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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ようこそ、草間ブライダルフェアへ!


「だからね、草間ブライダルフェアなわけよ! 純白のウェディングドレスなわけよ、白無垢なのよ、本振袖に色打掛だってカクテルドレスだって何だって自由自在なわけなのよっ」
「いや、話が全く見えないから」
 ざっくりとそう言い切られ、固く拳を握り締めて熱弁をふるっていた火月は、遠慮なくぶぅーっと頬を膨らませた。幾つになっても乙女の夢は乙女の夢。それは変わらぬ永遠のテーマ……多分。
「何が分かんないのよ、6月よ6月! ジューンブライドの季節じゃない。そしたらやることと言ったら一つしかないじゃない」
「――いや、全く分からないから。これっぽっちもわかねぇから。つか何だ、草間ブライダルフェアって。勝手に人んとこの名ぁ語ってんじゃないぞ」
 場所は草間興信所の応接スペース。今日も今日とててんこ盛りに積み上げられたタバコの吸殻は、今にも灰皿から溢れ出さんばかりの勢いである――つまり、それだけ武彦のストレスがたまっているという事なのだろう。
 それほど世には奇怪な事件が多い。
 ついでに言うなら、それと同じくらい愉快――もとい、切羽つまった不思議依頼人も多いわけで……きっと。
「難い事はいいっこナシよ♪ それにそれでお金が入るんだから万々歳じゃないv」
「笑っても誤魔化されねぇぞ……」
 微妙にぐらつきつつ、それでも武彦は目の前に座る赤スーツの女性をじろりとねめつける。
 分かりきっているのだ、この夫妻(元は旦那の方が主だったのだが、最近はどうにも婦人の方も旦那の思考に毒されている感じが否めない)が持ち込む依頼でマトモなものがあった試がない。
 というか、ぶっちゃけ。この興信所をお笑いネタの持込場所だと勘違いしているんじゃないだろうかと、真剣に疑っている。
 ……や、たまには真面目な依頼(マトモじゃないけど)が混ざっている事もあるけれど。
「草間さん、人を疑ってかかっちゃ駄目よ。人は信じる所から始めなきゃ!」
「疑うとこから始める仕事なんだよ、ここで扱ってんのは!」
 ここで暫くお待ち下さい。
 依頼の内容と全く関係ない次元で、両者の言い争いが続いております。いちいち取り上げてると日が暮れそうなので、さっくり割愛。
「勝手に割愛してんじゃねぇよ! そこっ!!」
「でね、だから草間ブライダルフェアなのよ。フェアっていっても一般のお客さんを入れるんじゃなくって、一種のプロモートフィルムみたいなものを作成するんだけどね」
「………とーとつに真っ当なフリして話し出すのはヤメロよ」
「場所は都心からちょこっと離れたチャペルを備えた式場なんだけどね、以前そこで式の最中に不幸があったらしいのよ。それ以来、そこで式を挙げたカップルは次々と災難に……」
「ってーっ! どこがフェアなんだよっ、何がどう切り替わってんだよっ!!」
 どっちかって言うと、ここは武彦に同情すべき場面なんだと思います。合唱――ぢゃなくって、合掌。

 ==以下、依頼の要約==
 
・依頼主大元はとあるホテル経営事業主。
・経営の一環として始めたブライダル業、そのうちの一つの式場で5年ほど前に式の最中に新婦に筆舌に尽くしがたい不幸があったらしい。
・それ以来、その式場で結婚式を挙げたカップルには不幸が続き、必ず離婚に至るというジンクスが。
・もちろん皆そんな式場、使いたがらなくなっちゃった。
・おかげで経営が成り立たなくなっちゃったから、さぁ大変。
・ちょいと調べてもらったら、問題の式場には何か不幸を呼び寄せるモノがたくさん居ついちゃってるらしい。
・困った経営者は一計を案じた。題して「今年は戦う新郎新婦が熱い! どんな不幸も自らの手で打ち破れプロモーション計画」。新作の婚礼衣装に身を包んだ男女が、不気味な洋館の中で奇怪なモノと戦い、自らの手で幸せを手に入れる――というプロモーションビデオを製作し、各所で行われるブライダルフェアで使用しようというらしい。
・ずばり、新作の婚礼衣装のPRにもなるし、問題の結婚式場の変なものも退治できて一石二鳥♪
・そういうわけで、撮影場所は件の結婚式場。
・外見内装共に瀟洒な洋館風。地上3階、地下1階建て。地下は主に従業員施設。1階の中庭にチャペル有り。3階部分はホテルのスイートルームクラスの宿泊施設になっている。式場は2階に大小合わせて7。1階にはレストラン、花屋、エステルームなど関連施設が諸々(きっと望めばなんでもある)。
・撮影当日は撮影スタッフ以外は関係者不在(怖いから逃げたという説も)。好きなように好きな場所を使ってよいらしい(ただし被害甚大な場合は自己責任において弁償も)。
・衣装は現地にて貸し出し。今年の新作婚礼衣装(男女共)を自分で選んで良いらしい。途中でのお色直しも大歓迎。
・そんな感じで、適当に変なもの退治するフリでもいいし、まったり楽しんじゃってもいいし、とにかく事態はお任せ。
・きっと楽しんじゃったが勝ち。

 ==要約、ここまで==

「とまぁ、こんな感じなわけよ」
「なぁ……要約になってない気がするけど、気のせいか?」
 真顔の武彦のツッコミにも、火月は堪えた風もなく呵々と笑う。もちろん、ついに吸殻の山がほろりと崩れてしまっても誰も文句は言えないだろう――零がすかさず目を光らせた事に関しても。
「やぁねぇ、そんなに難しく考えなくったっていいのよ。自分が着たい衣装を選んでそれで楽しんじゃったらそれでいいんだから♪」
「……いや、根本的に何かが違うだろ。緊迫感ないだろ」
 低く唸ってみても何処吹く風。とにかく「引き受けた」というまで絶対にこの場を動く気皆無な火月を前に、武彦は深い深い溜息を吐き出した。
「まぁ……とりあえず分かった。おーい、誰か暇なヤツがいたら――」
「何言ってんの♪ もちろん貴方も行くに決まってるでしょv」
 がしっと腕を掴まれる。
 その力はどこから湧いてきたのか、武彦の体の動きを完全に封じていた――っていうか、きらーんと光った目力の影響の方が断然大きそうとかいうのは置いといて。
「あ、男装の麗人さんやその逆ってのも大歓迎だから!」
「何でもありかよっ!!」
「美しければ何でも許されるのよ。それに今のご時勢、お客様のニーズには何にでもお応えしなくっちゃね♪」
 とまぁ、そんなことで。
 どなたか婚礼衣装を身に纏ってみたい方はいらっしゃいませんか〜?(そこかいっ!)

 『依頼を受ける』と言えば、響きは良いかもしれない――というか、仕事をしてる気になれるし、時間を無為に過ごしている〜なんて言われる心配もない。
 世の中、仕事をしていれば安泰なのだ――あくまでも、世間体的に言えば、の話だが。
 というわけで。
 実際問題どんな風になっちゃってるかは、これから先の時間のお楽しみ♪
 貴方にとって、少しでも有意義な時間でありますように……えぇ、いろんな意味で。

◆シュライン・エマの場合

「…………しくしく」
「んー、シュラインさんだったら……そうねぇ、やっぱり純白のウェディングドレスは外せないと思うのよ。大人っぽくマーメイドドレスにして、マリアヴェールもいいわよね」
「………………………さめざめ」
「あー、でもでも青い瞳に合わせて、青い宝石入りのティアラとかも捨て難いわよね。そしたらそしたらっ」
「………………………………しくしくしくしく」
「ん? だけどせっかくだからちょっと趣向を変えてチャイナドレス風ってのもいいかもしんないわね」
「……………………………………………………夢は文金高島田だもん」
「そうなんだ! って、なんでさっきから『しくしく』とか『さめざめ』とかじーっとりしてるの?」
「だってだって! 別離ジンクスあるとこなんでしょ? しかも退魔のお仕事なんでしょっ!? 私、退魔能力ないんだもんっ」
 うるうるうる。真っ青な空をそのまま取り込んだかのような澄んだ青い瞳に、涙をぎりぎりいっぱいまで浮べたシュライン・エマは、なんとなーく恨みがましい視線を火月に向けた――ってか、ずーっと向けていじいじしてた。
 せっかくの新婚さん――新婚さん! あぁ、新鮮な響きっ!!――になんて依頼を持ち込んでくるのだ……なーんて恨み言の一つも言いたくなる。
「ねぇねぇっ、こないだもらったお仕置きハリセンってそういうのに効かない? 駄目っ?」
 どこか必死な様子に、火月の脳裏に何かがピンっと浮かぶ。
「うちの神社から持ち出してきたお神酒とかあるけど――いる?」
「!! 聖水とかも効きそうねっ! 台所漁ればあるかもしれないわっ!!」
 なんでそんなものが台所にあるんですか? と真顔で尋ねたくなったが、この際だ、目を瞑ろう。
 かくして夢見る乙女達の武装は今暫く継続審議中なのでございます。

「縁起悪いなら行かないって手もあるんじゃない?」
「だって武彦さんにウェディングドレス着せてみたいんだもの。だからそんな勿体無い事できないわっ」
「――なるほど(至極納得顔)」


