は慌てて「いつも息子がお世話になりまして」と礼をする。
「あの……息子が何かしましたか?」
心配そうな顔になる東海林の母親に、三下はぷるぷる顔を横に振って、
「東海林君はとても働き者で、編集部内でも人気者です」
と答えた。
母親がほっとしたように息をつく。
「ただなあ、東海林さんのお母さん」
真は後ろから口を出した。「ちょっとお聞きしたいんだけど、いいかい?」
「え? ええ……」
「息子さんに恋人いるの知ってる?」
「え?」
きょとんと、母親は首をかしげた。「恋人……ですか? いるんですか、哲郎に?」
うわ、しまったと真は首の後ろをかく。
まさか母親がそれを把握していないとは思わなかった。
「いや……ええと、いるっていう噂があるんだけど。何かとっても素敵な彼女らしくて。今度アトラス編集部内の特集で“かわいい恋人”ってのやるからそのための情報収集。な、三下さん?」
「へ? は、はいいいいい」
三下は真っ青な顔でそう答えた。
母親は、幸い話の分かる人間だったらしい。
「そう……あの子にも恋人が……もう十九ですものね。いて当然かもしれないわ」
知らないなんて寂しいことね、と母親はおかしそうに声をたてて笑った。
「え、ええと……ご存知ないんじゃ仕方ないっすね。もう帰りますわ」
「あら、ごめんなさいねお役に立てなくて……」
「いいいいいえ、いいんですいいんです」
三下がへこへこと頭をさげる。そして二人は東海林の母と別れた。
「参ったな。母親知らなかったとはなー」
真が首のうしろをかきながら困ったような声を出す。
「次は友人を当たるしかねえか……三下さん、東海林さんの友達把握してっか?」
「え?」
三下の返事は三拍ほど遅れた。
「し、知らない……っ!」
「うわ、最悪ーーーー!」
相談の結果、二人は再び東海林の母の元に戻り、親しい友人を紹介してもらうことにした。
高津健二[たかつ・けんじ]。東海林の無二の親友である。
大学生の彼をキャンバスで何とか見つけ出した三下と真は、早速東海林の恋人を知っているかどうか尋ねた。
「ああ知ってるぜ。アキちゃんのことだろ? これがまた美人な子でさあ」
健二は元気よくそう答えてきた。
その反応に、三下と真は顔を見合わせた。
真はおそるおそる尋ねる。
「ちょいと聞くが……あんた霊感強いか?」
「は? 霊感? 何で?」
「いや、東海林さんの今の彼女、見たことある?」
「あるに決まってんじゃん。一緒に食いに行ったこともあるぜ。アキちゃんは気もきくしいい子だ」
三下と真はもう一度顔を見合わせた。
「そ、そのときそのアキちゃんとやらに変な様子なかったか? アキちゃん自身は物を食べなかったとか――」
「何言ってんだよ。食いに行ったんだから食ったよ」
――食べ物を食べられる幽霊?
「あ、足とかは?」
「変なこと聞くなあ。アキちゃんの足綺麗だけどよ」
「……もう一度聞くけど、霊感は?」
「ほんっと変なこと聞くなあ。霊感なんかねえよ。俺一度も幽霊なんて見たことねえもん」
「東海林さんのほうは?」
「ああ、あいつは何か時々色々言うなあ……ここが危ないとかそこに近づくなとか、今話しかけられたとか。俺には全然分からんけど」
「………」
三下の足がいよいよがくがくと震え始める。
その背中をよしよしと撫でながら、
「悪いんだけど、もうひとり東海林さんの友達紹介してくんない?」
と真は言った。
緑川孝[みどりかわ・たかし]。高校生時代からの東海林の友人である。
「テツに恋人?」
孝は不思議そうな顔をした。「そんなんいるのか」
「ああああなたは知らないんですか」
三下は必死の形相で自分を保っている。
「知らないっていうか……いるって聞いたことあるけど会ったことないよ。てっきり冗談だと思ってた」
「つかぬことを聞くけど、あんた霊感はある?」
真は訊いた。ないよ、と孝は答えた。
「テツはあるらしいけどな。僕はないよ。あいつの言うことが時々分からない」
「ええと……」
真は真っ青な顔の三下の代わりに、何とか聞き込みというやつを続行しようとした。
「東海林さんの恋人で……亡くなった人とかっているか?」
「うわ、縁起でもない!」
孝は思い切り眉をひそめた。「いないよ、そんなかわいそうな人。聞かないでほしいなそんなこと」
「そ、そうだよな……すまん」
真はおとなしく謝った。
それから、健二のときと同じように、他の東海林の友人を紹介してもらって、孝とは別れることにした。
「どうなってんだー?」
次の友人に会いに行く途中で、真はぼやいていた。