◆そんなわけで全員集合。

「で、こっちがカメラの市川くんと斉藤くんね。とはいってもあっちこっちに定点カメラは仕掛けてあるし、ハンディカメラも十分用意してあるから、自分たちで撮影してもらってもいいし――そうでなくても始終撮られてるって思ってもらっても大丈夫だと思うけど」
 引き合わされたカメラマンの青年二人は、何故か黒子姿。どうしてかと問えば、影に徹する存在だから気にされないようにという配慮らしい――どう考えてもその方が絶対に目立つと思うのだが。
「ずばり、書く人がいちいちそこまで設定するのが面倒だったといのでどうでしょう?」
「こっ、小石川さん!?」
 ずびしっと痛いところを突かれました。
「やっぱり」
「だから小石川さん、つっこみはほどほどにしないと……」
「背後の人をつついても現実世界で問題発生はないから大丈夫」
 あー…そうだね。うん、きっとそうだ。生きてる次元が違うから。でも知ってる? 世の中には並相世界というのがあってだね――
「はいそこ、いつまでも訳の分らない会話をしない。さくさく話を先に進める。ってことで軽くみんなの紹介させてもらうわよ」
 ずばっと宇宙との交信を遮った火月は、武彦の招集に応じた(??)歴々を見渡す。まずは互いの名前くらいは知っておかねば何かと不都合もあるだろうという配慮らしい――ほら、知ってないとツッコミとか出来ないでしょ?
「さっき、びしばし見えない人にツッコミを入れてたのが小石川・雨(こいしかわ・あめ)さん。そのお隣が榊・遠夜(さかき・とおや)くん」
 宜しくお願いします、と軽く頭を下げた二人は気の合う友人同士のような高校生コンビ。何やら既に遠夜が雨に引っ張りまわされそうな予感ひしひしだが、きっとそれは間違いではないはずだ。女は強い、特に物がかかった場合には。
 さらに不幸(?)な事に遠夜にはもう一つの懸念事項が存在する。
「ね、遠夜ちゃんも来てたでしょ?」
「そうだね、これで弓弦ちゃんの分の退治仕事は安泰ってことだv」
「はいはいそこ、さり気なく語尾にハートを飛ばさない。ってことで、そっちの銀髪のお嬢さんが高遠・弓弦(たかとお・ゆづる)さんで、隣の金髪君がジェイド・グリーンくん」
 遠夜のことを『遠夜ちゃん』と呼ぶ弓弦は、外見も彼に近しい高校生。そのお相手らしいジェイドは二十歳をちょいとばかし越えたくらい。
「へぇー、案外カップルでの参加って多かったんだ。僕らも負けずに新婚さんを演じなきゃいけないかな」
「あ、あ、あっ、相沢さんっ! 新婚さんだなんてっ」
「はいそこー、いたいけな女子高生を惑わさない。そういうわけで、そこのイケメンが相沢・久遠(あいざわ・くおん)さんで、お隣が……大丈夫?」
「はっ、はい! えっと、久遠さんのファンの鳴神・早苗(なるかみ・さなえ)、17歳です、今日はよろしくおねがいしますっ!!」
 久遠に顔を寄せられ失神寸前の早苗に火月が気を配れば、必死に耐えた彼女はおさまることを知らぬ動悸と格闘しながら頭を下げる。
 その様子を『本当に、可愛いなぁ』と久遠が評すれば――ファンには優しい久遠。されど優しすぎはものっそ罪作り――早苗、本当に後ろにひっくり返った。
「ちょっと、貴方!」
 それをすかさず支えたのはシュライン・エマ。彼女には現在進行形で微妙な哀愁と悲壮な決意が漂っていたりするのだが、そこに関してあまり触れてはいけない。
「ナーイスタイミング♪ さすがは草間さんちの影の大将シュライン・エマさん♪」
「やぁねぇ、握ってるのは財布だけよ」
「それを握られたら心臓全部握られたのとおんなじだ!」
 シュラインの後頭部を軽くどつきながら過ぎ去るのは、草間興信所の名目上の主――草間・武彦。彼に関しては既知だろうと火月は視線を流しただけで紹介をスルーする。限りある資源は大事に使いましょう←誰が資源。
「で、残るはお二人なんだけど」
「法条・風槻(のりなが・ふつき)、25歳。えーっと、申し訳ないけど最初にお願いしときます。あたしプロモに顔が映るとヤバいのでそこのとこ宜しく」
 仕事の関係上、そういうこともあるのだろう。凛とした風情の風槻の言葉に、火月も心得たと頷きを返す。
「定点カメラとかにはどうしても写っちゃうと思うんだけど、編集の時にちゃんとモザイク入れるから大丈夫!」
 いや、どうせならカットしてくれた方がありがたい――っていうか、モザイクは心持嬉しくない。悪い事してるわけじゃないのに、悪い事してるみたいな気になるし。
「大丈夫ですよ、火月さん口で何だかんだいいながら悪いようにはしない人ですから――お笑い入ると微妙に保証しかねますけど」
 風槻の胸中での葛藤を察したらしい麗人が、彼女の肩をぽむりと叩く。しかし安堵を与えたようで、実際谷底に突き落としたともいえるそれはいかがしたものか。
「だってそれが火月さんでしょ。嘘はつけません、嘘は。ってことで私が最後の自己紹介になるようですね。セレスティ・カーニンガムと申します――年齢は秘密で♪」
 茶目っ気たっぷりにウィンク添えて。
 おまけに彼の腕に抱かれたアフロウサギ――ご存じない方の為に解説しよう。アフロウサギとはサイズ的には抱きかかえるのにちょうどよいサイズの白いウサギである。最大の特徴はふわふわもこもこの、まさにアフロ状の毛に覆われた頭である。想像すると微妙かもしれないが、非常に愛らしい動物なのである。誰が何と言っても愛らしいのだ。よし。――も、目をぱちくりさせて『可愛がって』と愛を振りまきモード。
 そんなこんなで、駆け足ですが顔合わせ完了。
 そろそろ本題へGO! なのです。


◆企画倒れにならないように。

「というか。既に微妙に倒れかけてる気がしないでもないんだけど。そこのところどう思う? 榊くん」
「いや……それを僕に振られても、ちょーっと困るんだけど――それから、これも」
 ぽり、と額を人差し指でかく遠夜。ちょっと愛らしい仕草だが、彼を支配するのはものごっつい困惑の嵐。
 さも、ありなん。だって彼が雨の手によって突きつけられているソレは。
「なんで? だってほら榊くんっていっつもぴらぴらしての着てるじゃない。これくらい平気だって」
 純白のウェディングドレス。しかもレースふりひらはれほれなヤツ。一応、書いておきますが、女性用――どうやら雨、遠夜にこれを薦めているらしい。
「……や、ぴらぴらってね。あれは式服と言ってちゃんとした正装で――」
「ぴらぴらはピラピラでしょ? それにこれも正装だし」
 ふんぞり返って正論振りかざす雨。確かに彼女の弁は正論に聞こえる。根本的なところで間違っている気がするが、それはそれでよし。
「勝手に良いことにしないでくださいっ!!!」
「ったく、仕方ないなぁ。榊くんったら我侭なんだから。こんなことで時間とってる場合じゃないんだよ? 分ってる? ねぇ?」
 うん。小石川さんの仰る通りでございます。
「小石川さん……お願いだから見えない人と会話するのはやめようよ……」
「えー。榊くんったら我侭に我侭上塗りするの?」
「……これはきっと我侭じゃないと思うよ……ほら、電波と交信しようとする友達がいたら普通止めてあげたいな〜とか思うじゃないかなー……って」
「こらこら、そこの二人。いつまでもじゃれてないで話を進めましょう」
 あわや堂々巡り――いや、立派に迷宮入り寸前――しかけていた遠夜と雨の会話に救いの手を差し伸べたのは、マーメイドドレス姿のシュライン。隣には七五三を彷彿させるタキシード姿の武彦←余計なお世話だ。俺はハードボイルド路線まっしぐらなんだ(武彦心の叫び)。
「わぁ! シュラインさんお似合いですね!!」
 スラリとした長身のシュラインが着ると、マーメイドドレスのラインはよく映える。感嘆の声をあげつつも、雨は手近にあったふんわりと裾が広がったノースリーブのドレスを自分用に選び取った。被って負ける可能性のある勝負をしないのは、女であれば年齢は関係ございません。
「でもシュラインさんなら和装なんかもお似合いだと思うんだけど?」
 会話に新たに混ざったのは、パソコンを片手に抱えた純白の花嫁――こと風槻。ご要望通り、襟はハイネックで袖も手首のあたりでふわりと広がる露出度を控えたドレスを着用中。余計な飾りのないそれに、三連パールのネックレスが上品な花を添える。
「和装……ふふ、そうね。和装――ふふふ」
 風槻のツッコミに、どことなーく嬉しそうなシュライン。理由は乙女の夢だから、とだけ書き記すに留めておくことにして、本題へ戻る。
「そうそう、そういうわけで本題。どんな映像にしたらいいかしら? ってことと、火月さんからの依頼をどうクリアーするかってことなのよ」
「あいつはただ遊んでるだけだと思うぞー……」
「武彦さんは黙ってて!」
 喝! っと牙を剥かれて武彦すごすご退散。他の誰にはなくとも、シュラインには成さねばならないことがあるのだ。ここを、浄化しなければならない理由が。
「……なんか突然真面目くさった言い方されても信憑性なくない?」
「だから小石川さんってばっ!」
 と、腕をとって現実に引き戻そうとしかけて――遠夜、固まる。
「どうしたの?」
「え? あ、いや、その――僕も着替えてこよっかな」
 ふんわりドレスに着替えた雨の姿に、直撃くらった遠夜。もれなくすげなく(違う)黒のタキシードを抱えて一時退場。別にこの場で着替えてくれてもいいんだけど? という雨のツッコミは聞かなかったことにする――っていうか、雨がどこで着替えたかも考えてはいけない。
「調査というか情報収集はあたしに任せてもらって構わない。浄化するような能力は持ち合わせていないし」
 軽くパソコン――ノートパソコンだよ。デスクトップパソコン抱えてたりなんかはしないよ←念の為――の縁を爪弾きながら、風槻が片頬をにやりとあげて余裕に笑む。
 情報屋『D』の名は伊達ではない。
「そうね……本当なら私もそっちを手伝いたいところだけど――狩らなきゃいけないし」
 目、マジです。シュラインさん。『狩る』というとこに闘志が漲ってます。
「事の発端は5年前――良かったら関係する名に『京師紫』とか『東斎院火月』とかってのがないかも要チェックしてみて」
.「了解。依頼人と……」
「依頼人の旦那さんよ。どうにも引っ掛かるのよね……年齢的に」
 多分、二人が結婚したのってその頃だと思うのよね。言外にそう滲ませたシュラインに、風槻も心得たとばかりに無言で頷く。
「それじゃ、映像自体は戦う花嫁さんメインのホラーストーリーに仕立てるってのはどうでしょう? 結婚式場っていったら、いろんな人のいろんな思念とかが渦巻いてそうじゃないですか」
 サラっと言う割に、雨の台詞自体にどす黒いものがトグロを巻いてる気がしないでもないが、この際それくらいの事には目を瞑ることにしておいて。
「結婚って理想や夢だけじゃ出来ないものですもんね。それに参列者の中にはこうドロドロと……」
「小石川さん……もうちょっと夢を見てもいいんじゃないかしら?」
「夢ではお腹は膨れません」
 遠夜不在につき、シュラインが切り返す――そして即座に雨に止めをさされる――その傍らで既に風槻は黙々とキーボードの上で指を躍らせていた。きっと夢を見たいのはシュライン本人だろうなぁ、なんてことを心の中だけで思い描きつつ。
「ま、まぁ基本コンセプトはそんなんでいいわよね。えぇ――もう何だっていいわっ! ここが浄化されるならっ」
 お別れジンクスは、さっさと消してしまいたいらしいです。
 しかし実際問題としてもホラーストーリー仕立ては都合が良い。何が起きても『ポルターガイストv』の一言で納得させられる←視聴者を。
「さぁ、行くわよ! 明日の幸せをこの手で掴みとるために!!」
 逝け――もとい、行け! 心の戦士たちよ。
「……ちょっとばかし熱すぎないか? なぁ、シュライン?」
「武彦さんは黙ってついてくる!」

 一方その頃。
「火月さん、火月さん。旦那さんと結婚されたのっていつごろなんです?」
「えー……そんなの聞いてどうするの?」
「依頼人は情報提供を惜しんじゃ駄目ですよ――って、ここの紅茶、けっこういけますね」
「あら、ホント」
 セレスティと火月。館内の一角に設けられたティールームで寛いでいた。ちなみに作り置きは言語道断派のセレスティ、現在彼らが舌鼓を打っているお紅茶は、葉・茶器こそここのものだが、淹れたのはセレスティの陰日なたにくっついてきている(かもしれない)影の部下の方々。
 自分とこの美しき総帥さまが、こんな風にきな臭い調査によーく関わっていることを、彼らはどう思っているのでしょう? たまに気になって夜も眠れなくなるのですが。
「眠れないバカは置いといてっと。そうねぇ……んー、まだ5年には到達してないわよ」
 暗に『ここで不幸になったカップルが自分たちではない』と含ませ、火月が頬笑む。ぶっちゃけ胡散臭すぎMAXな表情だが、対するセレスティも喰えたものではなく、くくくっと微笑みを返した。
「なるほど。お嬢さんもまだ随分小さいようですし、そんなものでしたか」
「えぇ、そんなものよ」
 うふふふふ。くすくすす。
 声にならない二人の笑いを文字にしたなら、まさにそんな雰囲気。知らない人が見たらお花畑でティーパーティーでもやってるようなほんわか風情を感じ取るかもしれないが――視える者ならば、イヤ〜な何かに体が金縛っていたこと間違いなし。
「ところで、セレスティさんは着替えないの?」
 ふっと思い出したように火月の問いに、普段通りのスーツ姿のセレスティの表情が、一瞬だけ鼻白んだ。
 チラリ、とあまり自由の利かない視線を遠くへ流す。
「もう少し、後にしようかと思いましてね」
 熱い女性たちが燃えまくってる作戦ルームという名の控え室に飛び込む勇気は要らないように思えたし、それからもう片方のお着替えルームには……なんとなく近寄りにくい。
「……なるほどね」
「えぇ、そういうわけなんです」
「ちょっと気持ち分るわぁ」
 そんな感じで、勝手にセレスティや火月に納得されちゃった方はどうなってるかと言いますと。
「ゆ・づ・る・ちゃーん! なぁなぁ、こっち着てみなよ、絶対に似合うって!!」
「そうですか? ジェイドさんが言うなら(////)」
「うーん……今宵の僕の花嫁さんは可愛らしい人だから、ピンク系がいいかな? でもこっちの白いのも捨て難い」
「大丈夫です! 私、相沢さんの隣に立つに相応しい状態になれるまでは、何着だって着てみせますっ!!」
「相応しいとか、そういう問題じゃないよ。それで言うなら鳴神さんは僕なんかよりとっくに綺麗だ」
「―――っ!!!!!」
「(何やら隣のカップルに負けた気にさせられたらしい)弓弦ちゃん、どうしよう! 弓弦ちゃんの綺麗さを表現するにはここにある衣装じゃ物足りないっ!」
「ジェ……ジェイドさん?(でもまんざらでもない照れ笑顔)」
 こんな感じでめくるめく『着せる側』の男の希望野望欲望と、花咲く可憐な乙女達の恥じらいに満ち溢れた、不思議な花園世界と化していた。
 うーん。確かに可愛い女の子を自分好みに仕立て上げたいっていう気持ちは分るけどね。人、それを光源氏症候群というし←言わない。
 ちなみにジェイドは弓弦が選んだシルバーのテールコート。独特の光沢のある生地で作られたそれは、黒では演出しにくいジェイドの瑞々しい男性らしさを際立たせていた。
 もちろん、初めて彼のその姿を目の当たりにした弓弦が、暫し絶句→盛大に赤面したのは言うまでもない。
 その時の感想を二人に語ってもらったらば。
「いえ……あの、その。ジェイドさん、ステキすぎて――私、どうしたらいいかなって(耳どころか髪の毛の先まで真っ赤になりそうな勢い)」
「んーんー、シルバーってあたりが弓弦ちゃんらしい選択だよね♪ ひょっとして自分の髪の色と合わせてくれたのかな? それだったら俺、すごい幸せ。や、もちろん弓弦ちゃんに『ステキ』なんて言ってもらえちゃって最高だけどね。だけど、俺なんかより弓弦ちゃんの花嫁衣裳姿の方が綺麗に決まってるじゃん」
「ジェイドさん……でも、ジェイドさんも絶対にかっこいいんですっ」
「……うわー……(照れ照れ)。うん、ありがと。でもでも――」
 以下略。えぇ、盛大にのろけられて止まらなくなっちゃったんですもん。気を取り直してジェイドが弓弦の衣装選びに奔走開始するまで、みーっちり30分くらい二人で見つめあっちゃったりして。
 でもってその間、久遠は久遠で先ほどの調子の通り、早苗の衣装をとっかえひっかえ。そのたんびに早苗が感動感激のあまり貧血起こしそうになるんで、こっちもこっちで大変だったりしたわけで。
「さて、僕の花嫁には僕の衣装も選んでもらわないといけないね」
「えっ!? あ、はい!! でも私なんかが選んじゃっていいんですか?」
「もちろんだよ。だって今日は君が僕の花嫁だからね。花嫁に衣装を選んでもらう――これ以上の幸せが花婿にとってあると思う?」
「っっっ!!!」
 さっきから『僕の花嫁』を強調している久遠。多分おそらくその言葉の持つ絶大な――早苗相手だと『超絶』かもしれない――効果をよーくわかって使っていると思われます。分ってなかったら分ってなかったで腹もたつかもだが、イケメンが効果的に使ってくれれば、もうなんていうか……お手上げ?(万歳ポーズしてみました)。
 早苗ちゃん、若いうちにこんなオトコを見慣れちゃダメよ? 幸先不安よ??
「相沢さんに『見慣れる』なんてことありませんっ! いつだって新鮮で、ドキドキが止まらなくなるんですっ!!」
「まったく……嬉しいことを言ってくれるね、僕の花嫁は」
 近場に活けてあったピンクのカーネーションを抜き取り、花の部分だけ手折る。それから壊れ物をあつかうように、久遠はそっと早苗の耳元にそれを飾った。
「あぁ、やっぱり君にはピンクが一番似合うね。お色直しのドレスはピンクにしよう。でもその前に穢れなき白に包まれた君も見てみたい」
「あっ、あっ、相沢さんにも白が似合うと思いますっ」
 ピンクのカーネーションの花言葉――それは『熱愛する』。
 熱愛されちゃった花嫁さんは既にお酢で骨をどろんどろんに溶かされちゃったんじゃないか〜ってくらいな状態だけど、まぁ……最後まで生き抜いてくださいとしか言えません。
 幸せ過ぎて死んじゃうってのは、ありえる話なのかとつくづく思う今日この頃。
 相沢さん、ファンには優しいってのも時には考え物と違います? そのうち殺人犯で逮捕されちゃっても知らないぞー。

「ね。あんな状態だから着替えに行けないですよ」
「そうねぇ……若いってエネルギーだわぁ」
「火月さんも十分お若いですよ」
「あら、セレスティさんったらお上手」


◆走れ! 思いのままにっ。

「……これ以上、思いのままに走っちゃったらどこに辿り着くと思う?」
「小石川さん……僕にそういうネタ振るのはやめてくれたら嬉しいなぁ……なんて」
「もう、榊くんったら本当に我侭なんだから」
 と、そんな会話があったかどうかはさて置いて――ホントにあったら遠夜がごっつ不憫だ←不幸の元凶を追求してはいけない。
「でー……だ」
 ばしぃっ!
「武彦さんっ、口を動かす暇があったら手ぇ動かすっ!!」
 べしばしっ!!
「……それはそう、として――なぁ?」
 べべべべべしっ!!!
「きゃぁっ! こんなところにいるわっ!! 武彦さんっ、天井と照明の細かな隙間も要注意ポイントよっ!! 教育的指導!!」
 ずばびっ!!!! 
 ガーターベルトに忍ばせた小型のハリセンが疾風のごとく空を切り、決まった! 会心の一撃。
 火月によりレンタルされた必殺ハリセン(魔よけのお札&聖水オプションつき。聖水は単独で水鉄砲からの照射可能)をぶんぶん振り回しながら、式場内を控え室からチャペルへと突き進むカップルが一組――言わずもがなのシュラインと武彦だが。
 さり気なく補記すれば、シュラインの衣装がさっきとは既に違う。しとやかな大人の雰囲気満載の真っ白(16進数表記:FFFFFF)マーメイドドレスから一転、戦う女な真紅(16進数表記:B40032くらい)の薔薇をモチーフとしたカクテルドレス。そこかしこに大輪の薔薇が踊る。
「あー、はい。了解。隅っこな、隅っこ!」
「武彦さんっ、本気出す! そんなんじゃ怪奇探偵の名が泣くわよっ」
 や、むしろその名前は泣いてくれていいんデスガ。
 ここまで――喉の辺りを指差して――出かかった台詞を、花瓶の裏にうごめく気配に八つ当たりすることで、武彦はぐぐっと飲み込む。怒れる龍には触らぬが花。活けてある花は愛でるものだけど。
 えぇいえいえいっ! なんだか口惜しいから、がっすんがっすんやっちまいましょう、えいえいおー。
 心の中でビミョ〜な掛け声あげつつ、武彦は開き直ったかのように――依然、胸中では葛藤中に違いない。なんで怪奇探偵。どうして怪奇探偵。俺はハードボイルド目指してたハズなのに――ハリセンを前後左右に振るいまくる。めったやたらの我武者羅攻撃、普通に考えたらそうそう当たるはずもないのに、どれもこれも手応えがあるから不思議。
「そうよ! 武彦さんっ、その調子っ!!」
 隣で並んで走るシュラインは、また小型ハリセンを投げつけて、未知なる黒いブッタイを消し去っていく。
 ホントなら『シャンとしなさい!』とか『幸せ追求してみない?』とか色々説得戦法も考えてはいたのだが、どうやらシュラインではブッタイと交信ができないようだ。
 つまりはその程度の思念体――ならば、残る手段はやっちゃうのみ!←ホントにそうか?
 ついでに徐々に感覚が麻痺してきた武彦は、自分がシュラインに何を問いかけたかったのか忘れ始める。まぁ、いいさ。そんな日もある、日々是精進。やがて花咲く日も来るだろう――来ないかもしれないけど。
 ちなみに武彦の脳細胞の端っこのさらに端っこに追いやられようとしている「?」。それは「どーしてこの経路には、こんな連中が思い出したように湧いて出てるのか」。
「それは、やっぱり控え室からチャペルまでの道のりっていうのが、もっとも様々な思惑が入り乱れる場所だからじゃないかしら」
 素晴らしく的確な回答をありがと、法条さん。
 そんな天からの感謝の言葉を軽くスルーし――だって彼女は交信係りじゃないから――、風槻は勝手に司令室と定めた吹き抜け階段の踊り場で、相も変わらずパソコン操作中。どうしてこの場所か、と問われれば「一番あちこち見渡せるから」という至極真っ当な回答が再び返ってくるはずでございます。
「それにしても……案外、それらしき話はあんまり引っ掛かってこないもんね」
 しっとりウェディングドレス姿の女性が、階段で佇むというのはなかなかに風情があるもの――本当か?――なのだが、広間にどんっと陣取り電子機器に向かう姿というのは、一つの怪奇現象にも似ていた。や、だって、そんな感じしません? はい、脳内想像。いちにのさん。
「依頼人が持ちかけてくるってくらいだから、それなりにネタは上がっていてもおかしくないはずなのに――しかも、それなりに『出る』し」
 あぁ、また天の声を無視されましたっ←普通は気付きません。
 遠くで上がる嬌声や、悲鳴らしきもの、さらには悲嘆にくれる声を他人事のように聞きながら――だってホントに他人事。ぶっちゃけ自分に退魔技能がなくて良かったと思ってみたり。だってあんなん中に混ざりたいと思いますか? いや誰も思いません――風槻は静かに自分の中で複雑なロジックを描きあげていく。
 時折、思い出したように新たな条件をパソコンの画面に打ち込んでいくが、結果はさほど変わらない。ならば頼るべきは自身の情報屋としての勘と知識と経験。
「……作為を感じるよね」
 そもそも、これは最初から成り立ち得る依頼だったのか?
「法条さん! 次、何処行けばいいですかっ!?」
 風槻の脳裏に何かが弾き出されようとした瞬間、威勢の良い声がそれを打ち破る。不意の来訪者は額の汗を爽やかに拭う雨――と、それに引きずられる形の遠夜。
 どうやら風槻の指示が的を得ているらしく、何かを狩ってはこの場に戻り、そして指示を受けてまた旅立って行くというのをこの二人は先ほどから繰り返していた。
「玄関ホールは片付いちゃったの?」
「はい! 榊くんがあっという間に。やっぱり人の出入りが一番激しいところは違いますね、なんかどどめ色でした」
 どどめ色ってどんな色だろう?
 あくまで胸の内側で溜息零しつつ――だって表立って溜息なんてついたら、雨にすかさず『榊くん、気合が足りない!』って叱られるから。そういやこの二人、ミニシュラインさんとミニ武彦さんみたいだ――ドレス姿で話し込む女性二人を眺める遠夜。
 職業柄、こういった退魔業務に馴染みのある彼の感覚は現在の状況を↓のように捉えていた。
 いち、確かに変なのがいる。
 にぃ、しかもわんさと。
 さん、の割に性質が悪そうなかんじはあんまりしない。
 しぃ、でも置いといたらいつか悪化しそうだから、とりあえず無害にした方が良さ気。
 ごぉ、絶対どこかに何かを仕掛けた人がいそう。
 ろく、……なんとなく読めたけど、今は言わぬが花な気が。
 やぁ、本職さんは流石ですね。ってわけで、もう暫く黙っといてください。その為にも、さぁ! 小石川さん!!
「はぁい? 呼んだ?」
 うん。呼んだ。ちゃっちゃか遠夜くん引っ張りまわしてくださいな♪ 疲れて頭がまわんなくなるくらい。
「んー、それは言われないでも」
「だから小石川さんっ、変なのと会話しちゃダメだってばっ!!」
「榊くん、我侭言わない」
「だからこれは我侭じゃないと思うんだけどな……はは、はははは」
 哀愁どんより漂わせ、背中で泣く遠夜。されど女性二人は彼を綺麗にスルーして、新たな作戦談義に入っていた。
「チャペルまでの道のりはシュラインさんたちがやってくれてるから……そうね、今度は一番大きい披露宴会場で一網打尽ってのがいいかもね。他の会場で引き付けるだけ引き付けて、大技を繰り出せば……」
「数、稼げる?」
「……小石川さん、なんで『数』?」
 辛うじて立ち直りかけた遠夜、雨の不思議な着眼点にダメ元トライ。大技繰り出さなきゃいけないのは自分なんだろうなぁ、なんて分りきったことは聞かない。ついでにひきつける役も自分なんだろうなぁ、とかも。
「だって歩合制かもしれないじゃない。報酬は働いただけ与えられるのが競争社会の原則でしょ? だから数を心配するのは当然だわ」
 がっくり遠夜の肩が抜け落ちた。この状況下にあって、ここまで理に適った――ある意味、ものすごく逸脱してる気がしないでもないが――応えが戻ってくるとは思わなかった。
 流石です、小石川さん。
「シュラインさん達もがっつり稼いでるみたいだし。負けられないよね」
 きらり、と雨の表情がやる気の笑顔に輝く。
 可愛らしく美しいドレス姿にまばゆい笑顔、たまらず心臓がドッキンっと一弾みしても何ら問題ないシーンではあるのだけれど。別の意味で動悸がおさまらないっぽい遠夜。がんばれ遠夜、きっと明日は晴れだから。
「それじゃ、その作戦で行ってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
 ぐっとガッツポーズ片手に遠夜の腕を引く雨。似合いのコンビネーションに、風槻はひらりと手を振り二人を見送る。
「撃墜数、シュラインペア25、小石川ペア18――大作戦で一挙逆転なるか?」
 さり気に数えてました。
「それだけじゃなくって、スコアーボードもつけてあるよ」
 パソコンの画面の中、よく見る表計算ソフトに迎撃一覧表の文字発見――っていうか、一応この声聞こえてたのね♪←反応あって嬉しかったモヨウ。