「ひとりはいるし一緒に食事に行ったこともあるって言う。ひとりは会ったこともないっていう。二人とも霊感はなし。……なあ、アトラス編集部内ではどんな噂になってんだ?」
「しょ、東海林君の彼女の足がなかったとか、壁をすりぬけたとか、そういう噂です……」
「編集部に遊びに来たことがあるのかい?」
「いいえ。外で見かけたときの話ですよ」
「……アキちゃん、か……」
首の後ろで手を組んで、真はため息をついた。
「最終的には彼女に会わなきゃならねえのかなあ……」
「ひいいいいいい」
「とりあえず、三人目の友達だ。行こうぜ」
今にも腰をぬかしそうな三下を支えながら、真は前に進んだ。
音緒祐樹[おとお・ゆうき]。こちらも東海林哲郎の高校時代の友人だ。
「テツに恋人……」
仕事の休憩中に呼び出されても嫌な顔をしなかった祐樹は、三下に尋ねられたことにぴくりと反応した。
「やっぱり、そういうのがいるのか」
「あんたは知らないんだな」
「知らない。だから――テツは騙されてる!」
真はずっこけた。
「な、な!?」
「俺は弱い霊感がある。テツの横に、ぼんやりと何かが見えたことがある」
「ひ、ひえええええ」
三下がいよいよ腰をぬかしそうになる。慌てて真はそれを支えて、
「そ、それで、何で騙されてるってことになるんだ?」
「テツは霊感が強すぎるんだ。時々幽霊と本物を間違える。きっと幽霊に騙されてるんだよ」
「しかしなあ……東海林さんの恋人と一緒にメシ食ったっていう友人もいるんだぜ」
真は困ったように言う。
それを聞いた祐樹は、ショックを受けたように目を見開いた。
「嘘だ! 俺はたしかに……」
「ああああのさ、東海林さんの恋人で過去に亡くなった人とかいるか?」
「いないよ」
ショックを受けた祐樹は急に無愛想になった。
「そんな話、聞いたこともない」
「そ、そっか。悪ぃな」
真は愛想笑いをして、話をそこで打ち切った。
「ありがとな。――帰ろうぜ三下さん」
「ひいいいいいい」
三下は膝が笑っていて、しばらくそのまま動けそうになかった。
「わっかんねえなあ……」
音緒祐樹と別れて、あたりをぶらぶら歩きながら真は再びぼやいていた。
「弱い霊感があるやつは東海林さんの隣に幽霊みたいなのを見たっていうし」
「もう嫌ですううううう」
三下は怯えきっていた。
しかし真はその背中をばしりと叩いた。
「こうなったら幽霊連中に聞き込みだ。行くぜ三下さん。しっかり取材してくれよな」
俺、そういうの苦手だし――と真が言うと、
「僕のほうが苦手です!」
三下はこの上なく情けないことを言った。
……それもそうかもしれない、と真は思った。
夜中の二時。丑三つ時――
心霊スポットにやってきた三下と真は、梅雨のむし暑さでバテていた。
「夜中だってぇのに、少しは涼しくならねえもんかねえ……」
しかし三下のほうは、相変わらず震えて真のTシャツの裾をしっかりとつかんでいた。
「どどど、どこかへ行ってしまわないでくださいねっ」
「……ほんと臆病だなあ三下さんは……」
そこは墓場だった。幽霊と出会うにはもってこいだ。
さっそく、ぼんやりと浮かび上がってきて、不思議そうに真たちに寄ってきた幽霊がいた。
『こんな夜分、何をしているのです……?』
「おお、こんばんは。えっとな、ちょっと聞きたいことがあって――てか三下さん。あんたが聞け……よって」
――三下は失神していた。
数分後、何とか三下を覚醒させた真は、続々と集まってきた幽霊たちに向かって、仕方なく自分で尋ねていた。
「あのさ、あんたらの仲間……つまり幽霊って意味だけど、その中で生身の人間と付き合ってるっていうヤツいねえか?」
『生身の人間と……』
そんな馬鹿な話があるか、と憤然とする幽霊もいた。
「いねえのかなあ……どうする三下さん」
三下は愛想笑いをしたまま、顔の筋肉が固まってしまったように動かない。だめだこりゃ、と真は早々に三下に指示を仰ぐのをあきらめて、
「なあ、幽霊の情報網とかで分からないもんか?」
と辛抱強く訊いた。
かなりの時間が要った。
しばらくして、どこかへ消えていたひとりの幽霊が、戻ってきて口を開いた。
『友達から聞いてきた。生身の人間と付き合ってるお馬鹿さんがいるって』
「よーし! 何て名前の幽霊ちゃんだ?」
『春子、よ。吉野春子』
え、と真は固まった。
「あ、アキちゃんじゃないのか?」
『春子に特別なあだ名があるならアキちゃんなんじゃない?』
「ち、違う幽霊なのかな……付き合ってる男の名前とかは?」
『ショージとかジョージとか言ってたわ』
――間違いない。東海林のことだ。
「やっぱり幽霊だったか……」
しかし、アキちゃんとは誰のことだ?