 でもって、一方その頃のバカップルルーム……もとい、お着替えルーム。
「相沢さんっ、お似合い過ぎですっっ」
「そうかな? でも鳴神さんのピンクドレス姿も可愛いよ」
 ――続・歯の浮く台詞中。
 外でのシュラインや雨――雨側は正しくは遠夜なのだろうけど――たちの活躍騒ぎで、こちらにも妙なものの気配がぽこぽこ生まれて来ていたりするんですが。触発されて動きが活性化されるって、よくあることじゃないですか。まさにそんな状態なのですけど。
「普段あまりこういう格好はしないから、新鮮で楽しいね」
「相沢さんはスタイルがすっごい良いですもん。和服だって似合うだろうな〜って私ずーっと思ってたんです」
 中にいる人間にはあまり関係なかったらしい?
 早苗の勧めで紋付袴を着てみた久遠は、まんざらでもない表情で大きな姿見に自分を映してご満悦中。もちろん、隣に『僕の花嫁』の早苗――ただいまピンク色のミニスカ風にアレンジされたカクテルドレスを着用中。やー、最近は色んなタイプがあるのね――を立たせて、愛でることも忘れない。
「こうして二人で並んで立ってると、まるで雑誌の表紙かなにかのようだね」
「え、あ、そんなっ。私なんかとてもっ」
 久遠が甘ぁく囁けば、早苗の顔色もドレスと同じ色に染まる。
 それが鏡の手を借りて自身に実況中継されるのだからたまらない。居た堪れなくなったらしい早苗は、たまらず両手で自分の顔を覆ってしまった。
 誰からみても愛らしい仕草。
 己の言動一つで頬を染め、恥じらいに身を焦がす。これに男心を擽られなくて、いったい何に擽られるというのだ。
 もちろん、久遠も例外ではなかったらしく。甘さを滲ませた表情に、さらに蕩けるような蜜が加わる。
 傍から見てたら、絶対に砂吐いちゃいそうですね。だばーって。書いてるこっちも恥ずかしかったりするんです(照れ照れ)。
 駄菓子菓子←甘げ。
 久遠だってやたらめったら誉めそやしているわけではなかった――ようだ。先ほどから、早苗の髪を直すフリをしては、小さな符をはらりと払い。スカートの裾の埃を払う真似をしては、やっぱり小柄な符をひらっと躍らせている。
「……なんだか増えてきたな」
「え? あっ、どうかされましたか?」
 微かな苛立ちを含んだ久遠の独り言を耳ざとく聞きつけた早苗が、ふっと我に返って顔を上げた――途端、骨の芯まで溶かされそうなとろりとした笑顔に見つめられ、あっという間に撃沈。
「まったく。可愛い僕の花嫁と楽しく過ごす時間を無粋な連中に邪魔されたくないね」
 壊れ物を扱うように肩を抱き寄せ、額に口付ける。
 強烈過ぎる失神効果にくらりと早苗の首が傾いだ瞬間、また久遠の掌中で符が一枚。
 実はさり気なくぽこぽこ出てくる連中を片付けてる久遠、もちろんそれを早苗の気取らせるような無粋はせずに――って、そのたんびにあちこち触られたりしてるもんだから、早苗の意識は現実と天国とをいったりきたりと彷徨い中なんですけど。
 幸せって罪作り。
 ついでにいらん闘争心をかきたてたりもしたりして。
「やっとみつけたー! これぞまさに弓弦ちゃんのためだけの一品!」
 ジェイド・グリーン。久遠のでろりあんな甘さに触発された悲しいオトコ。
 絶対弓弦ちゃんを世界で一番綺麗な花嫁にするんだ、いや、元々弓弦ちゃんは世界で一番綺麗だけどね! と息巻いて衣装探し続けて幾十分。ついに出て参りました。高級そうなのがずらーっと並んだ衣装ラックの奥の奥の、そのまた奥――ひょっとすると違う世界に繋がってたかもしれない。でもってジェイドはそこで一つの冒険を終えて衣装をゲットしてきたのかもしんないっ!?――から。
「じゃ、じゃーん! これなんてどう? 絶対、これ絶対に弓弦ちゃんのために作られたようなドレスだと思うからっ」
「ジェイドさん……」
 ひらりと差し出されたそれに、弓弦の表情にも歓喜という名の驚きが満面に広がった。
 四葉のクローバーの刺繍が緻密に施されたレースで全体が覆われた、爽やかだが密に凝ったデザイン。二枚に重ねられた光沢のある薄手の白い生地とレース地が、しゃらりと動くたびに不可思議な自然の紋様を描き出す。
 そして添えられた同じレースで作られたヴェールや手袋は、縁取りに淡い緑が添えられていて。
「ね、これ。絶対に弓弦ちゃんに似合うから」
「はい……ジェイドさん、ありがとうございます」
 希望を表す四葉のクローバー。そして新たな命の芽吹きを意味する鮮やかなグリーン――ジェイド自身の名にも刻まれたその色。
 彼が何を思い、これを自分の為に選んでくれたのかと思うと、たまらず熱い涙が込み上げてきて止まらない。
 言葉をつなげようとすると嗚咽に震えてしまえそうで、黙ってうつむけば、悪戯な唇が目頭を追いかけてきた。
「ジェ、ジェイドさんっ?」
「で、も。そっちはオオトリってことで。それまでは良かったらこっち着てみない?」
 にこーっと子供っぽい笑顔。
 何だろうと弓弦が顔を上げると、ジェイドの手にはもう一着――否、性格には男女一着ずつの計二着のカラフルな衣装。
 きょとっと子ウサギのように弓弦が首を傾げれば、ジェイドは『たまらんっ』と心の中で大きくガッツポーズ……って、書きながら段々犯罪ちっくな匂いがしてきたヨ。
 純粋な乙女をたぶらかすオトコの姿ばっかり書き連ねてる気がするんですけど。いいのでしょうか? これでいいのか、ニッポン男児!?
「ふふふ、都合のいいことに。俺はサムライニッポンじゃないもんねー」
 背後の思惑にあっかんべーして、ジェイドは弓弦にもう一着のほうを差し出した。
「じゃじゃーん! こっちを探してるときに発見したんだ♪ チャイナ風な婚礼衣装って珍しいだろ? しかもお揃い!!」
「(きょとん)」
「ほらほら、弓弦ちゃんのはピンク色で、俺のがスカイブルー。龍のかわりにウサギが刺繍してあるんだよ、絶対に可愛いってO(≧∇≦)O」
 はいっと手渡され、弓弦もようやく納得。どうやらジェイドは一緒にこれが着たいらしい。しかも。よーく見たら、衣装の間に何かが隠れてる。
「……ジェイドさん?」
「もーねーっ、絶対に俺と同じ趣味の人がいたんだって! ナイス選択っ、やっぱりお約束だよね――ってわけで、弓弦ちゃんお願いっ!!」
 先ほどまでの感動のテンションは何処へやら。弓弦、自分の手の中にあるものをまじまじと眺める。眺める。眺め続ける。大きな余談だが、この場に弓弦の肉親の姿があったなら、ジェイドがお空の星になっていたのは間違いないだろう←きぱすぱっと断言。
「ウサギ耳は男の浪漫っ」
 弓弦、暫し無言でふわふわもこもこの白い耳が生えたカチューシャを眺めるのだった。
 男の浪漫――奥が深いようで分りやすい。

「ところで、セレスティさんはいつまでのんびりしてるの?」
 所、再び変わりましてティールーム。
 煩悩渦巻く外界の空気を完全にシャットアウトした清涼感の満ちたスペースで、セレスティと火月はのんびりお茶を続行中。
 セレスティの腕の中では、退屈なのかアフロウサギの五花がすいよすいよと居眠りを決め込んでいる。それくらい、ほのぼの空間。
「そうですねぇ……どれくらいでしょう。火月さんがホントのことを喋ってくれたら、あっさり動き出すかもしれませんよ?」
「あら? 何のことかしら?」
 くくっく、ふふふふっ。
 奇妙に珍妙な緊迫感が漂っていないでもない(どっち)気がしますが、これはこれで大人のお楽しみらしい。
 綺麗に磨き上げられたガラスのティーカップにティーソーサー。それにあわせたガラスのスプーンが、サンセットカラーの液体の中を優雅に泳ぐ。
「そもそも、神父さんのお膝元で怪奇騒ぎなんて、ある種の職務怠慢だと思いませんか?」
「んー、でもほら。こういうところのチャペルって、式があるときに来てもらうだけじゃない?」
「それでも、これだけ蠢いてれば気付くでしょう?」
 すーいと意識の欠片を空気中に漂う水分に溶かして、セレスティはこの建物を覆う気配と同化を計る。
「それも一概には言い切れなくない? だって誰もがきちんと退魔の訓練つんでるわけじゃないし」
 だから気付かなくっても問題ではないはずだ、と火月がセレスティの追及の手をのらりくらりと躱す。
 慌てた様子を全く見せないのは、彼女もそれなりの場数を踏んでいる証拠。
「そんなものでしょうかね?」
「そんなものよ、今のご時世」
 一通り、サーチし終えてセレスティが休憩がてらに紅茶を口へと運ぶ。淹れかえさせたばかりのフレーバーティーは甘酸っぱい林檎の風味。
 確かに火月自身がこの一件に直接的に絡んでいる気配は――無い。無いけれど、何かがやっぱり彼女に近しいと高らかに歌っている。
「ふーむ……どうしましょうね?」
「どうしましょ?」
 にこにこにこ。くすくすくす。笑顔の応酬、涼やかに華麗に爽やかに。
「ま、せっかくだから支配下に置いちゃえば少しは遊べるかもしれませんね♪」
 あ。
 総帥様が何か物騒なことを思いついたようです。
 男性諸君、要注意〜!!


◆時には立ち止まる事も必要で。

「ってー! 私は立ち止まってる場合なんかじゃないのよっ」
「シュラインさん……そのツッコミは私の役目です」
「っっ!?」
 晴天から唐突に放たれた落雷に打たれたかのように、シュラインの目が思いっきり点になる。それはよもやこのタイミングでこの声の主から声をかけられると思っていなかった証拠。つまり、それだけ不意の出番だったというわけだ。
「小石川さん? なんで突然??」
「章タイトルにツッコミを入れるのは私の役目だからです――っていうのは冗談で。榊くんが大技を使うから危険なので、離れててって言うから」
 だから、こっち側を手伝おうかな〜と思いまして。
 パン屋で鍛えられた接客モードの笑顔で告げる雨。さり気なくシュラインが投げまくっていた小型ハリセンを回収し、自分の武器にしてしまっている。
 チャペルを目指していた草間シュライン――こう書くと、シュラインさんが改姓したみたいね――ペアは、先ほどからぴたりとその歩みを止めていた。
 別にサボっているわけじゃない←あれだけ鬼気迫る様子のシュラインがそんなことするわけない。だから、純粋に単純に『進めなく』なってしまったのだ。
 チャペルまで残り数メートル。立ち塞がる漆黒の靄のような『敵』に行く手を完全に阻まれてしまって、前方の状況を確認する事さえ覚束ない。まるで――そう、何かに通せんぼされているような状態。
「何とな〜く、冗談部分が冗談に聞こえなかったけど。でもありがと」
「いえ。エースの座は譲れませんから」
「は?」
 そう、譲れないのだ。撃墜王の座は。スーパー共通お買い物券のためにもっ!!
 雨の独り言のような呟きに――心の中は高らかなライバル宣言――シュラインの頭に疑問符が並ぶ。が、それもねっとりと絡みつくような靄の動きに数瞬でかき消された。
「ところでシュラインさん。いつの間に花婿衣装に着替えたんですか? そして草間さんは花嫁――」
「わーわーわーっ! そっから先は言わんでいいっ!! ほい、ほれ、ちょっと緊迫してる映像はこの依頼のコンセプトにそぐわないから、早く次のシーンに行くっ!!」
 何だか武彦さんの必死の願いのようなので、敢えて深くは追求せずにNEXT中継ポイントまで飛びましょう。とうっ。
「でね、さっきここのカフェのケーキが美味しいって聞いたんだ」
「本当とっても美味しそう」
 所かわりまして、シュラインたちが格闘してる場所からさほど離れていない地点に設けられたカフェ。
 そこにチャイナ風の婚礼衣装に身をつつみ、頭からウサギ耳を生やしたバカップル……もといラブラブな恋人同士が一組。真っ白なテーブルクロスが敷かれた、ガラス製の丸テーブルを挟んで向い合いあっていた――名は語らなくとも誰と誰かは知れるだろう。ウサギ耳。彼女につけさせたかったら、自分もつけよう良い習慣。
「ケーキって見た目も重要だよね」
「そうですね。でも可愛いと崩しちゃうのがもったいなくって、食べるの少し躊躇っちゃいます」
 テーブルに置かれているのは、このカフェの名物のケーキセット。ケーキは早朝の仕込みで草間興信所ご一行様が到着する以前に作られていたらしい――ご都合主義全開だが気にしちゃいけない。そしてセットになっている紅茶はセレスティ専属黒子さんの出張作品。や、細かいとこでお世話になってます。
 そんな事情はさておきまして、仲睦まじいカップルは薔薇を模ったチーズケーキを前ににこにこほえほえほー。
 そだそだ、何気なく余談ちっくに追記。ジェイドがこの式場を訪れたのは本日が初めてです。それなのに、何故このカフェのケーキセットが美味しいか知っていたかと言うと。彼自身がちょい前に仰っておられた通り「さっき」「聞いた」からである。
 で、さらに突き詰めて考えていくと、果たして誰から聞いたのかとうのが問題になるのですが。それはほら、その辺をふよふよーっと漂ってる人(?)と思ってもらえれば大正解。
「ねぇねぇ、弓弦ちゃん」
「はい?」
 現実に立ち返ります。
 ジェイド、頬杖をつく。この姿勢だと、弓弦の方が背が高くなる。普段と違う、見上げる視線で眺める彼女は、可愛らしさより美しさに少々軍配上がって神秘性が増す。
 守ってあげたいという気持ちの中から、甘えたくなる気分がむっくりと顔を出し、ジェイドの男心を擽った。
「あーん」
「ジェイドさんっ!?」
 弓弦の声が、驚きと照れに跳ね上がる。だってそうだろう、突然強請るように口を開けて目を瞑られたら。
 食べさせて、という意思表示。崩すのがもったいなくて、ケーキの上を彷徨っていたフォークが、さらに右往左往ともどかしく揺れる。
 そんな弓弦の気配を察してか、瞳を伏せたジェイドの頬に刻まれた笑みが深くなった。もちろん、弓弦には気付かれないようにだが。
 大好きな彼女がうろたえる様子は、たまらない。本当はいますぐ抱き締めたい衝動に駆られているのだけど、ここは目的のためにもぐっと我慢。
 きっと今頃は、すべらかな頬をほんのり紅に染めているのだろう――想像がつくから、いっそうたまりませんっ。
「もう……ジェイドさんったら」
 カチャリとフォークの切先が、硬質な音を立てる。甘酸っぱい花びらが丁寧に切り取られ、おそるおそるジェイドの口の中へと運ばれていく。
「零さないでくださいね?」
 確認は消え入りそうなほどの小声で。近寄る体温に、ふわりと花のような香りがジェイドの鼻先をくすぐる――これはきっと弓弦自身が放つ香り。
 ぱくり。むぐむぐぐむ。
「ご馳走様♪」
 ご機嫌で目を開ければ、そこには想像通り照れまくった弓弦の顔。愛おしさが込み上げ、ついついさらなる意地悪をしたくなる。
「弓弦ちゃんも、はいあーん」
「え? 私はっ……」
「いいのいいの。ね、俺に食べさせてもらったお礼、させて?」
 弓弦の断りの言葉を最後まで言わせず、はいどうぞ、とばかりにすかさず弓弦の口元へ小さくカットしたケーキを運ぶ。ダメ押しとばかりに、「ね?」とお願いめいた笑顔を添えられれば、いったい誰がこれ以上の否やを唱えられるだろう。
 弓弦も観念したように、おずおずと口を開く。最初から悪い気がしているわけではない、ただ照れ臭いだけ。
「はい、あーん」
 ジェイドによって運ばれたケーキが弓弦の口の中に収まる。恋人同士ならではの、甘い甘い光景。
「そういえばさ、結婚式でこういうのやるんだよね。ほら最初の食事を互いに食べさせあうってヤツ。先取りしちゃったね」
「……先取りしちゃったね、じゃない」
 突如、重い空気に破られた甘々ワールド。決して書いてる人間がそろそろ痺れを切らしたわけではありません。
「と、遠夜ちゃん!?」
 母方の従兄弟の乱入に、弓弦の心臓があわや体内から飛び出しかける。悪い事をしていたわけじゃないけれど、なんとなくそんな気分になるのは何故だろう。
「やぁ、突然無粋な登場じゃない、我が未来の親戚よ」
「……未来の親戚は親戚でもいいけどさ」
 ラブラブタイムを邪魔された恨みがましい視線を投げられた遠夜――もちろんジェイドに。弓弦はわたわた、赤い頬を誤魔化すためにウサ耳で顔を隠し中←隠れきってないから、ジェイド密かに萌え――だったが、微塵も動じず、それどころか腕によりをかけたどろどろ空気を垂れ流す。
「ありゃ? お疲れ?」
「遠夜ちゃん、何かあったの?」
「………」
 暫し沈黙。
 火山噴火五秒前。
 四、三、二、一。
「だってさ、そこら辺にうようよしてるの一所に集めて、一気に浄化するような大技使ってだよ。言葉で言うと簡単そうだけど、これってかなり体力とか気力いるんだけど、でもそんなのはどうでもよくって。迷ってる人たちが成仏するお手伝いなら、僕だってすすんでやるけどさ、だけど。だけど大変なことはやっぱり大変なわけで。それがやっと終わったと思ったら、ラブラブだよ、ラブラブ? やっぱりちょっと恨めしいとか、憧れるとか、なんで僕だけ仕事してるんだろうとか、とにかくなんだかそんな気分にちょっとくらいなったとしても仕方ないと思わない? もちろん、誰が悪いとかそんなんじゃないけど。確かに僕も率先してやってるけど、それでもだけどやっぱり」
「……お疲れ」
「遠夜ちゃん、大変だったのね」
 ジェイドと弓弦に両サイドから肩を叩かれ、遠夜ぐぐっと押し黙る。多分、本人何を口走っていたのかは覚えていまい。何せ自分の中でだって感情がまとまっていないのだから。
 それでも仕方ないだろう。
 風槻提案の在庫一掃セール……もとい、一挙に大量浄化を実行すべく、パートナーである雨を遠ざけてまで大技使った――しかも人知れず――直後、めくるめく愛の世界を――オマケに片方身内――を目撃させられたら、いかに鍛錬された精神の持ち主であろうと、多少やさぐれたくなっても文句は言えまい。
 しかーっし! ここで休ませてあげるほど現実は甘くないっ! 甘いのは恋人たちの間に漂う空気のみ! それ以外は、レッツシビア。
「あ、そういえば。あっちの端の方にも困ったちゃんがいるって言ってたな」
 ぽむりっとジェイドが両手を打ち鳴らす。もちろん、情報を聞きつけた対象は、ふよふよ漂(以下略)。
「それってさっきジェイドさんが、ふんふん聞いてたお話ですか?」
 ジェイドの言葉に、弓弦も身を乗り出す。
「そうそう、それ」
「……聞いて、何もしなかった?」
 ぴくり、と遠夜の顔が引きつる。
「だって俺ってば聞いてあげるしか出来ないしー♪」
「ジェイドさん! 聞いてあげるだけ、じゃないです。聞いてもらえるだけで救われることってたくさんあるんです」
「そっか、弓弦ちゃんは優しいね」
「いえ、優しいのはジェイドさんです」
「……だから、何もしてないんだよね?」
 ぴきぴきっと遠夜のこめかみに青筋が走る。
「何も出来ない俺は無力だ……」
「そんなことないです! ジェイドさんは優しい人ですっ――ってわけで、遠夜ちゃん後はお願い」
「っがーーーっ!」
 榊遠夜、16歳。おそらく今日一番働かされている男。
「あれ? 榊くん。なんでこんな所で油売ってるの? ほらほらさくさく仕事しなきゃ」
「小石川さんっ!?」
 通りがかりの雨――シュラインのとこがにっちもさっちも行かないので、遠夜を探していたらしい――に、ついに止めをさされて……それでも、遠夜負けないっ!
「シュラインさん達、ちょっと今てこずっちゃってるのよね。せっかくだからその間に数を稼がなきゃ」
「小石川さん……」
 負けずにいれば、きっと勝利する日が来る。例え、一生勝てなさそうな人物が目の前にいたとしても。
「遠夜ちゃん、ファイト!」
 そうだ、頑張れ、GOGO。涙を拭えば輝く明日がきっとくる。
「ところで。二人はチャイナなんだ。ウサギ耳も可愛いね」
「だろ♪ でも本命ドレスは後にとってあるんだ」
「小石川さんのドレスもステキです。遠夜ちゃんが選んだんですか?」
「んー……本当は榊くんにびらびらのドレス着せたかったんだけどね。ほら、榊くんってこういうとき結構我侭じゃない?」
「――それは我侭じゃないからーっ!!」
 負けるな遠夜! スーパー共通お買い物券は君の肩にかかっている!!
「だから、それ私のね」
 雨、さらりと自己主張。
 たらったらったらー♪(アイキャッチ)
 たらりらりらったー♪(愛キャッチ)
「おや、天の声の人が愛を掴んだようですね」
 腕(かいな)の中のふかふかほこほこを愛でながら、セレスティがにこりと笑む――階段中央の踊り場にでんっと座り込んで。