東海林は浮気もしているのか?
「ありがとな、皆!」
真は幽霊ひとりひとりに礼をした。
――三下が再び失神していたので、その詫びもこめて……
「外堀から埋めていったら余計ややこしいことになったぜ……」
翌日。真はアトラス編集部にやってきた。
「やっぱ最初から東海林さんに聞きゃ一番早いんだよなあ……」
三下がロビーで待っていた。ひとりの青年を連れて。
ぴしっとした姿勢の爽やかそうな好青年――東海林哲郎。
真と東海林はお互いに自己紹介をしあった。
そして真は、単刀直入に切り出した。
「あんたの彼女は幽霊なんだろ。何で幽霊の彼女と付き合ってんの?」
「は?」
東海林はきょとんとした顔をした。
「俺、幽霊となんか付き合ってませんよ?」
「――そういや友達の誰かが言ってたな。あんたは霊感が強すぎて、幽霊と本物を間違えるって。あのな、あんたの彼女は幽霊なんだよ」
「そんな馬鹿な」
東海林は笑った。
「信じたくないのは分かるが……皆見てんだ。あんたの彼女に足がなかったとか、ぼんやりかすんでたとか、壁をすりぬけたとか」
「目の錯覚ですよ。俺の彼女は生身の人間です。そんな人間離れした技できません」
「しかし……」
「しょ、東海林、くん!」
何と言うことだろう。奇跡かもしれない。
三下が一大決心をして、凛々しい顔で東海林を見つめていた。
「君は、吉野春子さんと付き合っているんだろう! 春子さんはもう亡くなっている。昨日、幽霊さんたちに聞いた!」
「吉野……春子?」
東海林ぽりぽりと首の後ろをかいて、気まずそうな顔をした。
「違いますよ……俺の彼女は亡くなったハルちゃんのほうじゃなくて、その姉のアキ、秋子のほうです」
「………………へ?」
「何なら会ってみますか?」
東海林に言われ、真は一も二もなくうなずいた。
東海林のアルバイトが済んだ後、三人――三下も引っ張り込んだ――はアトラス編集部の近くにあるカフェに入った。
「アキを呼んでおきました。もうすぐ来ます」
やがてカフェにすらりとした美人が現れた。
真はじっと彼女を見つめる。――幽霊には、確かに思えない。
「やあ、アキ」
「テツ、どうしたの?」
「いや、こちらが……」
困ったように東海林は真たちを見る。
「あの……初めまして。吉野秋子と申します」
「あ、ども。俺は五代真――こっちは三下さん」
三下はぶるぶる震えていた。
そんな三下を、真は肘でつついた。
「おい三下さん。失礼だぞ……ちゃんと自己紹介ぐらいしよう」
「い、今」
「今何だよ」
「――吉野さんが二重に見えた!」
カフェ中に響きそうな声で三下は声をあげた。
秋子がびくりと震える。え、と東海林が秋子を見つめる。
「アキ?」
「そ、その……何でもないわ」
「?」
「面白いことをおっしゃるのね、テツの同僚さんは」
「ああ、三下さんは面白い方だよ」
東海林は素直な性格らしい、それ以上問い詰めることはなかった。
その後、話は当たり障りなく進み、やがて彼らは散会することになった。
「アキ、この後どっか行こうか?」
と誘う東海林に、
「ごめんなさい、私用事があって」
秋子は申し訳なさそうに断る。
「そうか……」
東海林は残念そうだったが、やはりそれ以上問い詰めることはなかった。
カフェを出たところで、四人は別れた。東海林はそのまま家に帰っていった。
「はあ……訳分からん」
真はカフェの前でぼやく。
「で、あんたはどうすんだい」
横目で見るのは、帰ろうとしない秋子――
秋子は真と三下を見て、
そして深く頭を下げた。
「……お願いします。彼には秘密にしてください」
「何を?」
「………」
秋子は無言で二人を促す。人気のないところへ、というつもりらしい。
そして雑居ビルの路地裏までやってくると、
「―――!」
三下が声にならない悲鳴をあげた。
秋子の体から、するりともうひとりの秋子が抜け出てきた。
「あ……」