「すいません。ちょっとした疑問その一なんですけど。この依頼に参加者にとって、天の声と会話するってのは当たり前の事なんですか?」
 踊り場の主――いつの間にか――の風槻、内心溜息つきまくりながらも、とりあえずセレスティに尋ねてみる。果たしていったい、これでいいのか。こんなんで依頼が成り立つのか。自分だけは間違ってもこんな色に染まってはいけない、そう、人間には踏み外してはいけない何かがあるはずだ。
 なんてことを考えていたかは定かじゃないけど。
「まぁ、深いことを気にしてたら先に進めないってことも人生往々にしてよくあることだと申し上げておきましょう。ところで一ってことは二もあるのでしょうか?」
 危険な質問から、さらりと優雅に身を翻し。セレスティ、いつも通りの食えぬ微笑。アフロウサギも一緒ににんまり――それはそれで微妙に腹が立つ。そもそも論、強引に押し切られてしまった感はあるが、アフロウサギって何だ。アフロな頭のウサギってホントに有りなのか?
 考え出したら湯水のように沸いてくる疑問の山々。しかしそれは天の声と掛け合うのと同じ事と悟った風槻、心をぎゅっと常識の柱に縛りつけ現実に立ち戻る。
「その二、ですけど。何でシュラインさんはあんなにお色直ししてるんでしょう?」
 現実も、またびみょー。
 風槻の操るパソコンのディスプレイには、設置された定点カメラや、カメラマンが駆けずりまわって映している映像がリアルタイムに送り込まれていた←というか、勝手に配線繋げてチェック中。情報屋はそういう技術力も大事。
「んー、たくさんあれば着たくなるのが人情ってものじゃないでしょうか?」
 青い目の人に『人情』を語られるのも、またどこか微妙。
「でも草間さんにウェディングドレスってのは……」
「似合う似合わないは置いといて、こういうのって後々の脅しの材料に使えると思いませんか?」
「!」
 風槻、定点カメラの前で半泣き状態で不満を訴えている様子の武彦映像を、すかさず自身のハードディスクへ落とした。
 ふとした切欠でどんな切り札が手に入るか分らない、それが現実。武彦の受難は、こうして延々と繋がっているのだ――だから、しつこいようだが細かい所に気をとられてはいけない。人生楽しんじゃったが勝ちなのだ(断言←断言するなー!←武彦叫び←武彦さん、武彦さん。受難じゃないと武彦さんらしくないから←シュラインの慰めになっていない慰め)。
「ところで。情報収集していてそれらしき事はひっかかってきましたか?」
 清楚な純白のウェディングドレスに身を包みながらも、仕事の気配を色濃く醸し出す風槻に、セレスティは興味深げな質問を投げかける。
 見えている事はあるのだが、確信はない。
 最初と最後を結ぶ、糸口が必要だった。
 そしておそらく、目の前の彼女はそれを自分に提供してくれる可能性が一番高い相手。
「京師紫という人物と東斎院火月という人物が、ここで挙式したとかいう情報はなかったけど……5年前、とあるカップルの結婚式に東斎院火月さんが招かれて参列したって事実はあった」
 風槻のグリーンアイ――グリーン愛に非ず。なのでジェイドのLOVEなわけじゃない――がディスプレイの輝きを反射して理知的に煌く。
 つい先ほど、ようやく辿り着いた小さな因子。5年前というキーワードと、依頼人の『作為』を結びつける細い細い糸。
「この式で何があったかまではまだ調査中だけど、彼女がいた形跡はあった――それがどういうことかセレスティさんには分ります?」
 足りない情報は互いに補えば良い。風槻は自分の言葉に、満足気に口元を吊り上げた銀髪の麗人の様子を見落としはしなかった。
「……他には? 依頼人である火月さんの言うような不幸な情報は?」
「それは――ないとは言えないけれど、ごく普通の式場と同じレベルでしか」
 緑の瞳と青い瞳。宙で視線が絡み、深い笑みが狭間に落ちる。
「そうですか、そうですか。5年前くらいって言ったら、きっと火月さんは紫さんとお付き合いされてる頃ですよね」
「つまりやっぱりきっかけはこの二人?」
「――おそらく、間違いなく」
「じゃ、いったい何でこんな手のこんだことをわざわざ?」
 火月と紫の人となりに関し詳しくない風槻は再び壁にぶち当たる――が、セレスティは、クツリと喉の奥を鳴らして密やかに笑う。
「さぁ? 詳細はきっともう暫くしたら明らかになるでしょう。もちろん、彼女たちのことだから悪いようにはならないと思いますよ♪ そうだ、私も一つ花を添えることにしましょう」
 ふっふっふ。
 ふふふふふ。
 セレスティ、鼻歌を歌い出さんばかりのご機嫌さで、すっくと立ち上がった。結末は近いはずだ。ならば自分もそろそろ着替えに行かねばなるまい――そのためには、ちょっとばかり悪戯をしかける必要があるのだが。
「セレスティさん?」
 風槻、思いっきり眉を潜めた。何かどす黒いものが目の前でぐーるぐる渦巻いている気配がする、誰かの身に危険が迫っているような。
「何をする気ですか?」
「いえいえ、ちょっとばかり先ほど思いついた事を実行に移すだけですよ♪」
 るるらりら♪
 愉快なメロディをセレスティが口ずさみ始めた事から『見てはならないものを見てしまった!』な勢いで目を逸らし、風槻は心の目を閉じる。
 何かが起きる前兆はある。が、自分の身に危険が迫りそうな雰囲気はないから、見なかった聞かなかった知らなかったを通すに限る。
 人、これを処世術という。
「それじゃ、法条さん。また後で」
「えぇ、また後で」
 ゆっくりと去り行くセレスティの背中を見送りながら、風槻は静かに両手を合わせた。
 合掌――今から呪われるであろうその人に。
「あ、画像チェックは続けた方が面白そうね」
 そこんとこは抜かりなく。だってプロですもの。
 そして、それから、そうして、どうした→場面転換れっつらごー。未だにめくるめく桃色フィールドが広がるお着替えルームの様子はどうですかー?
「はーい、こちら現場の鳴神です!」
「鳴神さん?」
 何の前触れもなく片手を上げて、カメラ目線で朗らかな笑い声を上げた早苗に、久遠が『怪訝』を顔に書く。書いたといっても筆で書いたわけじゃありません。
「当たり前だ」
「相沢さん?」
 今度は早苗が久遠の短い台詞に小首を傾げる番。どっぷり自分たちの世界を作り上げていた彼ら二人にも、電波の魔手は密やかに、されど確実に忍び寄っていたのだ。南無南無。
 さらーに、もう一つの穏やかならざる妖しい手も、久遠&早苗ペアにターゲットを定めたもよう――正しくは『女性を怯えさせるのは望む所じゃありません』ということで、久遠一人がターゲット、ロック、オン(キラーン)。
 ぞくり、ぞくぞく。
 お着替えルームの気温が、僅かに下がる。
 ひらひらふわふわのプリティーピンクのドレスに身を包んだ早苗はその事に気付かなかったようだが――てか、憧れの相沢さんとご一緒してるのに、彼女が別のことに気をとられるはずがない――久遠の方は鋭い視線で虚空をねめつけた。
 ぞわり、ぞわぞわ。ずるり、ずる。
 少しずつ少しずつ、真綿で首を絞めるように体表から熱が奪われていく。それと同時に、這いずり寄る何かの気配。
 まさにっ、まさにホラーの真髄的雰囲気っ←この一文で台無し。
「……相沢さん、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ――鳴神さん、ちょっと」
 不安な色を浮かべ自分を見上げる少女に、久遠は甘く頬笑みかけると静かに彼女の腰を抱き寄せる――幸せすぎる花嫁さんは、またもそれだけで昇天寸前。
 しかし久遠、今回だけは違った。早苗が卒倒しかけるのが分っていてそうしたのだ。これから先に起こるものを、彼女には見せないために。
 幸福の泉に身を浸し、全ての災厄が過ぎ去るまで穢れなき花嫁は静かに眠りにつけばよい――って、そんな簡単は問屋は卸しません。
「相沢さん、相沢さん。一人で無茶はしないでください」
「……鳴神さん?」
「だって今日は私が相沢さんの花嫁さんですもん。だから旦那様の考えることはお見通しなんですよ?」
 全てから遠ざけるように抱き込まれた腕の中、早苗がおそるおそる右手を伸ばし久遠の額に触れる。
 彼女も察したのだ――久遠の体から放たれる鋭い殺気を。それが自分を守ろうとするために発せられているということも。
 カタカタと小刻みに震える指先。ネイルアートという名の美しい花が咲いたそこは、素の状態にもどればきっと青ざめた色に染まっていることだろう。
 だのに、久遠に一人で背負うなと。一日だけではあるけれど、片翼である自分にも手伝わせて欲しい、と。
「………」
「相沢さん?」
 にょき。
 何だかとっても場に不釣合いな音声が混ざりました――が、これ間違いなく現場生中継。お届けする頃にはVTRになってるけれど。
「………っ!」
「……相沢さん?」
 ぴょこ、ぴょこん。
「相沢さんっ!?」
 キュートな効果音に、早苗の目が点になる。だってそうだろ、仕方ないだろ。憧れてやまない男性の頭から狐の耳がひょっこり生えてきちゃったら。ついでに見えないとこだから解説しておくけれど、最初に生えてきたのはふっさふさの銀色尻尾。
「………誰だ、俺にこんな悪戯しかけてるヤツは」
 ゆらり、と漆黒の髪が銀色に変化を遂げ、ゆるやかに波打ちながら広がっていく。
「あ、あいざわ、さぁーー」
 早苗、開いた口が塞がらなくなり茫然自失。彼女の目の前にはいつも雑誌で見慣れた姿は皆無、その代わりやたらと紋付袴の似合いまくる白銀の獣の姿が悠然と。
「ちょこちょこちょこちょこやってれば良い気になって――こうなったら面倒だから俺が一気に片付けてやるよ」
「相沢さんーーーっ!?」
 驚愕となんだかよくわからない感情がごっちゃになった早苗の悲鳴はさて置いて、久遠――妖狐バージョン。世の中には色んな種族がごっちゃになって生きている――がキレた。
 久遠の放つ気と、にじり寄る不穏な気配がぶつかり合い、何もないはずの空間に火の花が咲く。
「ぞろぞろぞろ、どこから集まって来たんだか。そんなに消して欲しいなら俺が相手してやる――もちろん、お前らなんて小指一本でいいけどな」
 紳士めいた口調をかなぐり捨て、怒気を孕んだままに声を荒げる。鮮血の色に染まった瞳が、意味ありげに細められた。
 そして、一閃。約束通り、小指一本。
 ザァっと波が引くのと似た音を立て、お着替え部屋の大気が一斉にざわめき叫びを上げた。
 何もかもが微塵に砕け散り、瞬く間に久遠の足元へと平伏した後、無へと帰る。
 そこに救いはない――許されたのは去り行く事で忘れ去る事。
 室内は嵐が過ぎ去った後のように、元の見る影もない。溢れかえっていた衣装は千々に乱れ飛び、設えてあった豪奢なドアさえ廊下に半分以上せり出していた。
 解放された圧倒的な力の残骸。
「ったく、喧嘩を売るなら相手を選べってんだ」
 短く言い捨て、久遠はフンっと鼻を鳴らす。
「……ワイルドな、相沢さんもス・テ・キ………」
 驚きに目を白黒させていた早苗が、ぽそりとそーんなことを呟いたらしいが、早苗本人がそれを自覚していたかは甚だ疑問。
 だって健全な早苗の精神は、急変した事態を夢だと思い込もうと決めちゃってましたから。
 その方が、何かと平和。今後の久遠の活躍のためにも。ねー。

 一方、その頃。
 お着替えルームの近くまで来ていたセレスティが、ふむっと足踏み。
「……追い出すつもりが中から破壊させちゃいましたね」
 さりげな〜く懐柔して、さらにはいつの間にか勧誘して、この建物内に残っていた迷える大半の思念たちを――決して聖水を操り脅したわけじゃない。えぇ、そうじゃないですとも――久遠たちへとたき付けたのだが、予想外の結果にちょっぴり臍を噛む。
「ま、結果的にはオーライでしょうか、ね、五花」
 ぴょんぴょんと自分の周囲を跳ねていたアフロウサギを抱き抱え、くるりと元来た道を振り返る。
「さーて、シュラインさんたちはゴールに辿り着いたでしょうか?」

「武彦さん、開いたわっ!!」
「てか、何で突然消えたんだ!?」
「それより今よ、今のうちにチャペルの扉を開くのよっ!!」
「お、おう!!」
 固く閉ざされていたチャペルの扉が、今、開かれる。
「あっ! 貴方は!?」
 驚きに目を見開く二人。そこに立っていたのは誰なんだ!? 期待と不安に胸を震わせながら、以下次号!!

「って。次号とかないでしょ、これ」
「小石川さん、だから相手しちゃダメだってば」
「そっかー……そういうことがあったんだ。それは辛かったねぇ、大丈夫だよ。ちゃんと君を救ってあげるから」
「ジェイドさん、どうされたんです?」
「あ、聞いてよ弓弦ちゃん。ここに失恋したまま死んじゃった可哀想なお嬢さんの霊がいるんだけどね。すっかり迷っちゃって自分だけじゃ成仏できないんだって」
「!!! まぁ、それは――遠夜ちゃん、お願いします」
「って、何で僕!? どうして僕!?」
「榊くん、我侭言わない」
 立ち止まるはずが、ほとんど立ち止まらないまま以下次号――ぢゃなくって、レッツ最終章。


◆なんだかんだで、そういう結末。(まる)

 2006年6月某日 天気/雨のち晴れ、ところにより天変地異

 草間興信所に持ち込まれていた依頼に参加。
 新作ドレスなどは多数あり、今年の流行チェックには役立つ。それにしてもこの蒸し暑い時期に女性の夢シーズンが重なるというのは、とっても不幸なことなんじゃないかと我が身で実感。式場では空調設備の充実が、利用者の増減を左右するのではという結論に達する。
 さて、本題の怪奇現象に関する調査だが。
 操作の基本、第一発見者を疑え、というのをまざまざと実感させられる事となった。いや、この場合は『第一発見者』ではなく、『依頼人』だったけれど。
 事の発端らしい5年前の不幸の詳細は現場では調査しきれなかったが(後日の聞き込み結果により、花嫁が緊張と寝不足のあまり、全長2mのウェディングケーキに寝ぼけてつっ込んでしまい、色々な意味でハチャメチャな式になってしまったということが判明。しかしこれにも依頼人関係者が絡んでいるのではないかと私は踏んでいる――乙女の敵!)、それらしき式に依頼人――東斎院火月が参列していた事を確認。立食パーティ形式であったのを利用し、彼女が飛び込み参加の同伴者を連れていた可能性もあり、という事実が発覚。
 しかしそれ以後は、依頼人が言うような『別れ』のジンクスが出来上がるような実体は見当たらない。
 また実際に起きた怪異の方だが、詳しい者の話によると、それほどの悪意があるとは思えず、また、長年ここに住みついていたような形跡もないとのこと。
 長々と検証してみたが、ここで単純に結論。この依頼は、依頼人の狂言であったということ。
 彼女の目的が何であったかは不明だが(まさか本当に遊びたかっただけ、とは断じて信じたくない――や、ちょこっと面白かったけど。愉快映像もキープできたし)、参加者の尽力により怪異の大元は断たれ(その際、ドアが一つ吹き飛んだらしいけれど、そこは依頼人が補償してくれることになった。そりゃそうよね)万事丸く収まる。
 こんな依頼で報酬もらえるのだがら、世の中時々微妙に甘いと思った。

 追記。
 最後の最後で登場したもう一人の人物に、参加者のうち一部が驚愕甚だしく。その様子を眺めているのは、ちょっぴり愉快でもあった――って、笑っちゃダメよね。

  〜情報屋Dの記録より〜

「ええっ!! なんで? どうして!?」
「へっへー、何ででしょう?」
 見開いた目から瞳がコロンっと零れ落ちそうになりながら、シュラインは漆黒のスーツ姿の青年――というには若干年嵩食ってる気がするが――を指差しわたわたおろおろ。こんな彼女、そうそう見れるもんじゃありません。
「何でってなぁ……ついに化けて出たか?」
「化けてないよ♪ ちゃーんと実体。ね?」
「ね」
 真紅のパンツスーツから、同色のフォーマルドレスに着替えた火月が、降って湧いた――実際はチャペルの中に隠れていただけなのだろうが――男と顔を見合わせペロリと舌を出す。
 どうやらシュライン同様、彼と面識のあるらしい武彦も、呆れ顔で自身の格好を忘れて――忘れないように追記。彼、まだウェディ(以下略←草間さんの陰謀)――白い視線を容赦なくだだ流した。
 何で、どうして。彼は今、起きていないハズなのに。
 ちなみに、大人たちの困惑の意味が分らぬ子供らは――ジェイドはれっきとした大人だが、この際だからこっちに混ざってもらってもらおう。若く評価されるって偉大なことだよ――何のことかと首を傾げて……やがては忘れて、式場内に設けられたチャペルの割に本格的な様式のそれにしげしげと見入った。
「へぇー……さすがにここの気配に淀みはないね」
「そうなの?」
 澄み切った気配は外界から隔絶された静謐さを湛え、ここが神聖さを保たれた場だといことを、肌に触れる感覚で遠夜へ伝える。
 感慨深げに両手を伸ばし空を撫でる、そんな遠夜の仕草に雨が興味を惹かれたようにひょいっと顔を寄せた。
「うん、ここで式を挙げた人たちが不幸になるなんてこと絶対ないよ――って、うわっ」
「ん? どしたの?」
 顔が、近過ぎる。
 指先からつらつらと眺められ、最終地点は遠夜の顔。我に返った時、思わぬ距離に雨の目線を発見し、反射的に遠夜は体を半歩引く。
 紅潮しかける面は、必死の理性で押さえ込む。けれど失敗した耳の先だけがかすかな赤に彩られた。
「榊くん、耳赤いよ? 怪我した?」
「や、そんなこと全然ないから。怪我させられるようなのはここにはいなかったし」
 わたわたと両手を振って雨の指摘に否定を示せば、それならよかった、と無邪気な笑みが返されますます心臓に悪い。
「……ありゃー、相当うろたえてるね」
「遠夜ちゃん、珍しい」
 従兄弟の珍しい様子に口元を綻ばせ、弓弦はジェイドとにっこりこそこそ話。触れ合いそうなほど寄せた耳と唇、こそばゆいような幸福感に満たされる。
「まー、可愛い女の子にウェディングドレス姿で接近されたら、普通の男なら平常心じゃいられないってのは分るけどね」
「あらあら、でもでもひょっとしたらそれだけじゃないのかも? まだまだ本人たちに自覚はないっぽいけど」
「っかー、ますますカワイイねぇ」
 まぁるく収まっているカップルさんにそんな事を噂されているなど露知らず、遠夜の狼狽はもう暫く続く。ちゃんちゃかちゃん。
 で、場面をぐぐっと元に戻して。もう一方の動揺冷め遣らぬ方々へカメラターン。
「おやおや、起きてる貴方とは初対面ですね」
「あれ? そうなんだ。ってことは初めまして?」
 壊滅的状況に陥った割に、衣装だけは乱れ飛んだにすんだお着替えルームから拝借したのはダークグレイなフロックコート。
 同伴の五花には子供用の真っ白ドレスを着せて、セレスティは珍客に向かって踊るような優雅さで首を傾げて一礼。
 奇妙な違和を感じるものの、彼が火月の伴侶――京師・紫であることは疑いようがいない。見た目もテンションの高さも、夢で出会った彼そのまま。これほどの強烈な個性の持ち主を、そう容易く違うはずがない――のだが。現実と照らし合わせると、紫がこの場にいるのは『有り得ない』のもまた事実で。
「あぁ、なるほど! そういうことですか」
 ピンっと頭上に「!」一つ。訪れた閃きは突然、しかし非常に納得。
「つまり、時空を超えたってことね」
 セレスティが続けるはずだった言葉を風槻が引き取る。結論が見えてしまえば、逆算的に情報を引き出すのは容易い。それがたとえ公にされていることではなくても。無尽蔵に広げられた情報という名の網には、裏の事情もそれなりに引っ掛かってくるものだ。
「まったく、非常識この上ないってのはこのことね。様々な能力者がこの世に溢れ返ってるのは知ってるけど」
「えー、そんなに褒められたら照れるなぁ」
「「照れなくていいからっ!」」
「さすがに草間さんとシュラインさんの息はぴったりだねぇ」
 えへらえへらと笑われては、肩肘張ったところで意味がない――ってか、げっそりしちゃって根こそぎ力を奪われた気分になる。非常にいまさらだが、なんでこんな男を起こそうと頑張っちゃってるんだろう、己の胸の内に問いかけたくなっても仕方ない。
「なるほど、だから貴方は私のことを知らないということですね、なるほど。そういう世界からやって来たと。ふむふむ、想像以上に便利そうですね」
「やー、また褒められちゃったよ」
「「褒めてないから〜……って、結局諸悪の根源は貴方(お前)なの(かよ)っ」」
「ホント見事だねぇ、まるで一緒にケーキ入刀♪ なぐらいの息の合い具合v」
 いっそこの場で首をきゅっと絞めてやろうか、なんて衝動と武彦が戦う隣で、シュラインが、それより丸刈りにしちゃった方が精神的ダメージは大きいんじゃないかしら、と瞳に真剣な輝きを宿す。だーかーら、出てくるのは止めとけと言うたのに←誰が。
「だって火月が面白そうなこと企画してるんだもん。手伝わないと末代まで祟られそうじゃない♪」
「祟られるって、それは即ち自分の子のそのまた末でしょ」
 もう観念した、とばかりにシュラインが肩を竦める。この男には何を言っても無駄なのだ、そうだそうだそうだった。思い出した。だから天の声と会話し出してもツッコムまい――つか、それをツッコミだしたらキリがないだけだけど。
「あ、それから。忘れるとこだったけど。草間さんシュラインさん、ご結婚おめでとー♪ 祝いの品はいずれこの世界の僕から貰ってね」
「「へ?」」
 三度、はもる。そこでふと何かが降りてくる。もしや、彼は――
「それより、あそこの狐さんも仲間にいれたげようよ♪」
 思いつきは声に出来ぬまま、遮られた。ぴっと指し示された先には、可愛らしい花嫁の手を引いた久遠――ちゃんと元の人間バージョン――がチャペルの入り口に体重預けてジト目の構え。
「……誰?」
 さっきのアレを仕掛けてきたのは。
 スーパーモデル相沢久遠らしからぬ――きっと狐さんがまだ少し残ってるに違いない――つっけんどんないい様に、悪びれた様子もなくセレスティがすいっと右手挙手。
「楽しめましたか?」
 踏み入れたお着替えルームの惨状を思い出し、セレスティがくくっと笑う。もちろん、久遠の表情は憮然三割増し。
 美形台無しだから、そんな顔はやめときなされ。セレスティさんも煽るのやめときなさい。意外や意外、久遠さんはセレスティさんより長生きさんのお年寄り(!)だから。ご老人には優しくしないと。
「誰が老人だっ!」
「いえ、相沢さんはどんな相沢さんでもステキなんですっ! 野性味溢れる相沢さんもたいそう美しかったんです」
 力説、早苗。ちょっと彼女のニュアンス違ったっぽいけど。
 ちなみに変身後バージョンの久遠の姿は、夢だ幻だ、きっと悪いものに憑かれていたんだね、と刷り込み済みなのだが――それはそれで良いらしい。何せ乙女は夢を見る生き物だから。
「あぁ、夢でもいいから写真に収めておきたかったです」
「え? 写真? いいね、せっかくだから記念に撮ろうか?」
 早苗の呟きに、雨がぴくりと反応する。
「うちの先生たち、式挙げてないから見せてあげたいかなーって。ほらほら、榊くんも来る」
 ちょんちょんっと自分の隣を意図せず指差し、雨が満足気に嬉しそうに笑む。もちろん、その笑顔にどんな効果が含まれてるなんて知る由もない。
「あー! 待って!! 写真撮るなら弓弦ちゃんを本命衣装に着替えさせないとっ!!」
 ほらほらっと招かれて、はっと顔を上げたジェイド。言われて弓弦も思い出したように、皆に向かって「もうちょっと待ってくれます?」と遠慮がちな上目遣い目線――これを否と言える人間がいたら私は会ってみたい。可愛い女の子のお願い――もしくはお強請り――視線攻撃、これを受け止められずして、いったい他の何が受け止められよう!
「確かに、一番のお気に入りで写真を撮るのはお約束よね」
 風槻が頷き、周囲を見渡せば皆納得顔。
「たしかにそうですね。何だかんだで大騒ぎしたせいで衣装や髪が乱れてる人もいるでしょうし。その辺、なおす時間も必要でしょう……そこの狐さんも」
「だから僕は狐じゃないよ」
 あ、イケメン久遠が完全復活。セレスティの揶揄るような言葉にも正面から立ち向かい、余裕の微笑で切り返す。
「じゃ、そうしましょっか。記念写真は綺麗にね〜」
 最終的にマトメを引き取った火月が両手を打ち鳴らすと、最初にジェイドと弓弦が手をとり駆け出した。続いて久遠と早苗も、今来たばかりの道を引き返す。
「小石川さんたちはどうするの?」
 落ち着きを取り戻したシュラインが問いかければ、どうしようか迷っていたらしい雨と遠夜も、少しだけ整えてきますとチャペルを出る。
「さて、武彦さん。私たちも着替えてきましょっか?」
「……まだ着替える気か?」
「武彦さんがそのドレスのままで写真に写ってもいいなら、私はそれでもいいけど」
「――お供させて頂きますっ!」
 予想外の人物の乱入に、うっかり自分の姿を忘れていた武彦。弾かれたようにとっとと駆け出す。
「それじゃ、私たちも行ってくるわ――火月さんと京師さん……あら?」
 また後でね、そう言いかけてシュラインは瞬きを繰り返した。
 さきほどまでいた場所に、彼はもういない。
「……京師さん?」
「そういう人よ。悪戯しかけるのが大好きで、驚かせるのも大好き。だから」
 消える時も唐突なのよ。
 語らぬ言葉を笑みで繕い、火月がシュラインに『いってらっしゃい』と手を振る。
「まったく……困った人ね」
「それは相変わらず」
 よく似た男性を伴侶にした、よく似た女性二人は、互いに肩眉上げて顔を見合わせた。
「なるほど。本当に面白いお方のようで」
 そうしてセレスティも、くすりと笑う。起きているこの世界の本物に、早く会ってみたいと思いながら……?