真は口をぱくぱくさせた。「ま、まさか……」
秋子は、自分の体から抜け出てきたもうひとりの自分を示し、
「――半年前に死んだ、私の双子の妹……春子です」
「―――」
「あの……高津君と緑川君に聞きました。お二方は私のことを調べてらっしゃると……」
このことではないですか――と秋子は言った。
春子と紹介された幽霊の女性は、深く頭をさげた。
「ど、どういうことだよ!?」
真は動揺する。三下は泡を吹きそうな顔をしている。
秋子は、ぽつりぽつりと語り始めた。
「春子は……一度も彼氏を持たずにこの世を去りました。私は……テツの強すぎる霊感を利用して……春子にも彼氏のいる気分を味わってもらおうと……」
「自分の身代わりにしたのか!」
「………」
秋子は目をふせた。
春子が「ごめんなさい」と目をうるませた。
『私も……哲郎さんが好きだったの……』
――姉の恋人となってもなお。
「たまに……交替してはデートしていました。春子のときは……短い時間で……」
「そ、そりゃそうだろうけどな」
真は首筋をかいた。
苦々しい味の唾が、口の中に出てきた。
「よくないぜ、それは。東海林さんあんなに素直だしよ」
「……はい……」
「幽霊の彼女はここにいちゃいけない。成仏すべきだと俺は思うんだ。別れるのはつらいだろうけど……」
『いえ』
春子は決然とした表情で真を見た。
『あなたの言うとおり――です。私はここにいちゃいけない……』
「春子さん……」
『半年も楽しませてもらいました。もう……姉に哲郎さんを返そうと……思います』
「春子!」
秋子が悲痛な声をあげた。
そうか、と真は思った。――秋子にしてみれば、彼氏を貸し出すことが大切な妹を手放さない方法だったのだ。成仏させない方法だったのだ。
でも、それでも……
「秋子さん……あんたも現実は見なきゃいけないぜ」
真は心苦しい思いで告げる。
秋子は嗚咽をもらしていた。
『秋姉さん……』
春子は穏やかだった。覚悟を決めた幽霊とはこういうものかもしれない。
『姉さん……幸せに……』
すう――……
「春子!」
消えていく妹に、秋子は手を伸ばす。
手は、むなしく空中を掴んだ。
春子は笑顔で、そのまま消え去った。
――……
「秋子さん……」
真は何とも言えず、天を見上げるひとりの女性を見つめる。
「私は……間違っていたのかしら……」
秋子はつぶやいた。
「……間違ってたかどうかは関係ないぜ」
ぽん、と秋子の肩に手を置いて。
「春子さんのためにできることは……これから先、あんたが東海林さんと幸せになることだ」
「………」
秋子は視線を下ろした。
真を見て――
少しだけ、微笑んで。
「そう……ですね」
雑居ビルの合間から見える天は狭かった。
それでも――
「あ、夕陽」
三下が言った。
「いい夕焼けだ……」
三下の言葉に、真と秋子の顔がほころぶ。
願わくば――
あの美しい夕焼けの中に、春子の魂が吸いこまれたのでありますように。
あの美しい夕焼けの中で――
―Fin―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1355/五代・真/男/20歳/バックパッカー】
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■ ライター通信 ■
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五代真様
いつもありがとうございます、笠城夢斗です。
今回も依頼にご参加くださり、ありがとうございました!納品が大幅に遅れて申し訳ございません:
おひとりでの調査でしたが、充分だったかと思いますv楽しんでいただけましたら光栄です。
よろしければまたお会いできますよう……
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