「はい、これ特別ボーナスね」
「撃墜王!?」
 それぞれがそれぞれ最もお気に入りの衣装――特筆すべきは弓弦のジェイド厳選純白ウェディングドレス姿と、シュラインの超ミニウェディングドレス姿――で記念写真を撮り終えた一同は、お疲れ様〜と散開モード。
 どうやら帰りの交通費は出ないらしい。自分で草間さんに請求してね。
「そうそう、撃墜王。法条さん、結果はどうなんだっけ?」
「個体数で上げるなら、シュラインペアが32、小石川ペアが45、相沢ペアが若干及ばず43。質量数でいくとちょっと変わるけど」
 結局最後まで数えきったんかい! と感嘆の声は心の中だけに留め置いて。いつの間にやら――そんなんばっかだ――撃墜王景品と化していた――あくまで雨の中でだけ――スーパー共通お買い物券と引き換え可能なポイントカードが、火月の手から雨の手に授与された。
 あと一回分のお買い物が必要ですが、全部たまったら普段よりちょっとだけ良いお肉を買うのにお役立て下さい。
 きゃあきゃあと女子高生らしい喜びを上げる雨に、遠夜は微妙な笑顔を保ちつつ、良かったねと肩を叩いた――個人的には遠夜くんを労ったげたい。いろんな意味でお疲れ様、今夜はきっとよく眠れるよ。
「じゃ、この映像はあたしが預かっちゃっていいのね?」
「えぇ。クライアントの編集に任せるより、法条さんにお願いした方が良いVTRが出来そうだし」
 どうやらウェディングフェア用のプロモートフィルムを作成するという部分は本当だったらしい。風槻の帰りの荷物には、今日撮るだけ撮った映像の記録媒体が追加されていた。
 決して編集費用を浮かせたわけではないので、そこんとこよろしく。
「あ、自分の顔のとこにモザイク入れるの忘れないでねv」
「……謹んで全部カットさせて頂きます」
 ちえーっ、モザイク楽しみにしてたのに。
 でもって。最後にもう一波乱――っていうか、愛の劇場。
「今日は楽しかったよ」
 式場玄関ロビー。
 夢の時間を終えた少女が、去り行く憧れの人を前に、零れ落ちそうになる涙を必死で堪えていた。
「私もっ、私も楽しかったです!」
 言葉にするのは、それだけで精一杯。一日だけの相沢さんの花嫁、記念写真だってばっちり残ってるのだから、いつまでだって思い出だけで胸を熱くできる。
 それでも、悲しいと思ってしまうのは贅沢なのでしょうか?
 胸の前で両手を組み、精一杯の笑顔で見送ろうとする早苗の姿はいじましく。並みの男なら、それだけでコロリと落ちて、たまらず彼女の華奢な体を抱き締めていたことだろう。
 しかし、それがそうならないのが相沢久遠という男。
「お嬢さん、またいずれ」
 軽く頬を一撫で。
 名残を惜しむように、するりと離れた久遠の手から甘く爽やかな香りが漂い、早苗の胸をぎゅぎゅぎゅーっと締め付けた。
「相沢さんっっ、ずっとずっとファンでいますっ(//∇//)」
 本日何度目かの失神直前状態を必死で堪え、たまらず溢れ出した涙――やや歓喜混じり――で霞む視界の向こうの久遠を見送る早苗。
 いつか、いつか、また。
 そう、きっと「また、いずれ」があることを、八百万の神々に願いながら。
 そんなこんなで、皆さま、たいそうお疲れ様でしたー。


◆曰くありげな後日談、オマケちっくに。

「あれ? 法条さん、どうしたんですか〜?」
 バイト中、雨指定でかかってきた電話の向こうは風槻。
『一応確認しといた方がいいかなって。最近パン屋は繁盛してる?』
 電話口の向こう、雑踏の中で話をしているのだろうか。様々に混ざる雑多な音の中から、風槻の声だけを聞き取りながら雨は「ふむ」っと首を傾げた。
 別段、気にしたことはなかったが。
 言われてみれば、このところ新しい客が増えているような。
「そうですねぇ、売り上げ2割増しってとこかもしれません――それがどうしたんですか?」
 パッポーパッポーと、横断歩道を渡るときに耳にする若干間の抜けた音が聞こえる。風槻は信号待ちの最中に電話をかけてきてくれたのだろうか?
 ざわめきの中に、人々が一斉に歩み出した足音が加わる。
『完成したブライダルフェアのVTR、最近流されてるみたいなんだけど……ちょっと仕込んでみたのよ』
 気がつけば一人、これまた今まで見たことのない顔がパン屋のドアを開く。
「?」
 電話の向こうの声と、現実に同時に疑問符を投げかける。よっく考えてみると、新たな顧客は20代、30代の女性が圧倒的に多いような――つまり、ブライダルフェアに最も興味を惹かれるお年頃の。
『せっかくだから試してみたくって。そこのお店の宣伝を気付かれないよう入れてみたのよ――サブリミナル効果?』
「法条さん! ぐっじょぶですーっ!!」

 参加者の皆さん。お手元に届いたプロモーション映像を見たあと、唐突にパンが食べたくなっても――しかも店限定――当方では責任は負いかねますんで、よろしく。
 あ、パン代の請求も草間さんちにしてくれていいですよ。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/ 女 / 26 /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【0322/高遠・弓弦 (たかとう・ゆづる)/ 女 / 17 /高校生】

【0642/榊・遠夜 (さかき・とおや)/ 男 / 16 /高校生/陰陽師】

【1883/セレスティ・カーニンガム/ 男 / 725 /財閥総帥・占い師・水霊使い】

【2648/相沢・久遠 (あいざわ・くおん)/ 男 / 25 /フリーのモデル】

【5324/ジェイド・グリーン/ 男 / 21 /フリーター…っぽい(笑)】

【5332/小石川・雨 (こいしかわ・あめ)/ 女 / 16 /高校生】

【6059/鳴神・早苗 (なるかみ・さなえ)/ 女 / 17 /女子高生】

【6235/法条・風槻 (のりなが・ふつき)/ 女 / 25 /情報請負人】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。初めまして&毎度お世話になっておりますライターの観空ハツキです。
 この度は『ようこそ、草間ブライダルフェアへ!』にご参加下さいましてありがとうございました(礼)。
 今回は6月の花嫁ネタだし、初めましてさんもいらっしゃる事だし、頑張っていつもより早めの納品を! と息巻いていたのですが……結局、いつもと同じになってしまいました。ううう、お待たせしまくって申し訳ございません;
 はっちゃけネタ祭りという事もあり、普段よりかなり多くの方に参加して頂いたのですが(ありがとうございます!)……やはりその分、増える増える→結果、新境地に到達しました(←何)。
 何やらギャグとラブとややシリアス(?)が入り乱れ、わけのわからないテンションとなっておりますが、少しでも皆さまに気に入って頂けることを祈っております。

 シュライン・エマ様
 毎度のご参加、ありがとうございます。
 今回は……必要以上に張り切って頂いてみてしまったのですが……だ、大丈夫でしたでしょうか?
 私としては、誰かさんにどうしても言わせたかった台詞を言わせることが出来て嬉しかったのですが――って、あの登場の仕方は反則ですか?

 誤字脱字等には注意はしておりますが、お目汚しの部分残っておりましたら申し訳ございません(ついでにソレも笑いの一環……ダメですか?←ダメに決まってる)。
 ご意見、ご要望などございましたらテラコンなどからお気軽にお送り頂けますと幸いです。
 それでは今回は本当にありがとうございました。 「また」の機会がありますこと、心から願っております。